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ファーマ君の気ままな異世界生活  作者: 幸村
第3章 農場建設
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第20話 ファーマ君、友達が出来る?

 会議の日から4日、僕はまだ王都にいる。理由は飛行車の運転を王家お抱えの御者さんに教えるためだ。


 マルガンさんは会議後アインスに帰り、グラヴァさんは王都にいるのだけど、忙しいようであれから1度も顔を見ていない。


 僕はエンドール家のお屋敷の庭の離れの迎賓館に宿泊し、毎日朝8時に迎えに来る王宮の馬車に乗って運転を教えに行っている。


 エンドール家の迎賓館は本宅に比べると小さいのだけどかなりの豪邸で、部屋は20畳ぐらいのリビングと10畳ぐらいの個室が4つ、各部屋にベッドやらタンスやらが備え付けられていてトイレが2か所、お風呂は5人入ってもゆとりがあるぐらい広い浴槽で大理石のような白い石で作られている。


 僕のお世話をする専属のメイドさんが3人と料理人さんが2人常に控えていて、お茶やお菓子や食事は頼めばいつでも直ぐに用意してくれるし、何か質問があれば何でも丁寧に教えてくれる。それに留まらず、お風呂に入ると背中を流してくれるし、着替えまで手伝ってくれる。


 あまりに待遇が良すぎて逆に居心地が悪い。因みにメイドさん達は侯爵家より下の貴族家の御令嬢らしいので、こっちが気を使ってあまり気が休まらない。手伝いを断って自分でやろうとすると『旦那様に叱られます』と、困った顔をされるので断る事も出来ない。


 余談だけど、メイドや執事といった貴族家の使用人の職は貴族家の御令嬢や家督を継がない御子息には正騎士と並んで人気の仕事なんだとか。特に上級貴族家の使用人は給金がかなり良いらしく、偉い人やお金持ちもちょくちょく尋ねてくるので出会いも多い、更に使用人は雇っている家が後ろ盾についてくれるので権利や権力はなくても真面目に仕事さえしていれば雇用主が守ってくれるらしい。まあ、人気があるだけに競争率はかなり厳しいらしい。特に希望者は女性が多いのでメイドの競争倍率はかなり高いんだとか。


 閑話休題。


 今日もメイドさんに見送られ王宮の馬車に乗ってお城に到着。


 早速、訓練開始だ。因みに練習用には僕の飛行車を使っている。王様の飛行車を練習で傷つけたら御者さんの職が無くなってしまうので仕方ないだろう。


 いつものように王宮の中庭で王宮御者、御者頭のクラウさんに飛行者の運転を教えていると中庭の庭木の陰からじっとこちらを見つめる1人の男の子を発見した。


 年は僕より少し下くらいかな? 紺色に近い青い髪、きりっとした眉、身なりはかなり良さそうなので貴族の子供かな? 睨んでいるかのように真剣にこちらを見つめ、ずっと飛行車の進む先を追いかけるように首を回している。


 たぶん飛行車に興味があるんだろうな。講習が終わるまで見ていたら声でもかけてみようかな?


 そんな事を考えながら2時間ほど御者さんの助手席で教えていると、お城の方から1人の男性が歩いてきた。


「陛下がお見えになったみたいですよ。一旦練習を休憩しましょうか」


「では、最後に中央に止めてみます」


 御者さんの運転はとても丁寧でまだ運転歴4日なのに変な急加速や急停止のノッキングが無く静かに中庭の中央に停車した。


「もう、教える事がないぐらい完璧な運転ですね」


「いえいえ、まだ咄嗟の時に慌てて回転させてしまいますから公道は走れません」


 教習中には王宮の警護をしている王宮騎士さんが飛行車の前に飛び出してくる事がある。これは王様の命令で訓練の為に態とやっている事なのだけど、いくら何でも体を張り過ぎだ。本人達にしてみれば避ける自信があってやっている事なので問題ないらしいのだけど、万が一ぶつかったら大怪我では済まないかも知れない。


 まあ、そのお陰でクラウさんの上達ぶりは目を見張るものがあるんだけど、木陰からいきなり飛び出してくるので緊張は絶えないようだ。因みにこの訓練法は僕が頼んだわけではない。馬車や牛車の操車訓練の時も同じ事をやっているらしい。公道では馬車や人の飛び出しは稀にある事らしいので、大事故を起こさない為には必要な訓練らしい。


「やっておるな。操車の訓練状況はどうだ?」


「おはようございます陛下。もう教える事が殆どないくらいに上達していますよ。あとはひたすら実践あるのみですね。公道を走れる日も近いと思います」


 王様の質問に正直に答えると


「そうか、楽しみにしておるぞ」


 王様は嬉しそうに御者さんの肩に軽く手を置いて声を掛け、御者さんは軽く微笑んで頭を下げた。


「ところで、今日は何か御用ですか?」


「いや、用という事は無いのだが、公務の手が空いたのでな。少し様子を見に来たのだ。お前達は今から休憩か? もし、休憩に入るのなら代わりに俺にも操車をさせてくれ」


 会議の時と違って口調が柔らかい。普段は自分の事〝俺〟って言うんだな。


 会議の日にかなり真剣に僕の運転を見ていたから運転に興味があるのは気付いていたけど、少ない空き時間に乗りに来るとは……普通は王族や貴族は自分で運転はしないんだろうけど、やっぱり新しい物は自分で使ってみたいよね。


「では私は少し休ませてもらいますのでファーマ様は陛下をお願いいたします」


 クラウさんは軽く会釈してその場を離れて行った。


「では、陛下の練習を始めましょう。と、その前にお伺いしたいのですが、あそこの木陰にずっと練習風景を見ている子供がいるのですが、陛下の知っているお子さんですか?」


「ん? おおっ、セリウスではないか。あれは俺の孫のセリウスだ」


 孫? って事は王子様……孫も王子で良いんだっけ? まあ〝様〟ってつけて呼べば問題ないか。


「セリウス、こちらへ来なさい」


 王様に呼ばれると、セリウス様は庭木を回り込んで小走りに王様のところまでやってきて、屈んで手を開いている王様に抱きつき頭を撫でられる。1つ気になったのはセリウス様が全く笑っていない事。嫌がっている感じではないのだけど、無表情なのだ。


「セリウスもスカイカーに興味があるのだな? どうだ、俺と一緒にのるか?」


 そう尋ねられたセリウス様は無言で頷き、僕に視線を向けジッと見つめてきた。


「お初にお目にかかりますセリウス様、私はエンドール家に仕えているファーマと言います。以後お見知りおきを」


 軽く会釈をして丁寧に名乗り、笑顔を向けるとセリウス様は目を逸らしてしまった。


「あれ? 何か失礼がありました?」


「心配するな。セリウスは少し人見知りなところがあってな、初めて目にする者から目を逸らしてしまうのだ。さあ、訓練を始めようではないか」


 なるほど、人見知りだったのか。それなら納得。


 早速、王様は運転席に座り、僕は指導の為助手席座ろうとドアに手を掛けたのだけど、セリウス様は何故か一緒に助手席に入ろうとしている。


「あの? 出来ればセリウス様には後部座席に乗ってもらいたいのですが?」


 僕がそう言うとセリウス様は俯いて自分の服の裾を掴んで悲しそうにしている。助手席に乗りたいようだ。


「ここが良いのですか?」


 セリウス様は無言で頷く。仕方ない、僕が後ろから教えれば良いか。補助ブレーキがある訳じゃないから絶対に助手席で教えなければいけないって事は無いからね。


「では、私が後ろに移動しますので、このベルトをこの穴にしっかり固定してください」


 今回は超初心者の運転なのでシートベルトなしでは急な発信や逆噴射の時の反動でどこかに身体をぶつけて怪我をしてしまう可能性が高い。セリウス様を助手席に座らせてベルトを固定し、万が一を考えて少し大きめのクッションを持たせた。


「もしもの時はこのクッションが守ってくれると思いますので持っていてくださいね? それと、安全の為この兜をかぶっておいてください」


 異空間保管庫から取り出した竜糸の兜を被らせ、あご紐を結ぶ。セリウス様は素直にクッションをしっかりと抱えて頷いた。これで万が一の時はクッションと兜がエアバッグの代わりに守ってくれるだろう。因みに兜はエミル達の装備を作る時の練習で作った未使用品だ。


「陛下、ペダルは急に踏み込むと大変な事になりますのでくれぐれも慎重に踏み込んでください。それと、慣れるまでは高速で走らせるのは禁止です。万が一の場合、僕が怪我をするのは構いませんが、セリウス様が一緒に乗っている事をお忘れなく」


 後部座席に移動して少し念入りに注意を促し、練習開始だ。


 王様が起動スイッチを押し、車体が浮かび上がると、それを感じ取ったのかセリウス様は少し目を見開いた。


「最初は足の重みを軽くペダルに乗せるだけの気持ちで踏んでください」


「わかった」


 僅かに加速時の軽いノッキングはあったものの気になるほどではなく、飛行車はゆっくりと進み始めた。


「あまり肩に力を入れないようにリラックスして、もう少しだけ足の重みを乗せるように踏み込んでください」


 王様の表情は少し硬い。肩にも力が入っているし、たぶん緊張しているんだろう。それでも僕の指示通りに素直に運転して、飛行車は加速し時速15㎞程度の速さで走り出した。それから5分ほど低速で走らせる。今は王様が乗っているので王宮騎士さんが飛び出してくる事はない。ハンドル操作はぎこちないけど、今のところは良い調子で操縦出来ている。


「今度は少し高度を上げてみましょうか、左の手元にあるレバーをゆっくり前に押してください」


 僕が指示を出すと王様はレバーに視線を落とし左手をレバーに持っていく。


 ザシュッ! と何かにぶつかる音がした。レバーを意識して視線を外した時に右手でハンドルを切ってしまい、庭木に左サイドがこすってしまったのだ。


「ぬあっ、不味い!」


 王様は慌ててハンドルを逆に切り車体を右に寄せようとしたのだけど、今度は一緒にアクセルを踏み込んでしまい、飛行車は右に向かいながら小さな庭木を薙ぎ倒し、回転しながら逆サイドの庭木に突撃した。


「慌てないでペダルから足を放してください」


「うをぅっ!」


 王様が足を放すと加速は止まり、低い庭木をへし折りながら減速して停止した。地面との摩擦が無い分、低速でも中々止まってくれないのは困ったものだな。この辺りは改良しないといけないな。


 ほんの数分の間に四角く綺麗にカットされていた低い庭木はボロボロになり、道には折れた枝が散乱している。幸いなのは幹の太い木にぶつからなかった事だ。あれに当たっていたらセリウス様がむち打ちになっていたかも知れない。


「中々難しいものだな」


「まあ、最初は誰でもこんなものですよ」


 御者さんは1度も庭木を薙ぎ倒したりはしなかったけどね。それにしても凄いのはセリウス様だ。飛行車が横回転した時も全く悲鳴をあげる様子もなく只々落ち着いて前を見ていた。いや、少し瞳孔が開いている。表情には出していないけど充分ドキドキだったようだ。


「大事なのは何かあった時にどれだけ落ち着いた対応が出来るかです。とりあえず最初は庭木より高い高度で練習しましょうか」


 まあ、それではあまり練習にならないのだけど、どうせ普段は遊びでしか運転しないだろうし趣味の運転なら障害物の無い空中で運転出来れば問題ないよね。王様とセリウス様に怪我でもされたら大変だし。


 この後、20分ほど練習したところで


「陛下! こんなところで遊んでいたのですか!? 探しましたよ」


「チッ! もう見つけおったか」


 どうやら仕事を放り出して来ていたらしい。手が空いたというのは嘘だったんだな。


「どうやらここまでのようですね。最後に庭の中央の広いところまで移動させて着地させましょう」


「うむ、仕方がないな。またの機会にするとしよう」


「方向はこのままで良いので軽くアクセルを踏んで進みだしたらブレーキのタイミングは教えますので合図をしたら数回に分けて軽く左ペダルに足を置いてください」


 今度は落ち着いて指示通りに運転できたようで上手く停車させた。


「短い時間ではあったが有意義であった。セリウスはもう少し遊んでいくのか?」


 王様の問いにセリウス王子は無言で頷いて返事を返す。


「では、ファーマの言う事をしっかり聞くのだぞ? ファーマ、あまり気を使わなくても良いからセリウスが飽きるまで付き合ってやってくれ」


「かしこまりました」


 王様は飛行車を下りて呼びに来た男性に連れられてお城に戻っていった。


「では、今度は僕が運転して少し城の周りを移動しますね」


 セリウス様は僕の呼びかけに無言で頷く。本当に無口な子だな。まだ1度も声を聴いてないよ?


 少し高度を上げ、あまり速度は出さず時速30㎞ぐらいの速さでお城を中心に時計回りにぐるぐると飛行車を走らせ、セリウス様に声を掛けてみた。


「セリウス様は年はおいくつなんですか?」


 と、尋ねると右手で指を4本立て左手で指を3本立ててこちらに向けてきた。クッションは腕に挟んでしっかり持っているのが少し可愛い。


「7才なんですね。じゃあ、僕と2才違いです。王宮に住んでいるんですか?」


 頷いたので王宮に住んでいるようだ。


「ご兄弟はいるんですか?」


 首を縦に振ったのでいるようだ。


「何人いるんですか?」


 2人らしい。


「いつもはご兄弟と遊んでいるんですか?」


 少し考えて1つ頷いた。いつもではないけど遊んでいるという事なんだろうか?


「ご友人とも遊んだりしますか?」


 どうやら聞いては不味い事だったらしく、セリウス様は少し目を細めクッションをぎゅっと抱えて顔を埋めてしまった。


「王宮暮らしだとあまり同じような年齢の子に出会う事ないのかも知れないですね。あっ、良かったらなんですけど、僕と友達になりませんか?」


 フォローのつもりで提案して見たら、セリウス様は体をピクリとさせてそっと顔を横に向けて片目だけクッションから出してこちらを見ている。


「すいません、平民の僕なんかがセリウス様の友達なんて言ったら嫌ですよね? 今のは聞かなかった事に──」


「い、やじゃない……」


 僕が取り消そうとした言葉を遮るようにセリウス様が返事をしてくれた。ずっと、しゃべらなかったから心配していたのだけど、どうやら口がきけない訳ではないらしい。


「本当ですか? 嬉しいです。では、友達になりましょう。僕はこの国に男の子の友達がいないので殿下は初めての僕の男友達ですね」


 仲良くなった子はいるけど、まだ友達と呼べるかというと分からないんだよね。


 セリウス様はクッションから顔をあげてこちらに首を向け目を少し見開いている。表情は相変わらずなのだけど、少し感情を表に出しているので初めての男友達って言ったのが嬉しかったのかも知れない。


「じゃあ、僕の事はファーマって呼び捨てにしてください」


 セリウス様は少し頬を赤くして下を向きほんの少し口元が緩んでいる。


 どうやら感情表現が苦手な子なだけで普通に笑う事は出来るようだ。人見知りされなくなると表情豊かな子になるかもな。


 30分ほど会話(ほぼ質問)をして1度飛行車を止め、クラウさんの練習を再開させる。結局セリウス様は最後まで助手席に乗ったままだった。


 クラウさんはセリウス様が助手席にいた事で緊張したのか、それまでの運転より少し硬くなり何回か操作ミスをした。とは言っても王様のような派手なミスではなく加速や減速の時に軽いノッキングをした程度だ。セリウス様が乗っているので王宮騎士の飛び出しは無かったので回転はしていないのだけど、まあ、乗り慣れていない時に王族を乗せると緊張もするよね。


 良い予行演習になったようで良かった。

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