第28話 ファーマ君、実験農場を見て回る
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ディアスキンさん夫婦のお祝いの後、その日の内にグラダを出発する。
「ふわぁー、なにこれ? 浮いてるんだけど……」
「こんなの初めて見た」
飛行車に乗ったリリとミミは飛行車を見て、最初は『なにこれ変なの』とこぼしていたのだけど、乗り込んで浮かび上がった瞬間に態度は一変。今は驚きで落ち着きなくソワソワしている。
運転はいつも通りエミル、助手席にはリリがセトを抱いて乗り、後部座席には僕とレオナとミミが乗っている。セトは後ろに乗れなくはないのだけど、リリに甘えたいようでリリの膝の上で大はしゃぎだ。
4人乗りのつもりで作ったけど乗ろうと思えば6人でもなんとかなるもんだな。まあ、流石に大人が乗ると、ここまでの人数は乗れないけど。
帰りの道中も何事もなく順調だ。帰りはマルガンさん達がいないので町や村には寄らず、小屋を異空間保管庫から出して野営しながら帰った。
理由はマルガンさんがいない状態で飛行車に乗っていると色々と面倒な事になりそうだから。グラダの町の検問をやっている正騎士さんは1度見ているのでそれほど驚かれなかったけど、まだ全然普及していない乗り物なので気を使ったのだ。悪い人に狙われると面倒だからね。
──グラダを出発して4日目の昼前。無事農場に到着した。
「お仕事、ご苦労様です」
農場には既にエンドール家から派遣された兵士の皆さんが住んでいて防衛に当たってくれている。
「貴方がファーマさんですね。これから宜しくお願いします」
「こちらこそ、これからお世話になります」
兵士さんはマルガンさんやマルコさんがレオナ達キャッツ族などの亜人や平民に差別や偏見のない人を厳選してくれたので、農場の防衛は安心して任せられる。
「ファーマさん、エミルちゃん、レオナちゃん、お久しぶりなのですぞ。やっとこちらに引っ越してくるのですな」
「お久しぶりですエルミナさん」
兵士さんから連絡がいったようでエルミナさんも僕達のところにやってきた。エルミナさんは1週間ほど前にここに引っ越してきたそうだ。ちゃんとエルミナさんお付きの秘書さんも一緒に来ているようで、エルミナさんの斜め後ろに控えている。名前はセビアスさん、50才前後の渋い男性だ。
因みにこの人もオリビアさんと同じで、いざという時に主人を守れるように日頃から鍛えているらしい。農場の兵士さんや正騎士さんと手合わせしても1対1なら互角以上に渡り合えるんだとか。
「僕達がここで暮らすのはもう少し後になるんですけど、今日は農業の指導をやってくれる人を先に連れて来たんですよ。この飛行車ってあまり人数が乗れないから、分けてじゃないとみんな連れて来られないんですよね」
「おお、この方達が農業指導の方なのですね。私はこの農場の一応責任者のエルミナなのですぞ。仲良くしてほしいのですぞ」
「貴方が農場の責任者の方ですか? そんな偉い人が私達なんかに丁寧にありがとうございます。私はリリと言います。この子はセト、後ろにいるのが妹のミミです。ただの平民ですけど、こちらこそ仲良くしてもらえると嬉しいです」
責任者だと名乗られてリリとミミは緊張気味だ。道中にエルミナさんの事は説明している。勿論、表向きのという事は話していない。
「エルミナ様、表向きとはいえ責任者という立場なのですから、いつもの口調では皆に示しがつきません。お気を付けください」
「あはは、気を付けるのですぞ」
エルミナさんが素のままの口調でリリ達と挨拶を交わしていると直ぐにセビアスさんがエルミナさんの耳元で注意する。エルミナさんは苦笑いしながら頭を掻いた。
僕としては素の方が親しみやすいかな? って思うけど、やっぱり立場的には不味いんだね。
「ところでファーマさん達は、今日からここが生活基盤になるのですか?」
「僕達、今日はここに一泊しますけど、明日には僕とエミルとレオナは一旦アインスに戻ってちゃんと引っ越してくるのは10日後くらいになる予定です」
「そうなのですか?」
「えっ? ファーマ達いなくなっちゃうの?」
「うん、一般奴隷の人や経理をお願いする人達の面接なんかがあるから、まだ暫くはアインスの方にいないといけないんだ」
置いて行かれるのは予想していなかったようでリリが少し不安そうな顔をしている。
「でも、直ぐに戻ってくるから安心して良いよ。僕達がいない間はゆっくりしてくれていいからね。仕事は人員が集まってから始めるから」
「うん……わかった」
まあ、知らない場所に置いてけ堀にされると思ったら不安にもなるだろうけど、向こうの家にはこれ以上人が入らないから連れていけない。こちらで住民登録をしなきゃいけないから、一段落したらゆっくりアインス見物に連れて行ってあげよう。
この日は完成した農場を見て回った。
農場の全体の広さはカナイ村より少し広い程度の敷地。防壁は村とは違い耐魔法煉瓦というデザリアの中級魔法程度では、びくともしない魔法(神術)耐性がある煉瓦で作られている。
防壁の高さは4m、厚さは1m、煉瓦の物理強度は通常の煉瓦と同じ程度なのだけど厚みを持たせているのでそう簡単に壊す事は出来ない。防壁の内側には高さ3m幅1mの巡回路が作られていて、防壁の内側から外の様子を窺う事が出来る。外敵に攻められた場合もこの巡回路を利用して身を隠しながら弓などで迎撃出来るようになっているのだ。
農場への入り口は僕達が入ってきた通用門だけ、門から農地までの100mが居住区になっていて今のところは農場入り口付近にしか建物が無いけど、いずれ農場経営が軌道に乗ってきたら住居を増やして作業員を追加雇用する予定だ。
門から入って直ぐのところには農場の防衛をしてくれる兵士さん達の兵舎が建てられている。兵士さんの数は全員合わせて20人、交代で10人ずつが防衛に当たってくれる。この兵士さん達はエンドール家から派遣されてきた人達なので給金はエンドール家が払ってくれるそうだ。
兵舎の左隣には兵士さん達のお世話をするメイドさん達の宿舎があり常時3人がここで生活する。
門から向かって右側には一般奴隷の人達用に4戸1棟の長屋が10棟建てられている。1戸の部屋の広さは10畳くらいで押し入れ収納付きだけど、台所やトイレやお風呂といった設備はなく、ただの四角い部屋。まあ、寝たりくつろいだりする為だけの簡素なものだ。
長屋の奥には共同トイレ、共同浴場、食堂を設置していて、一般奴隷の人達はそこを使うようになっている。トイレは男性用と女性用に分けてあるがどちらも和式の同じ便器同じ内装になっている。便器はどちらも10個ずつ設置してあり、まあ大人数でもそうそう込み合う事はないだろう。因みに全て水洗式だ。
お風呂も男女別になった銭湯のような造りにしている。洗い場を広く取り、洗い場にはシャワーと蛇口の両方を付け、服などの洗濯もここで各自が行う事が出来るように設計してもらった。浴槽には大人20人が同時に浸かっても大丈夫なくらいの広さを取っているのでゆとりをもって入れるだろう。男女別になっているけど、小さな子は1人で入ると危ないので年齢制限を設けて8才以下はどちらでも入って良い事にする予定。
食堂は学食のような感じの造りにして調理場と食堂がカウンター越しに繋がっている。食事はセルフサービスで受け渡しの予定。座席数は50。ここはランカとその家族に任せる事になっていて、食堂の2階はランカ一家の住居になっている。
兵舎の奥(農地側)に建てられたのは僕達の新しい家。
僕達の新居は日那国式の和風建築で、1階は20畳の居間、居間の右側に台所、左側にお風呂とトイレを作っていて、台所は食事部屋と兼用になっている。お風呂は今住んで居る家と同じシラヒの木で浴槽を作ってもらい、浴槽の広さは5人同時に浸かっても足を延ばせる広さになっている。最近、日に日に一緒に入る人数が増えているのでかなり広めの浴室を作ってもらったのだ。
まあ、無理に一緒に入らなくても良いのだけど、何故かエミルとレオナだけでなく、コテツそしてランカやアリッサまで一緒に入りたがるので困りものだ。一応、僕は男の子なんだけどなぁ……
まあ、それは置いておいて説明に戻ろう。
新居の2階は4畳半程度の広さの部屋が6つあり、各自の個室にしようと思っているのだけど、エミルとレオナは個室を持っても同じ部屋で寝る事になるんだろうな。
うちの家の左隣にはエルミナさんの家がある。エルミナさんの家にはセビアスさんとメイドさん2人も一緒に生活してエルミナさんのお世話をしてくれているそうだ。
余談だけど、セビアスさんには奥さんと3人の子供がいるらしく、家はアインスにあるらしい。メイドさんと交代で週に2日お休みがあって、みんな休みの日には家に帰っているそうだ。
閑話休題。
僕達の家の奥(農地側)には研究室が建てられている。僕達の家の前にはエミルの研究室、敷地面積は僕達の新居と同じくらいで、エルミナさんの家の前にはエルミナさんの研究室があり、広さはエミルの研究室と同じくらい。僕の工房は家から離して防壁の直ぐ近くに建ててもらった。
理由は鍛冶場があるから。万が一火事でも起こった場合に家の方に飛び火してしまわないように周りに建物のない場所にした。
研究室はエルミナさんの方はもうテーブルや機材が入っていて既に魔法道具の研究を始めているのだけど、エミルの方はまだ何もない空の状態。中の造りはそれぞれがビルダさんと話し合って、自分が使いやすいように設計してもらっているので僕もまだ見ていない。
僕の工房は、鍛冶場、木工場、革工場、研究室の4つの部屋があり、1人で使うには大きすぎる建物になった。材料をある程度保管出来るように設計して作ってもらったから新居より大きいんだよね。僕以外にも使いたいという人がいれば使わせるつもりだ。
流石にマルガンさんやビルダさんに呆れられたけど、建築費は僕が払っているので文句は言われなかった。因みに農場の建築物では、この工房に1番費用が掛かっている。(幾らかかったかは内緒)
農場の、どの施設の水回りにも魔法道具が使われていて、水道は地下水汲み上げ式、排水は全て農場の外にある排水処理場に流れるようになっている。
排水処理場というのは防水煉瓦で大きく作られたため池のようなもの。中にはジェリーワームという魔物が放逐されていて、流れてきた排水はジェリーワームが全て処理してくれる仕組みになっている。町なんかの汚水処理も下水に放たれたジェリーワームが行っているらしい。
ジェリーワームというのはスライム属に属する魔物で、別名水辺の掃除屋と呼ばれている。川や湖など水辺に生息する生き物で、雑食性で鉱物や土以外なら何でも食べる。野生のジェリーワームは普段、川底や湖底に沈んでいるのだけど、たまに水面に浮かび日光浴をしている姿を見かける事もあるらしい。
魔物と言っても生物に害を与えることは無い。ジェリーワームは体内にある核を傷つけられると死んでしまうので動くものを体内に入れる事を怖がるらしい。但し動かない物ならドラゴンでも消化してしまうらしいので、マヒ毒でもくらってジェリーワームの近くに倒れてしまうと大変な事になるから警戒は必要だ。
余談だけど、スライム系の魔物はジェリーワームの様に弱い魔物ばかりではない。種類によっては魔法薬では消せない毒を持っているスライムや生きたまま大型の魔物を捕食するスライム等、危険なスライムも少なくないらしい。
閑話休題。
居住区の方はこんなところだ。実際に生活してみて足りない物があれば追加でビルダさんのところに頼んで作ってもらう予定。リリ達の勧誘に成功したから明日にでもリリ達の家、ダン達の家、ワックスさん一家の家兼店を発注しておかないとね。
農地側はまだ荒れ地のままだ。何十年も放置されているので、直ぐに農地として使える状態じゃない。先ずは雑草や石などを取り除いて農地開拓しなければ使い物にならない。まあ、田植え時期までにみんなで頑張って開拓しよう。
農地には農場近くの湖から水路を引き水田作りをする時は水門を開いて水を供給できるようにしている。防壁内側の水路は農地全体に水を送れるようにしているので湖が枯れない限り農業用水に困ることは無いだろう。
水路には水辺の魔物が農場内に侵入出来ないように何重にも網を設置して魔物除けの魔法道具も設置しているので安全対策はバッチリだ。
農地の入り口直ぐ左にはポークンを飼うための施設を設置している。農地開拓にはポークンの力は必要なのだ。雌ポークンも一緒に飼えばミイルクも採れるので一石二鳥だ。
農地入り口の右側には納屋を設置している。納屋は収穫した作物の保管庫も兼用していて保管室は出荷する作物と農場で消費する作物の2部屋に分かれていて、室内は魔法道具によって15度の低温に保たれるようにしているけど、今は何も入っていないので魔法道具は停止中だ。
挨拶回りと農場見物を終えた後は新居に入ってのんびり過ごした。リリとミミに設備に使われている魔法道具の使い方を説明して、僕達が居なくても調理場やお風呂やトイレが問題なく使えるようにして、今日は何もない床にみんなで転がって寝た。町に戻ったら全員分の寝具を買わないとなぁ。
「じゃあ、戻ってくるまでリリ達の事をお願いします」
「はい、任せてほしいのですぞ」
朝になり、アインスに向かう前にエルミナさんにはリリ達が何か分からず困った時には、色々教えてあげてほしいとお願いして、僕達はアインスに戻った。
アインスに戻って最初に向かったのは商業ギルド。
「ただいま戻りました。マルガンさんを置いてきて本当に良かったんですか?」
戻って来たことをマルコさんに報告。
「ご苦労様。父は強引にでも置いてこないと、いつまで経っても帰る気配がなかったからね。丁度都合よくファーマがグラダに戻ってくれて助かったよ。何か父に文句を言われたら私に報告しなさい。兄と私で守ってあげるから」
それは心強い。怒られそうになったら助けてもらおう。
「それはそうと、学園から入学証と手引が届いているよ。入学の手続きは済ませておいたから後はこの手引きを見て必要な物を揃えておきなさい」
もう、届いたんだ。準備物ってなんだろう?
「何から何までお世話になりっぱなしで申し訳ありません。ありがとうございます」
「気にしなくて良いよ。君はうちの大事な家臣だからね。まあ、手続きをやったのは部下だけど」
手続きをやってくれた人にもお礼を言わなきゃね。
学園入学の手引を貰い、ギルドを後にしてアインスの自宅に戻った。
「ファーマさん、お戻りになられたんですね」
「お世話になっています。もう、向こうでの用は終わったので、あとは人材を確保して10日後くらいには農場に引っ越す予定です。長い間ありがとうございました」
ランカ達、というよりうちの警備をやってくれているギルドお抱えの兵士さんにお礼と今後の説明をしてうちに入る。
「「お帰りなさいませ、ファーマ様」」「ファーマ様、おかりー」
ランカ達は僕達に気が付くと笑顔で迎え入れてくれた。
「留守中変わった事はなかった?」
「特別変わった事はありませんでしたが、ジョブギルドとミックおじさんから言伝が届いています。あと、うちの家族がいつ頃から移住したら良いのかと聞かれました」
なるほど、人材の確保だけお願いしてグラダに行っていたから催促が来ているんだな。
「わかった、直ぐに対応するよ。ランカの御家族には準備が出来次第、直ぐにでも移住してもらって大丈夫だよ。もう設備は完成しているから」
「大方の準備は終わっているので後はファーマ様のお返事待ちだったんです。うちはいつでも大丈夫ですよ」
「じゃあ、経理の人と一般奴隷の人と契約が終わったら、みんなで一緒に農場に行こうか。仕入れとかもやっておきたいから5日後くらいに出発って伝えておいて」
「はい、直ぐに行ってきます」
この日は家でゆっくりする事にして、ジョブギルドとミッキィさんのところには翌日伺いますと連絡を入れた。




