第4話 ファーマ君、授業を受ける その2
誤字報告、ありがとうございます。
食堂で昼食を終え、お茶を飲みながら午後の授業についてターニャと話をする。
僕達は生産科なので、物作りを学ぶ為の授業の中から、自分が将来進む職業を考えて2科目で単位を取得できれば進級は出来る。単位は2つ取れば進級できるのだけど、授業時間は3時間用意してくれているので大抵の子は3科目教わるそうだ。
学べる科目は、術式構築、魔法道具設計、魔道具作成、魔法武具設計、魔法武具作成、魔法建築物設計、魔法建築物作成、の7科目。
「ターニャはどれを選択するの?」
「そうね。私は術式構築と魔法道具設計と魔法武具設計を選択するわ」
設計だけを教わるのか。まあ、作成の方は女の子向けの仕事ではないよね。力仕事になるし、手がごつくなってしまうだろうから。
ターニャのように設計だけを教わる子は結構多いそうだ。特に貴族家の女の子は手を傷つける事を避ける傾向にあるそうなので実作業を覚える子は少ないそうだ。
逆に設計は覚えず作成だけ覚える人もいる。大抵の職場は設計と作成は分業になるそうなので敢えて設計を教わらず、技術を磨くそうだ。まあ、作っていればある程度設計も出来るようにはなるんだけど。
「ファーマは?」
「僕は術式構築と魔法道具設計と魔法道具作成を選択するよ」
「ファーマは設計も作成も自分1人でやりたい方なの?」
「うん、僕はどこかに就職して働くより自分で自由に作りたいから、設計から作成まで出来る方が都合がいいんだよ」
「そういえば、ファーマは商業ギルドの農場で自営業みたいな事をやっているって言っていたものね。今更誰かの下ではやれないか」
お金儲けが目的じゃないから自営業とは違うよね? いつでもお米が食べられる状況を作りたかっただけだし。
まあ、利益とかそういう事はケイトとミルムが考えてくれるだろう。あとセビアスさんとか商業ギルドの人達も。
という訳で、お互いに受ける授業は決まり、2科目は同じなので一緒に授業を受ける事にした。
午後、最初に受けるのは術式構築の授業。
どうやら全員、この授業を選択したようだ。まあ、魔法道具や魔法武具や魔法建築物を作るにしても設計するにしても術式が理解できていなければ作る事は出来ないので、必須の科目だよね。どうせなら必修科目にすればいいのに。
「はい、全員静かに。術式構成の授業を受け持つマッカルト・クレイテブだ。術式を構築するには先ず魔法文字を理解しなければいけない。かなり難しいとは思うが、真面目にやっていれば君達なら理解できるようになる筈だ。頑張って覚えるように」
先生の挨拶が終わり、全員にデザリアの魔法文字が書かれた用紙が配られる。
「おっと、そうだった。この中にファーマという生徒はいるか?」
先生がそう言うと教室内にいた全員の視線が僕に集まる。
……今日はやたらと目立つな。まあ、朝1番にあんな事があったら、みんなも覚えるよね。
「君がそうか?」
「はい」
「君は7才の頃に簡単な術式を使った物ではあるが魔法道具を作ったそうだな。君1人で作ったのか?」
「はい、買った本に書かれた術式を繋げたら奇跡的に作れました」
普通はそんな方法で術式が作れたりはしないのだけど、たぶん、真理の能力から漏れ出す理解の才能が仕事をして作れたのだろう。
因みにギルドから販売された湯沸かし器と冷水器に使われた術式は僕が組んだ術式とは違う。こっちに戻って来てからマルガンさんに聞いた話によると、僕が組んだ術式のままでは不具合が起こる可能性があったから改良して売り出したそうだ。
「はははっ、普通はそんなやり方でまともな術式は組めないのだが、余程運が良かったのだろうな。最初に商業ギルドに登録されて以降、新しい登録がされていないという事は、その後は上手く術式が構築できなかったのだろう?」
……作ったけど秘匿しているだけなんだよね。今はあの頃の様なお粗末な術式は組まないよ? まあ、ここでそんな事言えないけど。
「まあ、そんなところです」
「だが、それでいい。この中には入学前から既に術式について学んでいる者はいると思うが、術式というのは多少魔法文字を学んだからと言って直ぐに組めるわけではない。文字にはそれぞれ役割があり、構築が悪ければ術式は起動しない。とは言っても、真面目に学んでいれば誰にでも術式は組むことが出来るようになる。ここにいる多くの者は年内に簡単な術式であれば組むことは出来るようになるだろう。だが……」
少し間を開けて、マズッカルト先生が右腕の袖を捲り上げ前腕を露出させる。その腕は赤黒く変色した大きな火傷跡があり、生徒達は顔を歪めて何人かは気持ち悪そうに口を押えている。
「中途半端に学んだ知識を使って術式を組んだ場合、自分が予想もしなかった魔法が発動してしまう事もある。これは俺がまだ初等部1年生だった頃に、授業外で勝手に術式を組んで発動させた時に負った怪我だ。中途半端な知識しか持たず術式を組んだが為、予想もしなかった効果が発動し寮で小火騒ぎを起こしてしまった」
話をしながら主に僕の方に視線を送っている。恐らく、僕の時も同じ事が起こっていた可能性を教えてくれているんだろう。大丈夫、その経験は日那国にいる頃に積んだから……僕は運が良かったから怪我をする程酷い事にはならなかったけど。
「この傷は上級魔法薬や上級回復魔法であれば消す事は出来るが、俺は敢えて消す事はしていない。自分の失敗を忘れない為だ。俺は運が良かったから火傷程度で済んだが、最悪、死んでしまうような術式が発動する事もある。もし、お前達の中である程度知識が身について、自分で術式を組んでみたくなった時は必ず俺に相談しろ。もし、人より先に魔法道具を作って目立ってやろうと思考が働いた時は、この傷を思い出して必ず踏み止まれ。焦らずじっくり学んで確実な術式を組むことが出来るようになってから自分の術式を作ればいい。分ったか?」
「「「「「はい」」」」」
流石にあの傷が効いたのだろう。全員が真剣な目をして返事をした。先生は生徒の顔を見回し、全員が話を理解したであろうと確認を終えて授業は始まった。
暫くの間は分類した魔法文字を覚える為の勉強になる。
デザリアでも文字はちゃんと分類されているようで、この授業ではどの文字をどういった並びで使うのか、どういった効果を出す為にどう使うのか等を教えてくれる。
僕はラグナムート様に貰った術式文字を使った術式の構築は出来るけど、デザリアの魔法文字を使った構築は殆ど出来ないので、こっちの方もしっかり勉強しないとね。
ラグナムート様から言わせればデザリアの術式は構築に無駄が多いそうだけど、それでもデザリアの研究者さんが日々研究し続けているものなので、僕の知らない知識は多い筈だから。
魔法文字は全部で12000文字強ある。1年生の間にその内1500文字とそれを使った術式の構築方法を教わり、初等部在学中に5000文字とそれを使った術式の構築が出来るように教わる事になる。
まあ、覚えるとは言っても全てを暗記する訳ではない。流石に12000文字全て暗記するのは難しいので、術式を構築する時は資料を見ながらやるのだ。
因みにここで言うところの魔法文字というのは以前からデザリアで使われている術式文字の事。ラグナムート様から教わった術式文字は、まだ学問ギルドで検証中なので暫くの間は学園で教えたり一般に出回る事は無いだろう。
単位を取得する為には1年生で教わる魔法文字を使って、学園が指定した効果を発する術式を3つ、自力で構築する必要がある。出題される題材は個人や試験日で異なるので他の生徒に単位試験内容を教えてもらっても意味はない。
「疲れたぁ……この象形文字みたいなのを年内に1500文字も覚えるのは大変ね」
「まあ、全部を完璧に覚えなきゃいけないって訳ではないみたいだけどね。それよりも自力で術式を3つも構築しなきゃ単位が取れないんだからそっちの方が大変だと思うよ?」
「うへー……心が折れそう」
まだ早いよ……
術式構成の授業の次は魔法道具設計の授業を受けた。
1年生の内は素材別の用途、用法と術式を使用しない道具の設計法を教わり、設計の基礎を身に付け、術式と組み合わせた道具の設計法を教わるのは2年生になってからだそうだ。
1年生の単位取得条件は学園が指定する道具の設計図を5つ自力で作成する事。
「先に術式構築の授業を受けていたから設計の授業は簡単に思えたわね。これならやれそう」
「あはは、確かに術式構築に比べると普通の道具の設計の方が簡単に見えるよね。でも、細かな部品の用途まで全部計算して書かなきゃいけないから大変は大変だよね」
術式とはまた違った難しさがある。一見簡単そうに見えるけど、術式が混ざってくるとその難しさはかなりのものだろう。
設計の授業が終わり、ターニャとはここで別れて本日最後の授業は魔法道具作成だ。
1年生の内は素材別の用途、用法を学んだり、木材を使って道具の模型を作ったりする基礎的な事を学ぶそうだ。
2年生から板金や鍛冶作業や彫金なども学ぶ事になり、3年生から実物の魔法道具作りを教わる事になる。
1年生の単位取得条件は学校側が用意した素材の知識問題で正解率9割以上と3種の設計図を基に木材で模型を完成させる事。
設計の授業と重複する内容もあるけど、必要な知識だからしっかりと覚えないとね。
余談だけど、魔法道具設計と魔法道具作成の授業を選択している子は思ったより少ない。
理由は魔法武具作りや魔法建築物作りを学んだ方が就職に有利だからだそうだ。魔法道具の知識や技術の需要があるのは商業関係だけなのだけど、魔法武具や魔法建築物の知識や技術は王家や上級貴族家、正騎士ギルド、冒険者ギルド、商業関係等々多方面で需要がある。
今の内から就職先の事を考えなければいけないとは世知辛い世の中だ。
閑話休題。
授業が終わり、今日は誰からもお誘いが無かったので、帰りにワックスさんの露店の様子を見に行く事にした。
制服のまま行くと貴族の子供と間違われて店のお客さんに気を使わせてしまうので、適当な公衆便所で普段着に着替え露店に足を運ぶと
「なぁ、こんだけ誘ってんだからメシぐらい付き合ってくれよ」
「あんたもしつこいわね。そんな暇ないって言ってるでしょ?」
アンナが冒険者風の男の人に言い寄られているところだった。
「いや、暇がないって……客なんて俺以外いねぇじゃんか」
「あのね? 今、他にいなくてもお客さんは来るの。だいたい、あんたはお客さんじゃないでしょ? それにあんたみたいなむさ苦しいのがいるから誰も寄って来ないのよ? わかったら帰ってくれる?」
「あ、ひっでぇ。俺だってちゃんと着飾ればそれなりに男前なんだぜ?」
「だったら人に怖がられないような格好で来なさいよね」
「いや、前にそういう格好で来たけど邪険にされたぞ?」
「あんた馬鹿なの? 私を口説きに来ているのに他所で買った服を着てきてどうすんのよ? うちで買った服を着てくるのが当たり前でしょ? 一昨日来なさい」
……ちょっと様子を見ていたけど凄いやり取りだな。ってかお客さんにあんな口をきいて大丈夫なのか? いや、買い物をしないならお客さんではないのか? でも、店に来た人をあんなに邪険に扱っていたら他の人から酷い店だとか思われるんじゃないだろうか?
まあ、ワックスさんが止めないなら問題は無いのだろう。とりあえず暴力沙汰とかにはならなそうだから止めなくてもいいよね。
「ワックスさん、こんにちは。客入りは順調ですか?」
「おお、ファーマ君。客入りは悪くないよ。前に君が作った作業服と婦人用のミニスカブレザがこっちでも売れているね。それと最近教えてもらった毛糸商品がよく売れているよ」
おおっ、それは嬉しい知らせだ。売り上げに貢献出来ているなら良かったよ。
因みに毛糸で作った商品というのはニット帽、マフラー、手袋、セーターの4つ、勿論手編みだ。
前世で姉や妹のお下がりがそのまま着られないから解いて編み直していたのが、この世界でも役に立っている。部分的に毛糸の色を変えたり、毛糸で編んだ花やボンボンを作って取り付けるのもお手の物。
毛糸は魔物の毛で作った物がデザリアにもあって、今までデザリアでは毛糸でポンチョのような肩掛けやひざ掛けや腰巻なんかはあったそうなのだけど、ニット帽やマフラーや手袋やセーターというのは無かったそうだ。
因みに帽子と手袋は毛糸製じゃない物は普通に売られている。
まあ、形状を変えただけなので新商品登録とまではいかなかったんだけど、ワックスさんとアンナからは高評価だったのだ。
まあ、それは置いておいて……
「少し離れた場所から見ていたんですけど、あのお客さんはあんな扱いで大丈夫なんですか? 邪件に扱っていると悪い噂とか流されるんじゃ?」
「ああ、あの人は大丈夫だよ。もう2週間も前からあんな感じだから、近所の人達も『いつもの事』程度にしか思っていないしね。中にはあのやり取りが面白くて店に来てくれる人もいるくらいだよ?」
……露店を始めた頃から、ああなのか? 凄いな。
「あの人はアンナのはっきりとした物言いが気に入ったらしくてね。殆ど毎日、口説きに来てるよ」
毎日って……ちゃんと仕事してるのかな?
「あらファーマ君、いらっしゃい」
「こんにちは、アンナさん。売り上げは順調みたいだね」
「まあ、それなりにね。でも、自分で考えた服よりファーマ君が考えた服の方が売れているのがちょっと悔しいわ」
……それは返事に困るな。でも、僕が考えた服ではないんだよ? 前世で本を見て覚えた物だから。
「おーい、俺をほっとかないでくれよ。一応お客だぜ?」
「1枚も服を買わない人はお客さんとは言わないの。お客さん扱いしてほしければ1着くらい買いなさいよ」
「いや、買うっても服は必要分持ってるし……金の無駄だろう? 余分な服を買う金が有ったら装備に金掛けるぜ? 冒険者は命がけなんだから」
見た目通り冒険者さんだったんだな。確かに、身の安全を考えたら装備にお金を使いたい気持ちも分からなくはない。
でも、前世の姉が妹や母と話していた『女の子の為にお金を使えない男は付き合う価値無し』と。あの人達が特殊な考えの持ち主なのかも知れないけど、一般的な女性がそう考えるのが普通なら、アンナの為にお金を使えない(店で服すら買わない)この人が食事にすら付き合ってもらえないのも頷けるな。
「ところで、そこの可愛らしい子は妹さんか? 5年くらいしたら食事でもどうだ?」
……誰が妹だ、誰が。今さっきアンナに『君』と男性を呼称する呼び方をされていたのを聞いてなかったのか?
「あんた女の子なら誰でも良いのね? 最低!」
「いや、僕は男だよ」
「あっ、ごめんなさい。ファーマ君を女の子だと思ってるわけじゃないのよ? あいつが変なこと言うから」
「ええっ!? 男なのか? マジで? 見えねぇ……」
もう、いい加減にそのネタは飽きたよ。
「って事は、弟なのか? 全然似てないけど」
「いや、弟じゃないから」
「弟でも妹でもないのにどうしてそんなに親しそうなんだ? もしかしてアンナちゃんの男か? 子供が好きなのか? どおりで何回誘っても断られるはずだぜ」
いや、それは違うだろう……いくら何でも思考が飛躍し過ぎだよ? 近所の子とか親戚の可能性は考えないのか? そもそも邪険に扱われる原因は服を買わないからだよね? あとアンナの好みではないんだろう。
「……もう、それでいいから帰ってよ。営業の邪魔だから」
反論に疲れたのか、アンナは否定せず額を押さえながら冒険者風のお兄さんを追い払うようにシッシッと手を振った。
「ちくしょー! 負けねぇからなー!」
アンナが認めたので、お兄さんは大きな勘違いをしたまま涙目で走って行った。
「ごめんね、ファーマ君。とりあえず、そういう事だからアイツの前では宜しく」
いや『そういう事だから』じゃなくて……勘違いを訂正しないとショタコンって噂が広まるかも知れないよ?




