46.お茶会1
「最近、リア、様子がおかしくないか?」
イザークの言葉に、リアはかぶりを振って否定した。
「そんなことないわ」
「だけどさ」
「将来について色々考えているだけなの」
十六歳となったリアは、イザークの部屋のバルコニーで彼といた。
今日はメラニーに呼ばれ、屋敷を訪問した。
三人で一緒に話をしていたのだが、メラニーが腹痛で自室に戻ってしまい、イザークと二人だけとなったのだ。
最近こういうことが続いている。
リアがイザークといるのを、メラニーは以前嫌がっているようだったが、近頃は逆で、なんだか嬉しそうにみえる。
メラニーに呼ばれてリアが侯爵家を訪れることが多くなったため、彼と会う回数も必然的に増えている。
リアは幼馴染と過ごせて落ち着くが、イザークのほうは、疲れるのではないだろうか。
大抵リアが話すばかりで、彼はいつも聞き役である。
「時間を取らせて、ごめんね」
「俺はいいけど。今日君は妹に呼ばれてきたのに、すまない」
「腹痛なら仕方ないわ」
リアはイザークといれば自然体でいられる。が、前世のことなど言えないこともあった。
「殿下のことで悩んでいるんじゃないのか?」
屋上庭園で過ごした日から、ジークハルトとは会っていない。
来月初めには、お茶会がある。たぶんそのとき顔を合わせると思う。
「マリッジブルー?」
「ううん」
(……ジークハルト様と結婚することにはならないもの)
「メラニーと殿下のことを気にしているんだったら、前話した通り……」
「いいえ、違うの」
そのことは、仕方ないと割り切っている。考えること自体、やめていた。
メラニーとも本当は余り関わりたくない。
(イザークの妹だし、そういうわけにもいかないんだけど)
メラニーを非道にいじめていたという噂を前世、立てられたりしたのだ。
そんなこと前世していないし、今もしていない。誰のこともいじめたことなどない。
なぜそんな噂が立ったのかわからなかった。
「なら、ひょっとして俺たちの噂を気に病んでいるのか?」
前世と同じように、リアはイザークと噂がある。
噂はただの噂で、友人だ。
「私達に何もないし。堂々としていればいいと思う」
イザークは溜息をつく。
「そうだな。誰がおかしな噂を立てたんだか」
リアはテーブルの上で両手の指先を重ねた。
「イザーク、私──」
この国を出る。今のうちに、彼に別れの挨拶をしておいたほうがよいかもしれない。
しかしそうなれば、前世のことも話さなければならなくなる。
「え?」
イザークは瞬く。
「ううん……何でもないわ」
やはり話せない。心配させてしまうだけだ。日常的な話をしたあと、リアは屋敷に戻った。
◇◇◇◇◇
お茶会の日はよく晴れていた。
皇宮の庭園に、貴族の子女が集まっている。
(前世では、どのように過ごしたかしら……)
リアは記憶を辿ってみるが、よく思い出せない。
ジークハルトと過ごしたという記憶はなかった。
(彼も出席するはずなんだけれど)
婚約者として会話を交わすくらいしたはずだ。
「リア様、少しよろしいでしょうか?」
見事に手入れされた庭園を眺めていると、すぐに、メラニーに声をかけられた。
「……はい」
無視するわけにもいかず返事をする。
リアが皇太子に近づく女性──特にメラニーをいびっているという噂は、前世と同様立てられていた。
「この間、腹痛で余り話せなかったので。わたし、リア様にお話をきいてもらいたくて」
まだお茶会が始まる前だったので、リアは頷いた。
彼女は離宮の一室の小部屋にリアを連れて入る。
「お話というのは、ジークハルト様のことです」
何だろう。
侯爵家を訪問した際や、お茶会などで彼女と会話はするが、それほど親しくしているわけではない。
だが近頃彼女は積極的に距離を縮めてきて、リアは少々困惑を覚えている。
「あ、その前に。飲み物を持ってまいります」
「お構いなく」
「わたしが喉が渇いてしまったんです、少しお待ちいただけます?」
そう言って、メラニーは足早に部屋から出、すぐにグラスを二つ持ってやってきた。
一つをリアに差し出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
グラスを受け取ろうとすると、メラニーは手を滑らせて、それを落とした。
リアのドレスにジュースがかかる。
「きゃっ、申し訳ありません、リア様!」
「いえ、大丈夫ですわ」
しかし、かなり広範囲に葡萄ジュースがかかってしまった。
これはもうお茶会には出席できそうにない。




