51.彼らの事情3
カミルの言う通り動けば、彼は喜んでくれる。笑顔をみせてくれる。それにメラニーの野望も満たされる。
それでジークハルトに近づいた。
リアの不貞、リアがメラニーをいじめているという噂は、メラニーが独断で広げた。カミルは憎らしいことに、リアを慕っているから、これを知られるといささかまずい。
特にリアを突き落としたことは、絶対に知られてはならない。
(殺せはしなかったけど、まあいいわ)
今日、皇太子はメラニーとの婚約を考えると言ってくれたのだから。後で人を雇えばいい。
「メラニー、僕は君が心配で仕方ない」
図々しく手を握りしめてくるダミアンの手を、メラニーは払う。
「気安く触らないで」
ダミアンは役に立たない。
しかしそれなりの見目、身分をもち、メラニーを崇拝しているので、少しだけ近づくのを許しているだけだ。
(ああ、カミル様ともっと過ごしたかった)
※※※※※
「メラニー嬢はなんて?」
オスカーが両腕を組んで、尋ねてくる。
カミルは重たい息をおとす。
お茶会から屋敷に帰れば、カミルはすぐに兄の部屋へと呼び出された。
「彼女との婚約を殿下は考えるようだってさ」
メラニーから聞いた話を伝えると、兄は満足そうに口角を上げた。
「あの娘では難しいかと思っていたが、うまくいった」
カミルは愚痴が零れる。
「兄上。ぼくに、面倒なこと押し付けるのは今後もうやめてよ。彼女の相手するの、すごく疲れるんだからね」
「成功したなら、もう終わりだ。あの娘は、私よりもよりカミル、おまえに執心だった。でなければ、私が彼女に殿下に近づくようにと話したけれどね」
カミルは纏わりついてくる女が大の苦手だった。メラニーはその最たるものだ。
外見と身分、財産で、男を判断している。
しかし兄に命じられ、接触を図った。
(ようやく終わったよ。ふう……。疲れた)
大仕事を終えた気分だった。
今はまだ、姉の婚約は正式には破棄されていない。
だが、ジークハルトが、メラニーにそういう話をしたということは、もうほぼ決まりだろう。
オスカーから命じられ、カミルはメラニーを導いた。
ジークハルトをリアから奪い取るように。
「おまえも、嬉しいだろう? リアを結婚させたくなかったんだから」
カミルは素直に頷く。
「うん。すっごく嬉しい」
疲れたし、苦労したが、その甲斐があった。
カミルは姉が大好きだ。
他の女のように、リアはカミルを欲望の対象としてみてこない。
綺麗で優しくてあたたかくて。
従兄弟だから結婚も不可能ではない。
それにはジークハルトが邪魔だった。
そう思っているのは、兄オスカーも同じである。
兄はリアを愛している。
だからリアの婚約が流れるよう画策したのだ。
それがようやく実を結んだ。
(兄上も、ぼくにとって、とてつもなく邪魔──)
ジークハルトの結婚がなくなっても、兄が障害として立ちはだかる。
どうしようか。
「しかし」
オスカーは眉間を皺める。
「リアの不名誉な噂が流れているな。それは非常に不愉快だ」
「うん……」
きっとメラニーが流したのだ。
皇太子に近づくようには言ったが、姉の評判をおとす噂を流してほしいなんて頼んでいない。
(腹が立つな)
メラニーは独断で勝手な行動をとった。
本性を知らない男からは人気だし、知っている者の中でも熱烈な信奉者はいるが、メラニーはかなりの性格だ。
ここ数年、彼女と会うたびに疲れが増していた。
皇太子の気がしれない。リアと婚約破棄をし、メラニーをあらたな婚約者として選ぶなど。
リアとイザークの仲を誤解したようだから、おかしくなってしまったのだろう。
「仕方ない。私がリアを慰めよう」
そう言うオスカーを、ひそかにカミルは睨む。
兄は外面の良さと裏腹に、冷徹だ。
逆らえば、弟であっても容赦しない。
(こんな兄上に愛されてしまったなんて、姉上、本当に可哀相だ)




