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ファーマ君の気ままな異世界生活  作者: 幸村
4章 王立学園
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第7話 ファーマ君、王宮に行く その1

感想頂きました。


感想、誤字報告、ブックマーク、評価ありがとうございます。

「ねぇ、ファーマ。今度の闇の曜日なのだけど、家に遊びに行って良いかしら?」


 登校して直ぐにターニャから嬉しい申し出があった。僕の友達が家に遊びに来るなんて事は前世では1度もなかった夢のイベント……なんだけど。


「ごめん。次の闇の曜日はどうしても外せない用があって家にはいないんだ」


 僕の返事を聞いてターニャがこの世の終わりのような悲痛な顔をしている。そんなに僕と遊びたかったのか? ……うん、違うよね、分ってる。レオナとコテツに会うのを凄く楽しみにしていたから目的はそっちだよね。


 ターニャには申し訳ないけど、次の闇の曜日は月に1度のお役目の日。つまり、セリウス様と遊ぶ日なのだ。


「光の曜日なら、たぶん大丈夫なんだけど……」


 泊りになる事はないだろうし。


「光の曜日は私の予定が空いていないのよ……」


「じゃあ、来週はどう? 来週なら闇の曜日も光の曜日も家に居るから」


 だから、そんな泣きそうな顔は止めて。何も悪い事していないのに凄く罪悪感が……


「来週ね。うん、闇の曜日に絶対に行くから予定を空けておいてね?」


 どうやら、来週ならターニャも空いているようだ。という事で、来週の闇の曜日にターニャが遊びに来る事が決定した。


 あっ、そういえば農場はギルドの実験農場って事になっているから、勝手に友達を入れると不味いかも知れない。帰ったらエルミナさんとセビアスさんに聞いてみないとな。


 ……ダメって言われたらどうしよう? 絶対、ターニャ悲しむよね?



 ──夕方。


 農場に戻ってエルミナさんの家に顔を出し事情を話した。


「という訳なんですけど、やっぱり不味いですか?」


「ふむ、ご友人がお見えになるのは特に問題はないでしょう。しかし、来訪される方の御身分が御身分ですので、マルコ様にご報告を入れた方が良いと思います。それと、エルミナさんの研究室はエンドール家の機密に当たりますので立ち入りは禁止でお願いします」


 まあ、そりゃそうだよね。


「わかりました。絶対に立ち入らないように言っておきます」


「対応は拙がやった方が良いのですか?」


「いえ、あまり仰々しくすると気を使わせてしまうので僕だけで充分です。最初だけ挨拶に来ますから、その時は簡単にで良いので挨拶だけお願いします」


「挨拶だけなら安心なのですぞ。あまり上流階級の方を相手にするのは疲れるのですぞ」


 貴女も元王族ですよね? 


 マルコさんへの報告は、今度の闇曜日に顔を合わせるので、その時にする事にした。



 ──週末。


「じゃあ、行ってくるね。たぶん今日中には帰れると思うけど、ひょっとしたら明日になるかも」


 今日はマルコさんも一緒に王宮に行く事になっているので僕だけの都合で帰って来られるかは分からない。


「畏まりました。こちらの事はお任せください」


「また、美味しいお土産買ってきてね」


「お役目、頑張ってください」


「いてらさい、ファーマ様」


 朝のお見送りはすっかり定番になっている。ランカの休日にはランカも一緒に見送ってくれるのだけど、今日も食堂の仕事でこちらには顔を出せないので見送りは4人だ。因みに、たまにエルミナさんがうちに泊まりに来る事があるので、エルミナさんが見送ってくれる事もあるのだ。


 エミル、レオナ、アリッサ、コテツに見送られて家を出て、農場の門前で暫く待っていると、門の前にはエンドール家の家紋が入った馬車がやって来て停車した。


「おはようございます。マルコさん」


 停車すると御者さんが直ぐに馬車から降りてドアを開けマルコさんが降りてくる。ここからは僕の飛行車に乗って王都に向かうのだ。馬車で行くと4時間近くかかるから遅くなっちゃうんだよね。


「おはようファーマ。今日はセリウス様に失礼のないようにするんだよ?」


「はい、今日は付き添ってもらってありがとうございます。今日1日お願します」


 初日という事もあって、今日はマルコさんがエンドール家を代表して僕のお役目の付き添いをしてくれる。月に1度の遊び相手とは言っても、デザリア臣民としては初日に挨拶もしない、という訳にはいかないようだ。


 因みに遊び相手のお役目を受けたという報告をしていなくて、王家からの封書が届いてから内容を訊ねられ、初めてエンドール家の人達がこの事を知ったので、めっちゃお説教された。


 月1の遊び相手ぐらいなら報告する程の事ではないと思っていたのだけど、エンドール家的には重大問題だったらしい……



 道中、来週の件の報告をした。


「セビアスからも報告は受けているよ。その日はセビアスが休暇日だから私が顔を出そうか?」


「いえ、マルコさんも忙しいでしょうし、タータニヤさんも気遣いは必要ないと言ってくれてますから」


 なによりマルコさんが一緒だとターニャも気を使って気分よく遊べないだろうし。


「そうか。なら、その日は農場の衛兵を増やしておくよ。ステイール令嬢はこれからも度々農場に遊びに来る事になりそうなのかい?」


「そうですね。タータニヤさんがうちの子達を気に入れば、そうなると思います」


 気兼ねなく遊ぼうと思ったら町よりは農場の方が良いだろうし。


「ふむ、それなら前もって分かっていれば、その日に合わせて農場の護衛を強化するから都度報告してくれ」


「お気遣いありがとうございます。でも、そこまで気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ? タータニヤさん達も護衛の方を連れてくるらしいので」


「いや、万が一の事が起こってはエンドール家の沽券に関わるからね。必ず報告するように」


 うーむ、友達が遊びに来るだけで大げさだと思うんだけど? ……まあ、安全に越したことは無いので報告はするようにしよう。


 来週の件の話が終わり、飛行車など諸々に対する僕への報酬の件についての進行状況を尋ねてみると、領主会議が来週から行われる事になっているので、まだ何も確定事項はないらしい。


 エンドール家が僕に出してくれる報酬のついては、亜人の件は会議でグラヴァさんが強く推してくれるので、これ以上僕が望む事はない。もう1つの方は今、調査してくれていて発見次第報告してくれるそうなので焦らず待とう。


 飛行車(スカイカー)異空間保管庫(アイテムボックス)の売れ行きの状況についても話を聞いてみると、どちらも高額にもかかわらず予約が殺到しているらしい。


 特に飛行車は上級貴族からの注文が多いらしく、材料は自分で用意するから作ってほしいと交渉される事もあるんだとか。


 だけど、王様からの要望で飛行車に関しては、各地の領主である侯爵様に優先して売ってほしいと言われているので、その他の人に回ってくるのはかなり先の話だろう。


 領主様が優先になる理由は、これまで王都に来る時は、かなりの期間領地から離れなければいけなかったのだけど、飛行車なら王都から一番遠いグラダの町でも10日程度あれば余裕をもって往復出来るので長期間領地を空けなくて済むからだそうだ。


 ギルド総会の日から今日までに作られた飛行車は全商業ギルド合わせて4台。献上品の飛行車の次に作られた飛行車はマルコさんの物になる予定だったのだけど、ゴルドオウル侯爵に納品され、王都の商業ギルド本部で作られた第1号はシルバリオ侯爵の下へ、グラダで作られた第1号はステイール侯爵の下へ、アインスで作られた第3号はプラチネル侯爵の下へ納品されたそうだ。


 操車に関しては商業ギルドが飛行車納品と同時に操車できる人を派遣して御者さんの指導をさせているらしい。


 操車歴数か月の人が操車を教えるのはちょっと怖い気がするが、まあ、暴走さえしなければ交通量は少ないのでそうそう事故を起こす事はないだろう。


 現在、グラダギルドで作成中の1台とアインスギルドで作成中の1台、それと王都の商業ギルド本部で作成中2台の飛行車が完成したら、それらはカッポウド侯爵と各ギルドのグランドマスターさんに優先的に納品され、それ以外の人は侯爵様全員に行き渡ったあとに販売される事になるそうなのだけど、ミスリルの在庫的に一般販売されるのはかなり先の話になるだろうという事だ。


 マルガンさんとマルコさんが飛行車を手に入れられる日は遠そうだ。


 因みに学問ギルドのニコラウスさんは、自分の飛行車は商業ギルドの物より良い物を学問ギルドで作ると息巻いているそうなので、商業ギルドから納品される予定はないそうだ。



 ゆっくり運転して9時に王宮に到着すると、マルコさんは王様へ挨拶に行くらしく、一旦お別れして王城に向かった。


 僕は執事さんに連れられて王宮の一室に到着し、部屋に入って驚かされた。何故かセリウス様だけでなく大人も大勢待っていたのだ。


「おはようございます。今日から宜しくお願いします」


「お、はよう。予定と違って、2人きりではない、けど、今日は宜しく頼む」


 僕が挨拶するとセリウス様はとても小声で少し緊張気味に挨拶を返してくれた。会議の日に会った時は殆ど言葉を発しないくらい人見知りだったのに頑張ったね。


 続けてセリウス様のお母さんのセシリア様に挨拶をする。


「ご無沙汰していますセシリア様、お役目、真摯に務めさせていただきます」


「よく来ましたね。私達の事は気にしなくて良いですから、しっかりとセリウスの相手をするのですよ」


 今日のセシリア様は前回に比べて口調が優しい。どういう心境の変化なんだ?


 とはいえ、気にするなと言われても気になるよね? この2人だけならこれと言って変ではないのだけど、あとの人達はどうしてここにいるんだろう? 初めて見る人ばかりだ。


「簡単に紹介しておきますね。先ず、こちらに控えている方はセリウスの曾祖父、つまり先代のデザリア王、スピルネル陛下です。それからこちらは──」


 淡々と紹介してくれるのは嬉しいのだけど、何故先王様がここに? 


 先王様に続いて紹介された人は政務公爵家の御息女でセリウス様の学問の家庭教師のメリラーラ様、その次が騎士公爵家の御子息でセリウス様の武術の家庭教師のザナッファ様、その次がフレイマン侯爵家の御息女でセリウス様の魔法の家庭教師のカタリーナ様と錚々たる面々だ。


 これだけお偉いさんに囲まれると居心地は良くないな。会議の時を思い出す……


「ワシらは大人しく見ておるから、ゆっくりセリウスと楽しむと良い」


 顔合わせが終わるとスピルネル様が優しい笑顔で僕の頭をポンポンと撫でてそういってくれた。


「わかりました。では、セリウス様。なにから致しましょうか?」


「イゴ、の遊戯法を教えて……本だけでは、よく分からない」


 セリウス様は小さな声で一生懸命話して意志を伝えてくれた。前が前だけに普通に会話が出来ているこの状況がなんだか嬉しいな。


 それはさて置き。


 予想はしていた事だけど、本だけで囲碁を理解するのはやっぱり難しいようだ。僕もちゃんとルールを理解したのは【真理】を使って前世の囲碁の記憶を引き出した時だし……ラグナムート様達は特別だよね?


 ほぼ本だけでの独学だと、解釈を間違って覚えているところが多かった。しかも、前世では脳内対局しかやった事が無かったから間違いに気付けなかった。


 まあ、今はしっかりルールを理解して対局も結構やったから、それなりに教える事は出来るのだ。


「では、囲碁入門の本を使いながら順を追って説明しますね。ある程度、遊戯法を覚えたら実際に9路盤を使って遊んでみましょう」


 最初は準備されていた19路盤をテーブルに置き、入門本を見ながらルール説明を始める。すると、大人たちは僕とセリウス様を囲むように集まり、碁盤に注目する。


 ひょっとしてこれが目的なのか? ……まあ、気にせず話を進めよう。


「まず、囲碁というのは交互に石を置き合って陣地を取り合う遊戯だという事は【囲碁入門】を読んでいるなら、もう知っていますね? このように石で囲んだ場所が〝地〟という自分の陣地になります」


 説明をしながら石を置く。【囲碁入門】はみんな読んでいるのでこの辺りはもう知っているだろうけど、セリウス様は真剣に聞いてくれている。周りの大人達も僕の話を聞きながらフンフンと頷いている。


 ちょっと皆さん近すぎ、圧が……


「先程、囲めば自分の地になると言いましたが、例えばこのように自陣を囲っている石の周りを相手の石に囲まれている状態では、地にはなりません」


「どうしてだ?」


 疑問を呈してきたのはスピルネル様。どうやらスピルネル様は、まだあまり囲碁入門を読んでいないようだ。


「囲碁の規則では、ここの空いている場所を相手に埋められてしまうと逆に黒が囲った事になり、この白石は取られてしまうからです。ただし、このように複数地がある場合は埋められてしまう前に、こう正しい手順で石を置いて地を分けてしまえば相手は地を埋める事が出来なくなるので自分の陣地で確定します」


「ふむ、中々複雑だな」


 もうすっかり囲碁教室状態だ。まあ、それは良いのだけど、セリウス様と会話をしたいのにスピルネル様が質問していてはセリウス様が話す隙がないのだけど? と、セシリア様の方に視線を送ってみると、目を逸らされた。やはり、先王様(お偉いさん)に意見は出来ないようだ……


「次にアタリと呼ばれる囲まれる1歩手前の状態。セリウス様、石を置いてアタリを回避してください」


 名指しで話しかければ先王様も口を挟めないだろう。


「うん」


「では僕がここに石を置くと?」


「ここ」


「では、こう置くと?」


「ここ」


 交互に石を置いてゆき、盤の端まで到達したところで


「はい、いただきます」


 最後の石を僕が置いてセリウス様が置いた石を全部取った。


「むぅ……」


 セリウス様が少し頬を膨らませて拗ねている。ちょっと可愛いな。


「これをシチョウといいます。実際の対局でも多く見られる形なので覚えておいてください」


「ほおっ、面白いな。メリラーラ、わしもやってみるから少し手伝え」


 僕達の横にスピルネル様が碁盤を置き、僕がやったように石を置こうとしたのだけど、途中で手順を間違えてメリラーラ様にアタリ状態から逃げられてしまった。悪いのはスピルネル様なのだけど、メリラーラ様がとても気まずそうにしている。


 まあ、慣れないうちは手順を間違えることはよくある事だから、こういう事もあるよね。


 午前中は【囲碁入門】を使った勉強と質問で終わった。結局、セリウス様とはあまり会話もなく、話していたのは殆ど僕とスピルネル様だけ。他の人も色々と聞きたそうにしていたけど、先王様(お偉いさん)を押しのけて質問してくるような図太い人はいないようだ。


「そろそろお昼なので午前はこのくらいにして休憩を取りましょうか?」


 と、提案するとセリウス様はコクっと1つ頷く。


「ふむ、いい勉強になったのう。ファーマ、昼食はわしらと一緒に食べんか?」


 スピルネル様から昼食のお誘いがあったのだけど、この場合どうするのが正しいんだっけ?


 セシリア様に視線を向けてみると、軽く微笑んで頷いたので〝受けてもいい〟と判断した。


「お誘いありがとうございます。まだ勉強不足で無作法があるかも知れませんが、ご容赦を。ご一緒させて頂きます」


「はははっ、そう硬くならなくても良いぞ。わしから誘ったのだ。気楽に食事をすると良い」


 僕は王族の方々と王宮の食堂に移動し、それ以外の人達は公宮の食堂で食事をするらしく、一旦お別れする事になった。


 食事中はみんなとても静かで会話は全くない。つい最近、作法の授業で教わった事なのだけど、デザリアの王侯貴族の間では食事中に話をするのはマナー違反なのだ。


 立食形式のパーティーでも、お皿に食事を乗せている人には話しかけてはいけないらしい。どうしても話しかけたい場合は、皿が空くまでなるべく視界に入らない位置で待機して、空いたら話しかけても良いんだとか。


 つまり、誰にも話しかけられたくない人は常に皿の上に食べ物を乗せておけば良い、という事だ。まあ、それをやると嫌われるらしいけど。


 食事中、時折セリウス様と目が合うので、笑顔を向けるとセリウス様は少し嬉しそうに口元を緩ませていた。これが俗に言う目で会話するという事なのか? ちょっと楽しい。


 食事が終わって食後のお茶とお菓子が出てくると会話が始まる。


 お茶の時間は会話をしてもマナー違反にはならないのだ。お茶の時間も食事の内だとは思うのだけど、この国の人の感覚では別物なのだろう。


「ファーマはこの国の出身ではないのですよね?」


「はい、育ての母に聞かされた話では帝国の生まれの様です」


「ん? 自分の出自を知らんのか?」


「はい、僕は乳飲み子の頃に、森で亡くなった母に抱かれているところを拾われたという話なので、正確な出自はわかりません」


「魔物か盗賊にでも襲われたのかも知れぬな。デザリアでも起こり得る事だが、全ての魔物や盗賊を排除する事など誰にも出来ん事だ。ファーマだけでも助かったのは運が良かったと言えるだろう」


 まあ、血縁上の父親に襲われたのだけど、それは言えないよね。普通はそんな頃の出来事なんて覚えていないから。確かに僕は運が良かった。普通なら生命の防護陣の効力が消えた途端に魔物の餌になっているところだ。デーア母さんが人界に降りてくるなんて多くても数十年に1度程度。もう運命の出会いとしか言いようがない。


「イゴは育ての母から教わったのですか?」


「いえ、囲碁は別の人から教わりました」


 まあ、殆ど独学なのだけど【真理】の能力を使った時にちゃんとしたルールを理解したから【真理】に教わったとも言える。だから嘘ではない。


 因みに【真理】で囲碁の理を完璧に理解したからと言ってプロ棋士の様に神がかった強さを得られる訳ではない。囲碁は相手あっての遊戯なので相手の出方を何十手、何百手先まで読んで打たなければいけない。相手がどう指すかなんて実際に対局してみなければ分からないので、その辺りが読めなければ強くはなれないのだ。


 まあ、常時【真理】を発動していれば同じ能力を持っている人以外で僕に勝てる人はいないだろう。けど、そんな事をしたら脳をやられてしまうし、なにより面白くないから絶対にやらないけどね。


 とは言っても、理解していないよりは理解している方が強いのは間違いないので、能力を使っていない状態でも前世の自分よりは強くなっているだろう。比べる相手が数人しかいないから、今の自分の棋力がどの程度なのかは分からないけど、【名局百選】を見る限り猪山七冠の域には全く届いていない事だけは分かる。



 午後からはみんなで定石の勉強だ。9路盤で遊ぶ予定だったけど、しっかりと基礎を覚えてから遊びたいとセリウス様に言われたので対局は次回以降になった。


「失礼します。……ぇっ!?」


 午後の囲碁教室が始まって暫くすると、ドアをノックしてマルコさんが入ってきて、何とも言えない表情で固まり、入り口で立ち止まっている。


 まあ、驚くよね? っていうか、王様の所に挨拶に行ったのに、こういう状況だというのは知らされなかったのか? 王様も意地悪だな。


「し、失礼しました。挨拶が遅れて申し訳ありません。私はファーマの主家、エンドール家のマルコです。……これはいったいどういう状況なのでしょう?」


 マルコさんは軽くパニック状態の様だ。


「驚かせたようだな。なに、セリウスがファーマから新しい盤遊戯を教わったと聞かされてな。中々に面白そうだったものだから、皆でファーマから指南を受けているところだ。お前もこちらに混ざると良い」


「えっ? あ、はい」


 スピルネル様に状況説明を受け緊張気味にマルコさんも囲碁教室に混ざったのだけど、パニックが続いているようで、まだ状況をよく理解出来ていないようだ。


 気にしてもどうしようもないので、マルコさんには【囲碁入門】を手渡して、そのまま囲碁教室は続き、結局、今日は囲碁以外の会話は殆どせず、セリウス様との交流は終わってしまった……


「では、来月3週目の闇の曜日に」


「ファーマ……来週も来られないか?」


 帰ろうとする僕達に、セリウス様が悲しそうにそう伝えてきた。


「申し訳ありません。来週は先約が入っているので来られないです」


 うっ……そんな捨てられた子犬みたいな目で見られると胸が痛むんだけど?


「セリウス、急に来週では予定が入っているのも仕方のない事だ。ファーマ、次の役目の日までに空いている休日はあるか? 今回はわしらが邪魔してしまったからセリウスもあまり楽しめなかっただろう。時間が取れるのなら今度は邪魔者抜きで、2人で遊んでやって欲しいのだ」


 皆さん邪魔者の自覚はあったんだな……


 まあ、確かに今日はセリウス様と遊んでいるというよりは、囲碁教室を開いたという方が正しい。


「解りました。来週は先約があるので無理ですが、来月の第1週めであれば何も予定は入っていませんので、来月最初の闇の曜日にお伺いしたいと思うのですが、どうでしょうか?」


 僕がそう答えると、セシリア様が


「その日であればセリウスの予定も空いているから問題ありませんよ」


 と、許可してくれて、セリウス様はとても良い笑顔になった。


「それと、1つ頼まれて欲しいのだが?」


 続けてスピネル様が口を開く。


「何でしょうか?」


「暫くの間で良い。わしらがイゴの遊戯法を覚えるまでの間、セリウスの遊戯相手の日とは別に、今回のような指南をやってくれぬか?」


 ……うーむ、個人的には一緒に囲碁が出来る人が増えるから嫌ではないのだけど、あまり農場を放っておくのは気が引ける。今でも既にエミルに任せっきりなのに休みの日までそんなに潰したらダメだよね?


「光栄なお話です。ファーマ、お受けしなさい」


 僕が考えていると、マルコさんが割って入ってきた。


「えっ? でも農場も放っておけないですし」


「大丈夫だ。セビアスからの報告によると農場の方は順調らしいじゃないか? 君がやらなくても君の優秀な部下が滞りなく取り仕切っているのだから、今更月に1日や2日程度君の手伝う日が減ったところで農場に支障はないだろう? というか、上の者が現場にいると下の者が気を使って作業効率が落ちるから、君は手伝わない方が良いと思うよ?」


 ぅぐっ……否定できないのが辛い。


 エミルに話せば快くOKしてくれるだろうけど、あまり甘えてばかりだと愛想をつかされてしまいそうで怖いんだよね。でも、マルコさんの話にも一理ある……うーむ、どうしたものか?


「主家からの命令だ。スピルネル陛下のご期待に応えるように」


 あっ、汚い。命令とか言われたら断り難いじゃないか……うーん、でも、今まで名前だけは使わせてもらって家臣らしい事は何もやってないんだよね。偶には家臣らしい事もしなくちゃダメか……


「わかりました。お受けさせて頂きます。では、月の第1週目の闇曜日がセリウス様の人見知りを緩和する為のお役目の日、第3週目の闇曜日が囲碁の勉強会の日という事でどうでしょうか?」


「うむ、それでよかろう。では、わしらはまた来月の3週目にな」


 皆さんとても満足げに送り出してくれた。帰ったらエミルに謝らないとな……


ファーマ君とセリウス達の交流話は数話に1度くらいの頻度で書きます。

なので、次の第8話は〝その2〟ではありません。

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