第4話 ファーマ君、新しい奴隷を買う
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午後からは、以前からの予定通り、エミルとレオナを奴隷から解放する為に奴隷商に向かった。
この町には奴隷商が3軒あるらしい。その中でもエーブルさんがお勧めだと言う奴隷商店が家から300m程の位置にあるのでそこに行く事にした。
奴隷商店は3軒とも一般平民街の商業区にある。何故、そこに集中しているのか。それは奴隷商というのはあまり子供の教育的に宜しくない。というか、精神衛生上、人目に付く場所に設置するのは好まれないので、お金持ちや貴族の子供の目にとまる場所での営業は嫌われるからだそうだ。
精神衛生上宜しくないのに奴隷制度があるのは不思議だけど、まあ、そういう文化なのだからという事で気にしないようにしている。
「いらっしゃいませ、今日は奴隷の購入ですか? それともそちらの魔人の売却ですか?」
店に入って直ぐのところで、胡散臭い巻き髭を生やした背の高いシルクハットの中年男性が声を掛けて来た。物腰は柔らかく風貌から受ける印象より良い人そうに思える。
外套を羽織ってフードを被っているレオナを見て、一目で亜人だと見抜くのは流石はプロって感じで凄いな。
「こんにちは、商業ギルドのエーブルさんの紹介で来たファーマという者です。今日は売買ではなくこの2人の奴隷契約の解除の為に来ました。ところで、どうしてこの子が亜人だと分かったんですか?」
「これはご丁寧に。私はこの店の店主をやっているミッキィと申します。亜人は眼球が人とは違いますので外套やフードで体を隠していても見る人が見れば直ぐに見分けられますよ」
見た目は胡散臭そうなのにとても可愛い名前だ。ギャップが酷いな。確かにレオナの眼は猫に近い、でもフードで隠れているから今は見えていない筈なんだけどな? それ以外にもプロにしか分からない違いがあるのかも知れないな。
「契約の解除という事はお売りいただけるという事でよろしいのでしょうか? でしたらこちらの奴隷、これほどの容姿なら生娘でなくとも50万デニール、能力次第では100万デニール以上の値が付けられます」
ミッキィさんがエミルに視線を送り突然交渉が始まろうとしている。いやいや、売る気はないから……
「生娘ではないとは失礼ですね。私はまだ生娘です」
えっ? 突っ込むところそこなの?
「なんと!? これほど容姿端麗な奴隷に手をつけていないのですか? ひょっとして女性に興味がない?」
いや、僕まだ9才。
「失礼ですよ? ファーマ様は純粋な方なのです。今はまだですが、私の身も心も全てをいつでもファーマ様に捧げる準備は出来ています」
こらこら、いったい何の話をしているのかな? 『今はまだ』とか言ってるけど、今後も捧げられる予定はないよ? 準備しなくて良いから……
「そういう事なら100万、いや120万デニールでどうでしょう? 能力次第では倍の値段も出せますよ」
「言い方が悪かったですね。売るのではなく奴隷の身分から解放して自由の身にしてください。この子も一緒に」
売るつもりはこれっぽっちもないのに変な方向に話がそれてしまったな。それにしても処女と非処女で値段が倍違うとは驚きだ。どうでもよくないか? その違いくらいは……
「そうですか、それは残念です。一度奴隷から解放すると犯罪や借金などの特別な理由なく奴隷に戻す事はできませんが本当によろしいですね? それと、戦争奴隷は解放から1年の間元主人に監督責任が発生しますのでそれをお忘れなく」
「はい、問題ないです」
「かしこまりました。ではこの戦争奴隷の解放手続きに移ります。それと、この魔人ですが、奴隷から解放するのはお勧め致しません」
「どうしてですか?」
「魔人は奴隷から解放した時点で所有権を失います。所有権を有しているなら誰かが、この魔人に危害を加えた場合や盗まれた場合に訴えることは可能ですが、解放、つまり所有権を放棄した場合、捨ててある物と同じですので、殺されようと持ち去られようと相手を罪に問う事は出来なくなります。見たところファーマさんはこの魔人を大切にされているのでしょう? でしたら魔人の安全の為にも所有権は保有しておく事をお勧めします」
なるほど、そういう事になるのか。まったくもって面倒な国だ。
「それなら仕方ないですね。エミルの解放だけお願いします。レオナ、約束だったけど解放は出来なくなっちゃった。ごめんね」
「うぅん、レオナはファーマ様と一緒にいられるならどっちでも良いよ」
レオナは笑顔で、そう返してくれた。とりあえずエミルだけでも解放してあげられるなら良しとしよう。
エミルの解放は5分ほどで終わり、あとは役所で住民登録を済ませればデザリア国民になる事が出来る。
「さて、解放の手続きも終わりましたし、新しい奴隷は如何ですか?」
うーむ、土地が手に入れば一般奴隷は必要になるから契約する予定なんだけど、今すぐには必要ないんだよね。でも、レオナの事を助言してもらったし、見ずに断るのは悪いよね。
「実はファーマさんの人柄を見させて頂いて、是非とも買って頂きたい奴隷が居るのです」
「どういうことですか?」
話を聞いてみると、奴隷の名前はランカさん。とある身分の高い人のところで、ジョブギルドからの紹介で使用人として雇われていたらしい。
働き始めて半年ほど経ったある日、ランカさんは主人のお使いで取引先の商人のところに支払いのお金を持って行く途中、預かったお金を紛失してしまったらしい。
1度、軽く人とぶつかったのでスリに遭ったのだと思い、直ぐに正騎士ギルドに被害を届け出たのだけど、どんな人物に掏られたのか顔も分からない為、スリは捕まらなかったらしい。
そうなると責任はランカさんが負うことになる。金額が大きかった為、ランカさんの収入では支払い能力なしとみられて、借金奴隷になってしまったんだとか。
「ランカは、実を申しますと私の親戚の子なのです。あまり近い親戚ではないのですが、幼い頃から知っている娘を情婦にしてしまうのは気が咎めるのです。現状は私の入れ知恵で条件を厳しくして、そういう条件の相手に買われないようにはしているのですが、ランカが借金奴隷に身を落として既に10か月、このままでは犯罪奴隷になってしまい、主人も条件も奴隷の意思に関係なく買われてしまうのです。なんとかお救い頂けないでしょうか?」
ん? おかしな事を言っているぞ?
「借金奴隷や一般奴隷って性的な行為を強制しちゃいけないんじゃないんですか? どうして情婦なんて条件を出してくる人がいるんですか?」
「ファーマさんの言う通り強制は出来ません。ですが、本人が了承すれば強制にはならないので、契約時にそういう事も含め交渉は出来るのです。特に借金奴隷は1年という期限がありますので、犯罪奴隷に落とされて酷い扱いを強制されるくらいなら、交渉できる内に出来る限り我慢できる条件でと、了承する者が多いのです」
なるほど、そういう法の抜け道がある訳か。1つ勉強になった。でも、どうしても売るのが嫌なら人に売らずにミッキィさんが主人になれば良いんじゃないだろうか?
「それならミッキィさんが正式な主人になれば解決しませんか?」
「それが出来るなら良いのですが、奴隷に関する商法というものがありまして。デザリアでは奴隷を所有する為には例え王族であっても奴隷商を介してでない限り所有する事は出来ません。そして奴隷商は各ギルドや個人や市場などから直接奴隷を購入できる代わりに、売買以外の目的で奴隷を持つことが許されていないのです。この店で仕事をしている奴隷もいますが、それは躾、調教の一環として仕事をさせているだけで私が正式な主人にはなれないのです」
「面倒な法律があるんですね」
「まあ、こういった法がないと優秀な奴隷は全て奴隷商の資格者が囲ってしまう事になりますからね。不埒な輩に力を持たせない為の措置ですよ」
言われてみれば確かにそうだな。なるほど、そんな規制があるのなら自分で買うことは出来ないな。
「でも、どうして僕に?」
「はい、ファーマさんは戦争奴隷であったそちらのエミルさんに1度も手を出した事がない、それに魔人奴隷を同じ人として大切に扱うほど人柄の良い方です。それならばランカに体目的の条件を受け入れろという事も無いでしょうし、酷い扱いをする事もないと感じました。買って頂けるなら最高の主人になるでしょう。それが理由です」
なるほど、まあ、最高かどうかは置いておいて奴隷だからと酷い扱いするつもりは全くない。体目的で奴隷を買うなんて虚しい事もやらない。そういう事はちゃんとお付き合いしてから本人の意思を確認してからするものだ。
「理由は納得しました。それで、どのぐらいの値段になりますか?」
「はい、借金額が4万デニール、それに今日までの滞納分の利息が付きまして原価が5万7千デニールになります。今日決めて頂けるのなら今日までに掛かったうちの経費や利益は頂きません。とりあえず、本人を見ないと話にならないでしょうから、これから会って頂けませんか?」
「わかりました」
と、いう事で店の奥の部屋でランカさんと会う事になった。
部屋に入ると、部屋の隅のベッドの上で体操座りのようにして膝を抱えて塞ぎ込んでいる栗色の髪の女の子がいた。
「ランカ、良い条件で君を買ってくれそうな方をお連れしたよ。条件についてはこの後の話し合い次第だが、これまでに交渉した相手より悪い条件にはならないだろう」
「……本当に?」
ランカさんは弱々しく顔を上げてミッキィさんを見てからミッキィさんの横に立っている僕達に視線を移す。
「ああ、安心しなさい。向こうの部屋で条件についての話し合いをするから部屋を移動しようか」
「うん……」
ランカさんはあまり食事を摂れていないのか痩せ気味で、少しふらつきながらベッドから降り、力のない足取りでミッキィさんのところまで歩き、一緒に部屋を移動した。
「さて、僕からの条件だけど、まず、1番大事な事があるんだ。レオナ、こっちに来てくれる?」
「うん」
レオナを僕の横に立たせて外套を脱がせてランカさんにみせる。
「この子はレオナといって僕にとっては家族同然の子なんだけど、ランカさんは亜人と呼ばれているレオナみたいな種族に偏見はない?」
「はい、話には聞いたことがありますけど見るのは初めてなので特に偏見というのはありません。粗暴で野蛮だという噂でしたが、とても可愛らしい子ですね。寧ろ好感が持てます」
粗暴で野蛮なんて噂があるのか……今日までの経験から言わせてもらうと、人間の方が粗暴で野蛮なんだけど? まあ、ランカさんが好意的なら世間の評価を気にする事はないな。
「好感を持ってくれるなら良かったよ。レオナに不快な感情を持つ人とは生活できないからね。じゃあ、話を進めるね。先ずは簡単にで良いからランカさんの自己紹介してもらっていい?」
「わかりました。名前はランカ、年齢は17才です。奴隷になる前はジョブギルドで四つ星ランクのお仕事をさせてもらっていました。魔法を使ったり、調合を行ったり、何かを作ったりするような特別な技能はありませんが、文字の読み書きが出来ます。それと計算も少しだけ。あと、採取のお仕事をよくやっていたから、この辺りの採取場所には詳しいです」
17才で四つ星は凄いな。ジョブギルドのランクは実績、貢献度、依頼者からの評価で上下する。特に依頼者からの評価は重要な査定ポイントなので、ランカさんの仕事に対する真面目さと人柄の良さはこのランクだけでもよくわかる。それと商人でもない平民が読み書きだけでなく計算まで出来るのは凄い。
大抵の人は日常生活に必要ないからといってそういう勉強はしないからジョブギルドで受けられる仕事は肉体労働だけになるんだよね。安全に稼ごうと思ったら読み書き計算は出来た方が良いんだけどな。
さて、自己紹介の内容だけで考えるのなら確かに普通の人は買わないだろう。能力に対して金額が合わないから。でも、僕としては真面目に働いてくれるなら申し分ない。元ジョブギルド四つ星なら信用できる人材だと思うから採用は決定で良いだろう。
「家事は出来る? 炊事や洗濯や掃除とかを主にお願いしたいんだけど」
「はい、そういったお仕事は沢山やっていたので大丈夫です」
「うん、それなら家の事は任せても大丈夫そうだね。採取場所に詳しいって事だから一緒に採取に出かけてもらう事もあると思うけど大丈夫?」
「はい、勿論です」
「じゃあ、僕からの条件は家事全般をお願いするのと、採取に一緒に出掛けてもらう事。それとまだ確定ではないけど、多くの人達の食事のお世話をやってもらう事になる予定なんだ。衣食住の保証はします。期間は今日から5年半で、自由になるお金もないと困るだろうから月に300デニールの現金を手渡しするね。あ、採取に出た場合は収益に応じて別途給金を出すからね。奴隷紋に付ける禁止事項は〝人に迷惑を掛けない、期間中は逃げない、僕達3人に危害を加えない、僕達の不利益になる言動はしない〟の4つ。僕からはこのくらいだけど、ランカさんは何か希望はある?」
「き、希望も何も条件が良すぎて申し訳ないです」
「そう? 5年半もほぼタダ働きなんだよ? かなりブラックだと思うけど?」
「ブラック? どういう意味かわかりませんが、今まで交渉に来た人達は、情婦をやれとか、毎日夜の相手をしろとか、常に裸で身の回りの世話をしろとか、見世物小屋(全裸ショー)で舞台に上がれとか、考えるだけでも死にたくなるような事ばかり要求されたのですが、本当にそういった事はやらなくても良いのですか?」
うわぁ……結構ストレートな要求をされてたんだな。前世ならセクハラで訴えられるよ? いや、奴隷だからセクハラにはならないのか?
「うん、どれもしなくても良いよ。そんな事は望んでいないからね」
「期間もたったの5年半で良いのですか? 6万デニールもの大金をお返しするのだから30年ぐらいはお勤めしないとダメなんじゃ?」
どこの闇金だよ。1日に30デニール計算でも、30年も働かせたら328500デニールになる。購入金額は5万7千デニールだから元金の約6倍だよ?
「さすがに30年もほぼ無給で返済とかありえないでしょ? まだ若いんだから結婚もしなきゃだし、早く奴隷生活が終わるに越したことはないよね?」
「結婚ですか……」
結婚と聞いてまた暗い表情になるランカさん。
「私が借金奴隷になった時に婚約者に逃げられちゃったんですよね。『情婦になるような女とは結婚できない』って」
悪い事を聞いてしまった……そうなる可能性が高かったとはいえ、そうと決まっていないんだから直ぐに婚約破棄する事ないのにね。でも、そうはならなかったんだから、ランカさんなら新しく良い人が見つかるだろう。
「大丈夫だよ。ランカさんは美人だからきっとまた良い人に出会えるよ。僕は仕事さえしてもらえればランカさんが誰と恋愛しようと結婚しようと一切口出ししないから仕事以外の時間は自由にしていいよ」
「仕事以外の時間?」
あれ? おかしなこと言ったかな?
「私は奴隷として買われるのですよね? 就寝時間以外に自由な時間があるのですか?」
そりゃ、奴隷でも24時間働かせるのは可哀そうだろう。ストレスが溜まったらいい仕事もできないだろうし。
「やる事さえやってくれれば遊びに行くのは大丈夫だよ。まあ、出かける時には一言言ってくれなきゃダメだけどね」
「あの、ファーマさん?」
「どうしたんですか? ミッキィさん」
「差し出がましいようですが、そこまで好条件でなくても大丈夫ですよ? 自分で勧めておいてこういう事を言うのもなんですが、奴隷契約としてはあまりにも好条件すぎてファーマさんが気の毒です」
半分人助けのつもりで契約するんだから普通に働いてもらうだけで十分なんだよね。まあ、近日中に嫌というほど仕事が増える予定だから結構大変になると思うけどね。
「今のところ任せる仕事は多くないから好条件に見えますけど、予定では近日中にゆっくりする時間がないくらいにやる事が増える予定なので、それほど好条件でもないですよ」
まあ、土地が手に入ればだけどね。
「ファーマさんにお願いして良かった。ランカを宜しくお願いします」
「今日から5年半の間、お世話になります」
この条件で契約は成立したようだ。ミッキィさんとランカさんは、声を揃えて深々と頭をさげた。
条件のすり合わせが終わると直ぐに契約書類を作り、あとはサインをしてランカさんに奴隷紋を描いてもらうだけというところで
「ミッキィ! どこにいる!? ランカを連れて来い!」
店頭の方から野太い大声が聞こえてきた。




