第25話 ファーマ君、再びグラダへ行く その4
感想を頂きました。ありがとうございます。
「やっと帰ってきやがったか、さっさと飯作れ! ああっ!? なんだそのガキは?」
リリに連れられて家に入ってきた僕を見て二重顎で出腹の男が睨みつけてきた。
「なに勝手に客なんて連れてきてんだい!? さっさと追い出して食事の支度しな!」
続けて眉間に皺を寄せて睨みながらビア樽みたいな30過ぎぐらいの女性が怒鳴る。リリもミミも僕達が旅に出た頃よりかなり痩せているのに、この2人は栄養過多な体形をしている。腹立たしい事この上ないけど、今はご機嫌を取っておこう。
「突然お邪魔して申し訳ありません。僕はファーマというリリとミミと仲良くさせてもらっている者です。あ、これ良かったら食べてください。王都の有名菓子店のお菓子です」
あくまでも冷静に柔らかい物腰で丁寧に対応し、相手に好印象を持たせる。交渉をするにも相手が話を聞いてくれないとどうにもできないから。エンドール家のタグを見せれば簡単なんだろうけど、あれは理不尽な権力から身を守る為にと貰った物なので一般人相手に使うつもりはない。まあ、使わなくてもこの人達なら問題なく交渉はできそうだ。
「おぉ、王都の菓子だと? 気が利くじゃねぇか」
「有名菓子店だって? あんた金持ちなのかい?」
流石は有名菓子店、さっきまで嫌そうに睨んでいた人達だとは思えないほど表情が緩んだ。本当はリリとミミそれにワックスさん一家に食べてもらおうと持ってきたものなんだけど仕方ないよね。
「いえ、お金持ちという程ではないですよ。まあ、それくらいの菓子ならいつでも買えるくらいの収入はありますが」
「うっまぁー、なあんじゃこらぁ」
「この世の物とは思えないくらい甘いわねぇ」
渡した菓子を早速1口食べた2人は目を見開いて恍惚とした表情を浮かべている。
「喜んでもらえたのなら嬉しいです。1つ50デニール程度のお菓子なので、ひょっとして気に入って頂けないかと心配していたんですよ」
「50デニール?」
「って、銅貨でいったら何枚なんだい?」
どうやらこの人達はダン達よりお金の計算が出来ない人のようだ。隣に座っているリリは50デニールと聞いただけで目を見開いているのに、いい大人がこれではダメだと思うんだけど?
「銅貨で数えると50枚ですね。銀貨で言ったら5枚です」
「ぎ、銀貨5枚!?」
「これ1つがあたしの給金1日分より多いのかい?」
ん? 2人は仕事していないと聞いたんだけど? リリにこっそり聞いてみたら奥さんはここに来るまでは居酒屋で働いていたと聞かされていて、現在無職は間違いないらしい。
「あ、こらっ! そんなに1人で食うんじゃねぇよ」
「なに言ってんだい、あんただってもう3つ目じゃないか」
醜い争いが起こっている。もう、僕の事なんて忘れているんじゃないだろうか?
「それで、今日はお二人に話があって訪ねさせてもらったんですが、よろしいですか?」
2人が渡したお菓子を平らげるのを見計らって交渉を始める。
「おう、良いもん貰っちまったから話くれぇ聞いてやらぁ」
「そんな事よりもう無いのかい?」
おばさんは欲張りだな……
「今日、伺ったのは近々僕が始める事業にリリとミミを勧誘、つまり雇い入れる為の話をする為です。2人とも快く承知してくれてグラダから離れる事になったのですが、弟のセトの事を置いていくのが心残りだというので、セトも一緒に連れて行かせてもらえないかと、お二人にお願いに来た次第です」
「なっ、ふざけんな! こいつら連れていかれて誰が俺達の世話をするんだ!」
「馬鹿な事言ってんじゃないわよ。あたしゃ許さないからね」
「自分の世話くらいは自分ですれば良いと思いますが? 言っておきますけどリリとミミはあなた方の意向に関係なく、本人の意思であなた方の下を離れる事が出来るんですよ? ですが、それでは働いていないあなた方が明日から食べるにも困るでしょう。そこでお2人に良い話があります」
「良い話?」
「金でもくれんのかい?」
おばさん図々しいな……
「先程リリから聞いた話ではミミに身売りをさせてお金を得ようと計画しているのですよね?」
「それがどうした? 5人が生活するのに無理があるから子供を身売りさせるなんて、どこでもやっている事だろう?」
無知もここまでくると罪だな。稼ぎ頭の2人の内1人を身売りさせたら、その後の収入が半分になってしまう事ぐらい考えるまでもなく分かるだろうに。一時的にまとまったお金が入ったところで直ぐに生活が困窮する。
「先程も言いましたが、リリとミミは別の町に移り働く事が決まっています。ですので、真っ当に生活したいのであればあなた方2人が働くしかありません。勿論うちで雇うのはお断りですが」
「だからそいつらがいなくなったら困るって言ってんだろうが!」
「ですから、あなたはリリとミミの保護権を持っていないのだから出て行く2人を止める権利はありません。そもそも出て行けと日頃からおっしゃっているのはあなたなのだから、希望が叶ってよいのではないですか? ですが、2人に出て行かれると明日から食べるのも困る事になるのは僕としては忍びない。そこで、セトを奉公に出してはどうかと商談をしに来たのです」
「奉公ってなんだ?」
「奴隷とは違うのかい?」
「奴隷とは違います。簡単に言えば仕事をさせる為に雇い主に保護権を譲るって事ですね」
「こんなガキにさせれる仕事なんかねぇだろ?」
「直ぐには働く事が出来なくともあと3年もすれば働ける年齢です。今の内から教育すればその頃にはしっかり仕事をやってもらえるでしょう。ですので今日から奉公に出してもらえるならセトの給金の半分を仕送りという形でお二人にお支払いします。期間は、そうですね。セトが成人するまでの間の12年間、衣食住の面倒は奉公先であるうちで面倒を見ますので、支払う給金はそれほど多くはないですが、年間で金貨6枚くらいですね。セトにも生活がありますので仕送りは年に金貨3枚という事になります」
「き、金貨だと!?」
「ええっと、それだと12年でどれくらいになるんだい?」
「12年だと金貨36枚になります。勿論、セトが何か不測の事態で働けなくなればその時点で仕送りは止まりますが」
「それじゃ困るだろ」
「そうだよ。1年で切れちまうって事もあるんだろ?」
計算は出来ないくせにそういうところは理解できるんだな。
「そこで1つ提案があります。セトの保護権をこの場でリリに譲り、今後一切3人との縁を切るという書類に認めの印を押してくれるというのなら、この場で12年間分の仕送り額を纏めてお支払いします」
「ホントか!?」
「悪くないねぇ。でも、そんな事をして捕まったりしないのかい? 身売りは奴隷商を通さないと正騎士に罰せられるんだよ?」
「先程も説明しましたが、これは身売りではなく、あなた方の保護を離れセトが仕事に出て行くだけなので、法律的には何の問題もありません。それに、書類にはあなたがリリに保護権が移譲すると書きますので、万が一調べられたとしても自分では育てられないから成人した娘に任せたと言えば怪しまれる事もないですよ?」
「なるほど、そんな手があったのか。手のかかるガキをリリに世話させて金まで貰えるってんならありがてぇ奴隷商に持ってっても大した金にもならねぇしな」
「そうだね。元々ガキなんて作る気なかったし金貨が貰えて引き取ってくれんならありがたいねぇ」
ブラックな小説に出てきそうなクズ発言だ。前世の僕ならこのくらいの事は普通だと思っていただろうけど、現世でデーア母さんに育てられて、普通の親というのがどういうものかが分かった今なら、この2人や前世のあの人達が最低な人間だとよく解る。まあ、今はそんな事どうでも良い。
「では、交渉は成立という事で構いませんね?」
「おう」
二つ返事で交渉は成立。楽な相手だったな。
直ぐに契約の書類を作成し、内容を再度確認させる。説明をあまり理解はしていないようだけど、しっかりと確認させているという事実があるから相手が理解していないのはどうでも良い。
契約書の内容はリリ、ミミ、セトの3人と縁を切り、セトの保護権をリリに移譲する事を承諾する契約だ。これに血判を押させて役所に提出すれば役所の確認が終わり次第、この2人とリリ達は法律上他人になる。もう借金取りもリリ達から徴収する事は出来ない。
「この6枚の書類に血判を押せば今後、リリ、ミミ、セトとあなた達2人は一切関係のない間柄になりますが宜しいですね?」
両者が保管する為に3枚ずつ、計6枚の契約書を作成し最後の確認をさせた。
「ああ、かまわねぇから金貨よこせ」
「ほら、もう押したよ」
子供を手放すのに何の躊躇もなく2人は右手親指に針を刺し血判を押した。その契約書に見届け人として僕の血判とセトの保護権受諾と縁切り承諾を代表してリリの血判を押す。
「はい、ではこれが約束の金貨36枚です。確認してください」
白金貨3枚金貨6枚を渡しても良かったんだけど、こういう人たちは枚数が多い方が喜ぶから態と全部金貨で渡した。使いやすいように金貨を多めに持ってて良かった。
「うおー! マジで金貨が入ってやがる」
「36枚ってどうやって数えるんだい?」
「馬鹿野郎、そんなの10枚ずつ積み重ねて……ほれ、これで30枚だ。あとは1、2、3……」
一応数え方は知っているようだ。それにしても10以上の数が分からないというのは生活に支障がでないのかな?
おばさんに関してはそれすらも出来ないようだ。
「その書類は失くさないようにしてくださいね? 失くした場合は、もし正騎士さんに調べられた時、こちらに確認が取れるまで牢に拘束される可能性がありますので」
まあ、嘘だけど。直ぐに捨てられたら役所に確認してもらう時に時間が掛かてしまうからね。
「ああ、分かってる、分かってる」
本当にわかってるのかな?
「ファーマ様、出発の準備が出来ました」
僕達が契約交渉をしている間にエミル、レオナ、ミミは家を出て行く為に必要な物や思い出の品をエミルのアイテムボックスにしまい終わり、戻ってきた。
「早かったね。こっちも丁度話が付いたところだよ」
「早いって言ってもあんまり持って行くものなかったしね」
「じゃあ、行こうか」
金貨に夢中の2人にはあえて声を掛けず僕達はリリ達の家だった場所を出た。
「ごめんねファーマ。あんな大金使わせちゃって」
「大金って程の金額じゃないよ。真面目に働けば誰にでも貯められるくらいの金額だし、あれくらいでリリ達が自由になれるんなら安い物だよ」
「うん、ありがとう。いっぱい仕事頑張って絶対に返すからね」
「返さなくても大丈夫だよ。住み慣れた町から離れてもらうんだからそのお礼だと思ってよ」
リリとミミは、初めて人界に来て知り合いもいない心細い頃に一緒にいてくれた恩があるので、これくらいではまだ恩に報いていない。それどころか今回は僕の都合で移住までしてもらうんだから、お金を返してもらう必要なんてないのだ。
「さて、ちょっと遅くなったけど宿に行こうか」
「ちょっとそっちは西街の方面よ?」
「そうだよ。西街の宿は高いんだよ?」
宿に向かおうとしたところリリとミミに止められた。
「ギルドにお願いして西街の宿を取ってもらったんだよ。部屋に浴槽が付いている方がゆっくり休めるからね」
ニーナさんに浴槽が付いていてちゃんと調味料やソースを使った料理を出す宿を希望したら西街の宿を紹介された。少し高級な宿だけど今の財力なら普通に泊まれるらしい。
「お、お金は大丈夫なの? さっきも沢山使わせちゃったし……」
リリはさっきあの人達に渡した金貨を思い出しているのか、ワタワタして少しパニック気味だ。
「うん、全然問題ないよ。ずっと使ってなかったから、ギルドの口座に使いきれないくらいのお金が貯まっているからね。リリもミミもずっと辛い思いをしてきたんだし、今日は新しい門出を祝って思いっきり贅沢しちゃおうよ」
お金は戻って来てからも減るどころか増える一方だし、これで少しでも元気になってくれたらそれでいい。
「ファーマ、お金持ちー」
リリは無言で固まり、ミミは目をキラキラさせて僕を見つめてくる。
納得してもらえたので西街の宿に向かう。ギルドにお願いしてからもう2時間ぐらい経つので連絡は行っている筈だ。
今から行く宿にはギルドがマルガンさんに許可を得て、マルガンさんの名前を使って予約してくれているので絶対に断られる心配はない。
ギルドの紹介状を持って紹介された宿に到着すると、リリとミミが目を丸くしてぽかんと口を開けて立ち尽くした。
「結構、綺麗な宿だね。ここなら料理も美味しそうだ」
「たぶん、今まで宿泊した宿の中でも1番の高級宿ですよ?」
「レオナが一緒でも大丈夫かな?」
レオナは心配しているけど、なんの問題もない。何せエンドール家で当主より権力のある人から直々に紹介されているんだから。
「い、いらっしゃいませ。ご宿泊の方ですか?」
宿に向かうと入り口に立っていた紳士服に身を包んだ男の人が、目じりをピクピクさせながらも丁寧に声を掛けてくれた。僕達の身なりを見て怪しんでいるのだろう。
「商業ギルドからの紹介できました。これ、紹介状です」
「3人でご宿泊と伺っておりましたが、人数が多いようですね?」
「すいません。事情がありまして6人になりました。入れますか?」
「はい、部屋に空きはありますので問題ありません。中へどうぞ」
良かった。拒否されたらどうしようかと思ったよ。レオナの外套は外さないようにとだけ注意を受けて中に案内された。
この宿は平民が宿泊できる宿の中では最高クラスの高級宿らしい。普通は豪商や上級冒険者等のお金持ちしか泊まれないらしく、キャッツ族のレオナは中に入れてもらえるだけで特例なんだとか。
マルガンさんクラスの紹介が無ければ、ギルドの紹介というだけでは絶対に泊まれないらしい。
「ではスウィートルームに2泊の御予定で構いませんね?」
「はい、お願いします」
6人が纏めて泊まれる部屋は1泊1万2千デニールのスウィートルームだけらしいので、その部屋を借りる事にした。
「それと1つ頼まれてほしいのですが、既製品で構いませんので、この3人に合いそうな服を適当に見繕って買って来てもらえませんか?」
さっきから宿の人がリリ達を気にしているようなのできっと服の汚れ具合が気になるのだろう。土の付いた作業着そのままだもんね。宿賃とは別に1万デニールと手数料で1000デニールを手渡すと受付さんの表情が和らぎ。
「かしこまりました。直ぐに用意させます。スイートルームには部屋義を御用意しておりますので、入浴後はそれをご着用下さい」
と、丁寧なお辞儀をされた。部屋着まで用意されているとは流石スイートルームだ。
「い、1泊で1万2千デニール……ファーマ君、ほんっとうにお金大丈夫なの? 破産しちゃうんじゃ……?」
「白金貨なんて今日初めて見たよ」
「白金貨だけじゃなくて金貨も今日初めて見たわよ。ファーマってどれくらいお金持ちなの? もう、別世界の人みたい」
リリとミミは僕が払ったお金を見て腰が抜けそうになっている。ある意味別世界の人というのは合っている。転生者だから、なーんてね。因みに白金貨はリリ達の服を買ってきてもらう為に渡したお金で、部屋代は口座からの引き落としになっている。流石に手持ちが無くなってきたから、明日また引き落としておかないとな。
「心配しなくても同じ世界の住人だよ? 頑張ればリリ達でも今の僕ぐらいのお金は稼げるようになるよ」
魔法道具が作れなくてもアイデア次第で稼ぐことは出来る。何せ新下着だけでも2年でミリオンのマージンが入ってくるんだから。
「無茶言わないでよ。私はファーマ君と違って普通の人間なんだからね?」
「そうそう、普通の人間には無理」
失礼な、僕だって普通の人間……とは言い切れない。チート過ぎて否定できないのは辛いな。
スウィートルームに案内され、中に入ると真っ白な壁にベージュの絨毯とレースのカーテン、金をあしらった装飾品、高そうなテーブルとソファー、広さはリビングだけで20畳くらい、個室が6つあり各部屋にベッドが置かれている。
ベッドはシングルサイズで寝藁ではなくちゃんとした綿が入った布団が敷いてある。僕達が今まで泊った宿では木枠に寝藁を敷き詰めてその上に綿生地を敷いたベッドだった。掛け布団は多種多様の魔物の毛を混ぜ合わせて詰めた薄いものが一般的なんだけど、この部屋は掛け布団の中も綿を使っている。
因みにリリの元家では床に寝藁を敷いてブロップという麻布のようなごわごわした布を被せていた。勿論掛け布団もごわごわな布。肌触りは悪いけど通気性と保温性に優れている布だ。最低ランクの宿だと寝床はこのブロップが敷かれているだけで寝藁すら無いのだ。
「じゃあ、早速お風呂に入ろうか。椅子に座るにも、汚れたままだと宿の人に悪いからね」
受付でも遠回しに風呂に入って部屋着に着替えろって言っていたから直ぐに入っておかないとね。
「みんなで入るのは久しぶりね」
「うん、洗いっこしようよ」
「ミミ、レオナが背中洗ったげる」
「懐かしいですね。初めて皆様にお会いした頃を思い出します」
このメンバーが集まれば一緒にお風呂は確定事項だ。お風呂は既にお湯が溜められている。というか魔法道具で24時間定温になっているらしいので、いつでも入れるのだ。スウィートルームだけあって広さも充分あって、全員で入っても問題ないくらいの浴槽が設置されている。設置されているというよりは大衆浴場のように防水レンガで作られた浴槽だ。
流石に肌が触れ合うぐらいの近距離で浸からなくてはいけないけど、狭いとは感じない広さだ。
お風呂上りに用意されていたパジャマのような部屋着に着替えたのだけど、とても良い生地を使った肌触りの良い服だった。あとで聞いたところ、この部屋着は貰えるという事なので有難く貰う事にした。
因みに、ここに泊まる殆どの人は置いて帰るから、それらは廃棄されるらしい。良い服なのに勿体ない。
お風呂から上がって部屋着でのんびりくつろいでいると、宿の従業員さんが服を買って来てくれた。
「着替えを合わせて1人2着ずつ購入させていただきましたが、これで宜しいでしょうか?」
「ありがとうございます。3人に試着させてくるので、少し待っていて下さい」
リリ、ミミ、セトに買ってきてもらった服を渡し来てもらうとサイズは概ねあっているようで無理なく着られる。あの短い時間で3人の体形を把握できるとは高級宿の従業員は一味違うな。
「ちょっとファーマ君。こんな服私には似合わないわよ?」
「えっ? 凄く似合っているよ?」
流石は高級宿の従業員さん、僕とはセンスが違う。
「皆さんよくお似合いです。どこかのお嬢様、お坊ちゃまみたいですね」
「ひらひらして動きにくそうだね」
レオナの服の基準は動き易さなので聞き流すとして、3人ともとても上品な服装になって少し大人な雰囲気になった。
「素敵な服をありがとうございました。貴女にお願いして良かったです」
「喜んでいただけたのなら光栄です。お預かりしたお金が少し余りましたのでお返ししておきます」
「いえ、それは良い仕事をしてもらったお礼に取っておいてください」
おつりは200デニール弱なのでお礼に渡しても問題ないだろう。
「ありがとうございます。では、食事の用意が出来ましたら、お持ちします」
丁寧にお礼をされて従業員さんは部屋を出て行った。
この後出てきた食事も希望通り、ちゃんとしたソースの掛かった美味しい料理(高級フレンチみたいな料理)だった。パンもカチカチの黒パンではなくふんわり柔らかくバタアの香りがする白パンでとても美味しかった。リリとミミはあまりの高級料理に最初は手を付けるのを遠慮していたのだけど1口食べてからは我を忘れて一心不乱に食べていた。
セトには、宿が気を利かせてくれて子供用の食事を用意してくれた。「おいちぃー」といって不器用にフォークを使いながらニコニコしている。やっとセトの笑顔が見られて良かったよ。
──夕食後。
「ファーマ様と一緒に寝るのは私です」
「ダメ、レオナが一緒に寝る」
シングルベッドでは狭くて3人一緒には寝られないので、エミルとレオナのどちらが僕と一緒に寝るかで揉めている。個室が6つあるので1人ずつ分かれて寝れば良いとは思ったけど、あまりにも真剣な顔で言い合いしているから突っ込めない。
「そんなに喧嘩しないでジャンケンで勝負して。勝った方と寝るから」
仲良く喧嘩しているところ悪いけど、セトが少し怯えているのでさっさと決着をつけさせよう。
この後、6回のあいこの末レオナが勝利した。
「くっ、折角の2人きりのチャンスを」
「やったぁ、勝ったぁ」
明暗がはっきりと分かれエミルは四つん這いになって落ち込み、レオナは可愛くジャンプしながらはしゃいでいる。
一緒に寝られないくらいで泣く事ないと思うんだが……
「もう1泊するんだからそんなに落ち込まなくても……明日はエミルと一緒に寝るから、ね?」
「本当ですか?」
「ええー、明日もレオナが一緒に寝たかったのにー」
さっきまで泣いていたとは思えないほど良い顔を向けてくるエミル。レオナは少し拗ねたような顔をしている。
今日は僕とレオナ、エミルとミミ、リリとセトが一緒に寝る事になり、少し早めの就寝についた。




