第1話 ファーマ君、アインスに向かう。
大変長くお待たせしました。
今日までブックマークを外さずに待っていてくれた読者の皆様、本当にありがとうございます。
今日から更新を再開しますので、また宜しくお願いします。
新右衛門さん達に送ってもらった後、僕達はマルガンさんへの手紙を出す為テルホイの町に入った。
「えっ? なんであれがここに?」
テルホイに入ると直ぐに目に入ったのは2年前には見かけなかった乗り物。
「変わった乗り物に乗っている方が多いですね」
「ファーマ様、レオナもあれに乗ってみたい」
僕達が目にしたのは自転車。僕が日那国に行く前には、どの町でも見た事はない。
僕も作ろうかな? って、思っていたんだけど、タイヤ部分に使うゴムが無かったので保留にしていたんだよね。今、目の前で走っている自転車はちゃんとタイヤ部分にゴムの様な物を使っている。これだけ自転車が普及しているところを見ると、僕が見付けられなかっただけでゴムのような物はデザリアに元からあったと考えて間違いなさそうだ、ギルドに行った時にあれの材料が何か聞いてみよう。
それにしても、自転車はたぶん転生者が作ったモノだよね? 僕達が日那国に行っている間に広まったという事は、この2年の間に前世の記憶が覚醒した人がデザリアにいる。魔法道具ではなく、神力を必要としない道具を作ったという事は、科学の世界からの転生者だろう。
世界の数はとんでもなく多いし、各世界の人口も僕達からすれば無限と言えるほど多いから、知り合いなんて事はないだろうけど、どんな世界から来たのか気になるし、他の科学世界の話も聞いてみたい。是非1度会って話をしてみたいな。
そんな事を考えながら僕達は商業ギルドに向かった。
「こんにちは、お久しぶりですモンロウさん。手紙を出したいのですけど、お願いできますか?」
ギルドの受付には2年前に宿家探しでお世話になったモンロウさんがいた。モンロウさんが覚えてくれているかは分からないけど、失礼の無いように久しぶりと言ってみた。
「おや? ひょっとしてファーマ君かい? 美人になったねぇ」
……覚えてくれていたのは嬉しいのだけど、男の子に向かって『美人になった』と言うのはどうかと思う。
「覚えていてくれたんですね。ありがとうございます」
「そりゃ、覚えてるさね。あの時は町中の人間が恐怖で震え上がったからねぇ」
なるほど、新右衛門さん達の印象が大きかったお陰か。
「マルガン様がとても心配しておいでたよ? 竜人族相手に失礼な事をして怒らせてやいないかってねぇ」
ん? なんでマルガンさんがそんな心配をするんだ? マルガンさんからすれば亜人の竜人族は物(品物)程度の認識の筈。嫌悪は無くても失礼の無いようになんて考えるのは不思議だ。やっぱり他国の人相手だと違うのかな?
「大丈夫でしたよ。とても良くしてもらってすっかり友達です。そのマルガンさんに報告の手紙を書いたので配達のお願いをしたいんですけど」
「そうかい。それなら最速で届くように手配するよ。もし、ファーマ君がギルドに顔を出したら直ぐに知らせるように全ギルドに通達が出てるからねぇ」
そんなに心配を掛けていたのか? それは悪い事したな。まあ、お土産も沢山あるしアインスで会った時にでもお詫びをしておこう。
「1つ気になる事があるんですけど」
「なんだい?」
「町でみんなが乗っていた乗り物ですけど、2年前には無かったですよね? あれって」
「ああ、あれかい? あれはね、去年末辺りに売れ始めたジテンサだよ」
微妙に僕の知っている名前と違う。……ひょっとしてブラジアやパンテイと同じで聞き間違いで名前が変わってしまったパターンなのか?
「開発者って誰なんですか?」
「秘匿登録されているから開発者の名前は分からないねぇ」
「秘匿登録なんて出来るんですか?」
「おや、知らなかったのかい? まあ、普通は名声を上げる為に秘匿なんてしないんだけどねぇ。今回の開発者はあまり目立つのが好きじゃないんだろうさね」
そんな事が出来るならやっておけば良かった。やっていればグリンドさんからの引き抜きなんて起こらなかった筈。まあ、それがあったからエミルやレオナ、それに新右衛門さん達と出逢う事が出来たんだから結果的に良かったか。それでも無用な面倒事は避けたいから次からは秘匿登録させてもらおう。
「それと、そのジテンサのタイヤ部分に使っている素材って何ですか?」
「ああ、あれはグォーム木の樹液から作ったバネナって素材だよ。本来は防具の裏や鎧下っていう防具の下に着る服に付ける衝撃吸収材に使う物なんだけどね。あんな使い方があったとは驚きだねぇ」
……バネなのかバナナなのかはっきりしてほしい。
モンロウさんの話ではタイヤには空気が入っている訳ではなく、円柱状に固めたバネナを輪にして繋げ、車輪に嵌めているらしい。実物を見せてもらったところ、バネナのタイヤは結構固く伸縮性はゴムより低そうだ。重量は中までびっしり詰まっているだけあってそれなりに重い。衝撃吸収材というだけあって多少凸凹な道を走っても大丈夫そうな感じだ。タイヤに穴が開いてもパンクしない事を考えると、環境に合ったタイヤといえるだろう。
自転車の本体は鉄製のパイプを組み合わせたもので、造りは前世で乗っていた物とほぼ同じだ。前世で乗っていたのはごみ置き場から拾ってきたものを自分で修理した(させられた)ものだったので、ここで売っているジテンサの方が良い物だけどね。とりあえず3台購入した。
ギルドに来たついでにギルドカードの更新もやっておくことにした。
「あいよ、これで更新完了だよ。でも良かったねぇ。マルガン様の口利きが無かったら2年も生存確認できない人は死亡扱いで失効してるところだよ?」
それは知らなかった。たった2年で死亡扱いとは厳しい世の中だ。まあ、この世界ならそれも仕方ないのかも知れない。
受け取ったカードを確認して今日1番驚かされた。一、十、百、千、万……500万デニール? 僕の貯蓄がこの2年で10倍以上に増えている。日本円に換算して5億円も口座に入っているとは思わなかった。なんでだ?
「あの? これって何かの間違いでは? 貯蓄額がおかしいです」
ちょっと震える手でカードの情報を指さしてモンロウさんに尋ねてみた。
「何がおかしいんだい? あんたが開発した物を考えればそれくらいは当たり前さね」
『何言ってんだこいつ?』と言わんばかりの顔でそう返された。詳しく内訳を出してもらうと、この収入の9割は魔法石(神結晶)を使わず魔力操作(神力操作)の使えない人でも発動する魔法道具の商標権に支払われたものだという事が解った。
温めるとか冷やすとかいう道具は以前から存在していたので評価の対象にはなっていない。つまり、注入式ではなく吸引式で発動する魔法道具は全てマージンの対象になっているという事なので、マージンはまだ増え続けるだろうと教えてもらった。
なるほど納得。それにしてもこのうち1割が女性下着に対するマージンというのは驚きだ。あっちはワックスさんと共同の登録になっているからマージンは半分の1%。この国の人口と女性の割合から考えると売れすぎなのでは? まあ、沢山売れるのは良い事だ。お金はいくらあっても困らないし。
手持ちのデザリア硬貨は日那国にいる間に使ってしまったので、とりあえず5万デニールおろし、今日はテルホイに1泊して明日の朝、アインスに向かう事にして前回来た時に泊めてもらったちょっと高級な宿をまた紹介してもらってゆっくりした。
宿に泊まって少し困ったことがある。日那国で毎日のようにちゃんとした調味料を使った食事をしていた所為か宿の食事が物足らない。
不味いとまでは言わないけど味気ない。まあ、高級な宿とは言っても亜人奴隷を泊まらせてくれるランクの宿なので調味料をふんだんには使えないんだろう。塩以外に薬味や香草が入っているだけでも一般平民の食べる食事では上等だ。
レオナとエミルも少し微妙な表情で食べていたので、僕達3人とも日那国でだいぶ舌が肥えてしまったようだ。この2年で贅沢になったもんだよね。まあ、身の丈以上の贅沢はしていないから気にしなくても良いか。
朝になり、僕達は徒歩でテルホイを出て、暫く歩いて町から見えない場所まで移動し収納魔法道具から飛行車を取り出し、本格的に出発だ。人に見られて騒ぎになるといけないので街道から少し離れた平地を進むことにした。
運転は、どうしてもエミルがやるというので娯楽で運転する時以外は任せている。『これは臣下の務めです』だそうだ。
「ファーマ様、レオナもあとで運転して良い?」
因みにレオナも運転は出来る。
「レオナは暴走するからダメ」
出来るのだけどハンドルを握ると人が変わるタイプなのであまり運転はさせないようにしている。
「暴走しないからー、お願いファーマ様」
後部座席から僕の服の肩辺りを掴んで揺さぶってくるレオナ。甘えられるのは嫌いではないけど危険なので許可しません。
飛行車の旅はとても快適。地面の状態に左右されないので揺れないし、トイレ以外での休憩もほとんどいらない。ここからアインスまでは約400km、8時間の連続運転が可能なので最高速で飛ばせば今日中には到着できる。
余談だけど、今の飛行車に使っている術式は最良の術式ではない。僕自身が地属性重力神術を使うと、だいたい1時間に50ほどの神力を消費する。つまり、術式が最良のものなら今使っている地結晶で飛行車は20時間ほど浮いていられるはずなのだ。まあ、重量や出力によって消費神力を変わるからもう少し短いかも知れないけど。まだまだ無駄な術式や足りない術式があるはずなので、もっと研究して良い物を作らないとね。
閑話休題。
5時間ほど進んだところで今日は休む事にした。
収納魔法道具から日那国に居る時、木工の練習がてら作った小屋を取り出し街道から見えない位置に設置。新しい収納魔法道具は一定範囲内の任意の場所に取り出せるので大きさや重さに関係なく簡単に取り出せる。前の収納魔法道具だったら小屋なんか取り出したら潰されちゃうもんね。まあ、その前に入らないか……
小屋には小さな浴槽を付けているのでお風呂に入る事も可能だ。飛行車に付けているのと同じ魔物除けの魔法道具が付いているので見張りも必要ない。作って良かった野外泊用の小屋。
明日は朝から移動して、道中にある王都に寄って観光する予定なので少し早めに就寝した。
翌朝、夜明けと同時に出発して、4時間ほどで王都の近くまでやってきた。遠目で王都の防壁が見える辺りで飛行車を下りて徒歩で王都に到着した。
……のだけど。
「すまないが、亜人奴隷と戦争奴隷を連れて王都に入る事は許されていない。もし、入りたいのなら、奴隷を外で待たせて君だけで入りなさい」
検問の列に2時間も並んだというのに、入れないと言われてしまった。2人を待たせて観光なんてする訳ないだろう? それならもっと早くいってほしかった。
門番の正騎士さんの話では、王都には治安維持の為、亜人奴隷や戦争奴隷や犯罪奴隷を連れて入ってはいけない事になっているらしい。
因みに、非納税者も王都に滞在する事が許されていないらしく、その年の税金が払えなかった人は追い出されるらしい。追い出されるとは言っても、ただ外に出されるわけではなく近くの村か町までの定期便に乗せられるんだとか。
その時に移住した町や村に入る為の税金と一月分の住民税は免除してもらえるので、真面目に仕事を見つければ王都に帰ることは出来なくても、移住先で生活に困る事はないだろうという事だ。
それと、こっそり小声で嫌な事を教えてくれた。王都にも亜人はいるらしい。奴隷ではなく、実験動物として。
嫌な事を聞いてしまった。解っている事でも、実際に直ぐ近くで実験が行われていると思うと気分が悪くなるな。
「ああ、それと、自分で奴隷を待たせて入れと言っておいてこんな事を言うのもおかしな話だが、ここに奴隷を待たせて中に入るのはお勧めしない。個人の所有物だから余程のバカでない限りは持ち去ったりはしないだろうけど、多少のいたずら程度なら法には触れないから、そっちの美人な奴隷なんか置いておいたら何をされるかわかったもんじゃないぞ?」
正騎士さんはちらりとエミルに視線を送りそういった。多少のいたずらというのはどこまでの事を許容しているか判らないけど、亜人奴隷や戦争奴隷は扱いが低いから結構危なそうだ。
「分かりました。色々教えて下さってありがとうございました」
正騎士さんにお礼を言って僕達はアインスに向かった。
王都は見てみたいと思っていたけど、エミルやレオナと一緒に行けない場所なら興味は無い。アインスには問題なく2人とも入れるらしいので本当に良かった。




