第12話 狂い出す
彼女は予想もしない現実に巻き込まれる。
この日から一年間、彼女と子供たちは村上の家で暮らした。それは楽しくもあり、大変だったという。
彼女は今までのように周りに助けてもらいながらも、心のなかで孤独になり無理をしていた。村上のように強引に手伝いを買って出ないと、何度も倒れそうになっていたからだ。
そこで村上は、自分の良さが彼女を少しでも救えたと誇らしげに語った。
双子のうち、映璃がよく泣いて、なかなか寝なかった。映太はそれに反応して、起きて泣くを繰り返した。
彼女と子供たちは、仕事が休みの日に公園に出かけることが数回あった。そして子供たちは、順番に体調を崩したり、同時になったりしてその世話を村上と一緒にしていた。その後、彼女が体調も崩すようにもなった。
彼女は身体だけじゃなくて心をも弱くなっていた。双子の母として強くいて、いつ帰ってくるかわからない恋人を待つために。
こんな弱くて脆くて、情けなくて、村上や周りの人間に助けてもらわないと生きていけない自分が嫌だった。
彼女は理想とする自分になれずに、弱くなった。彼女は現実に向き合いたくなくて、心が狂い出す。
村上は、言った。彼女は時々泣き出して「ごめんなさい」と誰かに謝っていて、それを見るのがとても辛った。彼女は何も悪くないし、母親として子供に愛情をしっかりやれているからだ。その言葉を聞いて少しは心に届いても、回復することはなかったのが悔しいと。
この時はすでに、彼女は仕事を辞めていた。仕事は村上に紹介してもらっていたが、心身ともに体調が悪くて休みがちになった。村上に辞めたほうがいいから。無理をしなくていいからと言われたからだ。
村上は何度も彼女と話し合いを重ねた。それは、家族に事情を話して住めるのなら住んだらいいと。
でも、彼女は迷惑をかけるからと断っていた。
僕は弱いと思う人こそ、強いと思うし優しいと思う。
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