八話
いつものように食べていると星宮が、俺の食べているところを見て凝視していた
そして、まるで犬ですねと言われて、朝から二度目のショックを受けた
俺はそんな野性的に食べていただろうかと思いながら、食べていると
柚木が牛乳を片手に、いつもしない仕草で、俺のことをチラチラ見ていた
「あ、牛乳の賞味期限今日までだ。まだ結構残ってる。とっても優しい誰かが飲んでくれないかなぁ……」
「そんな目で見なくても飲むよ、むしろその目はなんか腹立つ」
「さっすが! 頼りになるね! お兄ちゃん!」
「あのぉ、そ、そんなに飲んで大丈夫なんですか先輩」
意外とあるな
だが一度口をつけたものは必ず全て腹の中に入れて見せる!
一気に駆け込め!
無事に飲み干し、やり遂げたという表情で俺は星宮を見た
そして、一時がたち急にお腹から聞き覚えのある音が部屋の中で鳴り響いた
柚木と星宮は、何かを察したように俺のことを見ていた
次の瞬間、腹からとてつもない便意を感じた
俺は何も言わずにトイレに向かって走っていた
「もしかして、先輩って少しバカなんですか?」
星宮の俺を馬鹿にした言葉も耳には入らなかった
それどころでは、なかった
下腹に激痛が走り、拳を握っていた
な、何とか間に合ったが、
う、うおおおおおお、いてぇなおい! 滅茶苦茶いてぇ!
牛乳ごときで腹下すなんざいつぶりだよぉぉぉぉおおおおおお
ブーブーブー(携帯のバイブ音)
誰だ! こんな時にメールを送ってくる奴は!
――先に行ってるね、あとお弁当をテーブルの上に置いてあるから。遅刻しないようにね
こ、この野郎……いつか大量に牛乳を飲ませてやろう……はぅ!!
七月十九日、午前七時四十七分、俺の尻は死んだ
はぁ、今日は平和だと思ったのに、最悪だ。まさか、牛乳の力があれほどとは
まったく、時間は大丈夫か?
げっ! もう八時かよ!
急がないとあの鬼教師に何されるかわからねぇ、
ここから学校まで本気で走って十五分ってところか……
いや諦めてはだめだ!
急いで、鞄に今日必要なものを突っ込んで
勢いよく玄関から飛び出した
しばらく走っていて、ある違和感に気付いていた
玄関から飛び出して、一切緩めることなく本気で走っていたが
まるで時間が遅くなったように、周りの光景が遅く感じていた
それだけではなく、まったく息が上がらなかった
不思議に思いながらも、鬼教師の罰が怖くてそれどころではなかった
だが、二十分も先に家を出たはずの柚木と星宮の背中が視界に入った
あれって、柚木達だよな?
なんでまだ、あんな場所にいるんだ?
ゆっくり歩きすぎだろ、まったく
はっ! もしかして俺のことを待ってくれていたのでは?
そんなわけないか
「おいお前ら! 遅刻するぞ! 何ゆっくり歩いてんだよ」
「え? お兄ちゃん? ちょっと早すぎない? トイレ終わるの早かったね」
「先輩、何を言ってるんですか? もう少しで学校につきますし大丈夫ですよ?」
「何言っているんだよ、家を出たときは八時過ぎてたぞ?」
「お兄ちゃん頭大丈夫? まだ、八時三分だよ?」
不思議そうな顔をしながら俺を見ていた
柚木の携帯の画面には俺が見た時間から、三分しかたっていなかった
確かに家を出る際に確認したはずだった
だが、自分の携帯にも同じ時間で表示されていた
え? 俺の携帯が壊れてんのか?
まぁいっか学校に間に合うのであれば、気にすることでもないだろう
はぁ、これで怒られずに済む!
「いや、悪い俺が勘違いしてただけだ、さぁさっさと行くか」
「もうしっかりしてよね、お兄ちゃん」
よかったぁ……ホームルームが始まるまでに間に合った
だが始まったときにあの鬼教師が、ちょっとびっくりしていたことが気にいらなかったな
俺だって、早めに学校につくことぐらいあるだろ
まったく失礼な教師だ
「おい悠真、星宮さんって子がお前を呼んでるぞ」
「え? 星宮が?」
クラスの奴にそう言われて、何かしたかなぁと考えながら
俺が星宮のもとに向かうと
そこには、今日の朝の雰囲気とは全く違う
真剣な表情で俺が来ることを待っていた…………
星宮に呼ばれた場所に着くと
真剣な表情で待っていた
俺がどうしたんだと言う前に、人気がない階段の前まで連れていかれた
星宮が少し周りに人がいないことを確認して、誰もいないことを確かめ
誰にも聞こえないように、小さな声で話し始めた
「いったいどうしたんだ? そんな真剣な表情をして」
「先輩、朝に違和感はありませんでしたか? 今日家を出てから私たちと合流するまでいつもより力が湧いてくるとか、周りが遅く感じるとか」
「違和感? まぁ、そんな感じのことはあったけど。それがどうしたんだ?」
「先輩、家を出た時に時間を見たら何分でしたか?」
「確か、その時は、八時に見えていたんだよなぁ。でもあれは、俺の勘違いだし」
「もしかすると、それは勘違いではないかもしれないです。私の考えが正しければなんですが」
勘違いではないって、だとしたらそれこそおかしいだろ
家からあそこまでは、走っても結構時間はかかるぞ?
それに、俺は身体能力にも多少の自信はあるし
俺が時間を勘違いしただけで、それ以外はたまにあるんじゃないか?
意外と星宮もお馬鹿さんなのかもしれないな
「今私を馬鹿にしましたね?」
「なん、え? そ、そんなわけにゃい、だろう」
か、かんでしまった…………
まずなんでわかるんだよ! 怖いんだけど
もうやめて! 俺の心の中をのぞかないで!
「だいたいなんで勘違いじゃないと思うんだ? だってあそこまで走っても十分ちょいかかるんだぞ? 俺が時間を見間違えたとしか思えない」
「先輩、忘れていると思うので一応言っておきますけど、先輩はもう普通の人間ではないんですよ?」
「あ……うん。まぁそうかもしんないけどさ」
(キーンコーンカーンコーン)
「とにかく先輩、何があっても全力を出すのはダメですよ。昼休みになったらまた来ます。そのときに、また詳しく話しましょう」
そう言って星宮は、自分のクラスに走って帰っていった
それを見送ってから、改めて認識をしていた
自分がただの人間ではないこと、普通に生きることはもう無理なのだと
だが、ここで考えていてもしょうがないと思い
教室に戻って授業をとりあえず受けながら考えることにした
一限から数学っていじめだよなぁ、俺は数学が嫌いなんだよ!
まったく……それにしても全力を出すなって、なんなんだ、急に
でも、もう俺は普通の人間じゃないんだよな
はぁ、俺はただ平和に過ごしたいだけなんだが
無理やりこんな力を押し付けられて、みんな自分勝手すぎなんだよ
人の気も知らないでよ
ただひっかかるな、星宮の勘違いではないという言葉
大嶽丸も力が発現するって言ってたが
それが本当だとするとおかしい
俺は、星宮からまだ何も教わっていない、力の使い方すら知らないんだぞ?
でも、話を聞かないで何か大惨事になってからじゃダメだ
とりあえず、昼休みまで待ってみるか
あ、そういえば今日の体育マラソンって言ってよな
あの教師のことだ、全力でやってないから評価を下げるとか言ってくる気がする
とりあえず、授業が終わったらすぐ職員室に向かうか
なんか簡単に終わってくれればいいんだがな
授業が終わり、すぐ職員室に向かった
少し何とかなるんじゃないか、という気持ちが無かったわけではなかったが
俺が勝手に動いて、取り返しがつかないことを考えると
この場所にきて協力してもらったほうがまだいいと思った
(コンコン)
「失礼します、花染朱音先生に用があるんですけど入ってもいいですか?」
「ん? おう、悠真じゃないか、どうしたんだ? 珍しいじゃないか自分で来るなんて」
「そのぉ……ここでは話しずらいって言うか、ちょっといいですか?」
「あ? あぁ、なるほど、いいだろう。ちょっと待て、特別室のカギを持っていく」
教師が、『あ?』っていいのか?
それより、なんで指導室なんだよ! もっと他にあるだろうが!
なんか俺がやらかしたみたいじゃねぇかよ
この際、贅沢は言えないが
先生に着いて来いと言われていくと、特別室と書いてある部屋にたどり着いた
だが先生はその隣にある、もう一つの何もない壁に鍵を刺していた
不思議に思っていると、目の前には今まで見たことがない、和室のような扉が現れた
びっくりしすぎて、呆気に取られていると
早く入れと、言われて驚いている暇もなかった
入っていくと、よく時代劇で見るような、狭い和室になっていた
特別室って言ってなかったか?
こんな場所おれ知らんぞ!
てか、なんで急に部屋が現れるんだよ!
なんか最近、びっくりすることが多いんだけど
もう何でもありじゃねぇかよ