72.運命だと諦めたくはない
「君はこれが二度目の人生で……前世誰とも結ばれなかった……?」
「そうですわ」
ジークハルトは瞠目する。
「そういった生もあるのか……」
ジークハルトが転生しているということは、驚いたものの信じられる。
だが、彼が挙げた人物とリアが恋におちたというのは、にわかには納得できない。
しかし彼が嘘をついているとも思われないので、その生においては、そうだったということだろう。
「ジークハルト様が送った前世の人生の、どれらとも違いますわ。だって、今も私達は婚約をしています。ジークハルト様がおっしゃったのは、婚約破棄後、起きたことなのでしょう?」
ジークハルトは首肯する。
「その通りだ」
「何度もお話ししておりますが、他のひとに恋なんてしていません。地下牢では、感情的にあんなことを申しましたが、候補者から選んだりしません」
「……わかった」
ジークハルトはリアの頬に手を置いた。
「なぜ今、オレにキスを?」
視線が絡まる。
リアは自分の行動に、頬が熱くなった。
「……ジークハルト様に落ち着いていただきたかったのです……。それに、私達が結ばれない運命とおっしゃったその唇を塞いでしまいたくなったのです。運命だと私は諦めたくはありません。ジークハルト様にも諦めていただきたくはないのです」
リアは頬に置かれたジークハルトの手の上に、手を重ねた。
「もしそういった運命ならば、抗います。私は運命を変えたいのです」
今、言葉にして、リアは自身の心が固まった。
運命だからと今までは受け入れることを考えてきた。自分は強い人間ではない。
けれど、彼の気持ちを知り、自分の気持ちに気付いて、流されているだけではいけないと感じた。
本当に大切なものを失わないように、自ら行動しなければ。
ヴェルナーは言っていた。
ジークハルトから離れたほうがいいと。ジークハルトは危険だと。
たとえ、そうだとしても。リアはジークハルトから離れたくない。
ヴェルナーにひどい仕打ちをしたことは許せないが、孤独と絶望をその身に抱え込んでいるジークハルトを放ってなどおけない……。
同情ではない。彼の傍にいたい。
(私は……このひとを、誰よりも幸せにしたい)
◇◇◇◇◇
翌日、リアはジークハルトと共に、ヴェルナーの病室を訪れた。
彼はちゃんと手当てを受けており、意識もあって、リアはほっとした。
「ヴェルナー」
「リア」
寝台から下りようとしたヴェルナーをリアは止める。
「そのまま寝台にいて。大丈夫? 具合はどう?」
「何ともないさ。心配することはない。大袈裟だな」
そう言って肩を竦める。
「ヴェルナー・ヘーネス。君に謝罪する。すまなかった」
ジークハルトはヴェルナーに謝った。
ヴェルナーは驚いたように目を見開いて、ジークハルトをみていた。
──数日後、ヴェルナーの怪我の快復を待って、再度二人で、病室を訪れた。
医師から快復が早く、もう長時間話せる状態だと聞いた。
念のため彼自身に確認をする。
「込み入った話があるんだけど。今、いいかしら、ヴェルナー」
彼が頷くのを見、リアは口を切った。
「私、今迄あなたにも言っていなかったけれど──」
リアは自分が転生していることを、彼に打ち明ける。
「転生……?」
「ええ。私は二度目の人生を送っていて……ジークハルト様は五度……」
リアは自分たちの事情をかいつまんでヴェルナーに説明する。
彼は呆然と聞いていた。
「……なるほどな……。それで二人のオーラは、普通の術者とは変わってみえんのか……」
彼なりに、納得していた。
「ヴェルナー、あなたが私にしてくれた話を、もっと詳しく教えてくれない? ジークハルト様自身も知っていたほうがいいと思うの。もしかすると、私達が転生している理由と関係しているんじゃないかと感じて」




