3.わからない
「イザークお兄様!」
そのとき高い声がし、メラニーがこちらに駆けてきた。
「メラニー」
妹はイザークににっこり笑い、リアに尋ねた。
「楽しそうですね。わたしもご一緒してもいいですか、リア様?」
「ええ、もちろんです」
リアが頷き、横の椅子にメラニーは座った。
メラニーはイザークの異母妹である。
突然屋敷に異腹のイザークがやってきて、妹も戸惑っただろうと思えば、気を遣う。
メラニーとリアは同い年なのだが、ふたりの性格は違った。
リアは目立つことを好まないが、妹は注目を浴びるのが好きで、自己アピールが強く、人に取り入るのもうまい。
イザークはリアといるほうが、心休まる。
妹は何を考えているのかイマイチわからない。
まあリアもわからないのだが……。
イザークにとって異性は謎な存在だ。
リアは素直であたたかいので、誰より落ち着けるけれど。
メラニーはまじまじとリアを見、唇を開く。
「オスカー様とカミル様と従兄弟なんですよねえ?」
「はい」
メラニーは呟く。
「いつも思うけど、似ていない。お二人はとっても魅力的なのに……」
イザークは魅力があるのは彼らよりリアのほうだと感じる。
確かにリアの義兄オスカー、義弟カミルは眉目秀麗で、とても人気がある。
けれどあの兄弟は外面が良すぎて、どこか信用できない気がするのだ。
アーレンス公爵家に行くと、表面上は歓迎してくれるのだが、睨まれている気がしてならなかった。
イザークは特にオスカーが苦手だ。
妹がイザークの手を取る。
「リア様って気が強そうな顔立ちだし。性格もそうなのでは? イザークお兄様?」
「え? ああ、リアは強いけど……」
リアは心が強くて、どんなときもへこたれなくて。
努力家で、がんばり屋だ。
そんなリアをイザークは眩しく感じ、可愛いと思っている。
「やっぱり! ね、イザークお兄様、この間ね……」
メラニーは一方的に喋りはじめた。
妹ははっきりいって、わがままだ。
イザークに対してはそれほどではないが、使用人にかなりきつくあたっているのを見たことがある。
妹に注意することはあるけれど、そんな強く言えない。
自分はメラニーと違い、亡くなった正妻の子ではなく、婚外子だ。この家に引き取られ、引け目がある。
馬車までリアを送り、イザークは謝った。
「メラニーが、ごめん、リア」
「気にしていないわ」
リアは肩を竦める。
誤解されているなら解いておこうと、口を開いた。
「さっきの、俺はリアは芯が強いって、可愛いって言おうと思って──」
途中で小声になり、口ごもる。
なんだか……告白しているみたいじゃないか。
(俺、何言ってんだ……)
「え?」
首を傾げるリアに、イザークは誤魔化すように髪をかきあげた。
「いや。っていうか余り話ができなかったし、来週は俺が公爵家に行ってもいいか?」
さっきは妹がずっと話していた。
今日を楽しみにしていたけれど、結局リアの話は余り聞けずに残念だ。
だがそんなこともイザークは伝えられなかった。
(リアの兄弟なら、すらすら言えるんだろうな……)
ある意味、尊敬に値するし、羨ましい。
「うん」
リアが首を縦に振る。
イザークはほっとする。
馬車に乗って帰るリアをイザークは見送った。
それから皇太子とリアの婚約が決まったのは、すぐだった。
手紙が届き、婚約を知り、イザークは呆然とした。
リアと結婚したい、と思っていたから。
クルム侯爵家の跡取りとなったし、アーレンス公爵家の令嬢となったリアを嫁にもらうことは不可能ではない、と考えていた。
手紙を握りしめる。
相手が皇太子ではもうどうしようもない。




