2.新生活
不幸は重なった。
イザークの母と、リアの両親も相次いで他界した。
リアの父親が亡くなった日に、帝都から人がやってきた。
アーレンス公爵家に仕える人間で、リアを迎えにきたのだ。
彼女の父親が亡くなる前に連絡したらしい。
リアはアーレンス家の令嬢の娘だった。
イザークはリアが心配で、彼女に同行し、共に帝都に行くことにした。
リアは伯父であるアーレンス公爵の養女となり、イザークは実父クルム侯爵のもとで暮らすことになった。
自分は侯爵の落とし胤であった。
環境が変わり戸惑った。
でも村に残ってリアを気にかけているより、少しでも近くで彼女の支えになりたかった。
帝都に来たあとは、リアとは手紙でやりとりをしたり、互いの屋敷に行き来したりして、近況を知らせ合っていた。
自分もリアも新しい生活に馴染むことに懸命だった。
◇◇◇◇◇
王都に出てきて一年。
リアは九歳、イザークは十歳になっていた。
「リア」
侯爵家に訪れたリアを庭園で迎え、イザークが声を掛ければ、彼女は瞬いた。
「イザーク、また身長伸びた?」
呆気に取られた顔をするリアに笑う。
「少しな」
村にいたときより、リアも背が高くなった。
それに令嬢らしくお淑やかになった。今も目が離せないと思うくらいおてんばな面があるが、彼女は日々努力した。
あたらしい家族に迷惑を掛けないよう。
リアと庭を歩き、備え付けの椅子に座る。
「公爵家での生活、慣れた?」
「うん。最初の頃と比べると。イザークは?」
「俺も。リアの両親から学んでいたことが、とても役立ってる」
村ではリアの両親から色々なことを教わっていて、それが今、本当に役に立っていた。
幸せだった頃を思いながらリアに言った。
「帝都から大分離れているし、今は無理だけどさ。大人になったらまた村に行ってみよう」
大事な人が眠っている、思い出深い場所。
本当は今すぐにでも彼女と一緒に行きたかった。まだ子供だし不可能だけれど。
「ええ」
リアは頬を綻ばせ、頷く。
イザークはリアの笑顔を見るのが好きだ。
今、幼馴染を独占できる。
彼女と相思相愛だったパウルは亡くなった。
しかし傷心なリアに付け入るようなことはできなかったし、イザーク自身、パウルが亡くなりショックを受けていた。
「そうだ、私、今度皇宮に行くことになったの」
リアが突如言い、イザークは息をのむ。
「え、皇宮に?」
「そうなの」
何しに行くのだろう。
「皇帝陛下にお目にかかるって、今朝お父様に言われて」
「えっと……」
(皇帝陛下と会う……?)
確かリアの母親と現皇帝には、因縁があったはず。
リアからそう聞いている。
「皇帝陛下とリアのお母さんって、以前、婚約してたんじゃなかったっけ……?」
「そう……」
彼女の両親は、駆け落ちしたのだ。当時の皇太子──現皇帝から逃げた。
「ま、リアが生まれるよりも前のことなんだし……。陛下もそういった出来事をもう覚えていないだろう」
随分昔の話である。
緊張しているリアの心を解そうと、言葉を発す。
「気にすることはないさ。君は肝が据わっているし、今はもうレディだ」
淑女の嗜みを学び、どこに出しても恥ずかしくない令嬢である。
──が、相手が相手。
「けど初拝謁……社交界デビューにはまだ早いよな」
リアは指先を所在なく動かす。
「今度のは非公式なものみたい。礼儀作法の先生には、社交界に出たとき、困らないようにって、それは厳しく注意されていて。よく叱られるわ。陛下の前で失礼なことしてしまったらどうしよう」
「俺も、教師によく叱られるけどさ。君なら大丈夫だ」
(相手が皇帝陛下じゃなかったら、俺もこんなに気にならないけど)
国家の頂点。更に、リアの母親の元婚約者である。
それでリアも心配しているのだろう。




