ありえない告白
はぁ……
とぼとぼと夕暮れ時の校舎を歩く。
部活も委員会もやってない俺がこの時間までいるのには訳がある。
一つは、単純に家に居場所がないから下校ギリギリまで学校で粘っているだけ。
二つ目は、今日の朝、俺の下駄箱に手紙が入っていて、夕方6時に教室に来てください。というのがあるからだ。
「はぁ……」
思わず口から出てしまうほど憂鬱だった。
自慢じゃないが、俺は人に好かれるような容姿をしていない。性格も客観的に見て根暗と言われるぐらいには暗いだろう。友達もいなければ、彼女もいない。
そんな俺がこんな時間に呼び出されるなんてどう考えても悪い予感しかしない。
良くて、人前では言いにくいような何かしらの伝言や用事。
悪くて、まあ、告白。それも、『罰ゲーム』や『仲間内の賭け事』が理由のモノ。
「うっ」
そう考えると、思わず気持ち悪くなる。
中学の時も孤立していた俺は一度嘘の告白にハメられ、騙され、散々な目にあった。その時のトラウマがフラッシュバックして吐きそうになる。
そうこうしながらも、取り敢えず教室の前まで来た俺は、周りに誰もいないか確認してから、教室の扉を開ける。
ガラガラという音と共に扉を開けた俺の先にいた人物はなんと学校一の美少女とされる御堂沙良だった。
俺はその瞬間に、ほっとした。
こんなクラスの中でも最上位カーストの女が『遊び』で告白してくる訳がない。予想はつかないが、何らかの伝言か用事だろうと。
心底安堵した俺は「何の用ですか?」と聞こうとした瞬間、
「西村康平さん!私と付き合ってください!」
御堂沙良にそういきなり言われた。
その瞬間にいろんな考えが頭を巡った。
御堂沙良はこの高校で1番と言っていいほどの美少女だ。この高校に1年間通っていて、御堂沙良の噂は飽きるほど聞いた。入学当初から同学年だけではなく、先輩まで様々なイケメン達に告白されているという噂だ。
そんな御堂沙良が何で俺に、俺なんかに告白するのか。
御堂沙良でさえ、『遊び』で告白するのか。なんて考えが頭をよぎる。
「え?」
いろんな考えが頭に浮かんだが、安心していた俺の顔と声は理解できない状況からか無意識に顔と声が発せられた。
とはいえ、何故俺は告白されているのか。
俺は見ての通り、陰キャでぼっち。学校では誰にも言ってないがオタクでもある。そして、それを体現しているかのように髪はボサボサ。眉毛も何も整えてなく、良く見て中の下くらいだろう。
そんな俺が何故告白されているのか。
どう考えても『遊び』としか思えない。
どんな罰ゲームで俺に告白してるのやら。
まあ、俺にとってここの正解は一つしかない。
「ごめんなさい」
俺はこの『遊び』に付き合う気は無い。昔、中学の時に一回経験してるんだ。二度もハマるほど馬鹿じゃ無い。
「えっ……」
と、俺に『遊び』の告白をした御堂沙良は悲しい顔をしていた。
だが、それは所詮演技だろう。一応告白という程を取っているから悲しい顔をしないといけないのだろう。
「じゃ……そういうことで」
そう言って俺は教室を後にしようとした。
「ちょっとまって!」
いきなり俺の腕を掴んできた。
俺は御堂沙良の方を振り向き、腕を振り払った。
「…………なに?」
「……その!友達からでもいいから」
「……」
俺は一瞬めんどくさい事もあって、「友達からでもいいから。」と言われ、「友達ならまあ」と答えようとした。
ただ、後々にクラスでもそれを理由に絡まれたら、ただでさえない俺の居場所が完全に無くなると思い、無言でいた。
初めから居場所なんて、あってないようなモノなのにな。
腕を振り払った俺はそのまま無言で家に帰った。
後ろから「西村くんまって!」という声が聞こえてくるが、俺は気づかないように無視した。
「ただいま」
家に帰ると7時くらいだった。
暗い家の中で俺の声だけが響く。
家族は家にいなかった。恐らく弟と何処かに出かけているか、何か食べに言ってるのだろう。
俺は適当に冷蔵庫にあるものを無造作に選んで、大して美味しくもないご飯を無心で胃に詰めた。
俺の家に居場所がない理由は出来の良い弟がいるからだ。
出来の悪い俺と違って弟は容姿端麗の文武両道だ。
サッカーでは県大会まで行く程のスポーツ万能であり、勉強では学年一番と賢い。更に今では最高学年という事もあってか中学校で生徒会長までしている。
男友達から女友達、果てには先輩や後輩まで交友関係も広く、勿論可愛い彼女だっている。
勉強だったらそこそこに俺も出来るが、そんな勉強面でさえも上回られている俺は常に弟と比べられ、褒められた事もなければ、家での居場所もない。
両親と弟がいない間にとっととシャワーを済ませて、帰ってくるまでに寝ようとベットに入った。
寝る間際、俺は教室を出る瞬間に涙を浮かべた御堂沙良の顔が頭から離れずに中々寝付けなかった。
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