第21話 ファーマ君、忠告を受ける
セリウス様と友達になった翌日。いつものように王宮に到着すると今日は中庭ではなく王宮の一室に案内された。
「ファーマ様を連れてまいりました」
コンコンと2回ノックしたメイドさんが中の人に声を掛けると、部屋の中から「入りなさい」と女性の声が聞こえた。
「失礼します」
中にいたのはセリウス様と王様ともう1人、セリウス様と同じ髪の色をした綺麗な女性だった。髪の色と顔つきがよく似ているので、セリウス様のお姉さんかお母さんだろうな。僕が中に入るとメイドさんは静かに頭を下げ、そのまま部屋を出て行った。
「おはようございます。今日はどのような御用ですか? ひょっとして僕、何かやらかしました?」
何となく緊張感漂う雰囲気で何かあったのだと察した。特に女性の僕を見る目がとても厳しい。
「昨日、セリウスからファーマと友人になったと聞かされたのだが本当の話か?」
「はい、平民の僕が失礼かとは思いましたが、折角仲良くなれたので、友達になれれば嬉しいなと思い、僕の方からお願いして友達になって頂きました。何か不味かったのでしょうか?」
「『不味かったのでしょうか?』ではありません。平民が王族と懇意にして一体何が狙いです? 事と次第によっては只ではおきませんよ!?」
狙いと言われてもよく分からないけど、セリウス様が危ない目に遭うかもという事を心配しているのだろうか? 危害を加えようなんて気はさらさらないのだけど?
「まあ、そう熱くなるな、セシリア。ファーマ、王族と友人になるという事がどういう事かわかっているか?」
……うーむ、平民と王族という立場の違いでおこがましいと思われているだけかと思ったけど何かあるようだ。
「『どういう事』と言われましてもよく分かりません。僕はただ、セリウス様ともっと話したり遊んだりして、セリウス様の事をもっとよく知って仲良く出来れば良いなと思っているだけなので」
「他意はないと?」
「ありません。お疑いなら魔法道具で調べて頂いて結構です」
「王族と懇意にしているという立場を利用して良からぬ事を考えているという事はないか?」
いやいや、只の友達が立場とか関係ないよね? 利用できるものなのか?
「そんな事、考えた事もありませんよ。そもそも懇意にしているだけで立場を利用できるなんて知りませんでしたし」
「では、覚えておくと良い。自分に権力がなくとも懇意にしている者、後ろ盾になっている者に大きな権力があれば、それはその者に権力があるのと同じだと周りの者は思うものだ。実際にそれを目的に近づこうとする者は多い。ファーマもエンドール家の家証を持っているのなら実感したことはないか? それを見せただけで相手の態度は変わっただろう?」
なるほど、確かにそうだな。この家証があったから回避できた揉め事は多い。持っていなかったら旅はもっと大変なものになっていたかも知れない。王族と懇意にしているというのが周知されると同じ事が言えるという事なのか。
「陛下のおっしゃる通りですね。考えが足りませんでした」
「うむ、それが理解できたのなら良い。これからは相手と己の立場を考えてものを言うようにな」
「はい、勉強になりました。でも、これだけは信じてください。僕は決してセリウス様の立場を利用しようとして友達になってほしいと言った訳ではありませんし、これからもそういう事をしようとは思っていません」
「今がそうでも、いずれは王家の権力を利用しようとする筈です。平民の友人など認めません」
うーん、やっぱり立場の壁は大きいのか……でも、昨日とても嬉しそうにしていたセリウス様は、今は悲しそうに下を向いている。もう少し頑張ってみよう。
「もし、王家の方から見て、この先僕がセリウス様を利用しようとしているように見えたのなら罰してくれても構いません。それでもセリウス様と仲良くしてはいけませんか?」
「いい加減にしなさい! それ以上妄言を吐くのであれば不敬で罰しますよ!?」
「まあ待て、セシリア。セリウスは、その内気な性格と感情表現の下手さで同年代の友人が1人もおらぬ。ファーマは平民とは言ってもエンドール家の家臣だ。多少、交流を持たせてみるのも悪くはないと思うのだが、どうだ?」
やっぱりそうなんだ。昨日友達の話になった時に分かりやすく落ち込んでいたからそうじゃないかとは思っていた。
「ダメです。セリウスには家柄にあった者と付き合ってもらいます。平民の友人などありえません」
やっぱり駄目か……
「では、こういうのはどうだ。友人になるのではなく、セリウスの内気な性格を少しでも変える為の訓練として、ファーマには月に1度王宮へ顔を出し、セリウスの傍で会話や遊戯に付き合わせるだけの役目を務めてもらう。この程度ならよかろう?」
「は、母上。私からもお願いします」
王様が真剣な目をして、セリウス様が少し目を潤ませてセシリア様を見つめると、やはり我が子の涙には弱いのか、セシリア様が気圧されているようだ。
「わ、わかりました。その程度なら許可しましょう。ですが、あくまでも月に1度セリウスを人に慣れさせる訓練の為だけの役目を与えるだけです。決して友人などとは吹聴しないように」
「ありがとうございます。お役目、真摯に務めさせて頂きます」
「ありがとうございます、母上」
半泣きで笑顔を向けるセリウス様の顔を見て少し照れたように顔を背けるセシリア様。
「い、行きますよ」
そのままセリウス様の手を引いて部屋を出て行ってしまった。
「面倒な娘ですまんな」
「いいえ、母親の立場ならセシリア様の態度は間違いではありません。セリウス様を思っての事なのでしょうから仕方のない事だと思います」
「ふっ、会議の時から思っていたが、ファーマは子供とは思えぬほど大人びた思考の持ち主だな。セリウスの相手をしてもらう日時は追って連絡する。そうだな、アインスの商業ギルドを通じて沙汰を出す事にしよう」
「はい、お願いします。あ、そうだ。月に1度のお相手なのですが、僕は年内は色々と忙しくて王都に来る時間が取れそうにないんです。セリウス様のお相手をする役目は年が明けてからでも構いませんか?」
「そうだな。セリウスは楽しみにしているようだが急ぐ事もない。セリウスには俺から伝えておこう」
「はい、お願いします。それと、これをセリウス様に渡していただけないでしょうか?」
収納魔法道具から囲碁セット(碁石、碁盤、囲碁の本4冊)を取り出して王様に手渡す。
「なんだこれは?」
「これは僕が以前生活していたところで教わった囲碁という遊戯の道具と遊戯説明書です。昨日、セリウス様とお話をして興味がおありのようでしたので用意してきました」
用意してきたというより、僕の異空間保管庫には囲碁仲間を増やすために、興味を持ってくれそうな人に渡すための囲碁セットが5セット収納してあるのだ。
「ふむ、以前生活していたところというのは帝国の事か?」
「いえ、僕は帝国側の森で拾われましたが暮らしていたのは帝国ではなくグラダの近くの山奥です」
「グラダ近郊の山奥に人が生活している場所などあったか? 山奥に村などは作っておらぬはずだが?」
「いえ、村ではありません。そこに暮らしていたのは僕と育ての母の2人だけでしたから」
情報は混ぜて話しているけど嘘は言っていない。生活していたのは山奥(まあ、別次元だけど)だし、囲碁はそれ以前生活していた前世で教わった。
「母子たった2人だけでよく無事に生活出来ていたものだな」
「はい、母はとてつもなく強いので」
そりゃあもう、この世界で最強というか強さの次元が違う。デーア母さんがその気になればこの世界は無に帰るからね。
「まあ、それは良い。これを渡しておけば良いのだな」
「はい、お願いします。次にお会いする時に一緒にやりましょうとお伝えください」
「伝えておこう。だが、ファーマがやりたい遊びだけを覚えさせるのではセリウスが不公平だ。ファーマもセリウスの好きな遊びを覚えろ。戦戯を1セット持ってまいれ」
王様が待機していた執事さんに支持を出すと、執事さんは部屋を出て行き四角いマス目の入ったボードと人を模った駒の入った箱を持ってきた。
「これは戦戯というデザリアの貴族であれば誰もがやっている遊戯でな。セリウスは身近な大人とはよく対戦するのだが同年代の者と対戦した経験がないのだ」
デザリアにもこういう娯楽物があったとは知らなかった。あとで知った話なのだけど、デザリアにもボードゲーム系の娯楽物は幾つかあるらしい。以前に探しに行ったダンキー・ホテイになかった理由は、読み書きや計算すらできない平民では、ルールを理解できず遊ぶことが出来ないので、平民しか利用しない店に置いても売れないから今は置いていないという事だ。貴族が買い物する店には普通にあるらしい。
因みに一般平民はトランプで神経衰弱やババ抜きやポーカーのような遊びは出来てもブラックジャックは出来ないらしい。計算が出来ないから。
「わかりました。次来る時までにセリウス様のお相手が出来るように、しっかり覚えておきます」
戦戯は将棋やチェスと同じで、マス目の入った盤上で交互に1コマずつ動かして相手の王を取った方が勝ち。違うのは駒の取り方と運の要素があるという事。将棋やチェスのように自分の手番に駒を相手の駒に重ねると取れるのではなく、攻撃範囲に入った敵にダイスを使って攻撃を仕掛け、成功すると駒が取れるんだそうだ。駒によって強さや相性というのが存在していて、相性の良い駒で攻撃すると成功率が高く、逆に相性の悪い駒で攻撃をすると成功率が低くなる。駒を動かせる歩数や動かせる方向にも制限があり、弓兵や魔法兵という2マス離れた場所から攻撃できる駒や2マス同時に攻撃できる駒があり、その辺も考えて駒を動かさなくてはいけない。
ダイスの振り方は決まっていて、握った状態から器の中に落とすのが決まりだ。以前はそういったルールがなかったらしいのだけど、その頃は振り方の上手い人が出したい目を出せてしまっていたので、ルールの改正が行われたそうだ。
異世界版の将棋かぁ……知略と運で勝負が決まるというのは新しいな。セリウス様との対戦が楽しみだ。
5日後、御者さんの飛行車教習も終り、僕はアインスに戻った。




