第16話 彼女のこと
軽度?の虐待の話があります。ご注意ください。
彼女の学生時代は、心理的な虐待を送った。それは、父親が物に当たっている行為が、いつ自分たちに襲ってくるかという恐怖の中で家で過ごすこと。
そして、母親が仕事で家をあけている間の自分の時間と年の離れた弟を守り育てる責任を天秤にかけて自らに圧力を感じて過ごすこと。
頼ろうとしても兄は学業とバイトをかけ持ちして忙しく、言えるに言えなかった。
これらの生活が、家を出るまでの数年間続いて生きてきた。
彼女は家を出てから知良と暮らした。彼の才能を感じ、彼女は絵のモデルや一緒に美術館に行って学んだ。互いにバイトをかけ持ちをしてたくさんの苦労をした。
二人のご褒美は、週ニで食べる肉屋のコロッケだった。それらを彼女が生前に『幸福な時』と言った。
しかし、二人が二十歳を迎えて彼女の幸福な時が姿を消した。
知良の夢が叶えられるチャンスだから、海外に行くと言ったからだ。
もちろん、知良は彼女に一緒に海外に行こうと誘った。本当なら、彼女はついて行きたかったが、出来なかった。彼女のお腹には二人の赤ちゃんが宿っていたから。
知良が海外行きを告げる日に、彼女はそのことを話すつもりだった。
でも、話してはいけないと直感して言わなかった。知良の夢を応援したいし、それが出来ない理由によって一緒について行きたい気持ちを覆い被された。
彼女は知良が海外に行く前日に、今言えるだけのことを手紙に書いて彼の荷物にこっそりと入れた。
そして知良との最後の日は、彼が起きる前に寝顔を見て、出て行く時は寝たフリをしたという。
彼女は、お互いがあのときに顔を見て会話をすれば、知良を止めてしまうかもしれないと怖かったから。
そのあとは、何度も涙を流した。本当は、ずっと一緒に暮らしたかった。今までと変わらず朝から晩まで働いてもやっとなお金を稼いで二人で暮らしたかった。
いつものように、知良の勉強として美術館巡りをしたかった。一人よりも二人で作品を見るのがすごくたのしかったのだ。
その日々の中で、子供たちとの暮らしを夢見ることもあった。貧しくても楽しい生活を送れると思った。
彼女が想い浮かべた日常と未来の中に、今後を左右するある岐路が現れた。
その当時はよく知良が夜遅くに帰ってきて、寝る前の彼女に目を輝かせて話すことがあった。
高校の時の美術部の顧問を通じて、紹介されたアーティストの人のもとでもバイトの後に勉強をしていた。
その方に知良の作品を評価してくれると、彼が喜んでいる姿に彼女も喜んだ。
彼女は、知良が二人での生活も楽しく思ってくれるはず、でも彼はやっぱりアーティストなんだと改めてわかった。
それは、海外に行くのにすごく真剣な目で話してくれたから。
『一緒に行こう。どうしても、このチャンスを諦めることは出来ない。仕事が安定するまでは時間がかかるし、君との時間も減ると思う。でも、まだ日本では俺の作品は評価されないんだ。どうしても、海外じゃないといけない。君のことは、本当に大切で愛する人なのは変わらない。だけど、今はアーティストとして生きたいんだ』
彼の想いを理解してるからこそ、自分が一緒にいてはいけない。知良が一緒に行こうと言ってくれても、自分自身に想いが全て向かないのを彼女はそう認識をした。
知良がアーティストとして生きていける道になるならと自分から身を引いた。
彼女は、実家での地獄のような生活と比べて知良と離れる生活ならなんてこないと思ったと後に語った。
読んでいただき、ありがとうございます。
更新は不定期です。よろしくおねがいします。




