番外編 繋いだ手(前編)
「リア」
パウルに名を呼ばれ、リアは彼に視線を向けた。
「パウル、何?」
そよ風の流れる草原で、リアはパウルと一緒に空を眺めていた。
ぽかぽか陽気で気持ち良く、少し眠っていた。
イザークは風邪を引いている。イザークのお見舞いに先程二人で行ったあと、ここで過ごしていた。
「君とイザークは、僕と出会う前から親しいね」
「え? うん」
パウルとは二年前に知り合った。イザークは、それより前から友達だ。
パウルは吐息を零す。
「僕はそれが少し……」
「?」
彼は、引き結んだ唇をふっとほどく。
「僕より長い時間、イザークと君は過ごしてきた」
彼の瞳は哀しげだ。リアは元気づけるように微笑んだ。
「これから皆で、たくさん過ごしましょう、時間はあるもの!」
パウルは空を見据え、顎を引く。
「……そうだね」
しかしどこか納得いってないようだ。複雑な横顔である。
それを気にかけていると、すっと彼は立ち上がった。
「リア、海のほうに、行ってみようよ」
「ええ」
リアは差し出されたパウルの手を握る。
「行こう」
パウルと手を繋げば、リアは頬がかすかに桃色に染まる。
最近、彼といると、とくとくと鼓動が早まるのだ。
それはイザークや、他のひとといるときは感じないものだった。
海を一望できる岬まで二人で歩いた。
目の覚めるような、海と空の青色がどこまでも広がっている。
パウルは目を細める。
「ここの景色は美しいね。この村で僕はずっと暮らしたい」
リアもこの村で暮らしたいし、他の場所で生きることなんて考えられなかった。
これからも、ここにいるのが当たり前だと思っている。
ゆっくり彼はこちらを振り向く。
「そして、リア、僕は君と一緒にいたい」
海や空よりも綺麗な瞳で見つめられ、リアは彼を見つめ返した。
「私もパウルといたい」
「イザークより?」
小さな声で問い掛けられ、リアは首を傾げる。
「?」
「──ううん、何でもないよ」
パウルは俯いて、リアにもうひとつ尋ねた。
「……リアは将来、どういうひとと結婚したいと思う?」
リアはぱちぱちと睫を動かした。
「この間、イザークにも、同じことを聞かれた」
「……そう」
顔を上げたパウルの頬は強張っていた。
「それでどう君は答えたの」
「父様みたいなひとと結婚したいって」
リアにとって父は完璧だ。父のようなひとと結婚をしたいと思う。
「……長身だよね」
確かに父は背が高い。
パウルは吐息をつく。
「イザークは、身長伸びそうだけど、僕は将来、背が伸びるかな……」
真剣な顔で、彼は口の中で、呟いている。
聞こえずにリアがぽかんとすると、彼はリアに確認した。
「リアは、身長が高くて、顔が整っているひとと結婚したいってことだね」
「ええと、外見というより……」
父の外見も確かに好きだけど。
「父様みたいに、優しくて、穏やかなひとと結婚をしたいの」
父と母のように愛し合って、幸せな家庭を築きたいのだ。パウルは顎に手を置く。
「なるほど」
彼は宣言するようにリアに告げた。
「リア。僕は絶対に、威圧感のある気性の荒い、冷たい人間になったりはしない」
「うん。パウルはそんな怖いひとに、なったりしないわ」
きっと、成長したら素敵なひとになるだろうと、リアはそう思った。
帰り道を、風を感じながら彼と駆ける。
爽やかでとても心地よい。
すると途中で石に躓き、リアは転んでしまった。
「きゃ……っ」
パウルが慌てて、リアの横にきて屈みこんだ。
「大丈夫、リア……!?」
「全然、平気よ」
余りに心配そうにするパウルにリアはそう返事をした。
擦りむき、赤く滲むリアの膝を見、パウルは眉をきゅっと寄せる。
「怪我をしているじゃないか……」




