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闇黒の悪役令嬢は溺愛される  作者: 葵川 真衣
オスカーの秘密

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90/100

6.ジークハルトの嫉妬(前編)


「オレ以外の誰にも……決して触れさせるな」


(え……) 


「ジークハルト様……」

 

 リアはジークハルトに抱きしめられるように手を取られて、身じろぎできずに固まった。


 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──事の起こりは、先日だった。

 ジークハルトと書庫に行き、彼に机の上で押し倒された。

 キスもなにもなかったが──ジークハルトのぬくもりや、吐息をすぐ傍に感じ。

 目が回り、混乱して。

 

 今日はそれからはじめて彼と会った。

 皇宮の庭園をジークハルトと一緒に歩くも、彼のほうを見られない。リアは気まずく、手入れの行き届いた庭園ばかりに目に向けていた。

 でもなんとなくさっきから視線を横で感じている。


(…………)


「何を考えている?」


 訊かれ、リアは隣に顔を向けてしまった。

 視線が交差する。いつもよりジークハルトの眼差しを熱く感じて、リアは肌が紅潮した。


「……いえ。何も」

「そうか」


 今日最初に交わした会話だ。

 彼から視線を外そうとするも、絡め取られるように、目を逸らせなくなる。

 

 あの日──皇宮から戻り、動揺していたリアは屋敷一階奥の部屋で、母の肖像画と向き合った。

 母の絵に心の中で語りかければ、気持ちが和らぐから。するとそこにオスカーがやってきて、心配された。

 ジークハルトとのこと、前世のことは兄にも誰にも話せなかった。


「今日はなんだか様子がおかしいな」

「そんなことは……」

 

 書庫での出来事から日が浅く、こうして彼と会う気持ちの整理ができていない。

 あれは前世ではなかったことだった。


(今のこの状況もそう)

 

 庭園迷路の前で見つめ合うことになり、リアはジークハルトが少し痩せたことにはっと気付く。


「ジークハルト様……お疲れなのではありませんか?」


 気になって思わず尋ねれば、彼は肩を竦めた。


「このところ、執務にかかりきりだった」


 なら、自分とこんなふうに会って時間を無駄にするより、休んだほうがいいだろう。


「私、もう帰りますわ。どうぞゆっくり休息をおとりくださいませ」


 彼と今、どんな顔をして過ごせばいいかわからないので、リアは逃げるように彼の前から去ろうとした。

 すると手首を掴まれ、引き留められた。


「さっき来たばかりだろう?」


 彼の体温が伝わってきて、鼓動が速まる。

 ジークハルトはリアを彼のほうに向き直らせた。


「君に、オレは一緒に過ごしてもらいたい」

「……私と会っていて疲れませんか?」

「この時間が、休息になり安らぐんだ」

「……わかりました」

 

 自分といてジークハルトの気分転換になるなら。少しでも彼の役に立てるのならとリアは頷いた。

 

 ジークハルトに連れられ、庭園迷路の中へと入る。

 彼は手をリアの手首から掌へと移動させた。

 リアはどきどきしてしまいつつ、口を開いた。


「執務、お忙しいのですね……」

「いや」


 彼は反対側を向き、自嘲するように小さく言葉を発した。


「自らそういった状況に身をおいている……時間があると君のことばかり考えてしまうから」

「?」


 何と言ったか聞こえず、リアが目を瞬けば、彼はこちらを振り向いた。


「心配いらない」


 そう言って彼は微笑んだ。美しい彼の笑みにリアは心臓が跳ねた。


「今日、君の様子がおかしい原因は、ひょっとしてこの間のことでか?」

 

 そのとおりである。先日のことが原因である。

 でもなんだか言葉にできずに、リアが答えられずにいれば、彼は皮肉げに唇に弧を描く。


「気にすることはない。オレの体調を快復させるよう、あの内容をしろなどと言いはしない」


 ──『風』術者であるリアが、『星』術者ジークハルトの心臓の上に手を置き、唇を合わせれば彼の体力が快復する。

 本にも書かれていたし、事実のようだが。

 リアはそれを知った日から動揺している。

 

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