第4話 マナーと散歩
マナーの講義は恐ろしく退屈かつ不快なものであった。それもそうだ、マナーなんぞ昔も未来もそう大きく変化するようなものではない。カトラリーなどが代表するテーブルマナー等も『前世』ですでに完璧にマスターしていた。とはいえ、こちらの世界の文化レヴェルは『前世』での十四世紀そこらであるためあちらではマナー違反とされていたようなことであってもお咎め無しとなっていたことが多々あり幾分か引いてしまったこともままあった。特にフォークを使わないで手づかみ─当然ながら手洗いはしない!!─など野蛮を極めており講師の正気を疑った。また、フォークなどもまだ使われてないこともあってか前世で履修していたカトラリー等も役には立たなかった。
まあなんとか引きついた笑顔ではあったが乗り切り遂に待ちに待っていた散歩の時間となった。十四世紀そこらの街並みは記録でもあまりお目にかかったことは少ないし何より木と石造りの街には前世より情景の念を抱いていた節がある。
重たいドレスから身軽な服装へと─それでも前世に着ていた服よりかはかなり重いが─着替え従者の手を握り街へと繰り出した。
初めて見る街はなんとも言えない空気を帯びていた。華やかで穏やかな想像通りの雰囲気もあるがどこか薄暗くそしてじっとりとした空気も感じられたからだ。従者はどうやら私に明るい部分のみを見せたがっていたようではあるが街はその涙ぐましい健身をあざ笑うがごとく私の目へと暗い部分を飛び込ませてきたのだ。
例えばつやつやと艶やかなりんごを売る露店があるかと思えばその少しとなりには残飯を漁る子供がおり、貴族の手を掴み美しい布地をセールスしている商人の足元には吐き気を催す排泄物がさも当たり前であるかのように撒き散らせている。怪我をしているみすぼらしい乞食共を人々は足蹴にして街を行き交っている…その想像を遥かに飛び越えたアンバランスさに私は胸を激しく掻きむしられた。
「なぜ為政者はこのような様相を見過ごしているのだ?」
と従者へと問うと困ったような表情のまま何も答えなかった。まあそれもそうだ。この時代しか知らぬ彼らからすればこの景色以外には想像ができないのだ。
ふと周囲を見回してみるとある路地の先が石で美しく舗装された街道ではなく未舗装となっているのを見つけた。何故かそちらへと向かわなくてはならないという焦燥感が湧き出て、従者へとあっちはなんだ、あっちへと行きたいと言うと従者は途端に顔を固くさせならないと強い口調で言った。その急激な変化に思わず面食らっているとそのまま従者はもうだいぶ歩いたからここらで帰ろうと切り出しそのまま散歩は終わってしまった。
家に帰り夕食を摂り身支度を整えると─風呂などに入ることなくなんと香水を振りかけるだけ!!─ベッドへと入れさせられ私の極めて刺激的であった一日は終わりを迎えた。
遅くなりました 続きは少し書いてます