6.ジークハルトの嫉妬(前編)
「オレ以外の誰にも……決して触れさせるな」
(え……)
「ジークハルト様……」
リアはジークハルトに抱きしめられるように手を取られて、身じろぎできずに固まった。
◇◇◇◇◇
──事の起こりは、先日だった。
ジークハルトと書庫に行き、彼に机の上で押し倒された。
キスもなにもなかったが──ジークハルトのぬくもりや、吐息をすぐ傍に感じ。
目が回り、混乱して。
今日はそれからはじめて彼と会った。
皇宮の庭園をジークハルトと一緒に歩くも、彼のほうを見られない。リアは気まずく、手入れの行き届いた庭園ばかりに目に向けていた。
でもなんとなくさっきから視線を横で感じている。
(…………)
「何を考えている?」
訊かれ、リアは隣に顔を向けてしまった。
視線が交差する。いつもよりジークハルトの眼差しを熱く感じて、リアは肌が紅潮した。
「……いえ。何も」
「そうか」
今日最初に交わした会話だ。
彼から視線を外そうとするも、絡め取られるように、目を逸らせなくなる。
あの日──皇宮から戻り、動揺していたリアは屋敷一階奥の部屋で、母の肖像画と向き合った。
母の絵に心の中で語りかければ、気持ちが和らぐから。するとそこにオスカーがやってきて、心配された。
ジークハルトとのこと、前世のことは兄にも誰にも話せなかった。
「今日はなんだか様子がおかしいな」
「そんなことは……」
書庫での出来事から日が浅く、こうして彼と会う気持ちの整理ができていない。
あれは前世ではなかったことだった。
(今のこの状況もそう)
庭園迷路の前で見つめ合うことになり、リアはジークハルトが少し痩せたことにはっと気付く。
「ジークハルト様……お疲れなのではありませんか?」
気になって思わず尋ねれば、彼は肩を竦めた。
「このところ、執務にかかりきりだった」
なら、自分とこんなふうに会って時間を無駄にするより、休んだほうがいいだろう。
「私、もう帰りますわ。どうぞゆっくり休息をおとりくださいませ」
彼と今、どんな顔をして過ごせばいいかわからないので、リアは逃げるように彼の前から去ろうとした。
すると手首を掴まれ、引き留められた。
「さっき来たばかりだろう?」
彼の体温が伝わってきて、鼓動が速まる。
ジークハルトはリアを彼のほうに向き直らせた。
「君に、オレは一緒に過ごしてもらいたい」
「……私と会っていて疲れませんか?」
「この時間が、休息になり安らぐんだ」
「……わかりました」
自分といてジークハルトの気分転換になるなら。少しでも彼の役に立てるのならとリアは頷いた。
ジークハルトに連れられ、庭園迷路の中へと入る。
彼は手をリアの手首から掌へと移動させた。
リアはどきどきしてしまいつつ、口を開いた。
「執務、お忙しいのですね……」
「いや」
彼は反対側を向き、自嘲するように小さく言葉を発した。
「自らそういった状況に身をおいている……時間があると君のことばかり考えてしまうから」
「?」
何と言ったか聞こえず、リアが目を瞬けば、彼はこちらを振り向いた。
「心配いらない」
そう言って彼は微笑んだ。美しい彼の笑みにリアは心臓が跳ねた。
「今日、君の様子がおかしい原因は、ひょっとしてこの間のことでか?」
そのとおりである。先日のことが原因である。
でもなんだか言葉にできずに、リアが答えられずにいれば、彼は皮肉げに唇に弧を描く。
「気にすることはない。オレの体調を快復させるよう、あの内容をしろなどと言いはしない」
──『風』術者であるリアが、『星』術者ジークハルトの心臓の上に手を置き、唇を合わせれば彼の体力が快復する。
本にも書かれていたし、事実のようだが。
リアはそれを知った日から動揺している。




