第14話 ファーマ君、廃村を見に行く
マルコさんの指示でギルドの第3倉庫から人払いをしてもらい、僕達は応接室を出て第3倉庫に向かう。
「ちょっと待つんじゃ。エルミナ、お前は応接室で待っておれ」
一緒に来ようとしていたエルミナさんをマルガンさんが止め部屋に置いていこうとする。
「どうしてなのですぞ? 面白そうだから拙も見たいのですぞ」
「騒ぎが起こるほどの乗り物じゃ、ファーマもワシとマルコだけで先に確認してほしいと言っておったじゃろう? 見せても大丈夫じゃと判断したら見せてやるから大人しく待っておれ」
「そう言われたら余計に見たいのですぞ。拙は表向きとはいえ、実験農場の責任者になるのですぞ? 見る権利はあるはずなのですぞ」
マルガンさんの静止を頑として受け入れないエルミナさん。2人の間にバチバチしたものが見えるようだ。
それから5分ほど押し問答が続き
「ダメじゃ。ここで待っておれ」
「絶対に見るのですぞ。お願いですぞ、どうしても見たいのですぞ、見せてほしいのですぞ」
マルガンさんが首を縦に振らないのでエルミナさんが涙目になり始め、置いていこうとするマルガンさんの足にしがみついて離れなくなり、最終的に
「見たいのですぞ、一緒に連れて行ってほしいのですぞ、お願いなのですぞ、見たい見たい見たい見たい見たい──」
エルミナさんは駄々っ子のように床を転がりながら暴れだした。
……口を開けば開くほどエルミナさんのイメージが崩れていく。エミルも母国の元王女様のこんな姿は見たくなかったのだろう、死んだ魚のような目で遠くを見つめている。
結局、マルガンさんが根負けしてエルミナさんが一緒に付いてくることになった。エルミナさん、恐るべし……
数分後、第3倉庫にやってきた。人払いをしているので倉庫内はとても静かだ。
倉庫内の一角に馬車数十台が停められるほど場所を開けてくれているので軽い試乗は出来そうだ。早速、収納魔法道具から飛行車を出してみると
「ふむ、乗り物という割に車輪が付いておらぬのう?」
「これが先日話していた乗り物で間違いないんだよね?」
ぱっと見では反応が薄い。まあ、起動させないとどういう物か分からないよね。
「はい、これがそうです」
「ふおおー、変わった乗り物なのですぞ。ソリとは違うようですがどうやって動くのですぞ?」
エルミナさんが落ち着きなく飛行車の周りを移動しながら興味津々に細部まで覗き込んでいる。この世界にもソリって存在するんだな。
「これは飛行車といって宙に浮かせてウンバやポークンに引かせず自走する魔法道具です」
「なんと? それは驚きじゃな」
「宙を移動する乗り物? それって神具クラスの魔法道具って事だよね?」
「飛ぶのですか? 見てみたいのですぞ、ファーマさん動かしてほしいのですぞ」
まあ、説明するより実際に見てもらった方が分かりやすいよね。
「エミル、走らせなくても良いから起動させてくれる?」
「かしこまりました」
エミルが飛行車に乗り、起動させると飛行車は浮き上がる。(車底が初期値の地上40㎝まで浮き上がる)
ここまでどのお土産を見せても、それほど驚いた態度を見せなかったマルガンさんが、今日初めて驚いてくれた。
「これは驚いた。風魔法で浮かせておるにしては風を感じん、なんとも不思議じゃのう。どうやって手に入れたんじゃ? それと先程から気になっておったが、お前さんの使っておる収納魔法道具はデザリアの物とは違うじゃろう? ブレスレット型にこれほど多くの物は入らん。それもヒナ国とやらで手に入れた物じゃな?」
流石にマルガンさんは色々と勘が鋭いな。マルガンさんにはある程度話すつもりではいたので、聖界での事は伏せて話すことにした。
「手に入れたというか、どちらも浮遊島で手に入れたデザリアの魔法道具に使われている魔法文字とは全く別の、術式文字という文字を使って僕が作った魔法道具です」
本当はエミルと協力して作ったものだけど、僕がマルガンさんにエンドール家に誘われた時の事を考えると、エミルが研究者として優秀だと知られるたら同じように誘われそうだから、黙っておく事にする。勿論ちゃんと後でエミル本人の意思確認はするつもりだけど、今はエミルの事を話さない方がいい。
「これを見てデザリアの物ではない魔法文字が使われたというのは予想しておったが、お前さんが作ったというのは驚きじゃな。以前の湯沸かし器とは術式の難度が違い過ぎる。余程優秀な指導者が日那国におるんじゃな」
まあ、術式の基礎知識を教えてくれたのは日那国の人ではなく神様なんだけどね。勘違いしていてもらった方が何かと都合が良いので日那国の人が優秀だと思っていてもらおう。
「して、この飛行車を浮かせておるのはどんな術式なんじゃ?」
「これは土属性の術式を使っています」
「土属性? 土属性は地を耕したり穴を開けたり石弾を作り出したりするだけのものだよ? それでどうやって浮かせているんだい?」
「冷静に考えればわかる事じゃろう? デザリアでは発見されておらん効果が土属性にあったという事じゃ。恐らくじゃが、重さを軽く……いや、重力に逆らう力を利用して浮かせておるのじゃな」
察しが良すぎて怖いよ。重力という概念があったとしても僕なら直ぐにそこまでの発想は出て来ない。
僕達が真面目に会話をしている間にエルミナさんがいつの間にか飛行車に乗り込み、エミルに飛行車を動かしてくれとお願いしている。もう駄々っ子が始まる寸前だ。
エミルが困っているので「ゆっくりなら走らせても良いよ」と許可をだし、試乗会が始まった。
「移動は風属性の術式を使っておるんじゃな」
「はい、浮かせるのと姿勢制御は土の属性で、移動や消音、それと魔物除けの術式は風属性と闇属性です」
移動させると風圧でほこりが舞い上がるから天属性を使っているのは直ぐにわかる。でも、もう少し驚いてくれると僕としても見せた甲斐があるんだけどな。
「本当に君がこれを作ったのかい? 発想としては子供らしいものだけど、新しい術式を組み上げるのは多くの研究者が何年も掛けてやる事だよ?」
「そうですね。術式の知識を浮遊島で教わる事が出来たので作る事が出来ました。その方の教えなしでは作れなかったでしょうね」
嘘は言っていない。ラグナムート様やエアリス様に少しだけど基礎的な知識は教わった。まあ、エミルの協力が無かったら絶対に完成はしなかっただろうけど。
「それだけドラグーンの研究者が優秀という事じゃろうな。まったくもって恐ろしい」
「ですね。武力でも絶対的な力を誇っているドラグーンに、これほどの水準の技術があるというのは脅威です」
どうやら上手く勘違いをしてくれたようだ。そう思ってくれている方が色々と説明しやすいんだよね。確かにこれらの術式は日那国の人達に教えたので知識は持っている。だけど、まだ技術が追い付いていないので、これと同じ飛行車や収納魔法道具を日那国の人達の手で作る事は出来ない。まあ、親方辺りは近い将来作れるようになるだろうけど1人で量産は難しいだろう。
日那国の人は大雑把な人が多いからなぁ。あとは木工職人の伝次郎さんと革加工職人の雄二郎さんそれと裁縫職人の桜子さんなら、几帳面で手先が器用だから作れそうだけど、それぞれが専門の職に就いている人だから魔法道具作りはやらないだろう。
「手に入れた魔法書や術式書はデザリア語に訳した写しを持っているので、商業ギルドに預けようと思っています」
「なんと? よく持ち出せたものじゃな。魔法技術はどの国でも国家機密クラスの重要文献じゃ。バレでもしたら戦争になっておるぞ?」
「恐ろしい事をするな君は……」
ん? なんでこの流れで戦争なんて話に? ああ、そうか……
「言っておきますけど、盗んだんじゃないですよ? ちゃんと許可を得て持って帰りましたからね?」
そもそも最初から日那国の物ではないし、ラグナムート様が広めろと渡してくれたものだし。
「たった2年でよくそれほどまで信頼を得られたものじゃな。お前さん外交の才能があるのかも知れんのう」
「本当に大したものだ」
大げさに褒めてくれるのは有難いのだけど、運が良かっただけなんだよね。僕が行動を起こした結果じゃなくて向こうからやってきてくれただけだから……
「さて、スカイカーじゃが、暫くは使用を禁止する。まずはギルドで試作して、生産法を確立させねばならんからのう。人目に触れさせるのはそれからじゃな」
「ですね。ある程度生産体制を作り上げてからでないと1台しかないこれを強引に盗もうとする輩も現れるでしょうし、ファーマ達が危険ですからね」
確かにそういう人もいそうだな。理由は違うけどつい先日襲われたところだし、許可が下りるまでは収納魔法道具にしまっておこう。
「わかったな。今後は、わしが許可するまで飛行車を使用するのは禁止じゃぞ?」
「はい、了解です。1つお願いなんですけど、飛行車を僕が作った事や魔法書を持って帰った事は秘密にしてもらえませんか?」
「お前さんの安全を考えたら公にはするつもりは無いが、陛下や主要な貴族には話さねばならんぞ?」
「どうしてですか?」
「お前さんはドラグーンの国から機密とも言える魔法書を持ち帰らせてもらえるほど深い交流をもっておる。国や家ではなくお前さん個人がじゃ。それがどういう事かは考えんでもわかるじゃろう? それほどの後ろ盾を持っておる者を隠しておいては、国家に反逆の意思があると捉えられかねんからのう」
えっ? そんな事になるの? 神術書は日那国から貰ったんじゃないんだけどな……まあ、神様から貰ったとか言うと、もっと大げさになりかねないから余計に言えないけどね。
「まあ、我がエンドール家にはこれまでの国への功があるから、そうそう疑われることはないが、忠義を示すためにも陛下にはある程度の内情を知らせておいた方が良いのじゃよ。主要貴族に教えておくのは、うちの大事な家臣じゃから手を出したら只では置かんぞという意思表示みたいなものじゃな。紹介しておかんとエンドール家の者だと気付かなかったと言い訳をして取り込もうとする輩も出て来んとも限らん」
なるほど、僕を守る為というのも理由の1つなのか。
「理由は納得しました。でも、あまり目立つのは好きではないので一般には本当に秘密でお願いします」
とりあえず一般に知られなければ目立つ事もないだろう。
「どの口が言うておるんじゃまったく、それはワシのセリフじゃ。ワシらが何もせんでも勝手に目立っておるくせに」
ん? そんなに目立つような行動はしていない筈なんだけど?
という事で話は終わり、飛行車を使って廃村を見に行くのは中止になった。代わりにギルドの馬車に乗って廃村に向かう。乗れるのは6人までなのでアリッサとコテツはギルドの応接室でお留守番。僕、エミル、レオナ、マルガンさん、マルコさん、エルミナさんで行く事になった。
到着したのはパッと見、何もない草原。先日ランカと一緒に採取に来たアインスから東南東に10㎞程の小さな湖の近くだ。
「どの辺りが廃村なんですか?」
「今、立っている場所から600m四方が廃村のあった場所だよ。よく見ると井戸や家の跡があるから少し散策してみると良いよ」
そういわれたので草を掻き分けながら歩いて見ると、確かにあった。殆ど原形を留めていない井戸や家の基礎らしき跡が。井戸は完全に塞がっていて丸く囲っていたであろうレンガのなれの果てがレンガ1~2個分の高さで残っている。家の跡も似たようなもの、かろうじて割れたレンガだろうと分かる程度の物がある。
「もうすっかり荒れ地だから農場にするのも面倒で余計に使わなかったんだ。ファーマが使ってくれて本当に助かるよ。あ、実験農場の建設はギルドの職人にやらせるから後で紹介するよ。費用も半分はギルドが出してあげよう」
用途のなかった土地を活用するからなのか至れり尽くせりだな。まあ、僕としては安く作れるから助かる。マルコさんのお言葉に甘えさせてもらおう。




