第16話 ファーマ君、ギルド総会に出席する その1
飛行車作成開始から1カ月が過ぎた。
もう術式をミスリル盤に刻み込む作業は終わり、あとは車体と組み合わせ姿勢調整を行えば完成だ。
僕がエミルと2人で作った時には完成まで半年ほどかかったのだけど、僕にとっては2台目で熟練の彫金師さんが一緒だったこともあり作業はかなりスムーズに進んだ。
ミスリルは鉄や銅などと比べてかなり固いのに、術式を彫金で刻む速さが彫刻刀で木の板を掘るくらい速くて驚かされた。流石はギルドが厳選した熟練職人さんだ。試作中に彫金技術も習う事が出来たので今度何か彫ってみようと思う。
今回作った飛行車は王様への献上品にするらしく、車体は内装も外装も僕が持っている飛行車とは違う仕様になっている。
空気抵抗を考えなくてはいけないので前方はワンボックスカーのように丸みを帯びていて、ゆったり座れるように馬車と同じ程度の車高にし、運転席と助手席以外に4人乗れる6人乗りの使用だ。
しかも後部座席は向かい合わせになっていて間には丸いテーブルが置かれ、内外共にとても豪華だ。
ただし、車体の強度は僕の飛行車の方が上だ。僕の飛行車は車体を竜板で作っているけど、それだと1台作るのに材料費だけで500万デニールぐらいになってしまう。流石に値段が高すぎるし、水氷竜の鱗なんてデザリアでは滅多に手に入らない。加工技術があるかどうかも分からない。
加工を僕がやってしまうと、また変に目立つといけないので僕の飛行車の車体に使われている材料については内緒にして、安全の為に軽くて丈夫な素材で防水性に優れた物をギルド側に選んでもらった。
それでも1台の材料費が200万デニールを超えるので、とんでもない高級車になってしまう。特に術式盤に使っているミスリルの量が多いのと、僕の飛行車と同じ性能を持たせるには地殻竜クラスの地結晶が必要なので。これ以上は安価にできないだろうな。
まあ、値段よりも問題なのは材料の調達だ。ミスリルや竜クラスの神結晶はお金さえ払えば手に入るものではない。入手量が少なく希少だから値段が高いので当然在庫もそれほど多くはない。アインスの商業ギルドにある在庫で作れるのは精々5台程度。特に足りないのはミスリルだ。
神結晶の方は加工して内蔵できる神力容量を増やせば、ギガントフロッグと同等程度の神力量を持つ魔物から採れる神結晶を加工すれば、僕の飛行車より多少稼働時間が短くはなるけど代用は出来る。まあ、それでも数はあまりないのだけど。
この神結晶の加工、以前僕が見た収納魔法道具に使われている神結晶の形状とは全く異なる。あれは加工失敗のリスクが少ない形状だったらしい。加工失敗のリスクというのは神鉱を作る時と同じで、塵になって無くなってしまう事だ。
まあ、神鉱を作るのに失敗して塵にするには、それ相応の神力量と出力がなくちゃダメなんだけどね。その点は人間族が失敗する心配はまずない。
神結晶の加工は練成士が行う。他の物と同じように練成したい物に神力を馴染ませて形状を変えるのだけど、神結晶はそれ自体が神力の塊だ。自分の神力を神結晶の神力に同調させて形状を変化しなくてはいけないので普通の物質を練成するより神力操作、神力制御には繊細さが必要。熟練の練成士が何日も時間をかけて少しずつ形状を変化させるのだ。
ギルドの練成士の練成を見せてもらったけど制御が甘く同調させ切れていない。というか、意識的に同調させる事が出来ていない。たぶん、神力の同調という概念を今は持っていないんだろう。
因みに僕はこれまでに何度も加工したけど1度も失敗したことがない。同調させるという技術は聖界で初めて知ったのだけど、そこはチートなので無意識下でも制御技術が高くきっちり同調させていたのだ。
因みに1.5倍加工は普通の熟練練成士で成功率7割、国内に数十人ほどしかいない特級練成士で成功率9割ほど、2倍加工は通常の熟練練成士で3割以下、特級練成士でも5割以下になるらしい。因みに神結晶の原石は内蔵神力500程の物が30万デニール程度、1000を超える物は100万デニール以上の値段になる。値段の差は内蔵容量の差というより希少性の差なんだろう。
神結晶の問題は加工で解決できるとして、問題なのはミスリル。これは代用させるとしたら、より希少なアダマンタイトじゃないと代わりにならない。
術式の文字を大きくして魔鉱にかかる負担を減らし、魔金鋼(神金鋼)や魔銀鋼(神銀鋼)を使うという案もあったのだけど、それだと重量が増えすぎて消費神力が大きくなりすぎるし、車体も大きくなりすぎて町中を走行するのも困難になってしまう為却下された。
神鋼の比重は神金>神銀>アダマンタイト=ミスリル>神銅>神鉄という順で、神力耐久値はアダマンタイト>ミスリル>神金>神銀>神銅>神鉄、という比率なので、ミスリルの代わりに使えるとしたらアダマンタイトぐらいなものだ。当然ミスリルよりも希少で在庫もなく金額も跳ね上がるので代用は現実的ではない。
余談だけど術式を組み込んだ魔法武器や魔法防具に使えるのは、今上げた神鉱の中で硬度の高いアダマンタイト、ミスリル、神鉄の3種だけ他の3種でも作れなくはないけど硬度が足りない上に刃も付きにくいので武具には向かない。
閑話休題。
飛行車の完成が見えたところで、マルガンさんとグラヴァさんとマルコさんに呼ばれギルドの応接室にやってきた。
「忙しい中すまんな」
「いえ、もう僕がやる事は殆どないので大丈夫です」
「今日は君に、新しい魔法書や魔法文字を持ち帰ってくれた事や、スカイカーと異空間保管庫(新収納魔法道具)開発の褒章について話そうと思って来てもらったんだ。なにか欲しい物の希望があれば聞くけど何かあるかい? ああ、先に言っておくけどこれはエンドール家からの褒章であって、後日君にも一緒に出てもらうギルド総会で国に認められれば、陛下からの褒章も出るだろうから別で考えておいてくれ」
……なんかまた大げさな話になっている気がする。欲しい物って言われてもこれと言ってないよね? お金は農場作りで結構使ったけど、お土産に渡した地殻竜の素材や神結晶は全部買い取りという形にしてくれたから、逆に増えちゃったし、農場や工房や研究所も今建設中、家族と呼べるほどの仲間もいて好きな事もやらせてもらっている。
もう贅沢過ぎてこれ以上なにを望めばいいのか……
と、少し考えて2つほど望むことを思いついた。
「2つほど僕ではどうにもできないお願いがあるのでお願いしても良いですか?」
「君ではどうにもできないお願い? それは権利や権力を持ちたいとかそういう事かい? 爵位が欲しいなら男爵に推薦してあげる事は出来るよ?」
いやいや、そんな面倒なものはいらない。
「いえ、そういった事は望んでいません。1つ目のお願いは、キャッツやエルフのようにデザリアで亜人とか魔人とか呼ばれて迫害を受けている人達の自由です。亜人狩りや亜人奴隷といった行為をデザリア国内でなくしてほしいです」
僕がそういうとマルガンさん達は難しい顔をして黙り込んでしまった。
「……お前さんが、連れておる魔人奴隷を家族同様に扱っている事は知っておる。じゃが、その望みを叶えるのは2つの理由で難しい」
「君も知っているとは思うけど、亜人、特に魔人は薬学向上の為には必要なんだよ。ここ数十年で極端にデザリアに生息する魔人の数が減少しているから、薬学研究の為以外の用途で使用を控えようという動きはある。だから亜人奴隷の売買はいずれ無くなってくるだろう。でも、学問ギルドでの研究は止める事は出来ないというのが1つ目の理由だ。もう1つは亜人や魔人を快く思っていない者がこの国には一定数いるという事だ。その一定数の多くは権力を持つ貴族だから、そこを黙らせるのは結構難しい事なんだよ」
まあ、そういう返事が返ってくるのは予想していた。でも、1つ目の理由はどうにかできる物を持っている。
「薬学研究の方なんですけど、亜人や魔人より研究に適した材料があれば解決しますよね?」
「ふむ、あれば問題はないじゃろう。そう言うという事は、日那国から持ち帰ったものの中に何かあるのじゃな?」
「はい、これを見てください」
僕は収納魔法道具から1冊の本を取り出しマルガンさんに渡し、それがどういった物なのか説明した。
「ふむ、これが作れるのなら無理に魔人を使う必要はなくなるのう」
「確かに、とんでもないものを持ち帰ったものだな」
「こんなものを発表したら国が揺れますよ」
「僕には作る事は出来ませんけど、学問ギルドの研究者なら作る事も可能だと思うんですけどどうですか?」
エミルと協力すれば作れるだろうけど心情的に作りたくないし、使うのも嫌だ。まあ、知らないところで使われるのには目を瞑ろう。レオナ達の自由の為だ。
「商業ギルドではなく学問ギルドに預けろという事か?」
「いえ、それはマルガンさん達にお任せします。でも、それを1番有効的に活用できるのは学問ギルドだと僕は思います」
商業ギルドでは便利道具や武具の開発はやっているようだけど、生物や薬についての研究はやっていないらしいので、アレを有効的に使えるのは学問ギルドの方だろう。
「まったく、褒章を与えようと呼んだというのに、こんな物を出されては言う通りにせんわけにもいかんじゃろう?」
「ですね。これを交渉材料にすれば学問ギルドは是と言うでしょう。あとは一定数の魔人を快く思っていない者達の説得ですね。とりあえず次の総会の議題に上げるくらいは構わないでしょう」
さっきまでとは違ってかなり話が前向きな方向に傾いた。元々ダメもとで言った事だしここから先は偉い人達に任せよう。どうにもならなかったらその時はまた方法を考えよう。
「魔人の方はエンドール家から提案するという事で良いとして、もう1つの願いとはなんじゃ?」
「はい、もう1つは──」
もう1つのお願いを話すと、こちらも難色を示されてしまった。
「出来るだけの事はやってやるが、成果が出るとは限らんぞ?」
「はい、ダメ元なのでもし、成果が出なくても文句は言いません」
「わかった。早速手配するとしよう」
2つ目のお願いの方もやるだけの事はやってもらえると約束してくれたので褒章の話はこれで終わりだ。良い結果になると良いな。
10月の半ばになり、ついに献上品の飛行車が完成。試乗も済ませこっそり神眼で術式の確認もしているので事故にでも遭わないかぎり動かなくなるなんて事はないだろう。
アイテムボックスも完成し、こちらは献上品に加えてマルガンさんとグラヴァさんの分も作り、今はマルコさんのアイテムボックスを作成中。
1番に手にしたのはマルガンさん。やはり元当主とはいっても父親であるマルガンさんが優先されるようだ。
2台目の飛行車の生産も始まり、こちらはマルガンさんの物になる予定だ。グラヴァさんの飛行車はギルド総会後、今、アインスギルドで生産に携わっている何人かを王都に連れて行って、王都の商業ギルド本部で作るらしい。
アインスギルドで、もう1台作る予定の飛行車がマルコさんの物になるのかは今のところ未定。総会に出席する他のギルドのグランドマスターさんからの発注があればそちらに売る可能性が高いので、マルコさんの飛行車はだいぶ先になるだろうな。
因みにこの2種以外の僕とエミルが作った魔法道具や魔法薬に関しては教えていない。浮遊島で教わりながら作ったのはこの2種だけという事にしている。
2年の間にあまり多くの物を作り過ぎていると知れると後々面倒な事になるかも知れないので必要な措置だ。
そして明日はいよいよギルド総会の日。
早朝から始まるという事で今日の内から王都に行く事になった。王都に行くのはマルガンさん、グラヴァさん、僕の3人だ。
エンドール家の馬車に乗り王都に到着する。
初めて入る王都に少しわくわくしながら大きな正門をくぐると、中に広がっていたのは目を奪われるような美しい街並み。建物は白を基調とした統一感あるもので、道は馬車や牛車が通る車道と自転車や歩行者が通る歩道に分かれていて歩道と車道の堺には街路樹が立ち並び、オープンカフェのようなお店、美しい公園等々僕がデザリアに来てから見ていたどの街並みよりも豪華で、それでいて落ち着きと気品がある。
道行く人達の服装や立ち居振る舞いにも高級感、清潔感、気品あり、いかにも高級住宅街といった感じだ。アインスの大通りと比べてもこちらの方が高級感がある。
「王都って初めて来ましたけど別世界ですね。僕が今住んでいるところとは大違いですよ」
「そりゃそうじゃろう。お前さんが今住んでいるところはアインスでも最底辺の地区じゃからな。比べるまでもない」
「比較対象がおかしいよ? せめてアインスの貴族街辺りじゃないと比べ物にならない」
そんな事を言われてもグラダでもアインスでも貴族街には行ったことがない。それどころか平民の富裕層が住んでいる地区も大通りを通った事があるだけだし、ギルドがある場所も貴族街ではなく商業区だ。比べられるのは僕の生活圏だけだからしょうがないじゃないか。
「王都のお店って僕が食べた事ない料理とか甘味ってありますよね? 時間があったら行ってみても良いですか?」
自分達で作る食事や果物やアイスクリンも美味しいけどそれ以外の料理や甘味はとても気になる。エミルやレオナにも買って帰ってあげたいし、時間があるなら色々回ってみたい。
「態々食べに出なくても、うちに着いたら色々出してあげるよ」
「本当ですか? ありがとうございます。出来ればうちの子達にも持って帰ってあげたいので色々売ってください」
「いや、買わなくても手土産くらいは持たせてあげるから心配しなくていいよ」
「じゃあ、じゃあ、レシピとかも教わっていいですか?」
「それは料理人に聞かないとなんとも言えないな。一応、聞いてみてあげるよ」
「ありがとうございます」
僕がはしゃいでいたからなのか、マルガンさんとグラヴァさんがとても微笑ましそうに笑っている。エンドール家の食事が楽しみだ。
王都に入って30分後、到着したのは宮殿? と思わせるほど豪華な邸宅。庭は公園かと思うほど広く、噴水や植物で作られたアーチがあり、馬車が通ると庭で働いている使用人さん達が仕事の手を止めてこちらに向かってお辞儀をしている。
「こ、ここってお城ですか?」
「なに馬鹿な事を言っているんだ。ここはうちの屋敷だよ。城はほら、向こうに青い屋根が見えるだろう?」
グラヴァさんの指さす方を見てみると、かなり離れた場所に青い屋根の高い建造物が見えた。それはもうネズミの国の建物かと思うくらい煌びやかなお城で光が反射しているように見える。
うわぁ……あんなの前世でも本でしか見た事ないよ。ひょっとしてネズミの国のお城より大きいんじゃないだろうか?
この後教えてもらった話だと、今見えているのは王城でその周りには王族が住んでいる王宮と公爵家の人が住んでいる公宮があって、その辺りは全部王族の生活する敷地になっているらしい。広さは今いるエンドール家の敷地の十数倍なんだそうな。
それって東京ドーム何個分? いや、十何個分? 下手すると何十個分?
この後、屋敷の中や出してくれた食事に丸1日驚きっぱなしだった。




