番外編 君への罰1
微睡んでいたリアが、ぼんやりと瞼を持ち上げれば、すぐ傍にいたジークハルトのセルリアンブルーの瞳と視線が合わさった。
彼は、甘やかな唇に弧を描く。
「リアは、子供の頃から寝顔も可愛い」
リアはどきりと鼓動が高鳴る。
──今、ジークハルトと故郷の村に来ている。
ジークハルトの幼少期の記憶が戻り、二人で帝都を出、旅行中なのだ。
ヴァンと会う予定だが、その前に村に立ち寄った。
ジークハルトと先程、幼い頃のように草原でかけっこをした。彼はリアのために花の冠を作ってくれて。
そのあと二人で寝転んで話をしているうちに、互いに眠ってしまったのだった。
「目が覚めたとき、リアがいて安心した」
ジークハルトは冗談めかした口調だったけれど、その眼差しは真剣だった。
リアの胸に切なさがよぎる。
彼はリアの指に指を絡めると、頬を傾けた。
ジークハルトの金の髪が振りかかり、彼の唇がリアの額や瞼、頬に優しく触れる。
徐々にくすぐったさより、甘みを帯びた感覚がする。
「こうして今、君と過ごせていることが奇跡のようだ……」
リアも同じように思う。
時折、ジークハルトには翻弄されるけれどリアは今とても幸せだった。
「私も、あなたとこうしていることが奇跡みたいで」
彼は眩しそうにリアを見る。あたたかな彼の笑顔は、幼い頃を思わせた。
ジークハルトはリアの髪を指で掬い取る。
「これからもオレとずっといてくれる?」
「ええ」
「君はずっとオレのもの?」
リアは頬に赤みが差し、ジークハルトの手を握り返した。
「……子供の頃から、ずっと」
リアがそう答えると、ジークハルトはリアの手を強く握りしめた。
「オレは子供の頃から、リアだけを見ていた」
彼はリアの顔の横に、もう片方の手をついた。
「イザークに君を取られたらどうしようと焦っていた」
星のように美しい、彼の双眸に見惚れていたリアは虚を衝かれる。
「え?」
吐息がかかるほどの至近距離で、ジークハルトはリアの瞳を覗き込む。
「イザークはオレより先に君に出逢っていて。しかも彼は、ずっと長く君のことを──」
ジークハルトは語尾を低くする。
「?」
リアが目を瞬くと、彼はかぶりを振った。
「──いや、なんでもない……オレが言っていいことなのかわからない」
彼はリアの頬を緩やかに指で辿り、どこか意地悪げに呟いた。
「──そういえばお茶会のとき、イザークが君に本当にキスをしていたように見えたんだが……」
リアは目を見開いた。
「まさか、まだ疑って……?」
ジークハルトは今なお疑念をいだいているのだろうか? リアが愕然としてしまえば、彼は否定した。
「疑ってはいないよ。リアを信じている。イザークはオレにとっても大事な友人で、幼馴染だし」
彼は物憂げに瞳を翳らせる。
「だが……嫉妬した……。くるいそうなほど」
彼の表情に苦悩が滲み、リアは焦って言い募った。
「何もなくて、あれは全くの誤解で」
ジークハルトが顔をさらに近づけ、互いの吐息が混ざり合う。彼の唇がリアの唇に掠めた。
「……っ」
リアは全身がじんと熱くなる。
「何もないことはないのでは?」
「えっ……? 本当に何も……」
誤解で何もない。ジークハルトは手を握ったまま耳元で言う。
「密室に二人きりだった。君はイザークから好きだと言われ、しかもあれほどまでに近くに」
「前にも話したとおりで……好きというのは幼馴染としてのことで……」
リアは必死に説明した。
「やっぱり今も、あのときのことを怒っているの……?」
ジークハルトは焦れたように息を零す。
「我を忘れるほど激高したが、今は怒っていない」
リアはほっとし、彼を悩ませてしまっていたことについて謝った。
「ごめんなさい……」
ジークハルトは短く答えた。
「許さない」
リアはこくんと息を呑む。
「許してくれないの?」
ジークハルトは頷いた。
「ああ、許さない。何もなかったとしても、ね。イザークだけでなく、君が誰といても許せない。子供の頃からオレはとても嫉妬深い」
どうしようかと狼狽するリアに、ジークハルトは魅惑的に微笑んだ。
「だから君を、一生オレの元に閉じ込めて離さない、という刑に処そうと思う」
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