第9話 強引でおせっかいなジジイとコロッケ二つ
にぎやかな商店街にある肉屋の前で、一人の女性が俯き小さな手で顔を覆って泣いていた。
「お姉さん、大丈夫ですか? 」
「……」
肉屋の娘が彼女に声をかけて背をさすっていた。
「ボン、どうしたんや」
「おじちゃん、その……」
村上は会計の方にいた肉屋の息子に声をかけ、どうしたんやと事情を聞いた。
彼女が「コロッケをふ……」と言いかけて泣き出したそうだ。肉屋は彼女が常連だったので、よくコロッケを二つ買っていくことを知っていた。それを見てなにかあると思ったようだ。
「ボン、コロッケ二つ買うわ。ワシとこの子のでな」
「ありがとうございます」
「お姉さん、ちょっとワシの家においで。こっから近いから」
「えっ……」
「嬢ちゃん、時間あるんやったら一緒に来てくれんか」
戸惑う彼女をよそに、強引に連れ出そうとしていた。
「はい。おじちゃん、あいかわらず強引だからね」
「フッ」
村上は、肉屋の娘の言葉に鼻で笑った。
「車、出すよ。いくら家が近いからって、今の状態で歩きはダメ。おじちゃん、家の門前に止めさせて」
「ええぞ」
村上は、彼女もやや強引に家に連れて行った。周りの誤解や彼女のことを思ってか肉屋の娘も連れて行くことにしていた。
「お姉さん、このおじちゃんが強引でごめんね」
彼女は首をブンブン横にふる。
「何かあったんか? 」
「おじちゃん、麦茶注いできていい? 」
「冷蔵庫に冷たいのがあるけん。お菓子も取ってきてくれん? 」
「はーい」
二人の様子を見て、彼女は不思議そうにしていた。
「ワシの家は、ここら辺の人らがよう来て出入りするんや」
「そうそう、私は昔から家に遊び来てたから勝手がわかるの」
台所から肉屋の娘がオボンにお茶とお菓子を人数分持って来た。
「おはぎがあったから出したよ」
「お菓子とはいうたけど……ワシの秘蔵のおはぎを……」
村上は、ブツブツと文句を言った。それもそのはずで、天気か良すぎて部屋の気温を気にして、おはぎを冷蔵庫の奥の奥に隠すように入れていたからだ。
「おじちゃんのおいしいから」
「そうや!ワシが作ったんはおいしいのが当たり前や」
「ほら、お姉さん涙拭いておはぎ食べよう」
「うん」
彼女はおはぎを食べておいしいと感動して、お茶を喉に流し込む。
「甘いもん食べて、落ち着いたか? 」
「はい。ありがとうございます」
「こんなことしてるけど、無理して聞こうとは思ってない。ワシはただ何度か見かけたことあるお姉さんが悲しそうで、辛そうな顔しとんが気になるんや。肉屋のコロッケがマズイって思い出して泣いたんじゃないと思ってな」
「おじちゃん、わざと家の店を絡めないでよ」
「すまんな〜」
村上はまたお茶を飲んだ。村上はおはぎの仕返しとばかり肉屋のコロッケを使ってを攻撃した。
「お姉さんは、誰かに何かを聞いて欲しいのかとも思った。隣に座る肉屋の嬢ちゃんもそう思ってるんやろ」
肉屋の娘は頷いた。
「実は何年も付き合っていた彼と別れました。彼が夢を追いかけて海外に行ったんです。彼の夢は応援しています。出来ることなら、ついて行きたかったんです」
「何か理由があるんやな」
彼女はコクっと頷きながら、涙を流す。そして、彼女はお腹を優しく撫でた。
「子供が出来たんやな」
彼女はコクっと頷いた。
「最近、調子が悪くて。気持ち悪くて吐いたり、イライラしたりしてて。病院に行ったんです。そうしたら、子供がいるって言われました。それも双子だって」
「双子ちゃん……」
肉屋の娘は、そう呟き下を向いた。
「双子ちゃん育てるの大変って友達言ってた」
「家族に頼るの難しいんか? 」
「はい。頼ることも出来るとは思うんですが。弟が中学に進学して、反抗期でもなって……。兄夫婦が支えてくれてます。それに二人はお仕事で大変です。だから私は自立して、迷惑をかけないように家を出ました。彼とは数年前に出会って一緒に暮らしました。私は、ひとりで子供を育てます」
「彼氏と別れたから、いつも二つ買ってたのにそうじゃないって分かって泣いたんだね」
「はい」
「よし、ワシを頼りなさい。弟や妹に姪っ子甥っ子の面倒を見てきたから安心しなさい」
「そうよ!おじちゃんは、このへんで有名な強引でおせっかジジイなの」
「悪口やろ」
「この人に任せれば大丈夫。ここら辺の人でおじちゃんの名前知らない人いないんじゃないかな」
「急に褒めるな」
「照れちゃって」
「ふふふ」
「やっと笑ったな」
「お姉さんは笑顔がすてきだから、心が浄化される」
「なんや、それ」
彼女が笑ったのを見て、二人はそっと胸をなでおろす。
「さぁ、冷えててもおいしい家のコロッケを食べて元気を入れてくだされ! 」
「はい!いただきます」
「ワシもいただこう」
村上と彼女はコロッケにかぶりついた。おいしいと二人は笑顔になった。
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