第3話 ファーマ君、図書館に行く
ジョブギルドからリリとミミが出てくるのを待って、リリ達に家に案内された。リリ達の家は、町の防壁の直ぐ側の日が殆ど当たらない区域にある白土作りの2階建て、家に親はおらず、姉妹2人暮らし。リリ達の父親は、ミミが生まれてすぐに浮気をして浮気相手と一緒に町を出て行き、母親はリリ達を育てるために働き過ぎて、去年に亡くなったそうだ。この家は、母方の祖父の家だったらしい。
家に着いた僕達は、早速夕食の準備を始めた。
「これ、痛んじゃう前に食べないといけないから使ってよ」
僕は、今日採れたギガントフロッグの肉をキッチンに運ぶ。肉は量が多すぎてテーブルの上に載らなかったので壁に立てかける事にした。
「何これ? 沢山あるけど」
「旅の途中に採れたカエルの肉だよ」
「お肉!? 本当に食べても良いの?」
「もちろん、沢山あり過ぎて僕だけじゃ食べきれないからね」
「凄いねー、お肉沢山だね」
「確かに……でも沢山で片付く量じゃないわね」
確かに。冷凍庫でもあれば良いのだけど、それらしき物は見当たらない。
「とりあえず、地下の保管庫に置いておけば2、3日はもつと思うからその間に干し肉にでもしましょうか」
「さーんせーい」
どうやら、冷凍庫はないけど、地下に食料の保管庫はあるらしい。地下は地上より温度が低く、この町の一般庶民は皆、家の地下に保管庫を持っているらしい。今から食べる分以外は保管庫に入れ、調理開始だ。
「おっ肉ぅ、おっ肉ぅ」
余程お肉を食べられるのが嬉しいのか、ミミはお肉ダンスを踊っている。リリ達がお肉を食べるのは普段は特別な日だけなんだとか……普段はお肉の代わりにミールワームというミミズのような幼虫を食べているらしい。保管庫に袋で置いてあり、見せてもらったけど量が量だけに気持ち悪いものがあった。
「はいはい、騒がないの。お口にチャック」
「はい、お口にチャック」
おおっ、お口にチャックって言葉、この世界にもあるんだ。
今日の食事は、カエルの薄切り炒め、カエルと野菜のスープ、どちらも味付けはシンプルに塩のみ、それと硬そうなパン。
薄切りにして炒めただけの料理だったけど、驚くほど美味しかった。ウシガエルとは全然比べ物にならない。噛むごとに旨味が口に広がり、あっさりしていて、いくらでも食べられそうだ。スープも肉の旨味がしっかり溶け出し、野菜との相性もばっちり、パンだけは硬くて味気ないものだったので、スープに浸して食べたら美味しかった。
「あー、お腹いっぱーい」
「た、食べ過ぎたわ。こんなにお肉を食べたのは初めてよ」
リリとミミはお腹を擦りながら苦しそうだけどとても嬉しそうにしている。喜んでもらえて良かった。
「ねえ、ファーマ。あなた、旅をしているって言っていたわよね? この町にはいつまでいるの?」
「うーん、決めてないけど、この辺りの事を何も知らないし、お金も稼がないといけないから暫くいると思うよ。なんで?」
「だったら、ここにいる間この家に住まない? 部屋も空いているし月50デニールぐらいでどう? 宿に泊まるよりだいぶお得よ」
「え? でも、僕達、今日会ったばかりだよ? 今日泊めてもらえるだけでも驚きなんだけど、そんなに僕を信用して良いの?」
「ふふっ、大丈夫よ。ファーマは命の恩人だし、子供を疑ってもねぇ。それに本当に怪しい人なら、そんな事わざわざ聞いたりしないでしょ? あと家賃が入れば私達の生活も楽になるしね」
なるほど……1人で宿に泊まるより賑やかで楽しそうだし、持ちつ持たれつだよね。
「そういう事なら、遠慮なく。お願いします」
「そうこなくっちゃ」
「ファーマも一緒に住むの? やったぁ」
こうして、僕はグラダの町に居る間、リリとミミの家に住むことになった。
食事が終わり、みんなでお風呂に入る。僕はあとで良いと言ったのだけれど「お湯が冷めちゃうでしょ。薪だってタダじゃないんだから」と、無理やり連れていかれた。
女の子と一緒のお風呂は中身が中学生の僕には刺激が強すぎる・・・・・・なるべくリリの方は見ないようにはしたけど、なかなかドキドキが治まらなかった。
この後、寝室で川の字に布団に入って、夜遅くまで色々な話をして、この国やグラダの町の事を教えてもらった。一般常識的な事まで聞いて「どんな田舎から来たのよ」と少し呆れられた。
デザリアは、王族と貴族が治めていて、地域の領主、町の長、各ギルドのトップは貴族がやっている。
グラダの町は、デザリアの最東端に位置していて、魔性の森も近く、稀に森の付近から魔物がやってくる国内では最も危険な場所の1つで辺境の町と呼ばれている。ただし、魔性の森のお陰で、隣国との外交や衝突は皆無なのだとか。町は、森の方からくる魔物から国を守る砦のような物らしい。
グラダの町を含む、この辺りの領地を治めているのは、デザリア王国騎士団の元団長で、この国の最強の一角、英雄侯爵トーラス・ステイール様と、いう人。リリも何度か、ステイール侯爵が森付近から来た魔物と戦っているのを見た事があるそうだけど、人間とは思えないぐらい強かったそうだ。
デザリアにはギルドと呼ばれる団体が幾つか存在する。
・ジョブギルド。薬草採取、清掃、軽作業等、危険の少ない仕事を斡旋してくれる紹介所。派遣会社みたいなものかな? 町の住民なら子供でも仕事は受けられるそうだ。
・正騎士ギルド。貴族出身者を中心に構成されている団体。王立学院という学校を卒業した貴族の子供や、平民でも適性試験に合格した者が所属する事を許される。国や町の治安維持や防衛、大規模な魔物の討伐等、主に守る事を目的としている。警察や自衛隊みたいなものかな?
・冒険者ギルド。主に平民で構成されている団体。腕に自信があれば犯罪者以外なら誰にでもなれる(過去に犯罪歴があっても刑期を終えていれば問題ない)。魔物(前の世界で言うところの獣)の討伐や遺跡の調査、正騎士の手が回らない小事の対応等、多くの危険を伴う仕事の斡旋をしている。場合によっては正騎士と共に活動することもある。ライトノベルでよく見かけた職業だな。
・商業ギルド。主に商人の集まり。相場の管理や不正の取り締まりをしているらしい。商売を始めるには、ここに所属しなければならない。取引数の少ない個人間売買までは取り締まられる事はないそうだ。厚労省みたいなものか?
・学問ギルド。学者、魔法学者の集まり。学校等での人材育成、神術(この国では魔法とよばれている)の研究、便利道具の開発等をやっている。商業ギルドでも便利道具の開発は行われているが、学問ギルドには国から開発費の補助が下りる為、開発にお金がかけられ、より良い物が作れるそうだ。これは文科省みたいな感じかな?
学校があるらしいけど、貴族か富豪の子供じゃないと通えないくらい学費が高いらしくて、リリやミミみたいな一般的な平民は親から最低限の生活に必要な知識や知恵を学ぶらしい。
大きな団体はこの5つで、これとは別に小さなギルドはいくつもあるらしい。その中で気を付けなければいけないのは、闇ギルドと呼ばれる犯罪者の集まり。本部が何処にあるのかは不明だけど、国内の問題ごとの多くはこのギルドが関わっているらしい。
次に、教わったのは奴隷制度。この国には奴隷制度というモノがあり、僕達も奴隷に落ちる可能性があるから気をつけなければいけない。奴隷には、一般奴隷、借金奴隷、犯罪奴隷、戦争奴隷、亜人奴隷の5つがある。
・一般奴隷。生活に困った者が自らなる奴隷。ジョブギルドに登録するには各町で住民登録をしなければならない、住民登録をするには住民税を納めなければいけない(最低でも月末までに当月分)。その住民税も払えない人が最後の手段として奴隷商のところへ身売りに行き奴隷契約を結ぶ。奴隷とは言っても法的には一般人と同じ扱いをしなくてはならない。が、殆どの者は最低限の衣食住の保証と僅かの給金を貰う程度で飼い殺し状態になるらしい。本来、本人の意思を無視して一般奴隷にするのは違法だが、生活苦の親が、子供を売ったり、騙されて売られたりする子供もいるらしく、これは違法行為で真っ当な奴隷商は扱っていないのだが、こういった違法奴隷は過酷な労働を強いられる事が多いのだとか。この奴隷に関しては、奴隷と主人の話し合いにて奴隷契約を解除する事ができる。
・借金奴隷。お金を借りる、過失で人の物を壊す等、犯罪以外のお金に関係する事で、支払い能力が無いと判断された者がなる奴隷。購入者が借金の肩代わりをし、個人の能力によって違いはあるが、返済が終わるまで安い賃金で働かされ、返済が終わると解放される。人権は一般庶民並みに保障される為、購入者は、暴力、性的暴行等、一切の危害を加えてはならない。奴隷落ち後、1年買い手が見つからない場合、犯罪奴隷に落ち、金額によって刑期が付く。この場合、売買額の7割が借金返済に回される。
・犯罪奴隷。罪を犯した者がなる奴隷。軽犯罪奴隷と重犯罪奴隷があり、軽犯罪奴隷は窃盗や傷害、不敬罪など罪によって決められた刑期が終わるまで購入者の下で、無給で働かされる。扱いは借金奴隷よりも低く、男性なら重労働で酷使されたり、女性なら如何わしいお店で働かされたりする事もある。時には暴力を受ける事もあるが、購入者が軽犯罪奴隷に、障害が残るほどの過度の暴力を与えたり、殺してしまったりすると、罪になる。重犯罪奴隷は殺人者や盗賊、海賊等、重い罪を犯した者がなる奴隷。人権は低く酷い扱いをされても文句は言えない。不敬罪でも場合によっては重犯罪奴隷にされる事があるので貴族階級以上の人と接する時は気を付けなければいけない。犯罪奴隷の売買金は8割が被害者(もしくは遺族)に、2割が国に納められる。
・戦争奴隷。敗戦国の王族、貴族、兵士が捕らわれてなる奴隷。詳しい事はリリも解らないけど兎に角高級な奴隷らしい。
・亜人奴隷。人間族以外の種族がなる奴隷。現在はレムール大陸という、この国のある大陸から北東に在る大陸全土を支配する亜人国家レムリヤの魔王に保護され数は減ってきているが、昔はどの国にも多くの亜人奴隷がいたという事だ。扱いは人ではなく物に分類される。王都や大きな町には居るらしいが、この町にはいない。亜人を攫ってくることを生業とする人間もいる為、レムリヤと人間の争いは絶えないそうだ。
亜人に対する扱いに関しては、リリも快く思っていないみたいだけど、未だに多くの人間は亜人に対して差別的な意識を持っているらしく、外で亜人を擁護するような言動はしない方が良いという事だ。
魔王か……デーア母さんと神様が言っていた人だよね。確かナトゥアさんだったな。亜人の王なのになんで魔王なんだろう? まあ、そんな細かい事はどうでも良いか……
夜も更けて眠くなったので話はここで終わり━━
━━翌朝。リリとミミは、今日もジョブギルドへ仕事探しに行くらしい。今日も薬草採りかな? と思ったら昨日怖い思いをしたので、暫くは町の中で出来る安全な仕事を探すそうだ。
僕はというと、暫くこの町のお世話になる予定なので、住民登録の為役所へ。住民登録をして、年間360デニール(月々分割も出来る)の住民税を納めておけば入町税がタダになる。それとジョブギルド等、町民にだけ利用できる施設もあるそうなのでやっておけとリリに言われた。
住民登録を済ませ、まずは、この世界の知識を得る為に、リリに教えてもらった図書館に行くことにした。
図書館は入館料1日10デニールで、本が読み放題。図書室の主と呼ばれていた僕には天国のような場所だ。今日はこの世界で1番気になっている魔法(神術)について調べようと思う。
━━夕方の閉館時間まで入りびたり、食事を忘れて魔法に関する本を読み漁った。
本に書かれていた内容を簡単に纏めるとこうなる。
魔法には属性というものが存在していて、火、水、風、土、光、闇と、これらに該当しない無属性の7つがあり、属性の適性がない魔法は使えない事は無いけど、使えるようになるまで適性を持つ人の10倍以上の労力が掛かる上、同じ魔法でも効果は3分の1程度になるそうだ。属性適性の中にも更に細かに魔法の使用適性があるらしく、属性が合っているだけでは覚えられない魔法もある。
魔法の属性って神眼で解析できる属性と呼称が違うのが殆どなんだよね……神力や神術と同じで他の国に行ったらまた違う呼び方になるのかな? 僕の神眼鑑定で自分を見ると6属性は【炎、水、天、地、聖、邪】になる。因みに聖と邪は、もう少し細かい分類になっている。無属性に分類されている魔法も錬、纏、合、見、等々、細かに適性があるけど、読んだ本にはそこまで細かい適性は書かれていなかった。
とりあえず、それは置いといて属性別の説明を見る。
・火属性魔法。モノを温めたり、火を生み出したりする魔法。
・水属性魔法。モノを冷やしたり、水や氷を生み出したりする魔法。
・風属性魔法。風を起こしたり雷を発生させたりする魔法。
・土属性魔法。土を操り土地を耕したり穴を掘ったりする魔法。鉱石を砕いて分別し再結合したり出来る。
・光属性魔法。傷を癒したり、浄化したり、結界を張ったり、一時的に身体能力を上昇させたりできる魔法。使える人は少ないらしい。
・闇属性魔法。意識を操ったり、魅了や睡眠等の状態異常を与えたり、一時的に身体能力を下げたりできる魔法。
・無属性魔法。錬成、錬金、鑑定、空間操作等、属性に該当しない魔法。鑑定、空間操作は使える人は少なく、国内には数名ほどしかいない。
魔法には、詠唱魔法、無詠唱魔法、術式魔法がある。
詠唱魔法は無詠唱魔法に比べて、魔法を使ったことない人でも発動しやすく、同じ威力の魔法でも消費魔力が1割ほど少ない。詠唱は【ら・り・る・れ・ろ】の5音の組み合わせで詠みあげる。正確な発音は【らりるれろ】ではなく、もう少し舌を巻くような発音で、ちょっと難しい、例えに書いてあった詠唱を試しに読んでみたら舌を噛んだ……
昔は、もっと別の詠唱方法が使われていたらしいけど、この5音法という詠唱方法が確立されてからは、これが主流になったという事だ。かなり覚え難い詠唱だけど、これが主流になったって事は、前はもっと覚え難い詠唱だったって事だよね?
大きな魔法を使うほど詠唱は長くなり、使用するまでに時間がかかる。でも慣れている人なら200音を、上級者なら300音を1分ぐらいで詠唱できるらしい。
今日読んだ本には魔法の覚え方は載っていなかったけど、どこかに【魔法入門】みたいな本もあるはず。見つかり次第、魔法を覚えよう。
術式魔法は、魔法文字という特殊な文字を道具や魔法陣に書き、魔力を込める事で使える魔法で、属性適性は必要なく、魔力が魔法に必要な分に、足りていれば誰にでも使える。1人で足りない場合は複数人で魔力を込めれば発動できる。魔法石があれば人が魔力を込めなくても発動できるらしい。
町の街灯にも術式魔法が使われているらしく、薄暗くなると町が管理している施設での操作で、明かりが灯る仕組みになっているらしい。この他にも術式魔法や、魔法石は生活のあちらこちらに使われているらしい。そういえば、リリ達の家に水道が通っていたな。あれも術式魔法で水を引いているのかな?
その他にもコンロ、洗濯機、冷蔵庫に似た魔法道具も開発されているらしいけど、リリ達の家では見なかった。
今はまだ、一般的に普及はされていないようだけど、魔法文明でも科学文明と、似たような道具が発明されているみたいだから、近い将来、一般家庭にも家電みたいな魔法道具は普及されるようになるんだろうな。
最後に魔法石について、これにも魔法と同じく属性があり、魔法道具や術式魔法の核として使われたり、魔法の発動補助にも使われている。術式と魔法石の属性が違うと術式は起動しないらしい。
・火の魔法石は半透明の赤い石。火の魔法道具や、魔法武器に使われている。街灯に使われているのもこの魔法石だ。
・水の魔法石は半透明の青い石。水や氷の魔法道具や、魔法武器に使われている。洗濯機や冷蔵庫には欠かせない石だ。
・風の魔法石は半透明の緑の石。船を動かす動力や風の魔法道具や魔法武器に使われている。どうやらドライヤーに似た道具もあるようだ。
・土の魔法石は半透明の茶色い石。主に粉にして畑の土に混ぜて使っている。小指の先ほどの石で10m四方の農地の実りが半年ほど良くなるらしい。
・光の魔法石は光沢のある乳白色の石。町を守る結界や、怪我人や病人を癒す治療師の魔法媒体として使われている。これがあるのとないのとでは、同じ魔法でも治療効率が段違いのようだ。
・闇の魔法石は半透明の紫の石。不眠症の人を眠らせたり、興奮している人を落ち着かせたり精神的に不安定な人を安定させる魔法道具や、奴隷の行動を制限する魔法道具にも使われている。あと、変わった使い方としては夜の生活や夜の商売の人に役立つ魔法道具にも利用されているらしい。
・無属性の魔法石は無色透明な石。これは他の石とは違い、どの術式にも使えるけど、属性の力を増幅する事は出来ない。多くは鑑定魔法道具や収納魔法道具の材料に使われている。検問で使われた嘘発見器のような道具も鑑定魔法道具の1種で、もっと詳しく鑑定出来る魔法道具もあるらしい。収納魔法道具とは、特殊な空間にモノを入れられる魔法道具の事で、1m四方の箱でその20倍以上の容量の物が入れられるらしい。
収納魔法道具……便利な道具があるんだな。魔法道具は、かなり値段が高いみたいだけど、これはお金を貯めて絶対に買おう。
魔法石は内在する魔力が無くなると砕けるらしい。ただし、魔法石には、生物から魔力を吸い溜め込む性質があるらしく、無くなる前に補充してやれば砕けず、ずっと使える。貯められる魔力は石の大きさによって変わる。
今日調べただけでも魔法や、魔法道具は、かなり便利だという事が解った。けど、その便利な魔法や魔法道具が利用できているのは、お金を持っている極一部だけみたいだ。この世界もやっぱり格差社会なんだね。




