5.恋心は
まさかリアの婚約者の皇太子が、あれほどまでにパウルと似ているとは……。
動転したが、それ以上にリアは最初驚いただろう。
リアの初恋は婚約者とそっくりな、違う相手なのだから。
きっと複雑な思いになったはずである。
◇◇◇◇◇
流れるように月日が過ぎ。
リアは十六歳、イザークは十七歳になった。
今日はメラニーがリアを屋敷に呼んだのだが、妹は腹痛を訴え、自分たち二人だけになってしまった。
それはそれで仕方ないが、呼び出されたリアに悪く思う。
それに。
「最近、リア、様子がおかしくないか?」
イザークは気にかかって、リアに問う。
「そんなことないわ」
「だけどさ」
リアの表情は翳っていた。
とうの昔に、イザークは自分の恋については諦めた。
彼女の婚約が決まったとき、幼馴染として見守ると決めた。
リアが皇太子とうまくいっているのか……わからない。
話をしても、肝心の悩みについてリアは口にしなかった。
「殿下のことで悩んでいるんじゃないのか?」
妹とジークハルトの恋の噂が立っている。
二人の間には何もないけれど、それがリアの憂鬱の原因かもしれない。
「メラニーと殿下のことを気にしているんだったら、前話した通り……」
「いいえ、違うの」
リアはかぶりを振る。
「なら、ひょっとして俺たちの噂を気に病んでいるのか?」
最近知ったが、なんとイザークとリアの噂まである。自分達が恋仲だと。
まったくの出鱈目である。
──本音を言えば今もイザークはリアに恋心を抱いている。
けれど気持ちに踏ん切りをつけた。
今の関係性を守りたい。壊したくない。
それにリアのほうは自分にこれっぽっちも恋などしていない。
「私達に何もないし。堂々としていればいいと思う」
そう。リアの言う通りである。
(変な噂を立てる暇な奴がいるもんだよな……)
自分達を知る人間は、噂なんて信じたりしないだろうが。
リアは息を吸い込んで、唇を開く。
「イザーク、私──」
「え?」
リアは何か言おうとして、力なくかぶりを振った。
「ううん……何でもないわ」
話すことで心配かけてしまうと思っているようだった。
抱えていることがあるなら話してほしい。
しかし無理に聞き出すこともできなかった。
◇◇◇◇◇
それから少しして皇宮でお茶会があった。
「お兄様、大変ですわ! リア様の具合が悪くなって……!」
庭園に知人といたイザークに、メラニーがリアの体調が悪くなったと知らせにきた。
(リアが……)
急いでイザークは妹から聞いた場所に向かった。
扉を開けて部屋に入る。
「イザーク……!?」
「リア」
イザークはリアの傍に駆け寄る。
「メラニーから聞いた。具合が悪いんだって? 大丈夫なのか」
リアは小さく首を横に振った。
「いえ、具合が悪いわけじゃないわ。ドレスにジュースが零れて、着替えることになって……」
よく見ればリアのドレスは着崩れている……。
「あ……」
イザークは赤面して固まった。
入室してはいけなかった。
リアの体調が悪くなく、安堵するが、この状況に動転する。
「取り敢えず、ここから出て、イザーク」
「わかった」
こんなところを誰かに見られれば誤解されるかもしれない。
リアに迷惑がかかる。回れ右しようとすればリアに訊かれた。
「それと、メラニー様が着替えを用意してくれると話していたんだけど、彼女はどこに?」
イザークはリアを見ないように、目を逸らせる。
妹はイザークを呼びに来たあと、どこかへ行ってしまったのだった。
「リアが大変だって俺のところに伝えにきたあと、すぐに立ち去ったから、わからないな」
どこへ行ったのだろう。




