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ファーマ君の気ままな異世界生活  作者: 幸村
第3章 農場建設
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第12話 ファーマ君、断れない

 レオナの幼馴染の正式な主人になった後、僕達は家に戻った。昨日は色々と大変だったから今日は1日ゆっくり過ごすことにしたのだ。


「ファーマ様、お願いがあるんだけど、いい?」


 家に帰るなりレオナが僕に頼み事があると言ってきた。


「なに? 僕にできる事ならいいよ」


 レオナやエミルから頼み事なんて滅多に言ってこないのでちょっと嬉しい。


「ドドンガの2番目にも名前を付けてあげてほしいの」


「強い名前、いい」


 レオナの背後からひょっこり顔を出して期待の眼差しで僕を見つめるレオナの幼馴染。どうやらレオナが僕に名前を付けてもらったのを知って、付けて欲しくなったようだ。そういえばミッキィさんの奴隷商店までの道中にそんな話をしていたな。


「本当に僕が名付け親になっても良いの?」


「あぅ、レオナ同じ、強い名前、付ける」


 本人に確認したところ真っ直ぐ僕の目を見てそう言ったので引き受ける事にした。まさか2人目の名付け親になるとは思ってなかったな。引き受けた以上良い名前を考えないと。


 強い名前かぁ、百獣の王はレオナに使ったから違うのが良いよね? ……レオナの幼馴染の毛並みを見ると、もう1択なんだよね。黄色と黒の虎柄。密林の王者虎をベースに考えよう。


 ……虎子? はちょっと響きが良くない気がする。とら、トラ、虎……良いのが思いつかない。ティガやタイガーならどうだ? ……ダメだ良いのが思い浮かばない。うーん……あっ、それなら虎を〝コ〟という読み方にするのはそうだろう。コ、コ……虎徹? いや、男の子の名前だよね。って、いうか刀だし。


 ……虎姫(コヒメ)なんてどうだ? あと虎陽菜(コヒナ)なんかも可愛いと思う。虎虎でコトラとか? うん、悪くない気がする。と、1時間ほど色々な名前を考えてみた。


 どれが良いか悩むところだ……そうだ! 今回は思いついた名前から本人に選んでもらおう。


「色々考えてみたんだけど、順番に言うから気に入った名前を選んでくれる?」


「あぅ」


「名前の意味は密林の王者といって森や樹海に住む最強の者って意味だよ」


 まあ、正確な意味は違うんだろうけど僕はこういう意味で捉えている。


 虎子から順に考えた名前を全部出してみると


「コテツいい、コテツする」


 選ばれたのはコテツだった。


 ……この中ならコヒメかコヒナが選ばれると思っていたからちょっと意外だ。候補に挙げたのが悪いのだけど、まさかコテツが選ばれてしまうとは……女の子なのでコテツちゃん。ホルモン焼きみたいに聞こえないかな?


「みつりのおじゃコテツ、うれしい」


 本人が気に入っているから今更違うのにしようとは言えない。レオナと2人で密林の王者と百獣の王どっちが強いか、なんて楽しそうに話しているのを見ていると、これで良いかと思うのだけど……ラグナムート様から聞いた話だと、名前はその人の性格や運勢等にも影響があるって言っていたから、将来『今宵のコテツは血に飢えている』とか言い出さないか心配だ。


 まあ、この世界の人はそんなセリフ知らないから大丈夫だろう。


 因みにどちらが強いかという話し合いはどちらも同じくらい強いという結論で終わらせた。




 それから1週間。一応、広域視や天属性神術〝感知〟〝探査〟を使いながら警戒して過ごしていたのだけど、怪しい気配は感じない。完全に安心とは言えないけど危機は去ったと考えても良いだろう。


 そんな事を考えていた朝。玄関をノックする音が聞こえてランカが玄関を開けると


「朝早くに申し訳ありません。私はアリッサと申します。この家の主様にお話しがあり訪ねてまいりました」


 そこにいたのは先日、双頭の毒竜から助けた神国の司祭アリッサさんだった。


 なんで僕達の家が分かったんだろう?


「ファーマ様、綺麗な女性が訪ねてきましたよ? ええっと、たぶんシスターさんです」


 うん、狭い家だから僕にも見えている。コテツもアリッサさんを見て駆け寄りそうになったのだけど、それに気が付いたアリッサさんが少し悲しそうに首を振ると、アリッサさんの言わんとする事を察したのかコテツは踏みとどまる。


「初めまして、この家の主のファーマと言います。どういったご用件でしょうか?」


 あの時は正体を隠していたけど、たぶん、分かって訪ねて来たのだろうけど、ランカの手前初対面を装っている方が良いだろう。


「貴方がそうなのですね」


 挨拶をした僕を見て嬉しそうに微笑みながら目に涙を浮かべ、アリッサさんは周りには聞こえないほど小さな声でそう呟いた。


「突然の訪問、失礼しました。私はリュミエール神教の司祭、アリッサと申します。今日はご主人にお話がありお訪ねさせて頂きました。宜しければ2人でお話をさせて頂けないでしょうか?」


 アリッサさんは深呼吸を一息したあと落ち着いた口調でそう話し、深々と頭を下げる。


「わかりました。エミル、少しこの人と話があるからみんなで町にでも出かけてくれる?」


「かしこまりました。2時間ほどで宜しいでしょうか?」


「うん、お願い」


 エミル達は直ぐに支度を済ませ家を出て行く。コテツは何か話したそうにしていたけど、アリッサさんが目を合わせようとしない為、少し悲しそうにみんなに付いていった。


「申し訳ありません。本当はもう顔を合わさない方が良かったのでしょうけど、どうしてもお会いしたくて訪ねてまいりました」


 エミル達が家を出るのと同時に僕は室内に遮音神術で結界を張り、暫くの沈黙の後アリッサさんのお詫びの言葉から会話が始まる。


「どうしてここが分かったんですか?」


「はい、助けに来てくださったのがこの町の正騎士様でしたので、恐らく貴方様はこの町に滞在していると推察し、獣人を2人連れた方を探して回ったところ、貴方様にたどりついたのです」


 なるほど、確かにキャッツを2人連れて生活している人間なんてこの国には僕ぐらいなものだろう。一応レオナとコテツにはフードを被らせているけど、手を繋ぐことも多いので気付く人は気付く。


「今日はどういった御用ですか?」


「はい、1番の理由は、どうしてももう1度お会いして、あの時のお礼をしたかったのです」


 うーむ、それは嬉しい事なんだけどあの時の事が公になってしまわないかが心配だ。まあ、バレる事も想定の内ではあるけど……


「わかりました。その気持ちは受け取っておきます。それで、『1番の』という事は他にも理由があるんですよね?」


「はい、こんな事を言われるとご迷惑だと思うのですが、私を貴方に仕えさせて頂けないでしょうか?」


「理由を聞いても良いですか?」


「私は、貴方様にリオル族の子をお預けした時、本当は捕まっていた人達が無事に解放された後に、自ら命を絶つつもりでいました」


「どうして? 折角助かったのに」


「私は神教の戒律を破り神官としてリュミエール神にお仕えする資格を失いました。そんな私が生きている意味はありません。ですが、あの時貴方様は私に神の雫をお与えになり『好き人を見つけて子をなせ、生きろ』そう道を示してくださいました。どうか、私を貴方様に仕えさせてご恩返しをさせてください」


「ええっと、僕に仕えて恩を返すのが生きる理由になったという事ですか?」


「はい。どうかご慈悲を」


 これはつまり……恩返しをさせないと生きる意味を失って死ぬって事だよね?


「恩返しが終わったらどうするんですか?」


「貴方様にご満足いただけたのなら、もう未練はありません」


 ……つまり死ぬって事だよね?


 ここで断る→死ぬ

 ある程度働いてもらって僕が満足だと言って解放する→死ぬ

 本人が納得するまで恩を返してもらって解放する→死ぬ

 

 これって、寿命を迎えるまで傍に置いておかないと自殺してしまうって事だから選択肢ないよね?


 思考視で判定しても本人の気持ちに嘘、偽りはない。つまり、これは本気で言っている。


 ……これが俗に言うマインドコントロールという奴か? 神教の教えでこんな思考に至っているんだよね? 宗教、怖すぎるよ。


 折角助けたのに自殺なんてされたら嫌だし、アリッサさんに懐いているコテツが可愛そうだ。まあ、今更1人ぐらい増えたところで問題は無いし、これから色々と人手が必要になるから協力してもらおう。


 あ、でも確認しておかないといけない事がある。


「アリッサさんは神術が使えるんですよね?」


 この国で光属性魔法と呼ばれている力を、神聖教では〝神聖術〟と呼んでいたけど、神教では僕達と同じく〝神術〟と呼んでいる。


「はい」


「神術が使える人は希少なのに教会を離れて僕に仕えても大丈夫なんですか?」


「神国には私程度の神術の使い手は珍しくありません。ですので、私が教会から離れようと信仰から離れようと気に留める者はいなうでしょう。寧ろ戒律を破った者が、いつまでも教会にしがみ付いている方が忌避されます」


 へー、それは凄いな。デザリアだったら絶対に手放さないだろうに。


 アリッサさんの聖属性の適性は決して高い方ではない。たぶんだけど、アリッサさんは後天的に適性に目覚めたタイプなのだろう。でも、発動が困難というほど低いわけでもないし、成長期は過ぎているけどまだ成長できる年齢だ。


 前にライラさんが神聖教では適性の有無にかかわらず全員が聖属性の修業をするといっていたから神教でも同じ事をやっているのではないだろうか? エアリス様から聞いた話だと先天的に適性が無くても、使い続ける事で後天的に目覚める事がある。まあ、実際に目覚める人はほんの一握りらしいけど。


 後天的に目覚める人の殆どは適性が低すぎて開花していない人なので、生まれつき適性のある人より適性値が伸びないらしい(例外もある)。まあ、それでも適性の無い人に比べると、かなり術の効果は高くなるんだけどね。


「教会側が気に留めないなら問題は無いですね。アリッサさんが一緒だとコテツ、あ、アリッサさんから預かったリオル族の子供にコテツって名前を付けたんです。コテツも喜びます。恩を返したいと思ってくれるなら僕に仕えるのは構いません。でも、ちゃんと好い人を見つけて幸せな家庭を築いて寿命を全うしてください。それが1番の恩返しですよ?」


「ありがとうございます。生涯を掛けて貴方様に尽くします。本当にありがとうございます」


「尽くしてくれるのは有難いけど、自分の幸せもちゃんと考えてくださいね。約束ですよ? アリッサさん」


 ちゃんと聞いてくれているのかは分からないけど、まあ、時間はあるんだ。気長に変な思想は改善していこう。


「私の事はアリッサと呼び捨てにしてください。下僕に敬称など必要ありません」


 ちょっと待て! いつの間に下僕に格下げになった? さっきまで家臣という話で纏まっていなかったか?


 アリッサはこの後直ぐに教会に神衣(しんい)(神教の神官が着る服)を返しに行き神職を辞職。その日の内に自分の荷物(小さな背負い袋1つ程度)を持って、うちに引っ越してきた。


「──と、いう訳で、今日から仲間になったアリッサです。みんな仲良くしてあげてください」


 ランカがいるので悪者から助けた事は話さず困っているからと理由付けして一緒に暮らす事を説明した。


「ファーマ様? おっしゃる事は理解しましたが、何故私達に対して敬語なのですか?」


「ファーマ様、変だよ?」


 うん、僕も変だと思うけど、ちょっと精神的に疲れちゃったから……


「アリッサ、一緒、嬉しい」


「なんだかどんどん人が増えていきますね? 私も似たような立場なので言えた事じゃないのですが、ファーマ様ってお人好し過ぎるから、困っている人を助け過ぎて、いずれ破産しそうな気がします」


 うん、ランカの言いたい事はよくわかる。でも、本気で困っている人を見ると放っておけないんだ。まあ、今のところ財力はあるから問題はないよ。


 余談だけど、アリッサの戒律違反というのは多くの男性と体の関係を持った事らしい。神教では男女共に夫婦以外の人と体の関係を持つ事を禁じられているんだとか。アリッサの場合は自分の意思に関係なく無理やりだったのだけど、それでも許されないらしい。


 教会では『穢れた者がいつまでここにいるのです? 早く住居を探して出て行ってくれないかしら』と、水を掛けられたり『よくもまあ、おめおめと生きていられるものですね。私なら自ら命を絶ちますよ?』と言ってナイフを渡されたりと、責められていたらしいけど、僕を探して恩返しをするという目標があったから他のシスターからの暴言や暴挙は気にもならなかったそうだ。


 まったくもって酷い話だ。アリッサがいなかったらコテツは生きていなかっただろうし、助かった他の21人も無事ではいられなかった筈だ。身を挺してみんなを守っていた人を穢れていると責め立てる教会関係者は頭がおかしいとしか思えないよね。


 神教って命は平等とか、差別はいけないとか言っているけど、こういう理不尽な差別はするんだな。宗教の闇を見た気がする。因みにこの話はエミル達には聞かせていない。聞かせても気分を悪くするだけだろうから言う必要もないだろう。


 閑話休題。


「そういえば聞いてなかったけど、アリッサは食べられない物はない?」


「はい、好き嫌いはありません。出された物はなんでも頂きます」


 好き嫌いのつもりで聞いたんじゃないんだけど?


「そういう意味じゃなくて、さっき言ってた戒律? 神教の教えで食べちゃいけない物とかはないの? あとやってはいけない事とか」


「はい、食べてはいけない物はありません。やってはいけない事は常識的な範囲で悪い事ではない限り大抵の自由は認められています」


 へー、わりとそういう部分は自由なんだな。夫以外と関係を持ったら神徒の資格を失うなんて聞いたから、もっと厳しい規律があるのかと思っていた。食べ物に制限が無いのも驚きだ。命の価値はどんな生き物も等しいという教えだから菜食主義なのかと思っていたけど違うんだな。


 そう思って聞いてみたら違うらしい。


「生きる為には食べる事は自然の摂理です。意味もなく命を奪う事は厳しく禁じられていますが、命を奪った限りは余すことなく役立てるのが神教の教えです。その代わり、私達も他の生物の糧になる覚悟を持ち、天寿を全うした後には、その身を森に置き命あるものの糧にならなくてはいけません」


 という事だ。戒律違反者に自殺を進めるのは戒律違反にならないのだろうか? とか思ったけど、流石に聞けないよね?


 殺すなら殺される覚悟を持てという教えには共感できるな。大抵の人間は、自分は命を奪うくせに奪われる覚悟を持たない人が殆どだ。これは前世でも現世でも同じ、人間は自分達の事を全ての生物の頂点だと思っている節がある。人間も動物の一種だと理解すべきだよね。


 今日話した限りでは、これと言って共同生活に支障はなさそうなので良かった。2人増えて家は狭くなったけど、仲良くやっていけそうだ。


 1つだけ困った事は、うちの女子率の高さ。僕以外全員が女性なので少し居心地が……いや、悪くはないのだけど、何となく僕がいて良いのだろうか? とか思ってしまう。うーむ、まあ、気にしたら負けだな。


 アリッサがうちに来てから数日して、マルガンさんがアインスに到着したという連絡が来た。僕達は連絡を受けて直ぐに商業ギルドに顔を出す。一緒に来たのはエミル、レオナ、コテツ、アリッサの4人。ランカには家の事をお願いして留守番してもらう事にした。


次回更新は5/22になります。

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