4.画策
オスカーは妹の婚約の解消を謀り、画策することにした。
絶対に壊してみせる。
何者であろうと、リアを渡しはしない。
策のうちのひとつ。それはカミルの協力が必要だった。
「姉上が皇太子と婚約なんて。ぼく、ショックだよ……」
自室に呼んだ弟は、自分同様荒れており、悄然としている。
「結婚なんてさせるか」
「え?」
「リアの結婚する相手は私だ。やすやすと他の男などにリアを渡すものか」
オスカーは吐き捨て、忌々しく目を細める。
「父上にはすでに話をつけていた。父上もリアと私の結婚を望んでいた。カミル、結婚し皇宮に入ってしまうより、おまえもリアにずっとこの屋敷で暮らしてほしいだろう?」
「それはそうだけど……」
「皇太子の目を他の女に向けさせて、婚約を壊す」
「他の? 姉上以上の令嬢なんて、どこにいるの。いないじゃない」
確かにリア以上の令嬢はいない。
美しさも、アーレンス家の血を引く、高貴な血筋も、性格の良さも。
すべてにおいて、欲目ではなくリアが一番である。
だが現皇帝と、叔母には因縁があった。
叔母は皇帝から逃げたのだ。
だから皇帝の息子である皇太子が、リアと婚約するなど思いもしなかった。
「皇太子を嵌めるんだ」
「嵌める?」
オスカーはうっすら笑う。
「ああ。これから私が言う通りにしろ、カミル。リアがどこにも行かないようにするため」
カミルは身を乗り出す。
「一体何をすればいいの?」
「まずメラニー・クルムに接触しろ」
あの令嬢はしたたかだ。
カミルに気があるから、弟を使いメラニーを皇太子に近づけさせる。
誘導し、リアから奪わせるのだ。
あの令嬢の上昇志向と、性根がすわっているところにオスカーは目を付けた。
説明すれば、弟は溜息をついた。
「無理じゃない? 彼女には魅力がないもの」
「難しいだろうが、打てる手はすべて打つ」
正直この手段については、期待薄だ。
幾つかの策のひとつ。
そのどれかが実を結べばよいのである。
◇◇◇◇◇
──月日は流れ、十五歳となったリアは、オスカーの理想通りに素晴らしい少女に成長していた。
未だ婚約は流れていない。
皇太子が婚約を解消する様子はなく、観察しているが他の女に目移りもしていない。
オスカーは焦燥感を覚えていた。
今日皇宮に行っていたリアは、帰ってきてすぐに肖像画の置かれた部屋に向かった。
リアを追い、オスカーは室内へ入った。
「どうした、リア?」
「お兄様」
妹は悩み事があれば、この部屋にくる。
実母が描かれた絵に向き合うと、落ち着くのだろう。
(皇宮で、皇太子と何かあったのか)
妹の表情からも憂慮することがあるのだと感じた。
心配になり、リアを窓際の革椅子に促がした。
「座って、少し話をしよう。今日は皇宮に行っていたんだね」
並んで座り、オスカーはリアに優しく問いかける。
「そうですわ」
「殿下と何かあったのかい?」
「いいえ、特に何も」
リアは否定するがオスカーは察するものがあった。
探りを入れながら、皇太子の印象を下げることを試みる。
弟にも印象操作をするよう言ってある。
「実は……殿下の話を少し耳にしてね……。クルム侯爵令嬢と、睦まじそうに過ごしていたと」
皇太子とあの娘には実際は何もない。
愛妾になる野望をもつ彼女が、付きまとい空ぶっているだけだ。
皇太子は何の興味も示していなかった。
まあ少しでも見る目があれば、惹かれはしないだろう。
最上であるリア以外を選ぶはずがなかった。
皇太子はどんな誘惑にも罠にもおちない。
が、とにかくリアに、皇太子が違う女と親しくしているのだと認識させ、幻滅させることが重要だ。
実情はどうでもいい。
「そうですの」
リアは表情を曇らせた。
オスカーは心をこめて言った。
「私は心配だ。殿下と結婚して、おまえが幸せになれるのかどうか」
幸せになれやしない。
自分以外の男と結婚などしても。
オスカーは本気でそう思っている。




