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ファーマ君の気ままな異世界生活  作者: 幸村
第3章 農場建設
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第10話 ファーマ君、証言を集める

 倒れていたのは猫人族(キャッツ)の女の子だ。身長は出会った頃のレオナと同じくらい、意識はなく呼吸はとても弱い。直ぐに鑑定眼で確認するとかなり危険な状態にある事が分かった。


 先程飛び込んだ女性は少女の前に座ると胸の前で手を組み、神力を高めると詠唱のようなことを始めた。


「ダメだ! こんな状態で治療神術なんか使ったら死んじゃうよ!?」


 とっさに僕は女性の使おうとしていた神術を止める。


「でも、このまま放っておいたら失血死してしまいます」


 どちらにしてもキャッツの少女の命は風前の灯だ。さっきの鑑定で見た状態は生命力値が11/107。骨折、失血、飢餓、衰弱、部位欠損、細菌やウイルスにも感染していて、あげたらキリがないくらいの酷い状態だ。


「僕に任せて」


 だけど、僕にはこの状態を打開できるものがある。ラグナムート様達からお土産に貰った〝神の雫(万能薬)〟だ。貰った神の雫は全部で5本。僕が3本、エミルとレオナが1本ずつ収納魔法道具に保管している。


 もう少し切迫していない状況ならエミルが作ったライフポーションと新ヒーリングポーションを使えばいいのだけど、今は出血が多くて生命力値が下がり続けている状態なので時間をかけている余裕はない。


 収納魔法道具から神の雫を取り出し飲ませようかと思ったけど、飲める状態ではなさそうだ。仕方ないので直接胃の中に入れることにした。〝透視〟を使い女の子の体の内側を把握、時空属性の転送神術を発動させ神の雫を10mlほど胃と繋げた空間に流し込む。


 エアリス様から聞いた話なのだけど、神の雫(万能薬)は飲ませるなら1口だけでどんな状態でも正常に戻せるらしい。飲めない状態の場合は頭から1本掛ける必要があるんだとか。つまり、時空神術と併用すれば飲めないほど弱っている人でも僕達が持っている量で25人の命が助けられるのだ。


 転送神術は術者が認識できる任意の2点に次元の穴を開け空間を繋ぐ神術だ。透視でもできない限り胃の内側に直接繋ぐなんて事は出来ないけど神眼を持っているから可能なチート技なのである。


 神の雫を投与して数秒後、キャッツの女の子の体が淡く発行し全身の傷が癒えていく。みるみる傷は塞がり、切り裂かれて傷だらけだった体は古傷すら残らず元通り、失っていた部位も再生し、鑑定で確認すると全ての状態異常、感染症は消え、生命力値も最大値に戻っていた。


「ふぅっ、これでもう大丈夫だよ」


 あっ、しまった。いつの間にか素の話し方に戻っていた……ま、まぁ、顔は隠しているし正体がバレる事は無いよね?


「コホンッ、これでもう大丈夫だ」


 とりあえず声色と口調を変えて言い直した。誤魔化せると良いな……


「貴方様はいったい? どうして神術も魔法薬も使わずこの子の傷が塞がったのでしょうか? 神の御業としか思えません」


 僕を見る金髪のお姉さんの表情が恍惚としている。見えていなかったようだけど、どちらも使ったんだよね。


「神の御業とは大げさだな。今のは偶然手に入れた神の雫という薬を時空魔法で体内に転送させただけの事。驚く事ではない」


「神の雫? そんな高価な物をお使い頂いたのですね。申し訳ありません」


「高価かどうかは知らんが、人の命には代えられないだろう?」


 いくら希少だと言ってもダンジョンでドロップするアイテムなんだから頑張れば誰でも手に入れられる可能性がある。命の方が遥かに重いに決まっている。


「この国にこれほど崇高な思考の持ち主がおられるとは思っていませんでした。リュミエール神のご加護がありますように」


 金髪のお姉さんは僕の方に体を向け膝立ちで何かを抱きしめるように胸の前で手を交差させ半眼で軽く俯く。


 これは神教の祈りのポーズ。この人はリュミエール神教の関係者なんだろう。しかし……


「祈りを捧げてくれるのはありがたいのだが、服を着ていない事をお忘れではないか?」


 見てはいけない場所が丸見えだ。


「……きゃっ、お見苦しいものを見せてしまって申し訳ありません」


 お姉さんは僕に指摘されて自分の姿を思い出し両手で胸と股間を隠しながらしゃがみ込む。


 まあ、女の人の裸はエミルとレオナで見慣れているからそれほど戸惑う事は無いけどね。綺麗な人なので眼福でしたとは口が裂けても言えない。


「とりあえず、何か着た方が良いな。貴女方は服を持っていないのか?」


「はい、ここに連れてこられて直ぐに奪われてしまいました」


「ふむ、ならば先ずは着る物を探さねばなるまいな」


 僕はキャッツの少女を抱き上げ、金髪のお姉さんと一緒に部屋を出て捕まっていた女性達のところに戻った。


「さて、これからあなた達の着る物を探しにこの部屋から出る訳だが、双頭の毒竜の者達は拘束して適当な部屋に閉じ込めている。思うところはあると思うが、復讐など手出しはしないでもらいたい」


 あんな奴らの為に手を汚してほしくないし、何より非正規とはいっても闇ギルドのメンバー。あとで逆恨みとかされると危険だ。まあ、あの人達が生きて日の当たる場所に出てくる事は無いだろうけど。


 この人達の事を思っての発言だったのだけど、僕の発言に半数ほどの女性達は怪訝な表情を浮かべている。


「奴らを捕獲した時に吐かせたのだが、相手は闇ギルドの者だ。下手に貴女方が手を下して後で狙われるような事になっては助けた意味が無くなってしまうのでな」


 この理由で納得してくれたようで女性達は声を揃えて「はい」と返事を返してきた。


 全員で砦内を探し回り双頭の毒竜の人達の物であろう服を発見した……のは良いのだけど、かなり汚くて目に染みるほど臭い。はっきり言って着ない方がましだ。


「ああ、待て待て、無理に着なくても良い。服は俺が何とかするから貴女方は先に風呂にでも入っていろ」


 とは言ってもここにお風呂なんて上等な物は無い。精々水を溜めている水瓶がある程度だ。しかし、それにも変な虫が湧いていてとても使う気にはなれない。ここの人達は飲み水やお風呂はどうしていたんだろうか? まさかこれを使っていたのか?


 女性達に確認したらそうだった。よく今まで死人が出なかったな……


 仕方ないので適当な部屋を練成で改装して浴槽を作り、水神術で水を張り、炎神術で適温に調整して全員で入れる即席のお風呂を作った。


 あっという間の出来事に女性達は目を丸くして固まっている。まあ、驚かれるとは思っていたけどね。バレないように正体は隠しているのでこれぐらいの事はやっても問題ないだろう。


「石鹸とタオルを渡しておく、数は足りないと思うが皆で順に使ってくれ」


 神教(仮)のお姉さんに持っていたタオルを数枚と石鹸を渡して部屋を出る。材料を持っていれば作りたかったのだけど、流石に20数人分の服の材料は持ち歩いていない。


 仕方ないからさっき見つけた汚れた服を水神術と天神術を駆使して洗濯。天神術と炎神術を駆使して乾燥させ人数分の服を確保。完全に綺麗な服とは言わないが臭いは取れたからこれで我慢してもらおう。サイズも大きいとは思うけど裾を折ったり紐で縛ったりすれば着られないことは無い。


 さて、問題はどうやってこの人達を町まで連れて帰るかだな。アインスまでは約20㎞、その間20数人を守りながら帰る……のは出来なくはない。でも、目立つ上に朝までに帰れない。


 折角、アリバイを作って出て来たのに僕がここに来ている事を少しでも怪しまれるのは避けたい。まあ、みんながお風呂から上がったら話を聞くつもりだから聞き終わるまでに考えれば良いか。


 久しぶりのお風呂が嬉しかったのかお姉さん達は1時間ほどのんびりお風呂に入っていた。僕が洗って部屋の前に置いておいた服を着て全員が出てくる。神教(仮)のお姉さんに預けていたキャッツの少女も目を覚ましたようで、みんなと一緒に出てきた。ちゃんと洗ってもらったようで、すっかり綺麗になっている。


「では、1人ずつ俺のところに来てくれ。そこの2人は最後だ」


 神教(仮)のお姉さんとキャッツの少女は最後にしてもらって、他の女性達を1人ずつ僕の前に立たせ、僕オリジナル天炎複合神術(ドライヤー)で髪を乾かしながら話を聞き、鑑定で病気や疾患がないか調べて神術で治療を施す。


 幸いな事に聖属性神術が使える神教(仮)のお姉さんがいたので酷い怪我や病気の人はいなかった。だけど、日常的に暴力による調教が行われていたようで今日までかなり酷い目に遭っていたらしい。


 売られる予定だったので、ほぼ全員が生娘のままだというのは不幸中の幸いなのだけど、性的な技術指導とやらで色々やらされ、〇〇を使われたり△△を使われたり、心に深い傷を負っているのは間違いない。このトラウマを克服するのは大変だろう。


 話を聞いたあと、あの変態どものナニをディグランザで切り落としてやろうかと思ったよ。汚いからやらないけどね。


 ここにいる人達はここ数か月の間に攫われてきた人達で、出身領地はほぼバラバラ、職業は冒険者と就労者(ジョブギルドで仕事を貰っている人)が殆どで、行商人の娘という人も2人いた。


 連れてこられて直ぐに奴隷術式を使える男(部屋の前で寝ていた小太りの男)に、無理やり奴隷紋を入れられ反抗出来なくされて、全裸で写真を撮られたそうだ。写真は買い手側に見せるための物で、半年ほど教育が施された後、買い手が付いた順に何処かに連れていかれるそうだ。


 つまり、今ここにいる人達は調教中の違法奴隷という事になる。売られてしまった人は助けようがないけど、まあそこは正騎士さんが何とかしてくれんじゃないだろうか?


 最後に神教(仮)のお姉さんとキャッツの少女を呼び、話を聞く。


「最初に1つだけ聞きたいのだが。何故、貴女だけは奴隷紋が無いのだ?」


「はい、私は神国ヴァルハールで司祭の位を与えられた神官です。私達神官は任命式の際、リュミエール神の加護を授かり、邪法による悪意の影響を受けないようになっています。ですので、奴隷術式という邪法は私には効きません」


 神国ヴァルハールはデザリア北西に位置するリュミエール神教の始まりの国と言われている国だ。


 前に読んだ本によると神国の司祭というのは結構位の高い人って事だから、この人はそれなりに偉い人なんだろう。しかし……デーア母さんが人界の生物に加護を与える事なんて普通はない。


 他の神様の加護か? ……いや、違うみたいだ。神眼で見たところ加護は与えられていない。代わりに背中に透明な術式用のインクで術式が書き込まれている。これが邪属性神術の影響を阻害しているんだろう。


 宗教家も色々考えるんだな……まあ、そんな事を今は気にしなくて良いか。でも面白そうな術式なのでしっかり覚えて今度研究してみよう。


「それほど位の高い者が何故こんなところで捕らえられているのだ?」


「いえ、位は高くないのです。対外的には高い位と言っていますが、神国での司祭という立場は他国で布教活動をする為の位で、何の権利も権限も持たない名誉職なのです」


 他国の人間にそんな裏事情を話してもいいのだろうか?


「あ、余計なお話でしたね。私は本国から布教の為にデザリアの南部へ向かう途中に、この砦に居る双頭の毒竜という者達に襲われたのです。護衛の神兵も2人ほどいたのですが、不意打ちを受け数に圧倒されて殺されてしまいました」


 神国では国や国民を守る人の事を神兵と呼ぶ。因みにデザリアの南東に位置するユトピュア神聖国という神聖教の国では聖騎士というらしい。国によって呼び方は様々だ。


 強さは分からないけど正騎士と同じくらいの強さと考えていいだろう。先に気が付いていれば遠距離からの神術攻撃で撃退くらいは出来たかも知れないけど、さっき司祭さんが使おうとしていた神術が詠唱式だったことを考えると攻撃系の神術も詠唱式の筈、不意打ちで接近戦になったら使えない。数に押し負けたというのもうなずける話だ。


 質問を続け得た情報は、司祭さんの名前はアリッサさん。ここに連れてこられてもう2年以上になるらしい。奴隷紋が入れられないので売る事が出来ない為、商品になる人達には出来ない行為をやらされていたらしい。


 毎日のように複数人の相手をさせられ、何度も命を宿したが全て流れてしまい、今では子供を授かれない体になってしまったらしい。死んでもおかしくない状況で生きていられたのは回復神術が使えるからだ。


 何度もそのまま死んでしまおうか、ここから逃げ出す方法はないかと考えたのだけど、アリッサさんにはここで暴力的な調教を受けていた人達や、今もアリッサさんに抱き着いて離れないキャッツの少女達を見捨てる事が出来なかったらしい。


 自分が死んでしまうと囚われている人達の治療をしてあげる人がいなくなる。自分の代わりに男達の慰み者にされる娘が出てくるかも知れない。そう考えると自身に治療をせず、そのまま死ぬことが出来なかったと語ってくれた。


 キャッツの子供もアリッサさんが連れて来られた時は3人いたらしい。眼帯男が生き物を痛めつけるのが趣味の人格破綻者で、人間の女性は売り物だからと、高く売れないキャッツの子供が眼帯男のおもちゃにされていた。


 アリッサさんはキャッツの子達が死んでしまわないように、眼帯男が遊び終わった後に牢に投げ込まれた少女達の治療を続けていた。


 その拷問がどうあっても死ぬまで続けられるなら治療をせず死なせてあげようと思っていたらしいのだけど、眼帯男との約束で5年間生かし続ける事が出来ればキャッツの子供は解放してもらえるという話だったので、今は苦しくても解放さえしてもらえれば、そのあとに幸せな生活を送れるかも知れないと、治療を続けていたという事だ。


 恐らく眼帯男は約束なんか守るつもりは無かっただろう。長く楽しむために人の良いアリッサさんを利用していただけ、もしくは助けられなかったことを嘆くアリッサさんの姿を見て楽しんでいたのか、アリッサさんの精神の葛藤に苦しむ姿を楽しんでいたのか。


 ちょっと脅しただけで口を割るほど気が弱いくせに弱い立場の人には強く出る。最低の奴だな……


「結局、助かったのはこの子だけ……この子の仲間には長く苦しい思いをさせてしまっただけでした」


 アリッサさんはキャッツの少女に悲しそうな顔を向け、ぎゅっと抱きしめ涙を堪えている。


「そんな事はない。ただ苦しい思いをさせていただけであれば、その娘は貴女にそれほどまでに懐いていただろうか? 貴女と共にある事でその子は幸せを感じていたのだろう。確かに救えなかった2人は長く苦しんで息絶えたかも知れないが、きっとその子のように貴女に心を救われていたに違いない。貴女のやった事は間違いではない」


 落ち込むアリッサさんに僕は思った事をそのまま伝える。すると、感情の関が切れたのか、アリッサさんの目から涙が溢れ声をあげて泣き始め、それにつられるようにキャッツの女の子も泣き出した。


 一通り全員から話を聞き終え、これからどうするかを考える。この人達をこのまま連れて帰るか、1度1人でアインスに戻って正騎士ギルドに通報し正騎士さんに任せるか。仲介屋がやってくるかも知れない事を考えると悩むところだ。


 一緒に連れ帰ると、どうしても僕の正体を明かさなければいけなくなる。流石に非正規とはいえ、闇ギルドのクラン1つを1人で潰したなんて事が知れ渡ってしまえば、目立つことは間違いない。僕1人ならそれでも構わないけど、エミルやレオナを危険にさらしたくない。


 今、僕が連れて帰るのが1番安全なのだろうけど、正体がバレると、今後闇ギルドに狙われる可能性が高くなりそうなので、それは避けたい。悪いけど僕にとって何よりも優先されるのはエミルとレオナの安全だ。


 考えるまでもなく正騎士ギルドに任せるしかないよね。


「さて、貴女方の今後だが、俺は人目に顔を晒す訳にいかない。貴女方は後日助けに来る正騎士達に、それぞれの故郷へ送ってもらえるよう頼んでおこう。1秒でも早くここを離れたいだろうが、もう暫く我慢してくれるか?」


 名乗りもせず顔も見せない人間の言う事だけど、悪者から救ってくれた人間の言う事だからと、女性達は助けの正騎士さんが来るまで待つと言ってくれた。


「黒衣の騎士様、1つだけお願いがあります。このリオル族の娘だけは黒衣の騎士様と一緒に連れていってもらえませんか?」


 神国ではキャッツ族の事をリオル族と言うらしい、国によって違うんだな。ってか、黒衣の騎士って僕の事か? まあ、僕を見て言っているんだからそうなんだろう。偽名すら名乗っていないから思いついた名前を呼んだのか? 悪くない呼び名だ。って今はそういう状況ではなかった。


「理由を聞いても良いか?」


 まあ、察しは付くけどね。


「デザリア国王国ではリオル族やフェン族などの獣人は奴隷か薬物実験の道具として扱われていると聞きます。この国の正騎士が助けに来た時、この子だけは保護ではなく捕獲されてしまうでしょう。折角、黒騎士様に助けていただいた命、それではあまりに不憫でなりません。それなら貴方様に保護していただいた方が幸せでしょう」


 まあ、理由は予想通りだ。フェン族というのがどの種族かは分からないけど、獣人というのはたぶんこの国で魔人と呼ばれている種族の事で間違いないだろう。魔人より遥かに柔らかい呼び方だ。


「俺がこの娘を他の者達と同様な扱いをするとは思わないのか?」


「それは大丈夫でしょう。この子の為に1瓶で小国なら買えてしまうほど高価な薬を惜しみなく使ってくれるような方が、この子を無下に扱うとは思いません」


 え? 本当に? たった1瓶で国が買えちゃうの? 神の雫、恐るべし……


「信頼してくれるのなら俺が保護しよう。丁度、仲間にこの娘と同族が1人いるからな。良い友になってくれるだろう。娘、俺と共に来ると良い」


 僕が手を差し伸べると、キャッツの少女はアリッサさんの顔を見つめ、アリッサさんが笑顔で頷き「元気でね」と頭を撫でると、目を細めて少し笑いアリッサさんのお腹の辺りに顔を擦り付けたあとアリッサさんから離れ、僕の手を握った。


「アリッサ殿、貴女にはこれを飲んでもらいたい」


 神の雫を小さな器に注ぎアリッサさんに手渡した。


「先程、この娘に使った物と同じ薬だ。これを飲めばどんな状態の者でも正常な身体に戻すことが出来る。貴女の身体の異常は完治するから、いずれ好き人(よきひと)と出会い子をなす事も可能になるだろう」


「こんな高価な物をお受け取りする事は出来ません。どうぞお収めください」


「いや、一度瓶から出した物は戻す事は出来んのだ。貴女が飲まなければ捨てるだけになるのだか、それでも良いか?」


 本当は戻しても問題はないけど、こういえば断る事は出来ないだろう。


「貴方様の深いご慈悲に感謝します」


 アリッサさんは少し目に涙を浮かべ神教の祈りのポーズを取り微笑むと、神の雫を受け取り飲み干した。体は淡い光に包まれ正常な状態に戻る。


 僕は少女を抱き上げ「では、助けが来るまで待っていろ。決して奴らに復讐しようなどと考えるなよ」と念押しして砦を後にした。

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