65.事の発端は
ようやくわかった。
リアがジークハルトを見る眼差しに恋情が滲んでいた理由が。
(オレが、彼女の初恋相手に似ていたからだったのだ)
その男が今も生きていれば、きっと耐えられなかった。
亡くなっていると知り、心底ほっとした。
彼女の心が幾らその男で占められていようが、奪われることはないのだ。
どうしても自分との結婚を受け入れられないのであれば、せめて彼女を幸せにできる者をと、ジークハルトは帝国中から、相応しい者を選りすぐった。
だが、彼女は選ばないとはっきり言った。
不安が解け、張り詰めていた気が緩む。
──あの舞踏会の日。
ジークハルトはバルコニーで魔物に触れ、脳内を揺さぶられるような感覚と、吐き気を催し、自室へと戻った。
そこで倒れ、一瞬気を失った。
そのあと今までの全ての生を思い出した。
──ジークハルトにとって、今は五度目の生だ。
これまで四度、ジークハルト・ギールッツとして人生を歩んできた。
記憶を得たのは、五度目の今回が初めてだ。
一度目の生では、婚約破棄後、リアは兄オスカーに監禁される。
イザークとのことが誤解だったと知り、ジークハルトが行方不明となった彼女を見つけ出したときには、リアは廃人となっていた。
妹を溺愛するオスカーは、心のバランスを崩し、リアを地下に閉じ込めるのである。
ジークハルトが地下に足を踏み入れたとき、観念したオスカーによってリアは殺された。
彼に刺されジークハルトも死亡する。
二度目の生──オスカーに監禁されたリアを助けるため、弟のカミルが兄を殺害する。
カミルはリアを連れて逃げるが、嵐に遭い、彼らは亡くなる。ジークハルトはリアを追い、災害に巻き込まれ、絶命する。
三度目の生──婚約破棄後、落ち込んでいるリアを近衛兵ローレンツが支える。
ローレンツは以前から、リアに好意をいだいていた。
二人は恋仲となるが、オスカーは、ローレンツがリアを騙したと考えた。
ローレンツはオスカーによって暗殺される。
現場を目撃したリアは絶望し、自ら命を絶った。
それをジークハルトは止めようとしたが、寸前、オスカーに刺殺される。
四度目の生──婚約破棄後、リアは幼馴染のイザークと恋におちた。
帝都を出、二人は旅行中に暴漢に遭う。
ジークハルトはリアを諦められず、二人のあとを追ったが、暴漢に二人とともに殺害される。
──四度とも、リアもジークハルトも早世した。事の発端は婚約破棄である。
ジークハルトは、今までの生の記憶が走馬灯のように蘇れば、愕然とした。
なんなのだ、これは。夢か。
(いや……これは前世だ……)
信じられなかったが、すぐに今までの四度の人生が、心身に溶け込んだ。
自分は転生をしており、これが五度目の人生──。
転生を繰り返している理由はわからないが……。
リアも自分もこのままではきっと亡くなる。
(──絶対に婚約破棄をしてはならない)
イザークとのことは、今もわだかまりがある。
が、そんなことを言ってはいられない。
四度とも、誤解であった。
今まで同様、今回も、メラニーによって仕組まれた可能性が高い。
婚約破棄後、リアがイザークと恋仲になることは、今まで一度だけあった。
だが婚約破棄前にはどの人生も、彼とのことは誤解だったのだ。
五度目の今回だけ、舞踏会までの出来事など、流れが違うように思う。
だからはっきりとしたところはわからないが……。
リアが自分を裏切るとはやはり思えない。
一旦、イザークとのことは置いておく。
どの生でも、ジークハルトはリアと別れ、悔恨の念に駆られた。リアを忘れられず、メラニーとも誰とも結婚しなかった。
愛していたのに、嫉妬し、リアに婚約破棄を言い渡してしまった。
それにより他の男に奪われ、彼女を実際に失う。
(決して婚約破棄をしない)
ジークハルトは、そう決意した。
確実にここが分岐点である。
今、判断を誤れば、運命は加速度を増し、悲劇へとむかう──。
防ぐには、このときしかなかった。
ジークハルトは舞踏会が行われている大広間に戻り、リアの姿を探し、彼女の手を取った。




