57.閉じ込められる
ローレンツについてはわからない。イザークは留学に関心を寄せてはいたが……。
リアは違和感を覚えた。
(同時期に……こんな急に?)
「ああ、それと、君の幼馴染の妹だが」
ジークハルトは長椅子に座り、表情は冷ややかとなる。
リアはどきりとした。
「メラニー様が何か?」
「彼女は、人買いに君の誘拐を依頼した疑惑がもたれている。彼女は、そういった輩を金で雇っていた」
「──え?」
「今、監督官が尋問中だ。彼女の友人である伯爵家の嫡男から、密告があったのだ。もうこれ以上、彼女を放っておけないと。おかしな噂を広げていたのも彼女で、他にも色々画策していたようだ。君を屋上庭園から突き落とそうともしていたらしい」
リアは白くなる。
屋上庭園で誰かに背を押された気がした。前世では人買いに捕まった。
(けれどそれ……まさか……メラニー様が……!?)
「その様子なら、思い当たるフシがあるようだな。メラニー・クルムのおぞましい所業が事実と判明すれば、彼女に極刑を言い渡す」
冷酷に告げて、立ち去ろうとしたジークハルトをリアは慌てて引き留めた。
「お待ちください、ジークハルト様!」
ジークハルトはこちらを振り返る。
「なんだ」
「極刑というのは……どういうことですの」
「噂を流すだけでも、不快だが、メラニー・クルムは数々の残虐な計画を企てていたのだ。死をもって贖ってもらう」
リアは喉を鳴らした。
屋上から突き落としたり、誘拐が事実彼女の仕業なのだとしたら、それは罪に問われる行為だ。
誘拐については今生では行われなかったが、前世は非常に恐ろしい思いをした。
今生、突き落とされたのも、ヴァンがいなければ死んでいた。
想像すれば寒気がする。
でも彼女はイザークの血を分けた妹なのだ。
「万一、彼女がそういった計画を立てていたとしても、被害者が出たわけではありません」
「出ているじゃないか。オレも君も噂で忌まわしい思いをした。運がよかっただけで、君は亡くなっていたかもしれないんだ。彼女は断罪されなくてはならない」
「大きな被害は出ていません。極刑なんてどうかやめてください」
妹のメラニーがそんなことになれば、イザークが悲しむ。
ジークハルトは一旦黙し、リアとの距離をゆっくりと詰めた。
「そういえば、リア」
「……はい……」
彼はすいと目を眇める。
「君の荷物を従僕に屋敷へ取りに行かせた際、室内が整理され旅支度がされていたとの報告を受けた。今すぐにでも家を出られる状態だったと。長期の旅を想定したものだったと」
リアは視線を揺らせた。
「君は、オレという婚約者がいながら、帝都を離れる気だったのか」
口ごもれば、彼は皮肉な笑みを唇に漂わせた。
「やはり、君をここに留め置いたのは正解だったな。舞踏会のあとすぐにでも、旅にでるつもりだったのか?」
「私は……」
言い当てられ、リアは目を伏せた。
「今後そんなことを考えないことだ。オレの言ったことを決して忘れるな」
彼は念を押し、退室した。
◇◇◇◇◇
リアが『闇』術者であることを、ジークハルトは誰にも話していないようだった。
皇太子が溺愛する婚約者を、結婚が待ちきれず置いていると、皇宮内では思われている。
身の回りの世話をしてくれている侍女たちの様子から、そうわかった。
丁重な扱いだ。
必要なものは何でも、用意してもらえた。
しかし基本的にリアはこの部屋から一歩も出ることはできない。
鍵を掛けられているのだ。
唯一出られるのは、ジークハルトと庭園で過ごすときだけだった。
食事は侍女によって運ばれてき、トイレもお風呂も部屋に備え付けられ、生活に困ることはない。
窓から外の景色をみることはできる。
が、ここに来てすぐ窓に格子が取り付けられた。
閉じ込められている、と感じてしまう。
(これは軟禁ではないの……?)




