22.魔物
――理由は不明だが、自分は転生している。
前と全く同じ人生を歩んでいた。
恐らく花火がきっかけで、思い出した。
婚約破棄を告げられた、舞踏会の夜。
大広間から出て、最初目に飛び込んできたのが、鮮やかな花火だったのだ。
初恋の相手が亡くなったのも、両親が亡くなったのも、公爵家に引き取られ、皇太子と婚約をするのも。
全て前世と同じだった。
(もっと早くに記憶を得ていれば……パウルや両親を助けられたかもしれない……)
それが哀しく、悔しくて仕方ない。
記憶を取り戻した日以降も、前世と同じ出来事が起きていった。やはりこれは二度目の人生なのだと確信した。
(どうして私は、自分自身に転生しているの……?)
何もかも謎である。
今から約六年後――ジークハルトが十七歳、リアが十六歳のとき。
婚約破棄を突き付けられ、自分は国外に出ることになる。
リアはそれを知り――彼とのことに関して、未来を変える行動はとらないことを決めた。
この先の運命をそのまま受け入れよう。
婚約破棄は辛い出来事ではあった。
ジークハルトのことを、将来の伴侶としてみていたから。
共に過ごすうち、彼のことがとても気にかかるようになっていた。
大好きだったパウルに似ているのだ。意識せずにはいられない。
けれど彼は似ていても違うひとだ。
元々、彼がリアを選んだのは、他の令嬢に会うのが面倒だから。
ジークハルト自身が違う女性を選び、その相手との結婚を望むのであれば……それで構わない。
(心から想う相手と結婚するのが、彼にとっての幸せだわ)
リアは婚約破棄の回避に動かず、前世と同じように日々を送ることにした。
記憶は大分曖昧である。同じ人生を歩んでも、それなりに新鮮な毎日だ。
思い沈んでばかりもいられない。
(良いことを考えましょう……!)
冒険者になったのは、楽しかった。
自由に行動ができ、世界が広がった。
リアは婚約破棄後、人買いに捕まるが、助けられる。
そのあと、各地を旅して回り、この国には存在しない魔物を見つけるのだ。
そして殺される。
(これは良いことではないじゃないの! この死自体は回避しないといけない……!)
確か、契約した魔物に心臓を潰された。
だが、なぜか魔物の名も姿も思い出せない。
肝心なことなのに。不鮮明な己の記憶をリアは呪った。
克明に覚えていたら、同じ人生を楽しく思えなかったかもしれないし、一長一短だ。
(あの魔物にまた会いたいわ……)
とても可愛く、大切に思っていたという、そういった感情は覚えている。
殺されるのは御免被りたいので、今度は会うにしても殺されないようにしなければならない!
◇◇◇◇◇
家庭教師が急病で、授業が休みになった日、リアはこっそりと街へ出ることにした。
「イルマ、お願いがあるのだけど」
イルマはリア付きのメイドである。
留守をする間、屋敷に居ないことをバレないようにしてほしいとリアは彼女に頼み込んだ。
「ええっ、おひとりで街に行かれる気ですか!? いけません!」
「大丈夫。変装をするから」
「この間、簡素な服を買ってきてほしいとおっしゃったのは、そのためだったんですか?」
「そうよ。暗くなる前に戻るわ。だから、私が出たことはわからないようにしてもらいたいの」
「ですが」
「お願いよ、イルマ」
リアは嘆願の眼差しでじっとイルマを仰ぐ。
「信頼しているあなたにしか頼めないの」
イルマは、リアがこの屋敷に来る前、宿屋で身なりを整えてくれたメイドで、それからずっと傍についてくれている。リアの九歳上の、しっかり者だ。
彼女なら優秀なので、リアが屋敷を抜け出したことを誰にも気づかれないよう、うまく立ち回ってくれる。




