五話
そこには、口を大きく開けながら、大笑いしている大嶽丸の姿があった
わ、笑いごとかよ! こいつ、いつか絶対埋める
だがなんでまた会えたんだ?
それに、暴れたって、確かに逃げようとはしたが、暴れてはいないぞ?
どういうことだ?
「なぁ、俺が暴れたってどういうことなんだ?」
「んあ? あーそいつはおそらくお前の精神の闇だろう。すごかったぜ、ありゃぁ鬼だな」
「闇? なにそれ、こわっ!!」
「まぁ、闇って言ってもお前と俺の負の感情が問題なんだよ。お前、刺されて倒れるとき何を思った?」
んーよくは覚えてないなぁ
なんか痺れていたりとかは覚えているんだけどな
他には…………
「覚えてないんだが何を考えたんだ?」
「なんで俺に聞くんだよ。はぁ、簡単に許せないとかそんなもんだろ。だがそれが、暴走するきっかけってとこだな」
「なにがまずいんだ? 許せないって思っただけで暴れようと俺は思わんぞ」
「確かに普通はそうだ。だがそこが少し違うのさ。いいか、前会ったときにも言ったが俺とお前の魂は同化してるって言ったよな」
確かに言ってはいたが、それと何が関係しているんだ?
俺は、力が発現するぐらいしか聞いていないし
「てか、お前が気を失っても戦っていたのは、まぁほぼ俺のせいなんだ、すまん」
どういうことだ? 話が見えてこないぞ
なにがどうなったらこいつのせいになるんだ?
てか、こいつのせいなのか!!
この野郎こいつ、何してくれるんだよ!
いや、まぁ何が起きたのかは、まったく知らないんだがな
「続けるぞ。さっきほぼ俺のせいと言ったよな。それは、俺の感情も関わってきていてな、俺の魂とお前の魂が同化していることは知っていると思うがそこが問題だったんだ。ここからは、少し俺の過去も話したほうがいいな」
そういった大嶽丸は、まるで懐かしむような顔をしながら
自分の過去について話し始めた
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約千年前
――俺がまだ、生まれて間もないころに理由もなく、人や物の怪、神どもを退屈しのぎに殺して食っていたころ
「おいおいそんなものか退魔のものよ! だはははははは!!」
「く、くそ……化け物が……」
ふん、弱い、弱すぎる
もっとだ、もっと、強い存在はいないのか?
まったくどいつもこいつも、弱い
退屈だ……もっと自分の全力をぶつけれる奴はおらんのか……
もういっそのこと、一国を滅ぼそうか
そうすれば、もっと骨があるやつが来るであろう……よし! 滅ぼしに行こう!!
ん? なんだ、この気配……この気配は、強いな!
どこだ!!!!
――この頃の俺は、ただ強者と闘うことに楽しみを見出していた
強い気配を帯びたものであれば、どこにでも行った
闘い、殺し、食って、また闘いの繰り返し
そんな日々を過ごしていた時だった
あそこだ!! ん? 女か? なんだ……女なら闘う気が失せたどんなに強い気配であっても皆女は弱い……
はぁまぁいい気を取り直して滅ぼしに行くぜ―――!!!!
「やめておきなさい、小さな鬼さん」
――そんなことを言って俺の目の前に現れた女性は、空のように引き込まれる青い瞳で俺を優しく見つめて、とても色鮮やかな衣に包まれ、青く長い髪を揺らしながら俺に近づいてきたのだ
そして俺が一瞬、瞼を閉じた瞬間に後ろのほうにまで回っていたのだ
その速さにもびっくりしたが、彼女の額には俺と同じような、角ができていたのだ
美しさと、とても強い気配に今までに無いほどの胸の高鳴りを感じていたのだ
んを!! いつの間に俺の後ろに……
この女、もしかして強いのか?
はは、燃えてきたぜ!
だとしたら、闘う以外の選択肢はないぜ!!
「おい!! 女、俺と闘え!! 光栄に思うがいい」
「え? あは、そうねぇ…………いいわ。なら、私が勝ったら私の言うことを何でも聞くっていうのはどうかしら?」
――その出会いが、ただ己の快楽のためにあらゆるものを殺していた俺に、たくさんの大事なことを教えてくれた女性との出会いだった
戦闘は、森の中で繰り広げられていた
その女に向かって無数の打撃を繰り出していた
だが女は、木々や岩、地形を利用し全ての攻撃をひらりひらりと水のような流れる動きでかわしていた
まったく攻撃が当たらず、腹立たしく思いながら、自身の力を最大限まで引き出し、竜巻や落雷など自分ができることはすべてやっていた
女はまるで、そこに攻撃が来ることを分かっているかのような余裕な表情で避けていた
こ、この女、強すぎる、なんで全く俺の攻撃が当たらんのだ!?
こんなやつ今まであったこといないぞ?
「ふふ、そんなわかりやすい攻撃をいくら放っても当たりませんよ」
「な、なにを!! この野郎」
なんでそんな笑っていられるんだ?
そんなに俺が弱く見えるのか! 馬鹿にしやがって!
――そこから、三日三晩休む暇もなく攻撃をし続けたが、かすることさえもできなかった。そして、俺は力をすべて使い果たし、その場で倒れるように気絶していたのだ
そこから、一週間は眠っていたらしい
彼女は、自分が住んでいる場所に俺を連れていき、つきっきりで看病してくれたらしい
そして俺が目を覚ますと、そこは俺の知らない場所にいた
ま、まぶしい…………
ここはどこなんだ?
誰が運んだのだ?
にしても、ぼろい家だな
――その家は、木でできた古い物置小屋のような場所だった、お世辞にもいい家とは言い難く、あまり管理されていないのか所々には、蜘蛛の巣や埃の山ができていた
俺はなぜこんなところで寝ていたのか、誰が運んだのかそのことがとにかく気になっていた時に、彼女が優しい声で俺に声をかけてくれたのだ
「起きましたか、お前は、一週間も眠っていたんだよ、ほらちょうどご飯を作っておいたよ、お食べ」
――彼女は、相変わらずとても優しい青い瞳で俺のことを見ていた
手元は、慣れた手つきで俺の分のご飯を作ってくれていた
あの頃は理解できなかったが、初めてだったのだ。温かいご飯を、俺のために用意してくれたものは
まぁ幼い俺は、そんなことも考えぬままに、用意されていたご飯に飛びついて、無言で食べていた
そして、食べ始めながら、俺は疑問に思っていたことを訪ねていた
「おい、お前はどうして、俺を助けたんだ? 俺はお前に負けたのに」
「あらあらゆっくりお食べなさい、誰も取りはしないのだから。そうですねぇ、闘う前に言ったではないですか、私が勝ったら何でも言うことを聞くと。ですから私の言うことを聞いてもらうために、あなたの傷を治してあげたのよ」
そんなこと言ったか?
んーでも約束してしまった以上はしょうがない
にしても、この女が俺の傷を治してくれていたのかぁ
ん?…………なんだこの感情は?
なんか、ムズムズする
「お前は、俺に何をお願いしたいんだ、しょうがないから聞いてやる!!」
「では、私の家族になってはくれませんか?」
「なんだそれ? うまいのか? よくわからんが、いいぞ!!」
「では、あなたの名前を教えてくれる?」
「俺の名前は、大嶽丸だ!! お前の名前は?」
「私は、鈴よ。よろしくね」
――鈴の顔はとても穏やかだった、そこから俺は、彼女と家族になった
当時のおれは、家族というものを分かってはいなかったが、その時の『ありがとう』という言葉は、俺の人生で初めての感情が溢れていた
月日がたち俺は、鈴からたくさんのことを教わった
力の正しい使い方、文字の書き方、料理の仕方、そして、家族“愛情”というもの
そんなある日、鈴が、置手紙を残してどこかに行ってしまった
そこには、さがさないでくださいと役目ができたと、そして最後に、ありがとうと
鈴はカラスどもに脅されていたのだ、そう退魔士と名乗るやつらに
俺を殺されたくなければと……
いまだに脅されていた理由は分からんが、鈴は頭もよかったから勝てないと思っていたのだろうと思った
だが俺には、家族と呼べるようなものなど生まれてから一人もいなっかったのだ
俺にとって鈴は全てだった、鈴のためだったら何をしてもかまわないと思っていた
鈴を取り返すために、気配をたどりながら探し回った
そのうち、魔王と呼ばれるようになったころ、俺は鈴のもとにたどり着いた
だが、もう遅かったのだ、鈴はその時、俺の目の前で殺され助けることができなかった
「そこから、俺は憎しみの闇にのまれた。そして、名前は覚えておらんがその男に二度殺され、刀もすべて奪われて弱ったところでまた殺されたのだ……そしてお前の魂の中で目が覚めたのだ、憎しみとともに」
話を終えた大嶽丸の目には、涙が浮かんできていた
もう、会うことも叶わない彼女のことを思い、黄金のような彼女との景色を思い出し
それでも、もう話すことさえもできないと
黄金の瞳が、いつも以上に輝いていた