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闇黒の悪役令嬢は溺愛される  作者: 葵川 真衣
オスカーの秘密

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89/100

5.大切な宝物だから

 

「可愛いたった一人の妹のおまえには、誰よりも幸せになってもらいたいのに」

「心配なさらないで、お兄様」


 微笑むリアの頬に掌で触れた。


「私とおまえが結婚できたらいいのにな」


 皇太子がリアを選ばなければ何の問題もなかったのに。

 大切な妹が、他の男とずっと婚約していることが、オスカーは我慢ならなかった。

 一体妹はいつ解放されるのだ。


「従兄弟だから、しようと思えばできるんだよ。殿下との婚約がなくなればね。リア、おまえに幸せになってもらいたい」


 たとえリアが多少傷つくことになろうとも。

 この結婚はなんとしてでも阻止しなければならなかった。

 もう悠長にしていられない。


「私も、お兄様に幸せになってもらいたいと思っておりますわ。お兄様は、どういったかたがお好みですの」


 無邪気なリアに、オスカーは正直に言った。


「おまえだよ」

「え?」

「私の好みはリアだ」

 

 最初会ったときから惹かれている。

 妹の額に唇を寄せれば、リアは驚いたようにオスカーを見つめた。

 髪に指を通しながら、もう一度好きだと告げれば、妹は感嘆したように呟いた。 


「お兄様、流石ですわ……!」

「……何がだい?」


(……流石とは?)


 呆気にとられるオスカーに、リアは自身の手を握り、溜息交じりに言葉を発す。


「その調子で、世のご令嬢をメロメロになさるのね……女性が失神してしまうのもわからなくはありませんわ! けれど、いつか刺されるのではないかと私、心配でもありますわ。どうぞお気を付けください」

 

 真面目に忠告され、オスカーは気落ちした。

 全く気持ちが伝わっていない……。

 これまでもずっとそうだった。

 今は兄妹で、仕方ないのかもしれないが。

 とりあえず、大きな間違いは正しておかなくてはならない。


「私は、皆にこんなことを言っているのではないんだよ、リア? おまえは何か、誤解をしているよ?」


 好意を、リア以外の異性にみせたことも、告げたこともない。

 ただ相手の女性が勘違いすることがあるだけだ。


「そんなことはありませんわ! 私、お兄様のこと、よく存じています。八歳のときから、兄妹なんですもの!」


 リアはいやにきっぱり言うが。

 本気でオスカーがリアに恋をしていることも、知らない。

 愛らしいが、少々鈍い。

 オスカーは焦れて、リアの柔らかな手を取った。


「だがもっとリアに私のことを知ってもらいたいんだよ」


 オスカーの仄暗い欲望。

 これは知られれば、きっとリアに怖がられる。


(本性は隠さないといけない……結婚後もずっと)

 

 己でも、自身をおぞましく思うときがあるほどだ。


「それに、おまえのことを私はもっと知りたい」

 

 オスカーはじっとリアを見つめる。


「兄妹の絆は強いでしょう?」


 兄妹の絆だけでは、この渇望は満たされない。

 伴侶になりたいのだ。

 だがリアを手に入れるまで、恐れられないよう、気を許してもらえるよう、今は兄に徹するしかなかった。


(…………仕方ない)


「では今日何があったか、話してはくれないかい?」

「本当に何もないのですわ。もし心配なことがあれば、最初にお兄様に相談します」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 数日後、オスカーは薔薇園のベンチで眠っているリアを見掛けた。

 妹は小さな寝息を立てて熟睡している。

 相談してくれそうな気配は今のところなかった。

 隣に座り、妹のプラチナブロンドを指で掬い取る。


「リア。おまえは私の大切な宝物だよ。たとえ閉じ込めてでも、私はおまえを傍におく」


 眠っている妹に宣言し、髪に口付ける。

 肖像画の置かれた部屋には、地下へと繋がる階段がある。

 万一、リアを花嫁にすることができないのであれば。


 そのときは地下に閉じ込めればいい。

 

 本気でそう考えることがある。


(本当の本当に最後の手段ではあるが……)


 見つめていると、リアは睫を揺らせて、目を開けた。


「……お兄様?」

「こんなところで眠ると風邪をひくよ、リア」

「はい」


 頷き、目を擦るリアの頬に指を滑らせる。

 無防備な妹に、オスカーは苦笑する。

 誰にも見られない場所に、隠してしまいたい。

 自分だけのものにしたい。

 リアはオスカーの秘密を知らず、優しい兄と思ってくれている。

 

 オスカーは虎視眈々と、皇太子との結婚を壊そうとしていても、リアに無茶をすることができず、狂気に走れない。

 可愛い妹が信じてくれているから。すんでのところで正気を保てているのかもしれない。

  








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