第14話 子供時代の傷となくしもの
「彼女が頑なに家族との連絡を拒む理由は分かるか? 」
千文来はその言葉に頷き、隣にいるひまりと剣依都を見る。そして、二人とも頷いた。
「僕たちの両親の仲は一応とても良いんです。でも長くは一緒にいるのが嫌なタイプで。仕事に逃げてしまうけど、でも家族サービスはしっかりしてくれます。旅行やテーマパークにも連れって行ってくれた思い出があります。今を思うとそれらの家族サービスは義務のようでした。お互いに好きだけど、同じ家にいれなくて、そのシワよせが子供である僕らにきました。」
千文来は、そこまで言うとひまりを見つめた。その続きをひまりが話しだした。
「私と千文来は幼なじみでよく遊んでいました。もちろん、妹さんとも。高校の時に、何度も彼女が倒れることがありました。その度に、彼氏さんがおんぶして連れて帰ってくれたり連絡してお泊りをさせてもらったりしました。それは、ストレスと不安定な心が原因で、彼女だけじゃなくて家族全体がそうでした」
村上がいうには彼らは交代しながら、彼女の抱えてるものを話した。
「父親が務める会社で問題が起こって、その年の営業成績っていうんですかね。それが落ちて、倒産するかもしれないって。父親はそれが原因で荒れました。家族には当たらずに物に当たっているのを子供たちはずっと見ていました。母親の仕事は順調だったからか、余計腹がたったのか仲が悪くなりました。母親は仕事でよく家を開けるので、このことは知らなかったと思います。二人は、愛までの好きではない夫婦なんです」
「それはいつのことや? 」
「たぶん、今から四年ぐらい前だったと思います」
「その年ごろは、ただでさえ心が不安定やな」
「はい。だから、妹は高校卒業と同時に家を出ました」
「千文来くんとひまりさんは、なんぼや? 」
「僕は妹と二つ離れてます。ひまりさんは、僕より二つ上です」
「で、いつ結婚した」
「二年前です」
「それやったらあの子も、あんたらに気を使うな。新婚と思春期の弟がおったら、頼りたくても戸惑う」
「はい。それと、両親は離婚せずに僕らとも別で暮らしてます。その方が良いらしくて。剣依都はまだ子供なのもあって、それぞれが毎月生活費をくれます。月に一回は会ってくれます。今俺らが住んでいる家は、元々家族みんなで暮していました。両親がそばにいないだけで、俺たちがそのまま住んでいます」
「二人は、もう分かってるやろ。子どもたちの父親が誰なんか」
「「はい」」
千文来とひまりは、真面目な顔で頷いた。
「妹は家を出るときに、付き合ってる彼氏と暮らすと言ってました。アパート名と大家さんの連絡先を教えてもらってました」
「時々、連絡してくれてました。ごく普通の会話です。生存確認ですね。」
「だから、安心していました。彼氏さんとは何度か会って話したこともありましたから。でも、別れてこんなことになっているなんて知りませんでした」
「テレビで火事のニュースは、見なかったのか? 」
「その当時は仕事で出張や家が荒れていたので、まともにテレビは見ていませんでした」
二人はまだ詳しくは言えない苦労しているのだと、村上は思ったのだという。
「妹さんを連れて帰るのなら、また別の日にしてください。今の彼女は熱で、体力がかなり落ちてます。それに本人の体調が安定してからよく話し合って決めなさい」
「はい」
「今、彼女には落ち着ける場所が必要や」
「はい」
「彼女が火事で大切なものを失ってから、特に体調が悪くなったことがある」
「それは? 」
「彼氏さんがくれた絵や。持っていこうとしたけど、彼女は子どもたちや荷物を抱えていた。それらを人に預けて飾った場所に行こうと戻ろうとしたら、住人たちに止められたそうや。その間にアパートは燃えていった。これがきっかけで周りに助けてもらっても、ひとりで双子を育てる彼女の心の支えがポキッて折れたんや。他もあるけどな」
みんな、涙を流したと村上は静かに語った。
この日から、村上と千文来たちは連絡を取り合った。彼女の体調が安定し、彼らの家の環境を整えて暮らすことになった。
彼女は常日頃から、村上に感謝をして過ごしていた。
彼の家を出てからも、毎年数回会いに来たことがあった。彼女はほそぼそと仕事をしながら、家族のみんなで映太と映璃を育てた。
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