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二話

 「そんなに心配するな。今から、お前は俺の腹の中に入るんだ。だが、抵抗すればお前は苦痛の中で死ぬことになるぞ」


 俺を食うってことか? まったく、食われてたまるかよ

 こいつはいったい何なんだ?

 いや、そんなことは後だ

 とにかくここから生きて帰ること、それが一番重要だ

 無傷で帰ることができれば、いいんだが

 とりあえず走って逃げるか?

 いや、無理か。さっきの着地でも分かるが、身体能力が並ではない

 闘うなんてもっと無理だ、どう考えても化け物にしか思えない

 くそ、どうすればいいんだ


 何を考えても、いい考えが浮かばない中

 少し思考に集中していたことで

 一瞬だったが、目を外した瞬間に化け物の姿はなかった

 辺りを見渡そうとした瞬間、右肩に激痛が走った


 「ぐあっ! くっそがぁあ! 離しやがれ!」


 化け物は、俺の右肩を食べようと噛みついていた

 だが、食いちぎられる前に、目を力一杯殴っていた

 雄たけびとともに後ずさりながら、鬼の形相で睨んでいた


 「がぁああああ! 貴様、少しは遊んでやろうと思っていたが、もう終わりだ! 貴様の四肢を引き裂き少しずつ食ってやる!」


 右肩が食いちぎられるかと思った

 いったいどうなってんだよ、まったく、夢なら早く覚めてほしいもんだが

 この痛みは夢じゃないだろうな

 はぁ、もういい、頭にきた

 力がただ強いことが、そんなに偉いなのかよ

 理不尽すぎるだろ


 「おっかねぇな。だけどよ、こっちも頭にきてんだよ。そんなに俺が食いてぇか? ならよ、食ってみやがれ! 糞野郎!」

 「人間の分際で、調子に乗るんじゃねぇ!」


 化け物に向かって、俺は駆け出していた

 化け物も俺に向かって一直線に向かってきていた

 真向で戦っても勝つことができないのは分かっていた

 相手は俺のことを確実に見下しているはず

 だが、それがいいと思った

 怒りで冷静ではないから、必ず大きい動作になると予測していた

 そして、思った通りに化け物は、左の大振りをしてきた

 俺は紙一重で避けて、スライディングしながら

 化け物の後ろに回った

 そして、化け物の足にめがけて思いっきり蹴った

 だが次の瞬間、俺は宙を舞っていた


 「は?」


 風を切る音が耳に入ってきた、そして化け物がニヤついている顔が目に入った瞬間

 俺の体は、何かに思いっきりぶつけられていた

 気が付くと俺の見ている景色が、赤く染まり、呼吸がほぼできなくなっていた

 手足は、まるで何かに固定されているように動かない

 気になって見てみると、俺の手足は、ありえない方向に曲がっていた

 右腕は、ほぼ取れかけていたが皮一枚で繋がっているようだった


 これは、もう無理だな…………

 見なくてもわかる、肺に何か刺さっている

 はぁ、俺の方が冷静じゃなかったようだな

 余計なこと考えないで逃げておけばよかったか

 なんで…………なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだよ


 ――やれやれ、まったくお前は世話が焼けるなぁ、俺が手を貸してやるよ


 なんだ? 幻聴か?

 ん?

 あれ? なんで俺の体動くんだ? しかも痛くない

 この感触は…………刀? なんで刀なんか


 なぜかその言葉が聞こえた瞬間に、ボロボロだったはずの体がすべて回復していた

 それどころかなぜか力が湧き上がってくるような

 そして俺の右手は、何故か刀を握っていた

 刀身は銀色に輝き、波紋と鍔は黄金のように輝いていた

 柄のほうは、黒い布のようなもので巻かれていた

 俺にとっては何が起きているのか全く分からない状況だった

 だが、それを見た化け物は、体を大きく震わせておびえながら口を開いた


 「なぜ、なぜおまえがそれを持っているのだ! お前はいったい何者なんだ?」


 なんだ、こいつの反応?

 知っているのか、これが何なのか

 さっきから理解が追い付かないことばっかりだな

 でも、今ならこいつから逃げることもできるんじゃないか?


 「くそ、もうお前は食わなくていい! 俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ!」


 そう言って化け物は、俺に背を向けて文字通り脱兎のごとく逃げていった

 少し安堵の吐息が漏れた瞬間に、急に眠気がやってきていた

 よほど疲れていたのか

 それとも、本当はこれが夢だったのか

 後者であることを願いつつ、俺の視界は闇におおわれた





 少し時間がたって目を開けると、そこは果てしないほどの闇に包まれていた

 何が起こっているのか全く分からない状況の中で、これはまだ夢の中なのかと

 少し戸惑っていた


 どこだ、ここは?

 全然見たこともないっていうか真っ暗だな、先が全く見えないほどに

 まだ夢から覚めていないのか?


 「おい、悠真はじめましてだな」

 「しぁっ! え……」


 いきなり声をかけられたことにもびっくりしていたが

 その声の主のほうに体を向けた瞬間俺は息をのんだ

 声の主には真っ白な少し長い髪に、おでこからは長い角が二本生えていた

 着物のようなものに身を包み、あぐらをかきながら鋭く黄金に輝く瞳で、静かに俺を見ていた


 急に話しかけられてビビって変な声が出てしまったが

 え、誰この人…………人?

 なんか角っぽいの生えてないか? しかもあの服、なにあれ、着物?

 いやちょっと待てよ、こんな暗い場所に一人でいるとかどう考えてもおかしい

 分からないことが多すぎる

 とりあえずこいつが誰なのか、ここはどこなのか聞いてみないと始まらん

 答えてくれると嬉しんだけど


 「いきなりで悪いんだが、お前は誰なんだ? そしてここはどこだ?」

 「俺の名前は、大嶽(おおたけ)(まる)。かつて、この国にいた鬼神だ」

 「おぉ、意外と素直……は? いや、うそだろ鬼神って、あり得ないだろ。そもそもそんな怪物みたいなのが存在しているわけないだろ」

 「お前の前にいるだろ」


 ありえるのか? 

 それこそ、ファンタジーの世界じゃないか

 確かに、急に刀とかが急に出てきたりはしたけど

 いやいや、それは俺の夢か何かなんだろ

 だってそうだろ、普通に考えてもおかしすぎる


 「おい、おまえ信じていないだろ」

 「いや、だってどうやったら、信じられるんだよ。まずここはどこなんだよ、お前は何者だ、それと、あの刀はなんなんだ! ふざけてないでちゃんと説明しろ」

 「わかった、わかったから少し落ち着けしっかり説明してやるよ。はぁ、まずここは、お前の魂の中に存在する場所だ。魂の中には、魂の核と精神の核が存在する。今、俺たちは精神の核の中だ。

 そして俺の話だが、俺はだいたい900年ぐらいまでいた鬼神だ。確か魔王とも言われていたなぁ。まぁ、正直それはどうでもいい。そしてあの刀だがあれは俺の刀だ。あの刀は、三明(さんみょう)(つるぎ)といって三本そろって一つの刀になる、三位一体の刀だ。俺の魂はお前の魂に同化しているからな、おそらくお前の中に存在する、俺の魂に反応したんだろ、説明は以上だ。これで信じてくれるか」


 これは現実なのか?

 俺があり得ないと思っているだけで実際に、こいつは目の前にいるわけだし

 信じるしかない……ん? 

 いやこいつ今、同化しているって言っていたよな?

 しかも魔王とかも言ってたよな?

 まず魂って何!?

 まて、今俺の体ってどうなってんの? 

 こいつは何にも知らないのか?


「もう少し聞きたいことがあるんだが」

「ん? なんだ、答えられることなら聞いてやる」

「まず、俺の体は無事なのか? 魂が同化ってなんだ? あと魔王ってどういうことだ、お前は悪いやつなのか?」

「お前の体は無事だ、ちなみにお前は今一時的にここにいるが、精神の世界は普通の時間の流れではないんだよ。たくさんの夢を見たはずなのに、そんなに時間がたっていないときがあるだろ? それと似たようなもんだ。

 それから魂の同化だが、俺もよくは分からないんだ、俺が死んで気が付いたらお前の魂の中にいた。だが、そんな心配する事はないだろ。同化はしているが、主導権はお前にあるしな。それに、俺はこの場所からずっとお前のことを見ていて思ったが、俺はお前を気に入っている。お前は俺とよく似ている。

 それと魔王のことだったか……それは勝手にくそ野郎どもが言い始めたことだ、俺のすべてを奪った……今思い出しても吐きけがするほどむかつくぜ」


 話し終えた大嶽丸は、瞳を輝かせながら、どこか遠い目をしていた

 肩を落とし、まるで何かを悟ったような、そんな雰囲気を放っていた

 俺は何も言えなかった


 なんて声を掛けたらいいのかわからないな

 なにがあったのかは分からなし、無責任なことは言いたくない

 それにしても、ずっと見ていたって衝撃だな

 悪い奴じゃなさそうだし、少しくらい信じてやっても、いいのだろうか?

 さて、まぁとりあえず、さすがにここにずっといても何もできないしそろそろ戻りたいんだが

 うん、どうやって戻ろうか


「教えてくれてありがと。何があったのか詳しいことはわからんが、俺も言いたくないこととかもあるからな。まぁそれで、一番俺にとって重要なこと聞きたいんだけど、これどうやったら戻れるんだ?」

「あぁ、それもそうだな。安心しろ、もう少し待っていれば勝手に戻れるはずだ」


 マジで! もう少ししたら戻れるのか!?

 いやでも、勝手に戻れるってことを、最初に言ってくれよ

 そういえば、なんかこいつの声聞き覚えがあるような気がするんだが、気のせいか?

 いやいやいや、そんなわけないか。今初めて会ったわけだし

 それより、さっさと戻らないと、柚木が心配してしまう


「あっそれと、もう二つほど言うことを忘れていた。お前は俺と魂が同化しているってさっき言っただろ? お前の魂の中に存在する俺の力が完全に復活した今、もうお前は普通の人間ではない。まだ実感が湧かないだろうが、そのうち目に見える形で出てくるだろう。もう一つだが、完全に俺が目覚めたことで、俺の力が覚醒したことは気配でばれるだろう。だからこれは、忠告だ。『カラス』を名乗るやつらには気をつけろ。守りたいものがあるなら。お、ちょうど時間切れのようだ」


 大嶽丸がそう言った瞬間、急にもの凄い眠気が襲ってきた

 目の前がくらくらとしていて視界が悪くなっていく

 立っているのがやっとな程だったが、最後に話していたことが気になり

 どういうことなのか説明してほしいが


 なんで……急に眠気が……くそもう少し聞きたいことができたのに……

 なんで最後のほうにそんな大事な話をするんだよ……だめだ……もう……く……そ……



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