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闇黒の悪役令嬢は溺愛される  作者: 葵川 真衣
第一部

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35/100

35.覚悟

 

 真上にあるジークハルトの顔を見つめる。彼の艶めいた視線がリアの唇をなぞる。


(こんな状況、記憶にない……!)


 前世であったのか、なかったのか。わからないが、なかった。

 リアは目が回り、混乱した。


「いけません……」

「オレ達は婚約者だ。いけないことはない」


(この先、あなたは婚約破棄するのです)

 

 前世ショックな出来事だったから、それははっきり覚えていた。


「……まだ婚約の段階ですわ」


 そう言うのが、精いっぱいだった。


「婚約して、六年以上経っているが」

「結婚は先です」


 彼と結婚する日なんてこないのだ。唇を引き結び、泣きたいくらいリアが狼狽していると、彼は身を離した。


「……わかった」


 彼がどいてくれて、リアは心から安堵した。


「この部屋にある本は、持ち出し禁止だ。もし読むなら、ここで」

「……はい」


 ジークハルトが部屋を出ていくのを見送ったあと、リアは膝が崩れ、床にへたりと座りこんだ。

 婚約破棄まで、もうすぐだ。


(しっかりしなきゃ……)


 自分の頬をぱちっと叩く。

 胸を切り裂かれるような、辛い思いをしないよう、ちゃんと覚悟しておかないと。

 リアは、震えながら椅子に座り直した。


 前世でこの場面は絶対なかった。

 いくらなんでも、こんなことがあれば覚えている。

 

 涙が滲んでいる目をきゅっと瞑り、両手で顔を覆った。

 



◇◇◇◇◇




「どうした、リア?」

「お兄様」


 帰宅してすぐ、リアは一階の奥の部屋へと行った。

 母の肖像画の前で佇んでたリアに、入室したオスカーが気遣わしげに声をかけてくる。


「おまえは悩み事があると、この部屋にくる。何かあったのかい」

 

 心の中で母に悩みを聞いてもらうと不安が和らぐのだ。

 兄には、リアの行動を知られていたようである。


「何でもありません。ただ肖像画を見たくなったのですわ」

「何もないということはないだろう」


 心配そうにオスカーは、青灰色の瞳を細めた。

 リアの背に手を回し、窓際に置かれた革椅子へとリアを移動させる。


「座って、少し話をしよう」

 

 兄はリアを座らせ、その横に腰を下ろした。


「今日は皇宮に行っていたんだね」

「そうですわ」


 リアは膝の上に置いた自分の手を握りしめる。


「殿下と何かあったのかい?」


 リアは目を逸らせた。


「いいえ、特に何も」


 横で、オスカーの視線を強く感じる。


「ならいいんだが」


 兄は、悩ましく溜息をついた。


「実は……殿下の話を少し耳にしてね……。クルム侯爵令嬢と、睦まじそうに過ごしていたと」


 イザークの妹メラニーだ。リアは目線を絨毯におとす。

 前の生、ジークハルトは彼女と婚約すると宣言したが、今回もやはりそのようだ。


「そうですの」

 

 わかっていたことである。けれど胸がつきりと痛む。

 オスカーは僅かに首を振った。


「私は心配だ。殿下と結婚して、おまえが幸せになれるのかどうか」

 

 オスカーは繊細な手でリアの髪を撫でる。


「可愛いたった一人の妹のおまえには、誰よりも幸せになってもらいたいのに」

「心配なさらないで、お兄様」


 結婚自体、することにはならないし、前世不幸だったとも思っていない。今生も旅に出るつもりだ。

 安心させるようにリアは微笑む。

 兄はリアの頬に掌を添えた。


「私とおまえが結婚できたらいいのにな」


 リアはくすっと笑った。


「そういえば、昔そういった話がありましたわね」


 オスカーも笑う。


「ああ。殿下とおまえの婚約が決まる前だ」

「私、冗談かと思いましたわ」

「従兄弟だから、しようと思えばできるんだよ。殿下との婚約がなくなればね」


 ――婚約はなくなる。

 

 だがリアにとってオスカーは実の兄も同然だ。

 ジークハルトのことがなくとも、結婚など考えられなかった。兄も本音ではそうに決まっていた。兄妹として育ったのだから。


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[一言] 人の心なんてわからんよ
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