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魔法著作権をめぐる悲劇

昔、千剣王アウグストの時代。

それは今よりも夜が暗かった頃。

昔も昔。おじいさんのおじいさんも生まれていない頃。


その頃は現在のように魔法著作権がなかったため、

魔法使いの生活は大変だった。

ある時魔法使い達は自分たちが生み出した魔法に、

著作権を与えるよう請願した。

王は魔法使い達の支持を得るためにそれを認めた。 

魔法著作権が認められて以来、魔法使いの生活はずっと楽になった。


あるところに著名な魔法使いフェイブナーシェがいた。

彼は新しい魔法をいくつも考案し、時代の寵児となった。


現代の魔法界の隆盛は彼のおかげだと言う者もいる。


そんな彼は老境をむかえ今際の際が近づいていた。

一日の大半を寝て過ごす。

フェイブナーシェの肉親が本人の死亡にともない、

魔法著作権がきれて収入がなくなることを恐れた。


当時の魔法著作権は本人の死亡と同時になくなっていたのだ。


そこで彼の肉親たちは氷結睡眠魔法を使い、

フェイブナーシェの寿命を半永久的にしようとする計画を立てた。


そうすれば半永久的に利益を得られると考えたのだ。


だがそれが実行されればフェイブナーシェの考案した魔法は著作権がきれることはなくなり、

魔法界の発展に繋がらないだろうと言う人がいた。


では本人はどう思っているのかを確かめるべく、魔法使い達は

寝台に横たわるフェイブナーシェに直接聞いた。


フェイブナーシェ言った。

「わしは自分の人生を全うしようと思う。肉親であろうと介入を望まない。

先に逝った妻のもとへ行く」


それを聞いた魔法使い達は彼の肉親達を止めた。


そしてフェイブナーシェは永遠の眠りについた。

人々は彼の死を悼んだ。


この事件により魔法著作権は氷結睡眠魔法を使った場合は無効。

魔法使いの死後22年間は有効であると改正された。

この件が魔法著作権法制定22年後に起きたことに由来する。


世間の人々は「これで今回のような揉め事はなくなるだろう」と言った。


月日は流れた。渓流を流れる木の葉のように。


著名な魔法使いルッドラッハが死亡。

彼もまたいくつもの魔法著作権を持つ魔法使いだった。

皆が彼の死を悼んだ。


22年後、魔法著作権がきれた。


するとルッドラッハの親族が、蘇生アンデッド魔法をもちいて

「本人が生き返ったので魔法著作権も復活させろ」という事件がおきた。


だが無理やり蘇生させられたルッドラッハは、もはやかってのルッドラッハではなかった。

人語を解することも、知り合いを認識することもない。

ただ動いているだけなのだ。


世間の人々は「なんということだ」「痛ましい」「安らかな眠りを妨げるとは」と嘆いた。


魔法使い達は

「今回のようなことを許せば再び同じことが起こり、死者は安らかな眠りを得られなくなる」

という結論を出した。


事件の対処にはかってルッドラッハの友人であったニーセイルがあたった。

「私がいかねば。彼のために」


ニーセイルはローブを身に纏い、杖を握った。

そしてかってルッドラッハだった者の前に現れた。

その目はこちらを見ても何も映していない。

異臭を隠すためか、親族により香が焚き染められている。

生前の在りし日の彼が脳裏に浮かんだが、思いを振り切った。


ニーセイルは体の強張りを感じながら呪文を唱えた。

蘇生アンデッド魔法は解除され、後には動かぬむくろが残された。

ニーセイルの眼には涙が浮かんでいた。


今回の事件は大きな教訓を残した。


人の恐ろしいまでの欲深さ。業の深さ。

利益が絡んだ時の親族の振る舞い。

友情について。

死者の尊厳。


一連の騒動により蘇生アンデッド魔法を使った場合は無効となった。

その後も法整備が進み、魔法著作権は現在の形に落ち着いたのだ。





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