表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/246

第二話 冒険者登録

─── 俺の名はガストン


 冒険者ギルド協会バグナス支部の頭、ギルドマスターだ。

 このギルドに集まる荒くれ者どもを、まとめられるなんざ、この俺くらいなもんだ。


 ひょんな事から、俺は今、命の危機に立たされている。

 思えば昨日風呂に入る時に、いつもとは反対の足から入っちまったし、朝飯ん時に床に落しちまったパンは、わざわざジャムの方から着地した。

 ……思えば虫の知らせはあったんだ。


─── 不運としか言いようがねえ


 しかし、デケえなコイツ。

 俺も図体はデカイ方だが、見上げる相手と戦う事なんざ滅多にねぇってのに。


 全身真っ黒の禍々しい鎧に、(いばら)の冠をのっけた髑髏(どくろ)の兜。

 何だありゃ、目の穴真っ暗じゃねぇか、どうやって前見て歩いてんだ……?

 最初見た時は、冒険者の誰かが押し付けられた、古代の悪趣味な銅像でも放っぽらかしてったのかと思ったぜ。


 受付嬢のアネッサが、奴の近くに行く。

 どうやら戦闘能力検定の説明をしているらしい。

 うん、動いてる、銅像じゃねえなって……


─── うへぇ……アレとマジで俺がやんのかよ⁉︎


 鎧見りゃ分かんだよ、アレは見栄でごっつい体格にしてるんじゃねぇ。

 あの鎧の下には、マジで鍛え上げられた肉体がある筈だ。

 動きにくい全身鎧のくせに、あの流れるような体重移動と、一切ブレねぇ重心を見ろよ。


 やる前から分かんだよ、ありゃあ、()()()()に決まってる……。


「ルールは先程の魔術能力検定と基本変わりません。

どちらかが『まいった』と言うか、我がギルドマスターのガストン氏が、アルフォンスさんの能力を合格ラインだと認めたら終了です」


「ああ、それで間違いねぇ、()()()ッ‼︎」


「…………」


 アネッサの野郎、こっちをチラッと見て、シカトしやがった……!


「最初に言っておきますアルフォンスさん。ギルドマスターは元近衛騎士で、とある国の剣術大会の優勝者で、元S級冒険者です。

いいですか? 絶対に手加減はしちゃダメですよ、絶対にです……」


「おいやめろ!」


「それに過去、ソフィア様ともいい試合をした、このギルドきっての武闘派です。

人呼んで『狂犬タイガー・ガストン』とは彼の事、ゆめゆめ油断せず、本気で散らしに行って下さい」


「おいやめろ! 呼ばれてねぇし、そのアダ名は俺が死ぬ。大体、犬なのか虎なのかハッキリしろ!」


 アネッサの野郎、全力で(あお)ってやがる……。俺が何したってんだ!


「アルフォンスさんは剣がメインですよね?

えっと、それでしたら試験は真剣か木剣、あと真剣から選べますけど、どうしますか? 真剣ですか?」


「おいやめろ! 何でそんなに真剣を推してんだ⁉︎」


 しかし、木剣でも当たりどころが悪きゃ死ぬ。

 せめてどんな遣い手か、くらいは確かめておかねえと、俺が死ぬ。


「アルフォンス……だったな。すまねぇが、お前さんの得物を見せてくんねぇか?

普段、どう戦ってるのか知りたくてよ」


 ん? 曲刀? これ、もしかしてカタナって奴じゃねぇか……?

 こんなもん、ちょっとやそっとの知識じゃ、扱いきれねえって聞いた事があるが……。


「……持つのはやめた方がいい。呪いが掛かる」


「へ?」


 思わず手を引っ込める。

 奴はカタナを(さや)から抜き放つと、俺の目の前に刃を見せて来た。


 何だ? 何でこの刃はうっすら濡れていやがんだ?

 それなのに、錆び一つ無いどころか、俺の顔が青白く映って……。



─── ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ……



 ん? カタナが、何かしゃべって……?



─── ……チ……チ ガ……ホシイ……



「ぃッよーし、合格ッ‼︎ こんなもん大合格だ馬鹿野郎ッ‼︎」


「ダメですギルドタイガー! 不戦敗など、男のやる事じゃないです!

……これ以上、がっかりさせないでタイガー」


「ギルドタイガーってなんだッ⁉︎

タイガーって言うな! わーったよ、やるよ! ほら、さっさと木剣に決めちまえ」


 アネッサの野郎、これが終わったら減給してやっかんな。


「アルフォンスさん? 真剣ですか、木剣ですか? 最近は真剣が(ちまた)で流行ってますよ?」


「怖え(ちまた)だなおい! 誘導すんな!」


「……木剣で頼む。ここから選べばいいのか?」


 怪物どくろんが、並べられた木剣を吟味し出した。

 ……正直、助かった……のか?


「もう少し、細くて脆そうなのはないか?」


「すみませんアルフォンスさん、今ここにあるものしか」


「そうか……困った」


「オニイチャ、これ、つかう?」


 何か赤毛の美少女が、デビルスカルに渡してるな……ありゃ串か?

 そう言やぁ、ここに来た時に、あの美少女はタコ串焼き食ってたな、ありゃあ可愛かった。

 うん、可愛かった、育てたい。


 今からあの子とどこか遠くに逃げて、何もかも忘れて暮らしたい。


「お、ティフォありがとう。これ位が丁度いいか」


 おいおい、いくら腕が立つったって、木剣のおれと串で闘おうってのか?


「いくら何でも、そいつは俺を舐めすぎてねぇか?」


「すまない……折れる素材じゃないと、アンタが持たない。

アンタ、かなりやりそうだ。俺も加減するのが上手くいかないかも知れない」


「フッ、いい読みしてるぜ。よし、()()()!」


「ちっ、タイガーッ!」


「くっそおあああっ! 分かった、もういい! さっさとやるぞ!」


 奴の言いたい事は分かる。

 中途半端な実力者相手じゃ、(かえ)って手加減する方が危ねえ。

 おそらくコイツは、俺との実力差を正確に見抜いてやがる。


─── だが、俺は奴の実力がさっぱり見えねぇ


 これはヤベェ、さっきから首の後ろがチリッチリチリッチリしてんだ。

 マジでヤバイ場所にいる時と同じ、俺の勘が『逃げやがれ』って、ガンガン騒いでやがる。


 んん? 野郎が串にボソボソと何か唱えてやがるが、アレはなんだ?

 妙に悪霊が集まって来やがった……?


─── 串に呪いを掛けてる?


 まさかな、そんな危ねえ事するアホはいねぇだろ。


「えぇ……それでいいんですかぁ? まぁ、いいっすよ、始め〜」


 アネッサは全力でヤル気無くしてるが、俺はそうはいかねぇ。


─── 木剣を真っ直ぐに構えて、距離を取る


 遅れて奴も串を構えた。

 あの動きだけで分かる。


 (まぎ)れもなくバケモンだ、鷹揚(おうよう)に流れるようにゆっくり見えて、全く隙もねぇ。

 余りに無駄がなくて、ゆっくりに見えただけだ、アレは相当に剣との対話を終えて来た奴だ。


 さっきまでタコ刺さってた串が、全く持って棒っ切れに見えねえ!

 何だよありゃ、どこの剣聖だよ……。


─── だが、俺もタダじゃ転ばねぇ


 ……リーチの長さを最大限に活かして、対応しにくい下からの切り上げで()ぐ。

 開始直後でヤツの剣気が整ってねぇ、今、この瞬間に全てを賭けるッ!


「シイィィ─── ッ!」


 一気に踏み込んで、俺は奴の脇から、首に向けて斬り上げた。

 一瞬で決めちまわねぇと、何が起こるかさっぱり読めねぇ!


 コースは完璧、ヤツの呼吸にも完璧に沿ったタイミング!

 これなら勝て ───


─── ガキィッ!


「な……ッ!」


 腕が(しび)れた! 野郎、俺の本気の斬り上げを、マジでタコ串で止めやがった!

 なんてぇ闘気の遣い手だよ……竹の串が鋼鉄みてえな硬さじゃねぇか……⁉︎

 一合組んだだけで、アイツと串にとんでもねぇ闘気が循環してるのが分かるぜ!


 だがよ、俺だって修羅場は潜って来てんだ、これで終わりにはさせねぇよ?

 見て驚け、喰らって驚けってなッ‼︎


─── キュンッ!


「…………ッ!」



 南方八極流奥義【朧月二段(おぼろづきにだん)】─── ッ!!



 斬り上げた刃を相手の剣で受けさせ、そのぶつかる反動で刃を引き戻して逆回転させ、上からコンパクトに斬り込む!


()ったぁッ!」


─── バスン……ッ


 へ? 急に真っ暗になっちまった……。

 俺の木剣は確かに、奴の首に吸い込まれて行ったはず……?


 何か耳の中で弾けるような音がして……それから真っ暗だ。

 立ってるのかも、寝てるのかもわからねぇ。


「ひぃっ! ギルドマスター⁉︎ 

……あああ、あ、頭が頭がぁッ!」


「……アネッサ、ダメよ! 動かしちゃダメ!」


─── うん? 俺は頭を斬られたのか……?


「で、でも、でも! ギルドマスターが死んじゃう! よいしょ……きゃあああッ!

腕がッ! 腕が取れたぁぁぁーッ!」


─── ちょ、俺どうなってんだ⁉︎


「そこをどけ。今ならまだ間に合う」


「へ? あ、アルフォンスさん? 何を?」


「─── 【癒光(ラヒゥ)】」


「【癒光(ラヒゥ)】⁉︎ こんな大惨事に初級治癒魔術なんて…………え? ええっ⁉︎」


 んあ? 何か体の感覚が戻って来た……って、イデデデデデ!


「ぎぃやああああああああぁぁぁぁッ!」


 視界が戻って、とんでもねぇ激痛が襲って来やがった。

 だが、それも直ぐに治って、起き上がった俺は何故か上半身裸で寝転んでた。


「へ? な、何だ……何が起こった……?」


 アネッサがへたり込んでる。

 その服には血がべっとり、俺の周りに落ちてる、木っ端微塵の布は俺の服か? それも血だらけだ。


「お、おい。アネッサ、その血は……お前大丈夫なのか?」


「ひっく、これは……ギルドマスターの血ですよぅ……うぅっ、よかったぁ……生きてて」


 へ? これ全部俺の血?

 でも体は何ともねぇ、いや、いつもより力がみなぎってるし、いつも気になってた(のど)のイガイガもねぇ……。


「ギルドマスター……腰から上がイソギンチャクみたいになっちゃってたんですよぅ……」


「やだなにそれこわい」


─── ガシャッ


 思わずちびりそうになった。


 ううん、落ち着けガストン。

 奴が俺に近づき、髑髏(どくろ)の兜を脱いだだけだ。


「……すまなかった。痛みはもうないか?」


「ああ、何ともねぇ。いつもより調子が良いくらいだ。……俺は一体どうなったんだ?」


 奴は申し訳なさそうに、視線を下に外した。

 あれ……こんな若かったの?


「最初のアンタの斬り上げを止めた……。その後、アンタが剣を切り返して、神速の斬り落としを俺の首に仕掛けた」


 ああ、そこまでは意識があった。

 その後のアレだ、バスンっての。


「余りに見事な返しに……。すまん、ちょっと本気で脳天に一閃(いっせん)入れてしまった」


「で、俺は服ごと弾けて、腰から上がイソギンチャクみたいにされたと……そのタコ串で」


「すまない。痛みを感じられない深度の損傷だったが、治す途中の神経系統が戻った時に、痛みを感じたんだろう」


 ああ、アレね。

 お、俺じゃなきゃあ、ショック死してたろうぜ……へへ。


─── つぅか待て、串でイソギンチャクなら、真剣だったら今頃、何ギンチャクだったんだよ!


「まあ、闘いなんだから気にすんな。治癒魔術使ってくれたんだろ? 聞こえてたぜ?」


「いつもと変わりはないか?」


「いや、喉の持病が治ったのと……。ん、巻き爪も治ってるな。後、足が臭くねぇ」


「…………何よりだ」


 びっくりだ。

 マジで臭くねぇの、俺の足が。

 初級治癒魔術で、何でこんなエリクサー使ったみてぇになってんのか、さっぱりだが……。


「筆記試験、魔術能力検定、戦闘能力検定……。文句ねぇ、全部まるっと合格だアルフォンス!」


「ありがとう。よろしく頼む」


 アルフォンス・ゴールマイン……か。

 スゲエ奴が居たもんだ。


「飛級も問題ねえだろ。ただ、一応中央に報告入れるのに、ひとつくらいクエストは受けてもらうが……いいか?」


「ああ、問題ない。むしろ、やってみたい」


 何でぇ、可愛い顔してんじゃねぇの。

 今の笑顔は、俺でも女だったら惚れてたぜ///


「よろしく頼むぜルーキー! がはははっ」


「頑張り……ます」


 握手をして大団円って奴だ。

 まあ、アネッサ、オメェは別だがな。


─── 俺の名はガストン


 バグナスの冒険者ギルドのトップ、ギルドマスターだ。

 このギルドに集まる荒くれ者達を、まとめられるのは俺くらいなもんだ。




 ※ ※ ※




「あーい♪ 麦酒六つお待たせーっ!」


 フリルのついたエプロンの給仕が、分厚いガラスのジョッキに溢れん程の麦酒を運んできた。


「マロンエビの塩焼きと、銀クジラのベーコン焼き、マナダコの半ボイルと……あと何か今旬のヤツあるか?」


「うーん、そーですねー♪ 今日はぁ、オオシーランの揚げ焼きがおススメですーっ!」


「じゃあ、それ。後卵焼きと南海サラダをくれ」


 ギルドマスターのガストンが、慣れた調子で注文する。

 にこやかにメモを取った給仕は、肉付きのいい腰をくねらせて、ホールに戻って行った。


「んじゃあ、みんなジョッキは持ったか?

ソフィアの帰還と、アル、ティフォの仲間入りを祝って……カンパーイ!」


「「「カンパーイ!」」」


 今、俺たちは港近くの居酒屋に、六人で飲みに来ていた。

 ギルマスのガストン、受付嬢アネッサ、魔術師エレノアのギルド三人組。

 それからソフィアとティフォ、そして俺の運命共同体三人組だ。


「しっかし、エレノアとソフィアが飲みに参加するなんて、初めてじゃねぇか?」


 嬉しそうなガストンに、アネッサは申し訳なさそうに、ソフィアは我関せずでジョッキを(あお)っている。


「全ては主人(あるじ)様のお導き。人生楽しんで、幸せでなくては……そうですわよね! 主人様☆」


「ん? あ、ああ……そうな」


「いやホント、エレノアおめぇ、何があった⁉︎」


 あの後ギルドで聞いた話だが、エレノアは超男嫌いで、潔癖な程の完璧主義で、いつもピリピリしていたらしい。

 俺は元を知らないので判定の仕様がない。


 落ち着いて見れば、紺色の長い髪に、青紫の瞳でスラリとしたかなりの美人だ。

 元宮廷勤めのエリートだっただけに、知的な空気も(まと)ってる。


 彼女の雰囲気が変わった事で、ギルドのロビーにいた冒険者達は、かなり熱を入れあげていた。


 美人で男嫌い。

 今まではその人当たりのキツさが、結界のように守っていたのだろう。

 突如見せるようになった、彼女の微笑みに、男達は華やいでいた。


 ……うーん、変わり過ぎ? 大丈夫かなぁ?


「えっとー、アルフォンスさんが、即死魔術を無詠唱でドン。即死したエレノアさんに蘇生魔術を無詠唱でおかわりだドン。

で、生き返ったらこのキラキラですよ」


「はい。それはもう、素晴らしい臨死体験でした!」


「そいつぁ体験していいやつには、あんまし聞こえねぇんだが。まあ、俺も似たようなモンだがよ。頭っからカッ(さば)かれたしな」


 ガストンはまあアレだが、エレノアに関しては謝って置いた方がいいか……。


「あー、そのエレノア……さん? 悪かった。俺、魔術師はみんな【自動蘇生(イムシュ・アネィブ)】とか【絶対魔術防御(グルス・ヒード)】とかを掛けているもんだと思い込んでたんだよ。

俺のお師匠さん達がそうだったから……。世間知らずで申し訳ない。怖い思いをさせてしまった」


「何を謝る事があるんですか主人様。おかげさまで、私は臆病な自分を卒業できましたよ?

さん付けはおやめください、エレノアとお呼びくださいませ、主人様。……ポッ」


 そのやり取りに、ガストンが唸っている。

 その横でアネッサがころころと笑い出した。


「あははははっ。

まず【自動蘇生(イムシュ・アネィブ)】を使えるって言うのがおかしいんですって。聖魔大戦の前には使える大魔導師もいたみたいですけどー?

現代で使えるとか、どこの伝説だよって感じですね、あはははは!」


 アネッサの顔がもう紅い、笑いどころもよく分かんない。


「アルくんは使えますよね。今の所、使う場面全然なかったですけど」


「うん、今も掛かってるよ。リスク回避は大事だしな。

……修行中は何度もお世話になったなぁ。死ぬ直前の魂抜ける感じまで、はっきり覚えてるからトラウマになるんだよなぁアレ」


 うん、アーシェ婆の訓練だと、慣れない内は一日四、五回は死んでたし。


「生き死にを何度もって、どんだけの荒業だオイ! オメェどんな虎の穴出身だよ……。そうだ、生まれは? 何処に居たんだ?

お前程の人材、今まで噂ひとつ聞いた事ねぇぞ」


「あはははは、虎の穴♪ タイガーなだけに、ですか? あはははは!」


 あ、答え辛いなこれは。

 全部は話せないし、下手な嘘ついてバレるのも嫌だしなぁ。


「うーん、まあ色々。お師匠さん達と秘密の修行ってやつだよ」


「おいおい、言葉を(にご)し過ぎじゃ ─── 」


「ん、おねーちゃん。麦酒、おかわり」


「あ、俺も」


「私も」


「私もーっ、あはははは!」


「オメェは、程々にしとけよ?」


「拙者も」


「……誰だ今の⁉︎」


 ティフォのお陰でなあなあに出来たか。

 その内、父さんの手紙にあった、俺の実の両親がいる『ケファンの森』について調べる時とか、話す必要が出てくるかもだが。

 一応、それまで里の事は内緒だ。

 ……それに最後のは本当に誰だ?


「オニイチャ、はい」


 ティフォがおかわりのジョッキを渡してくれた。

 と、そうこうしてたら、注文した料理が運ばれてきた。


「お待たせーっ♪ 銀クジラのベーコンにぃ、マナダコの半ボイルでーす!」


 おお、ベーコンは直火で炙ったのか、表面の脂がまだジュウジュウ、焦げ目の周りで踊ってる。

 古くて丸みを帯びた板の上に、かなり肉厚なブロックベーコン、一緒にマスタードと細くて白い球根のような野菜が付け合わされて来た。

 切り分け用のナイフも付いてる。


 マナダコの半ボイルは、スライスされた大きな脚にレモンが添えられている。

 表面の皮は熱が通って小豆色だが、中は生のままで、中心部が透き通っていた。

 職人技の光る火加減、それを冷やして締めてある。


「─── ッ⁉︎ ぅうんまッ!」


 クジラのベーコンを一口食べて、思わず人語を忘れた。

 赤身が多いのに柔らかく、噛むほどに溢れる濃厚な肉汁と、強めの塩加減。

 脂は多いが、マスタードを付けるとすっきり洗い流しながら、酸味と甘みが加わって、すぐさま麦酒に手が伸びる。


「うめぇだろ! 銀クジラは秋頃に脂を溜めるんだわ、それでそのベーコンなんだが、今がその熟成の一番いい時期なんだぜ。

マナダコは初夏も良いが、この時期のはまた格別なんだよ!

これ目当ての旅行客も多いんだ」


「わ、これ私初めて食べました……。はぁ、アルくんのお陰でこんな物まで食べられるように……うぅ」


 ソフィアが食の喜びに、しみじみと呟いた。

 今までは俺の捜索に必死で、食はかなり適当だったらしいし。


「あー! ひょっとして、ソフィア様の探してた運命の人って、アルフォンスさんのことですかぁ? あはははは!」


 ソフィアが顔を赤らめて、アネッサに微笑みを返した。


「ふぁーっ、いいなぁ! ギルドに来た時から、ずっとくっ付いてますもんね、ハァ〜。私も彼氏ほしぃ。あはははは!」


「と言う事は主人様、ティフォさんとはどういうご関係なんでしょう?」


 噛むほどに溢れる、磯の香りと旨味。

 俺はマナダコの半ボイルに取り掛かり、噛み応えのある一切れに心奪われていた。


「ん? あたしはオニイチャの『()』で、()()


「「「ブッ!」」」


「ゲホッ! ゲホゲハッ! ……兄妹で愛人なのか⁉︎ おお、アルフォンス、お前!

禁断にも程があんだろ⁉︎」


「ゲホッ! ……血の繋がりはなくて、て言うか愛人って何だよティフォ!」


「ん、愛する人だから、愛人?」


 ものすごい天然のキラーパスだ。


「では、本妻はソフィア様で、ティフォさんは愛人と言う事ですか。人生楽しんでますね主人様は、尊敬します!」


「ち、違うって!」


「そう、それは違う、ソフィにオニイチャをひとりじめは、させない」


「ふふふ、ティフォちゃんはそう言っていればいいんですよ……私たちは確実に一歩ずつ進んでまいりますから。ふふふ」


「アルフォンス……オメェもなんつーか、修羅場潜ってんなぁ」


 ガストンがそう呟いて、ジョッキを煽る。


「はぁい♪ マロンエビの塩焼きと、オオシーランの揚げ焼きお待たせーっ!」


 串に刺して焼かれた大振りなエビと、薄い衣を着けて、丸ごと揚げられた細身で大きな魚がやって来た。


「あはははは、これこれ、冬の初めはマロンエビですよねー! あはははは!」


 殻のままパリッと焼かれたエビを、殻ごと串のままかぶりつく。

 振られた塩と共に、エビの風味と栗の実に似た、ほんのり素朴な甘みが舌の上で広がる。

 焼き加減が絶妙で、塩気の利いた皮が弾け、身の外側はプリッと歯応え良く、中はしっとりとクリーミー。


 オオシーランの方は、ナイフを入れた途端に衣がパリッと音を立てて、ホクホクの白身が湯気を立てた。

 衣自体に味がついていて、甘じょっぱく、少しにんにくが効いている。


─── 麦酒が飛ぶように消えて行く


 その後は酒精が強めの酒に切り替え、海の幸メニューを心行くまで堪能した。

 明日は海が見たいなぁ、そんな事を思いながら、乱れるに任せる酒の席を楽しむ。


─── 何はともあれ、俺は里を出て、ついに冒険者となった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール

↓よろしければこちらをクリックお願いします↓

小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=98380449&si

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ