おまけ 舞台裏2
※ライラとディアスキンの舞台裏
ファーマ達がカナイ村を去って半年ほど経ち、カナイ村の教会ではライラが暇を持て余していた。
ファーマに出会うまでは毎日のように忙しく農場に働きに出ていたのだが、もう、無理して働かなくても子供達を食べさせていくには充分の収入がある。
しかし、教会本来の仕事はそれほど多くない。村の人口は少ないので教会を訪れてお祈りをする人やライラに人生相談をして来る者など滅多に来ないのだ。勿論、怪我を治してもらいに来る人もいない。
村の子供に読み書きや計算を教えようにも、カナイ村にはあまり勉学に興味を持つ子は多くない為、あまり忙しくもならないのだ。
「あぁー、暇ねぇ。農場に働きに行ってた頃の方が充実してたなぁ」
ライラは退屈しのぎにフーリ、ロナと教会で話し、愚痴を漏らす。
「何言ってんのよシスター。シスターのお仕事はお祈りを捧げる事でしょ? 本当の仕事に戻れたのにそんな事言ってちゃダメだよ?」
「そうなんだけどねぇ」
ライラはフーリにツッコまれ覇気のない返事を返す。
「暇なんだったら好い人見付けたら? シスターも良い年なんだし恋くらいしなきゃダメよ?」
「そうそう、キャラバンのお兄さんなんか結構男前だしお金持ちだし良いんじゃない?」
「なななっ、何言ってるのよ。わ、私は聖職者だからね?」
ロナとフーリが恋人を作れと提案すると真っ赤に顔を染めたライラの挙動がおかしくなる。
「でも、神聖教って結婚はお勧めしてるんだよね?」
「「愛し合い共存するのは尊き事です」って、いつも教えてるよねー」
「しょれはしょうなのだけど……」
いつも自分が教えを説いている事を突っ込まれるが、ライラはこれまで色恋沙汰には無縁だった為返事に困ってしまった。
「あのお兄さんも結構脈ありな感じだし、ちょっと遊びに誘ってみたら?」
「でも、ここって遊ぶ所ないよね?」
「それもそうよねぇ。一緒にご飯に行こうと思っても髭親父がやってるような居酒屋しかないもんねぇ」
「いっそお兄さんがいつも働いてるグラダの町に遊びに行っちゃえば? 領主町だからきっと良いお店があるよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。勝手に話を進めないでよ。私、ディアスキンさんの事気になるなんて言ってないよ?」
勝手に話を進めようとするフーリとロナを慌てて止めるライラ。それを見た2人がニヤリと笑う。
「「私達、お兄さんとは言ったけどディアスキンさんなんて言ってないよねー」」
見事なハモリでそう言われ、しまったという顔で固まるライラ。
「キャラバンのお兄さんって結構沢山いるんだけど?」
「いつもディアスキンさんが来る訳じゃないし、護衛のお兄さん達もいるし」
「「ねー」」
完全に誘導に引っ掛かり余計な事を言ってしまったライラは、両手で顔を隠して塞ぎ込んだ。
後日、キャラバンと共にやって来たディアスキンに、フーリとロナがライラは脈ありとこっそり吹き込みディアスキンはその気になり、毎回キャラバンを引き連れてくるようになり、少しずつ2人の会話の時間が増えてくる。
━━ディアスキンがライラと少しずつ親密になり始め半年。
「あの……ライラさん。この後時間がありましたら、俺と……食事に行きませんか?」
やっとディアスキンがライラを食事に誘う。
「ふ、ふ、ふ、2人でですか?」
挙動不審になったライラが慌てて返事を返す。
それをドアの向こうから隙間を空けてこっそり見ていた子供達が
「やっとデートに誘ったのか。奥手だなぁ」
「2人とも良い大人なのに免疫なさすぎ」
「ちゅーしろ、ちゅー」
等とニヤニヤしながら小声で話す。
ディアスキンがデートに誘ったのは良いのだが、カナイ村にはフーリが言っていたように大衆居酒屋くらいしか飲食店は無い。当然個室なんて気の利いたものは無い。そんなところに2人で食事に行けば、たちまち村中で噂になってしまう。
が、頭に血が上っている2人はそこまで思考が回らず、夕刻から居酒屋デートをしてしまった。
翌日から噂好きの奥様方始め、密かにライラに思いを寄せていた村の若い衆の間で噂は広まり、あっという間に2人のデートは話に尾ひれが付き広まった。
暫くして村長の耳にも噂は入り、あちこちから横槍が入るのだが2人の恋の行方はどうなる事か……
※マルガンとクレスティアの舞台裏。
「マルガン様、お客様がお見えです」
ファーマがラグナムートに転送で新右衛門の目の前に落とされていた頃、マルガンの元に来客があり、ニーナがマルガンの部屋へと連れて来た。
「なんじゃ、クレスティアの嬢ちゃんか、珍しいのう?」
「お久しぶりですわ、マルガン様。今日は少しお願いがありまして」
「なんじゃ、お前さんからの頼み事とは、怖いのう……」
少し引き気味に姿勢をずらし、嫌そうな顔をするマルガン。勿論クレスティアの頼み事とはファーマの事。グラダに戻ったその足で真っ直ぐ引き抜きの話に来たという訳だ。
「家族旅行の最中に面白い子供と出会いまして、その子をうちに迎え入れたいと思っていますの」
「……断る」
勘の良いマルガンは直ぐに誰の事を言っているのか察し有無を言わせず拒否する。
「あら、まだ誰とは言っておりませんよ?」
「言わんでも解るわい。お前さん達の旅行先と小僧の向かっとる所を考えれば会っておっても不思議ではない。大方、馬車でも壊れた所にファーマが声を掛けて錬成の腕でも見て欲しくなったんじゃろ」
まるで見て来たかのようにピシャリと状況を予測するマルガン。日常的にある事なのかクレスティアは驚いた素振りも見せない。
「うちで働いている優秀な職人を10人程と交換致します」
「要らん。職人なら充分に揃っておる」
「なら、綺麗どころの若いメイド5人も付けましょう」
「ひ、必要ない」
綺麗どころと聞いて少し心が揺れるスケベ爺。だが断る。
「それでしたら━━」
「何を差し出そうと譲る気はないぞ。あ奴は特別じゃからのう」
更に条件を追加しようとしたクレスティアの言葉を遮って拒否するマルガン。
「あらあら、かなりご執心の御様子ですね。マルガン様は、とうとう少年好色に目覚めましたか。綺麗な子ですものねぇ」
「馬鹿もん! 誰が男色に目覚めたりするものか! ワシャ、ノーマルじゃ」
「ほほほっ、冗談ですよ」
ムキになって否定するマルガンを見て、楽し気に笑うクレスティア。
「……やれやれ、で? 諦めてくれたかのう?」
「いえ、まだ交渉の〝こ〟の字も始まっていませんよ」
「交渉の余地は無いと言っておるんじゃが?」
その後、話し合いは3時間ほど続き、クレスティアが席を立った。
「今日の所は引かせてもらいますね」
「出来ればそのまま引いといてくれるのが有難いのじゃが? ワシはもう年じゃからのう。お前さんの相手をするのも疲れるんじゃ」
本当は全く疲れて等はいない。交渉の余地のない事だけに、諦めの悪いクレスティアに何度も足を運ばれるのが面倒だというのが本音だ。
「では、また後日」
クレスティアは次の手を考える為、屋敷へと帰って行った。
※ドラゴン狩り兵士と冒険者達の舞台裏
カッポウド侯爵の命令と依頼で集まったドラゴン討伐部隊。カッポウド侯爵の私兵250人と星4ランク冒険者45人星5ランク冒険者5人。兵士は50人小隊を1組にした5組に分かれ各小隊に指揮官を置きバチェル山脈の7合目辺りのドラゴンフルーツの樹近辺に罠を設置している真っ最中だ。
冒険者は星5ランクが星4ランクを率いて各小隊に10人ずつ配置される。罠は100m感覚で5カ所に設置され、どこに掛かっても1番近くの小隊がドラゴンが逃げない様に縄や追加の罠で足止めをし、近くに陣取っている他のグループがそこに集まり一斉に魔法や弓などで遠距離攻撃するいう作戦だ。
彼らの経験上、ドラゴンは同じ場所で複数が一緒に食事を取る事は無い。極稀に番のドラゴンが共に食事を取る事があるのだが、そうなっても大丈夫なようにこの人数を集めているのだ。
ドラゴンはたった数頭で人口10万の町を1夜にして滅ぼしたという伝説を持つ魔物だが、過去、同じやり方で討伐に成功しているので彼らは今回も大丈夫だと高を括っている。
1頭狩ると大きさによっては1000万デニールほどで取引される事は珍しくなく、オークションにでも掛ければその倍以上の金額で落札される事もあるので冒険者や兵士達は一攫千金や特別ボーナスへの期待で胸を膨らませる。
のだが、彼らの希望は見事に打ち砕かれる。
「なっ! 下りてくるのが早すぎる。まだ数日は余裕があるはずなのに……」
例年であれば浮遊島がバチェル山脈のほぼ真上に差し掛かるまでドラゴンは下りて来ない。だが今回に限り、新右衛門ががファーマを迎えに来た為、野生のドラゴンではなく日那国の衛兵と騎竜が例年よりかなり早いタイミングで山に現れたという訳だ。が、彼らがその理由を知る由は無い。
罠を一生懸命設置中の彼らの目の前に降り立ったのは5頭の鞍を背に乗せた天雷竜。内1頭はこれまで見てきたどのドラゴンよりも大きく、威圧感は比べられないほど強かった(勿論、新右衛門の騎竜だ)。その背には初めて見る形の鎧を見に纏った3人の巨人(日那国の衛兵)が乗っている。
まるで自分たちなど眼中にないかのようにドラゴンフルーツの木に向かうドラゴン御一行。
小隊は見られてもいないのに蛇に睨まれたカエル状態で硬直する。当然5頭のドラゴンが集まるその場に駆け付ける度胸のある者など誰1人としていなかった。
みんな自分の持ち場から微動だにせず、息を飲み
「無理無理無理無理」
「ドラゴンが群れなすなんて聞いてないよぉー」
「しかも巨人までいるなんて反則じゃね?」
「どうか俺達には気付きませんように」
「お前達の犠牲は忘れないぜ」
「…………」
等と小声で呟き、全身から冷たい汗を掻きながらドラゴンが去るのをただ静かに待つ。
巨人達は聞いた事も無い言葉でドラゴンに話しかけ適当にドラゴンフルーツを千切ってはドラゴンの口の中へ放り込んでいる。
その近くで罠を設置中だった小隊は彼らの視界に入っている筈なのだが彼らは全く意に介さず寛いだ様子だ。
それを見た冒険者の数人が(これ不意討ならやれんじゃね?) と、立ち上がろうとするも一瞬ドラゴンが振り向いた瞬間、膝から崩れ落ちる。
ドラゴンは睨んだ訳でも威圧した訳でもない、首を軽く回しただけで見てすらいない。ただ、美味しく楽しく好物のドラゴンフルーツに舌鼓を打っていただけ、なのだが恐怖心が睨まれたように勘違いさせ勝手に威圧されただけなのだ。
永遠とも感じる時間の中、ドラゴン達がドラゴンフルーツを食べ終え自分達を食べに来ない事を神に祈りながら待っていると、轟音と共に空を真っ赤に染めた1発の爆炎が雲を吹き飛ばし、大気は揺れ、ドラゴン狩り部隊を体の芯まで震え上がらせる。
直後、ドラゴンと巨人は山の梺に向かって去って行った。
轟音と爆炎の影響で、半数ほどが下が大惨事になって意識を失い、何とか意識を保つことが出来た者も暫く動けずにいた。
結局、この時のショックを引き摺ってドラゴン狩りは失敗。ただ生き恥を晒しただけの者多数。
兵士の殆どが次にドラゴン狩りの命令が下りたら仕事を辞めて田舎へ帰ろうと決意する。冒険者は九死に一生を得るような経験はベテラン以上になった者なら誰しもしている事なので、辞めようなんて者はいないのだが、暫くドラゴン狩りは止めておこうとしみじみ思ったという。
※レオナの舞台裏。
新九郎の成人の儀が終わり、ファーマとエミルが研究に明け暮れている頃。
レオナは日那城の庭で城の衛兵に神力操作を教わっていた。
『良いでござるか? 仙術の基本は丹力を引き出す事から始まるでござる』
衛兵の名前は和左之助。レオナと同じ天と地の神術適性を持っているのでファーマが新右衛門さんにお願いして先生をやってもらう事になったのだが、レオナはまだ食べ物以外の日那国語が分からない。和左之助は当然デザリア語が分からない。
『こう、体の真ん中からぐわっと外に引っ張り出すのでござる』
「ぐわっとです」
擬音はなんとなく理解できるので身振り手振りで説明している事を本能的に捉え、和左之助から放出される神力を感じ取り、見様見真似で模倣する。
『うむ、良い感じでござるよ』
褒める時は笑顔でこぶしを向け、違う時は首を振り難しい顔をする。それで大体の事は伝わるようだ。
『次はそれを手だけに向けてドンっと押し出すでござる』
「ドンッ、です」
和左之助が右手を突き出しながら神力を流すと、レオナも同じようなポーズで右手を突き出す。
『ちょっと違うでござるな。こう、もっとドンッ! でござる』
「ドンッ! です」
『そうそう、良い感じでござるよ』
「あぃ」
何がどう良い感じなのかは本人達にしか分からないのだが、何故かレオナの神力操作は上達するのだ。
ある程度神力操作を覚えてからは神術の発動に向けての訓練が始まった。街中では危険なのでこの訓練は町から離れた平原で行われている。
『良いでござるか? 雷の仙術は手に集めた丹力をズドーンっと撃ち出すと出るでござる』
「ズドーンです」
普通ならこんな事で理解できる筈はないのだが、レオナはなんとなく解かるようだ。
『ちょっと違うでござるな。こうもっとビリビリズドーン! でござる』
「ビリビリズドーン! です」
こうしてレオナは雷の神術を覚えたのだった。何故これで覚えられたのかは本人のみ知る所だ。
レオナが日那国語で会話が出来るようになるまで約1年もの間、他の日那国民(ドッジボールを一緒にやっている子供やご近所さん)達とのやり取りも、ほぼこういう感じで身振り手振りと擬音のみで通じ合って、会話が成立している。
因みにファーマとエミルが、レオナとドラグナのやり取りを見てデザリア語と日那国語での会話が成立している事に驚愕したのは言うまでもない。何故成立しているのかは【真理】の能力でも見抜けなかったという。
次回更新日は未定です。
第3章は現在作成中ですので、気長にお待ちください。




