第9話 ファーマ君、アジトに乗り込む
アジトを突き止めた僕達は1度アインスの家に戻った。家に戻ったのは日が暮れる少し前。
家に帰るとエミルとランカが食事の支度を済ませて待っていた。
「おかえりなさいませ、ファーマ様。ご無事で良かったです。あの盗賊がまた戻ってきたらと思うと気が気じゃなかったですよ?」
「ただいま、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。何事もなかったし結構大物も狩れたからね」
ランカにはあまり心配を掛けたくないし、僕の諸事情は話せないので誤魔化すのも大変だな。
僕達は直ぐにお風呂に入って食事を済ませると早めの床に就いた。電気を消して直ぐにランカには睡眠の邪属性神術を掛け、深い眠りに落ちてもらい、僕は着替えをする。
身に着けるのは日那国に居た時にエミルとレオナの装備を作るついでに作っておいた竜布と竜板を使った防具。
上半身は黒の長そでシャツの上にベストを着て手袋を付け、下半身は黒の長ズボンを履き足首まで覆うブーツに裾を押し込み、最後に黒のフルフェイスの兜を被る。ヘルメットにはエミルに教わったサングラスと同じような黒い遮光ガラスを改良して作った、強化遮光ガラスのアイガードを付けている。他人からは顔どころか目も見えないので誰に見られても僕だとは分からない。
見た目は前世の警察か自衛隊の特殊部隊? って感じになった。全身黒尽くめなので、認識疎外神術を使えば闇夜で見つかる事はほぼない。
「ちょっと出かけてくるから戸締りと、ランカが起きないように調整宜しく」
「かしこまりました。お気を付けて」
「レオナも一緒に行く」
エミルは僕の指示に従いお見送り、レオナはいつの間にかフル装備に着替えて付いてこようとしている。
「悪いけどレオナも留守番して。万が一僕がいない間にここが襲われでもしたら、レオナがいないと気付けないから、レオナにはエミルとランカを守ってほしい」
「……うん、わかった」
レオナは少し俯いて元気なく返事をする。そんなレオナの頭をポンポンと撫でて僕は認識阻害神術を使い、家の周りに誰もいない事を神眼で確認してから家を出た。
閉門後なので町の出入口には向かわず町の南の防壁まで行き、地属性神術の重力変化で体重をほぼ0にし、思い切りジャンプをして防壁を飛び越える。オリンピック選手も真っ青の跳躍だ。
防壁を飛び越え、ある程度町から離れたところでリミッターを1つ外し、普通の人間では絶対に出せない速度で駆け、あっという間に悪者の砦付近に到着した。
少し離れた場所から遠視で砦内を確認すると、悪者達は酒盛りをしながら奴隷らしき全裸の女の人と子供には見せられない行為をしている。
昼間に人攫いの真似事をしておいて、夜に酒盛りと乱○とか、ろくでもない大人だな。
砦の格子扉の前に移動し認識疎外神術を解除し、格子扉に両手を掛け勢いよく左右に開いた。リミッターを1つ外した状態なのでこの程度の格子扉は縫い糸を切るより容易く引きちぎれる。
金属が軋む甲高い音と引きちぎれる鈍い音が辺りに響き渡り、こちらに注目が集まる。
邪属性神術〝威圧〟を発動しながら壊した扉をゆっくり潜り抜け悪者達に歩み寄ると、中で酒盛りをしていた全ての人間は〝威圧〟の効果で〝恐怖〟の状態異常にかかり青ざめて動かなくなった。黒邪竜に急襲された時のエミルとレオナと同じ状態だ。まあ、ステータス弱体の状態異常はないけど。
あ、不味い、奴隷の女の人まで巻き添えにしてしまった。
僕は直ぐに女性への威圧だけを解除する。すると、余程怖かったのか、女性は全員そのまま意識を失った。威圧の掛かっている人達は意識を失う事すらできずに恐怖心で青ざめ息苦しそうにしながら震えている。
威圧神術単一でも重圧で息が詰まるような状態にはなるけど、相手に恐怖を与えるような何かと組み合わせると、このような状態になる。今回は得体のしれない全身黒尽くめの人間が、金属製の格子扉を引き千切って侵入してきたのだから相手も余程怖かったのだろう。威圧との組み合わせで完全に動けなくなっている。まさに蛇に睨まれた蛙状態。
今、目の前に居るのは37人。昼に襲ってきた内の8人はここにいたけど、僕と会話をしたリーダーらしき男ともう1人がいなかった。
「何事だ!」
砦の一番奥にある建物からぞろぞろと6人の男達が武器を手に出てきた。昼間に見た2人も一緒だ。
「なんだ? ありゃぁ……」
男の1人が引き裂かれた吊り扉と僕を見て呆然とし、まるで人ならざる者でも見るような目で声を漏らす。僕は震えている男達の間をゆっくり抜け、立ちすくむ男達の前に立った。
「なにもんだ、てめぇ!?」
片刃の反り返った剣の切っ先を突き出し、右眉尻に傷のある男が声を掛けて来た。この重圧の中まだ口が利けるとは凄いな。それなりに修羅場を経験しているんだろう。
「昼間に貴様らが襲った者の依頼だといえば分かるか?」
口調と声色を変えて質問に返す。まあ、本人だけどね。
「まさか……侯爵家の暗部か?」
男達はどよめき動揺を隠せないような態度で昼に見た眼帯の男が呟いた。
〝アンブ〟ってなんだろう? まあ、良いか。都合よく何かと勘違いしているようなので否定はせず話を進める事にした。
「……っきしょう、なんでここがバレやがったんだ」
かなり悔しそうな顔をしているけど、僕とレオナのコンビが尾行したんだから、分らなくても落ち込むことは無い。たぶん気付く人の方が少ないし。
「大人しく武器を捨てるなら痛い思いはしなくて済むぞ?」
「チッ! 偉そうにしやがって、強ぇったって相手は1人だ。こいつさえ殺っちまえば再起はできる。お前らやっちまうぞ!」
傷の男が声を張り上げると男達は殺気立ち左右に広がろうと動き出した。瞬間、僕は男達の懐に飛び込み、あごの先端を軽く打ち抜き失神させた。
反応できた人は1人もいない。たぶん自分達に何が起こったのかもわからないだろう。かなり手加減したので砕けてはいないけど、全員顎を亀裂骨折しているので暫くは固いものが食べられないだろう。当然、回復神術はかけてあげない。
〝威圧〟を解いていなかったので後ろでは酒盛りをしていた男達が白目を剥いて泡を吹き、体をビクンビクンさせていた。解除と同時に全員が動きを止めた。一応死んでいないか確認したらみんな生きていたので良かった。前に読んだ本だと恐怖で死んでしまう事もあるって事だったけど、そう簡単には死なないようだ。うん、良かった。
リミッターを戻し、悪者達が失神している間に壊した扉を練成で修理して砦内を【透視】を使いながら捜索し倉庫部屋を発見。結構、貯め込んでいるようだ。
悪者の貯め込んだお宝に用事は無いので、倉庫に保管されていた多くの拘束具を拝借して、悪者全員の手足に枷を嵌めた。ピッキングの出来る人がいると逃げられるかも知れないので鍵穴は潰しておく。
砦内を捜索している途中で、男達が出てきた部屋の更に奥に、十数人ほどの女性が囚われている牢屋のような部屋を発見した。全員が服を着ておらず、背中には奴隷紋が入っている。何人か威圧にやられたのか気を失って少し騒ぎになっているようだ。可哀そうな事をしちゃったな。まだ威圧の邪属性神術に慣れていないから許してね。
その部屋の隣の小部屋には、ちょび髭の怪しげな小太り男が寝ていた? いや、気絶しているのか。この人も怪しいので一応拘束して邪属性神術で更に深い眠り状態にしておく。
後から出てきた悪者達のリーダー格らしき男達に水神術で頭から水をぶっかけ目を覚まさせた。
「さて、お前達に聞きたいことがある。先ず、お前達は何者だ?」
「……」
全員がだんまりを決め込んでいる。
「ふむ、話す気がないなら1人ずつ話したくなるようにしてやろう」
腰のナイフを抜き、1番ひょろそうな男の胸倉を掴み上げ目に向かってゆっくり近づける。流石に刺すと痛いだろうからそんな事はしない。ミリ手前で止めるつもり。
「ま、待ってくれ。話す、話すから」
口を開いたのは意外にも1番強面の眼帯男。この人、顔は怖いけど気弱だよね?
「俺達はこの辺りを通った旅人を襲って生活している只の人攫いだ」
前半は本当の事だけど後半は嘘みたいだ。ただの人攫いではないと【思考視】が見抜いている。
「虚言で逃げられると思っているのか?」
仕方がないので再び〝威圧〟を発動。今度はリミッターを解除していない状態なのでさっき程の効果は出ない筈だけど、余程ビビっているのか眼帯男は恐怖に捕らわれ滝のような汗を掻いて倒れ伏した。
「なぶり殺しにされたくなければ正直に答えろ」
他の5人に視線を送ると眼帯男に似た顔の傷の男がぽつぽつと話し始めた。得た情報は後で紙に書いて正騎士ギルドに届けるつもりだ。
男達は以前リリから話に聞いた闇ギルドという犯罪者集団のクランという団体の1つで、クラン名は〝双頭の毒竜〟闇ギルドに加入したのは数年前で今はまだ非正規クランなんだそうだ。
犯罪者ギルドにも正規とか非正規とかあるんだな。って、事は前世で例えるなら杯を貰っていない暴力団の人と同じって事? まあ、どうでも良いか。
メンバーはここにいる43人と、さっき檻の部屋の隣で倒れていた小太り男の44人。普段は下級冒険者や小さな商団等を襲って攫ってきた女の人を違法奴隷にして売って生計を立てているらしい。小太り男は元奴隷商人なんだとか。
今回僕達を襲ったのは、仲介屋と呼ばれる依頼主とクランを繋ぐ闇ギルドの人間がもってきた依頼を受けたからだそうだ。これは昼に聞いた話とほぼ同じだ。やっぱり依頼人の素性は分からないそうだ。
闇ギルドの本拠地は知らないそうで、仲介屋を間に挟んでやり取りをしているそうだ。こちらからの連絡手段は無いらしく、何処にいるかは分からないけど、たまに仕事の依頼を持ってアジトにくるらしく、今回の依頼の結果も仲介屋が来るまでは知られることは無いらしい。
一応、依頼には期限があるらしくそれまでに達成できなかった場合は前金を取り上げられて他に回される事もあるそうだけど、今回のように捕まってしまうと捕まえた人に前金は取られてしまうので恐らくは、他のクランに依頼が回される事は無いだろうという事だ。
依頼者が追加料金を払ってでも継続を望んだ場合は、他のクランが襲ってくるかも知れないけど、今回は侯爵家の家臣を狙うにしては依頼料が安かった為、恐らくはあまり金を持っていない依頼者だから、先ず間違いなく依頼の継続は無いだろうという事だ。
あくまで僕の推測だけど、依頼人は奴隷商で会ったあの子爵だろう。あの時『覚えていろよ』とか言っていたし。まあ、この人達の言う通りなら、もう1度依頼を出して誰かに僕達を襲わせるなんて事は出来ないだろう。
状況だけなら間違いはないと思うんだけど、この人達は本当に何も知らないのは【思考視】を使っているから間違いない。証拠もなしに手を出すわけにもいかないから、こちらからは何もできないけど、とりあえずマルガンさんがアインスに来た時に『プロらしき悪者に襲われたと』と伝えておこう。
どうでも良い話だけど双頭の毒竜のメンバーは殆どが元冒険者でリーダーの傷の男と副リーダーの眼帯男は元星3ランク、2人は実の兄弟で、他は当時のパーティーメンバーの元星2ランク冒険者と盗賊。冒険者家業はリスクの割にお金にならないから止めて犯罪に走ったそうだ。
この中にはまだ検問の取り調べで引っかかるような犯罪に手を染めた事のない人もいて、そういう人は町の検問で止められることがないので、買い出しや町での調査員として働いているらしい。
まあ、そんな事は僕には関係ない。僕の家族に手を出そうとしたんだから、ちゃんと全員に罪は償ってもらう。
「依頼を受けたのは今回が初めてなんだ。命だけは許してくれ」
「ふん! 依頼を受けたのは初めてと言うが、それまでに人を襲って殺したり奴隷にしたりしていたのだろう? 助ける価値はないな。まあ、心配しなくとも俺が直々に殺したりはせん。後日、正騎士に捕えに来させるから運が良ければ命は助かるだろうよ」
戦争とか避けられない理由で命のやり取りをしていたなら兎も角、理不尽に人を殺したり売り飛ばしたりしておいて、自分だけ助かろうなんて虫のいい話は無い。この場で殺すなんて事はしないけど、捕まれば犯罪奴隷にされるだろうから死んだ方がマシな生活を送ることになるだろう。それは自業自得だ。
さて、話は聞き終わったし、もうこの人達に用事は無いな。
「1つ忠告しておいてやる。昼間に貴様らが襲った者達、それと俺の事を誰かに話してみろ。貴様らを廃人になるまで死んだ方が幸せだと思えるような拷問と回復を繰り返してやる。俺は貴様らが何処にいても必ず捕まえる事が出来る。そうなりたくなければ話さない事だ」
僕達の事を知られて正騎士さんが事情聴取とかに来ても面倒なのでしっかり脅しておく。威圧まで使って脅したので喋る事は無い筈。
男達を適当な部屋に無理やり押し込んでドア下の床石を練成で少し盛り上げておく。鍵がかからない部屋でもこれなら簡単には開かない。真夏なので脱水を起こす可能性があるから早めに正騎士さんに捕獲してもらおう。悪者でも人間に死なれたら良心が痛むからね。
男達を運び終えた後は、威圧の巻き添えで気絶してしまった女性達を起こす事にした。水をぶっかけるのは可哀そうなので声を掛けながら軽く頬を叩いて起こした。
「ひぃっ! だれ?」
「気が付いたな。俺は偶然だが君達を助ける事になった者だ」
顔バレしないように正体は明かさず、声色と口調は変えたまま話をする。
「助け? 本当に?」
「ああ、結果的に助ける形になっただけだが、君達はもう自由の身になる」
そう伝えると、女性達は涙を流し嗚咽する。
「他にも囚われている者がいるのだろう? 全員助けるから案内してくれるか?」
「……はい」
まだ落ち着かないようで涙は止まっていないけど、女性達は嬉しそうな泣き笑いをしながら牢部屋に案内してくれた。
さっき透視で簡単に確認した通り、中には女性が十数人ほど囚われていた。外にいた人と合わせると22人。
「みんな、助けが、助けが来たよ」
中に入るなり、案内してくれた1人が囚われていた人達に声を掛ける。すると
「お願いします。私をその奥の部屋に連れて行って下さい。もう1人奥の部屋にいるんです」
牢の中に入れられていた薄い金色の髪の女性が格子にしがみ付き僕にそう訴えてきた。牢は鍵がかけられていて鍵は悪者の中の誰かが持っているという事なのだけど、かなり急を要するようなので収納魔法道具からディグランザを取り出して格子を切り落とした。
一瞬、驚きであっけにとられていたけど、直ぐに我に返り、急いで部屋の奥にある扉を開けて中に飛び込む。僕もあとを付いて中に入ると中は拷問部屋のようだ。そして、そこには血まみれで倒れる少女がいた。




