第15話 ファーマ君、農場建設を始める
ギルドに戻ると早速、建築職人さんと打ち合わせが始まる。出席するのは僕、エミル、マルガンさん、エルミナさん、建築職人の代表ビルダさんの5人だ。
レオナとコテツは難しい話が苦手なので、部屋の隅っこでギルドの職員さんが用意してくれたお茶とお菓子を頂いて、アリッサには2人の側にいてもらっている。
「ギルドの農場って事は村なんかとは違う作りにするんだよな?」
「基本的な作りは村と同じで大丈夫じゃろう。じゃが、防壁は町で使われておる耐魔法レンガを使ってしっかりしたものを作らねばいかん」
「一応、農場の入り口から100mまでは農地ではなく宅地にして住居や研究所、それと鍛冶や木工が出来る工房を作りたいと思います」
「農場なのにそんなものまで必要なのか?」
「はい、エルミナさんは魔法道具の研究者ですし、僕やエミルも農業の合間に研究や物作りをやろうと思っているので必須です」
研究所はエミルも使うのでエミルの事は本人に許可を得て、僕の研究助手だと説明している。これならエミルが研究所を使っても怪しまれないだろう。
「研究所には地下も必要じゃな。見られて困る技術もあるじゃろうからのう」
「とりあえず必要なのは、僕達が生活する家、農場の防衛をしてくれるギルド関係者が生活する家、一般奴隷が生活する家──」
農場に欲しい建物の希望を思いつく限り出し、自分達の生活する家についての話をする。
「えっと、僕達が住む家なんですけど、木造建築にしてほしいんですが出来ますか?」
「木造建築? なんでまた木造が良いんだ?」
「つい最近まで木造建築の家に住んでいたので住み慣れた家がいいなと思いまして」
デザリアで多く作られている白壁建築やレンガ建築が嫌という訳ではないのだけど、やっぱり木の香りがする家は落ち着く。
「まあ、作れなくはないが耐久性はレンガ造りより落ちるぞ?」
「それでも構いません。家の設計はこちらで図面を描いて渡しますのでそれを基に作ってもらって良いですか?」
製図は日那国で習っているので、みんなの希望を取り入れながら自分の描いたもので作ってもらえるなら作ってもらいたい。
「なんだ? 以前住んでいた家に近い家に住みたいのか? 描いて持ってくるのは構わねぇが、あまり下手な製図だとその通りには作れねぇぞ?」
「大丈夫です。それはしっかり習ってきましたから、それなりに見られるものは描けると思います」
「まあ、良いだろう。もし、不備があったらおめぇの意見を取り入れて描き直してやるから試しに描いて持って来い」
「はい」
工房や研究所については、ビルダさんのところで設計をお願いして、細かな希望は後日すり合わせする事になる。これに関しては専門家に任せないと万が一何か不慮の事故が起こった時、周りに被害が出ては困るから。というところで、農場建設についての1回目の話し合いが終わった。
翌日。
アインスのギルドでは厳選された鍛冶職人さんや彫金師さん、それと魔法道具の研究者さんが集められ、ギルドの地下にある外部の人が入れない秘密の研究室で、飛行車と新収納魔法道具作成が始まる。別の部屋では術式文字と新詠唱の検証と研究も始まっているけど、僕はそちらの研究には混ざらない。
飛行車や新収納魔法道具作りだけでも忙しいから、そっちはギルドの研究員さんにお任せだ。僕の知りえた事は全部ノートに纏めて渡しているので、ギルドの研究員さん達ならそれを見れば問題なく検証や研究は進むだろう。
全員が集まったところでマルコさんが話を始めた。
「昨日、知らせたヒナ国式の魔法術式を使った新しい魔法道具作成を主導するファーマだ。この子の事はエンドール家の名において緘口令を敷く、決して外部に漏らす事のないように。万が一この中に漏らしたものがいた場合、わかるな?」
く、口留めの仕方が恐ろしい。あえてどうするか伝えないのが余計に怖い……
「マルコ様、念押ししなくても漏らしはしませんよ」
「まあ、こんな子供がもう術式を組めるというだけでも狙われるでしょうから理解できますね」
「そんな事より、スカイカーという物の術式が早く見たいです。前置きは良いから早く作りましょう」
こういった事は多くあるのかみんな直ぐに緘口令を受け入れた。それよりも早く作りたいという意思が強いようだ。と、いう事でこの日から僕は、ギルドに入り浸って飛行車と新収納魔法道具の術式を研究者さんや職人さん達に教え始めた。
僕がギルドに入り浸っている間、エミル達にはジョブギルドで採取のクエストを受けてもらっている。例の悪者の事をマルガンさんに話したら、家の方にはエンドール家直属の兵士さんの中から、亜人に敵愾心のない人を選んで数人護衛に付けてくれたので、万が一何かあっても守ってもらえるだろう。
エミルとレオナには悪目立ちするといけないので危機的状況に陥らない限り実力は見せないように言ってある。まあ、護衛が付いてくれているので2人が本気て相手しなければ危ないような状況にはならないだろうけど。
あっという間に1週間が過ぎ、9月に入った。
「やっと仕事の調整が終わって来ることが出来たよ。父上、マルコ、こんな面白そうな事を何故もっと早く連絡してこないんだ?」
僕達が地下研究室で飛行車の作成をしていると、そこに1人の男性が入ってきた。
「早く連絡をしようにも、これを知ったのはワシらも1週間前じゃからのう」
「まさか来るとは思っていませんでしたよ。忙しいのでしょう? 仕事を押し付けられた部下が泣きますよ?」
「ファーマ、少し抜けてこっちに来るんじゃ」
飛行車の説明をしている僕をマルガンさんが呼ぶ。
「呼ばれたので少し抜けますね」
「ああ、なるべく早く戻ってきなよ」
「そうだよ。まだ君がいないと作業が進まないんだからね?」
「はい、出来るだけ早く戻ってこられるよう善処します」
とは言っても僕の一存で戻って来られる訳じゃないけどね。呼んでいる相手が相手だし……
「紹介しておこう。エンドール家、現当主のグラヴァじゃ」
前にマルコさんに注意されて教えてもらったので顔は知っていた。ギルドに飾ってある写真より男前だな。
「初めましてグラヴァ様。マルガンさんにお世話になっているファーマと言います」
「君がファーマか。父から話は聞いているよ。かなり有望なんだってね」
「ちょっと待たんかファーマ。何故ワシが〝さん〟でグラヴァが〝様〟なんじゃ? おかしいじゃろう?」
「ふふふっ、私が当主で父上が隠居だからに決まっているでしょう」
マルガンさんが少しムッとしながら問いかけてきて、それに対しグラヴァさんが得意げに返す。
あまり深くは考えていなかったけどやっぱり気にする人はいるよね? 立場で格付けをしている訳ではないのだけど、はたから見ればそう見えるかも知れない。次から気をつけよう。
「いえ、そういうつもりで分けた訳ではないです。マルガンさんはグラダの町にいた頃から知っている親しいおじいちゃん的な存在なので、つい〝さん〟って言っちゃうんです。グラヴァ様は初めてお会いしましたしエンドール家の当主様なので、僕が形だけの家臣だといっても流石に〝さん〟と呼ぶのは失礼かな? って思いまして……これからは皆さん〝様〟で呼んだ方が良いですか?」
「いや、今更〝様〟と呼ばれるのも気持ち悪い。これまで通りで構わん」
「ふむ、それなら私も〝様〟ではなく〝さん〟で呼ぶと良い。公式の場では父にも私にも〝様〟と敬称を付けるようにね?」
「はい、わかりました。」
グラヴァさんもマルガンさんやマルコさんと同じで、とても気さくで良い人のようだ。偉そうにする貴族もあればこの人達の様に立場に関係なく対等に接してくれる貴族もいる。同じ貴族でもだいぶ違うよね? お世話になっているエンドール家の人がみんな良い人で良かった。
どうやら簡単な顔合わせだけの用だったようで、僕は直ぐに開発の方に戻った。
それから3日後。魔法道具制作の合間を縫って僕達の家の設計図が描きあがり、ビルダさんとすり合わせをする。
「これがおめぇの住みたい家の図面か。変わった家だな?」
僕が書いたのは日那国式の和風建築に似た家の図面。外観と内装、間取り等々日那国で習った手法を駆使して僕個人的には満足のいく図面になった。
「これは先日まで暮らしていた日那国という国の家屋を基にして描きました。この国の家とはまた違った良さのある家なんですよ」
デザリアの木造住宅もこれまでに見たことはある。デザリア式はどちらかと言えば前世の西洋風の家屋だ。それもおしゃれで悪くは無いのだけど、前世が日本人というのが影響しているのか、僕は和風建築の方が落ち着く。
「ってか、風呂がデカすぎねぇか? 個人の家にこんなでけぇ風呂は必要ねぇだろ?」
「あはは、うちってみんなでお風呂に入るのが習慣になっているんで、これくらいの広さが無いと狭いんですよね」
「……まあ、そういう習慣ならしょうがねぇか。変わった造りだが、図面は文句の付けようがねぇぐれぇしっかりしてやがる。うちに欲しいくらいだ。多少変わった技法が使われちゃいるが、これだけの設計図を渡されて作れねぇとあっちゃ職人の名折れだ。おめぇの理想を超えるぐれぇの立派な家を建ててやらぁ」
みんなでお風呂に入っている事には何か言いたそうだったけど、ビルダさんは胸をドンと叩いて右手でグーサインをしてニカッと笑って力強く良い家を建ててくれると約束してくれた。
アインス商業ギルドでもトップクラスの職人さんがこう言ってくれるととても心強い。あとはプロに任せて完成を楽しみにしておこう。
それから更に3日後。今日から農場建設開始だ。
初日という事もあって今日は農場予定地の方に顔を出すことにした。エミル達も全員一緒だ。
農場へはギルドが用意してくれた馬車で移動する。御者さんはマルコさんが気を使ってくれて亜人に偏見のない人を世話してくれた。
現場に到着すると職人さん達は既に作業を始めている。
「おはようございます。皆さん早いですね」
「おう、昨日から来てるからな」
えっ? 今日から開始って話だったのに前日に来てたの? 外は魔物もいるのに大丈夫だったんだろうか? 護衛もいないのに。
作業をしているのは100人近い大人数だ。そのうち3割ほどはとても若い。若いというより子供?
「子供も一緒に働いているんですね。職人さんって子供でも雇ってもらえるんですか?」
「あいつらは一般奴隷だ。まだ雑用ぐれぇしか出来ねぇが将来的にはしっかり仕込んで、この道で食ってけるようにしてやろうと思ってな」
なるほど、一般奴隷だったのか。僕も農場での作業は一般奴隷と契約してやってもらおうと思っていたけど、同じことを考える人はやっぱりいるんだな。
「将来の事まで考えてあげるなんて優しいですね」
「優しい? んな事ねぇよ。飯食わせるだけで、こき使ってっからな」
優しいと言われて照れるビルダさん。どうやら言われ慣れていないようだ。顔は強面だけど凄く良い人なのはよくわかる。
僕も一般奴隷の人達を雇って解放する時に支度金を渡すくらいの事は考えていたけど、手に職を持たせて技術で食べていけるようにとまでは考えが及ばなかった。ビルダさんを見習って契約する一般奴隷には何か手に職が持てるように考えよう。
挨拶を済ませ、僕、エミル、ランカ、アリッサは職人さん達の昼食作りを始め、レオナとコテツは近くの森に狩りをしにいった。
今日の昼食は餡掛け塩焼きスパ。焼きそば用の中華麺は売っていなかったのでギルドにあった乾燥パスタを使う事にしたのだ。
パスタだけでは足りないだろうと思って先日狩ったランボというダチョウに似た大きな鳥を使って焼き鳥も作る事にした。
醤油や味噌で味付けをしようかとも考えたのだけど、まだ量は少ないし生産体制も整っていないので調味料はデザリアの物だけを使う事にした。塩とコショウはギルドで買えるので水溶き片栗粉(正確には片栗粉ではない似た物)を使い塩餡掛けにしたのだ。
焼き鳥の方もタレではなく塩コショウで味付け、似たような味付けばかりだと飽きるだろうから野菜の酢漬けも用意している。こってりの間に酸味でさっぱりさせると食も進むだろう。
お昼休憩に入り食事を配る僕達の前には行列が出来た。同じものを配っているのに何故か大人はエミル、ランカ、アリッサの前にばかり人が並ぶ。やっぱり男の人は女の人から受け取りたい物なのだろうか?
僕の前には子供達が列を作っている。何故か気恥ずかしそうに眼を逸らされるんだけど?
「うめぇ! こんなにしっかり味の付いた飯を食うのは初めてだぜ」
「ああー酒が飲みてぇ」
「こ、コショウが使われてるぞ? 賄いにどれだけ金掛けてんだ?」
「いやぁ、やっぱ若くて美人な女の子が作ってくれる飯は格別だな」
食事は大好評だった。一部味付けではなくエミル、ランカ、アリッサが作ったという事を喜んでいる人もいた。一応僕も一緒に作っているんだけどね……
みんなあっという間に完食して用意した食事がなくなるまでお代わりが続き、食事が終わると職人さん達がエミル、ランカ、アリッサのところに殺到していた。
僕は離れた場所でビルダさんと話をしていたから、どういう会話をしたのかは分からないけど、何故が午後から職人さん達の僕を見る目が厳しい。まあ、気にしないでおこう……




