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闇黒の悪役令嬢は溺愛される  作者: 葵川 真衣
第一部

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84/100

番外編 繋いだ手(後編)


「これくらいなんともないわ」


 リアが立ち上がろうとすると、パウルはそれを制した。


「駄目だよ、リア。僕の背に乗って。家まで送るから」

「え?」


 ただ膝を擦りむいただけだ。


「私、歩けるわ、パウル」

「いけないよ。ほら」


 リアは戸惑ったけれど、パウルに促がされ、その肩に手をのせた。

 彼はリアを背中に担ぎ、歩き出す。

 リアは彼に後ろからしがみつく形で、頬に熱が上がった。


「ごめんなさい……パウル」

「僕こそ、ごめんね。一緒にいて、君に怪我をさせてしまった……」


 別にパウルが悪い訳ではないのに、彼は謝る。


(心配をかけちゃった……)


 リアは彼に申し訳なく思った。

 パウルは心配性だ。それに過保護である。

 彼のぬくもりは、あたたかくて。とても安心感を覚える。

 父に感じるものと似ているけれど、全く違う感情を抱く。

 パウルといると、リアはとてもどきどきする。

 

 そのときはじめて、リアはパウルに恋をしていると自覚したのだ。


(……私……パウルのことが、一番好き)



 

◇◇◇◇◇




「どうした、リア?」


 隣のジークハルトが、リアの顔を覗き込む。

 リアは口元が綻んだ。


「昔のことを思い出して」

 

 リアは今、ジークハルトと二人で旅行をしている。

 ヴァンと会うために帝都を出、故郷の村を先に訪れた。


「あなたに背負われ、家まで送ってもらったときのこと」


 ジークハルトは懐かしそうに、ふっと眼差しを和らげる。


「そういえば、あったな。そんなこと。海を見た帰り、二人で駆けて、君が怪我をして。オレは慌てたよ」 

 

 リアは微笑んだ。


「ええ」 

 

 その日、初恋にリアは気づいた。


(本当に懐かしい)


 一緒によく遊んだ草原で、あの日のようにジークハルトと、空を眺めている。

 精霊王の件で来たときは、ジークハルトの記憶はまだ戻っていなかった。

 それに加えて、緊急事態でもあった。

 

 それで今回、再度立ち寄り、ゆっくり過ごすことにしたのだ。

 初恋相手の婚約者と共にいられることを、リアは心の底から幸せに思う。 

 こんな今を、少し前までは考えられなかった……。

 夢でもみているのではないかと、感じるほどだ。


(そうだ) 

 

 リアは立ち上がり、彼にかけっこをしようと言った。


「かけっこを?」


 ジークハルトは面食らったように、目を瞬く。

 リアは、ええ、と頷いた。


「昔のように。手は抜かず、どうか真剣勝負で!」


 彼は唇に笑みを漂わせる。


「わかった。いいよ」


 それで二人は丘の木に向かって駆けだした。




※※※※※




「……昔も勝てなかったけれど、今もやっぱり勝てなかった」

 

 リアは残念そうに溜息を吐き出す。

 そんな彼女にジークハルトは苦笑した。


「かけっこでは、ね」


 リアの頬にかかる髪を指で払い、頭を撫でる。

 手加減すると怒られそうなので、手を抜かず走ったが、リアは驚くくらい足が早かった。


「オレもイザークも一生敵わないよ、リアには」

「どうして?」


 大好きな相手には、絶対敵わないからだ。

 リアが想う以上に、昔から彼女を想っている。

 

 

 ジークハルトはリアに作り方を教えてもらって、花の冠を作った。

 それをリアの頭に載せると、彼女はこぼれんばかりの笑顔をみせた。

 可憐なリアは、まるで花の精である。

 ジークハルトはリアを眩しい思いで見つめた。

 


 草原で彼女と横になって話をしていたが、いつの間にか、幼い頃のように二人とも眠りにおちていた。

 目を覚ましたとき、隣にリアがいて、ジークハルトは安堵する。

 彼女と手を繋いだまま眠っていた。


「リア……」


 切なく、彼女を眺める。

 彼女は子供のころ、父親のような相手と結婚したいと言っていたが、自分は──。


(どう考えても真逆だ……)


 ジークハルトとして出会った当初から。

 威圧感のある気性の荒い、冷たい人間にはならない、とパウルであったとき決意したのに。

 記憶を植え付けられたなど、言い訳にしかならない。

 リアを傷つけてしまって、悔恨の念に堪えない。


 こうして共にいられる幸運に、ジークハルトは感謝した。

 

 昔、リアに求婚したときのように、彼女の手にそっと口づける。

 この手を、離しはしない。

 今まで、辛い思いをさせた分、誰よりも幸せにする。


「愛している」

 

 ジークハルトは彼女と手を繋いだまま、再度眠りにつく。

 次に瞳を開けたときも、リアがいるように。

 幸せなこの時間が、夢ではないようにと願いながら──。


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