59.交わした約束1
「悪いひとではありませんわ」
余りにジークハルトが驚き、不審そうにするので、そう言い添えた。
リアはジークハルトと宮殿内にある応接の間へと向かった。
上品な装飾の施された室内で、ジークハルトと並んで、透かし彫りの椅子に座る。
「ジークハルト様。できれば話は、ヴェルナーと二人だけで──」
すると軽く睨まれた。
「駄目だ」
(仕方ない……ぼやかして、ヴェルナーに話すしかない)
リア達が部屋に入ってしばらくして、ヴェルナーが衛兵に案内されてやってきた。
彼は変わりないようだ。
「ヴェルナー、久しぶり。来てくれてありがとう」
「いや。元気そうでよかった」
和やかに会話するリアとヴェルナーの間に入り、ジークハルトが短く命じた。
「話をする前に、その眼帯を外せ」
ヴェルナーはジークハルトに視線を向け、瞠目した。
「──はい」
彼は眼帯を外す。彼の瞳は左右で色が違う。右がグリーンで、左がブルーだ。
美しいが、ヴェルナーは自身の瞳を気に入っていない。
「オッドアイか……。魔術探偵のなかでも、優秀な者はオッドアイだと聞いたことがある。あの組織は謎に包まれているから、詳しくは知らないが」
「……お初にお目にかかります、殿下。ヴェルナー・ヘーネスと申します」
ジークハルトは冷酷な眼差しでヴェルナーに詰問する。
「君は一体、オレの婚約者とどういった関係だ?」
するとヴェルナーはちらっとリアを見、ジークハルトに視線を戻した。
「彼女とは友人づきあいを。幼い時に、彼女が街で迷っていたのを屋敷までお送りしました。そのときからの付き合いです」
「男女の関係ではないのだな」
リアは真っ赤になって、隣のジークハルトを仰いだ。
「違いますわ!」
「オレはこの男に訊いている」
「今申し上げましたとおり、友人です。過去、現在、未来、彼女と男女の仲になるなどありえません」
ヴェルナーは日頃は口が悪いのだが、上品に丁寧に振る舞おうと思えば、できるのだ。
彼の賭博場にやってくるのは、王侯貴族である。
仕事上必要であるため、立ち居振る舞いのマナーを身につけている。
ジークハルトは探るようにヴェルナーを見る。
「それで、リア。この男に話というのは一体?」
「……はい」
リアはヴェルナーにまず謝罪した。
「……ごめんなさい、伝えるのが遅くなって。ヴェルナー、私いま皇宮にきていて」
ヴェルナーは頷く。
「前に約束していたことは忘れて。私──」
ジークハルトが疑問を口にする。
「前に約束していたこととは何だ?」
リアはこくっと息を呑んだ。
「それは──」
「──もし彼女が何か困ったことに巻き込まれるようなことがあれば、救ってほしいと言われていたのです」
ヴェルナーは静かにそう話した。
「幼い頃、家まで送り届けたおれを、彼女は信頼してくれているのです。しかし彼女は皇宮で過ごすこととなりました。殿下に守ってもらえ、そういった危険がなくなったということでしょう」
「ええ。そ、そうなのですわ」
リアはヴェルナーに合わせ、相槌を打った。
「ほう? では約束の内容は、また迷子になったら助けてくれというものなのか?」
ジークハルトは両腕を組んで、皮肉を込めて訊く。
「ジークハルト様──」
全ては話せないものの、リアはある程度ジークハルトに説明をすることにした。




