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ファーマ君の気ままな異世界生活  作者: 幸村
第2章 浮遊島
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第27話 ファーマ君、年越しする

 ━━新九郎さんの成人の儀から2か月が経ち、今日はこの世界(人界)に来て初めての大晦日。日那国は年越しを祝う為、国を挙げて飲めや歌えのお祭り騒ぎだ。


 この日1番多くの人が訪れるのはラグナムート様を祭っている神社。前世でいう所の初詣と似た風習で、今年1年の無事と平穏をラグナムート様に感謝する奉納祭という神事が行われる。


 初詣と違うのは年末から年をまたいで行う事と1年の無事や平穏を願うのではなく、1年の感謝を捧げる為だけの神事だという事。


 僕達は新右衛門さんと新九郎さんに連れられお社に参拝に来ている。神社の本殿では巫女の妃美華さんと巫女候補の10人の若いドラグナ達が夕方から年明け1時間前まで祈りを捧げ、そこから年が明けるまで神楽舞を舞う。


『妃美華さん達綺麗ですね』


『そうでござろう。毎年これを見るのは拙者の楽しみでござる。妃美華の神楽舞は今回で最後でござるがな』


 ずっと見ていても飽きそうにないくらい美しい舞を踊る妃美華さん達、エミルは見入り、レオナは不器用に舞の真似をして楽しそうにしている。


 神楽舞が終わると奉納祭のメイン行事。年明けと同時に国主新右衛門さんと巫女の妃美華さんを先頭に日那国民が総出で昨年採れた米や野菜、穀物などを台車に乗せてラグナ山まで歩いて奉納に向かう。


 日那国民約4000人が松明や提灯を持ちまるで光の道が出来ているようで感動的だ。


 トン、トン、トン、と太鼓の音がゆっくりとしたテンポで響きながら行列は進む。


 今回の奉納祭は妃美華さんが巫女を引退して巫女候補の中から次の巫女が選ばれる特別な神事が行われるため例年に比べて奉納品も多くなっているそうだ。


 建国以来、初めての巫女の代替わりという事もあって、みんな少しばかり緊張しているようだ。


 この世界では夜に活発に行動する生き物の方が狂暴なものが多いらしいのだけど、流石にこの列に近づこうなんて度胸のある獣はいないらしい。それどころか虫1匹として寄って来ないので日那国民以外の声も物音も全くしない。


 ラグナ山に到着すると奉納品は台車ごと森の中へと押し込まれる。森に入って台車から手が離れると同時に奉納品は消えてなくなる。たぶんラグナムート様が転送神術で聖界に移動させているんだろう。


 奉納品の中に肉や魚類は一切ない。たぶん神託で要らないと伝えてあるんだろうな。神様は肉類を食べないみたいだし。


 奉納が終わると、ここでも妃美華さんと巫女候補の人達が神楽舞を始め、それが終わると全員で静かに祈りを捧げる。


『神託が降りました。次代の巫女には伊代里が選ばれました。伊代里、前へ』


『はい』


 妃美華さんがそう伝えると静かに伊代里さんが立ちあがり妃美華さんの前に正座する。妃美華さんは自分が被っている銀色の冠を伊代里さんに被せ━━


『お役目、頑張るのですよ』


『はい、真摯に努めまする』


 ━━励ましの言葉を送り、伊代里さんは真の礼をして返答した。


 今回の代替わりの理由は妃美華さんが新右衛門さんと婚姻を結ぶから。巫女は神に仕える者なので独り身の生娘である事が条件なんだとか。ラグナムート様からは、そんな条件は出されていないらしいのだけど、日那国民はそう取り決めているらしい。


 だからラグナムート様も気を使ったのだろう。神託で『我の為に生涯を捧げる事はならぬ。伴侶となる者を見つけたなら新しき者に引き継ぐのだ』と、念押ししたらしいのだ。奉納祭の時に引退を伝えると新しい人が選ばれる。というルールを作ったのもラグナムート様らしい。


 神様も信者への気遣いとか結構大変なようだ。


 日那国の人達には言えないけど、実は神託を受けられるのは巫女だけではない。あれは伝心という自分の言葉や考えを任意の相手に伝える神術で、送る相手の事を認識していれば誰にでも送れる。だけど、巫女という立場の人を作っておいた方が神託にありがたみが出て信用されやすくなるから窓口を1つにしているという事だ。


 因みにこの神託と巫女のシステムを作ったのはラグナムート様。新右衛門さんがドラグナを統率して建国を始めたのを見て、手助けをしたくなったらしい。妃美華さんが最初の巫女に選ばれた理由は新右衛門さんの最も身近にいた人で新右衛門さんを献身的に助けていたから。この2人が協力して自分が知恵を貸せばよりスムーズに事が運ぶだろうと考えての事らしい。(ラグナムート様談)


 奉納祭を考えたのは日那国の人達だ。ラグナムート様からは建国の助けになる助言はあったものの見返りを要求する事は一切無かったらしい。ただし、不作の年は無理をしない様にと忠告を受けたそうだ(妃美華さん談)。


 こうして、奉納祭は滞りなく終わった。





『これ、どこに運びましょうか?』


『それはあの辺りでござるな。細かい位置は春乃に聞いて下され』


 奉納祭から3日後、昨日から新右衛門さんと妃美華さんの婚姻の儀の準備で大忙しだ。僕達も手伝わせてもらっている。


『コレ、ドコ、オキマスカ?』


『それはこっちでござる』


 エミルも覚えたての日那国語で会話しながら進んでお手伝いをしている。レオナはまだ日那国語を上手く使えないので僕かエミルの隣で物を運ぶお手伝いをしている。


 僕達が準備をしている裏では、本日の主役2人が正装に着替え中だ。なんでも婚姻の儀の女性の正装は十二単らしく、今回は国主の婚姻の儀なので特に華やかな着物が用意されて着るのに時間が掛かるそうだ。


 新右衛門さんは妃美華さんの準備が終わるまで待機室で着崩れしないようにジッと待たされているらしい。


 奉納祭後直ぐの婚姻の儀でなければこんなにバタバタしないらしいのだけど、まあ、今回は国主の婚姻という日那国始まって以来のめでたい日なので忙しいとか言ってられないのだ。


 司式を行うのは先日2代目の巫女に選ばれた伊代里さん。妃美華さんの準備ができ次第、城から神社まで新右衛門さんと妃美華さんを乗せた御輿が行列と共に運ばれる。


 その道のりには2人の晴れ姿を一目見ようと国民達が押し掛け、通り道にはみ出さない様に城仕えの人達が列の整理に大忙し。


 僕達が今手伝っているのは城の大広間の披露宴会場。2人の親族と国の重鎮、合計200人が集まるので準備も大変だ。今の状況から計算すると凡そ6時間後には披露宴が始まるのでかなりギリギリな感じだろう。


『ファーマ殿、お手すきでござるか?』


『あれ? 新九郎さん、なんでここに? もう直ぐ御輿の列が出発するんですよね? こんな所にいても大丈夫なんですか?』


『いや、そろそろ拙者も行かねばならんのでござるが、ファーマ殿にも参列してもらう為に呼びに来たのでござるよ』


『えっ? そう言われましてもなんの準備もしてませんよ? それに僕なんかが列に混ざっても大丈夫なんですか?』


『兄上は是非参列してほしいと言っていたでござる。ファーマ殿は日那国新時代の立役者でござる。拙者からもお願いするでござるよ』


 昨年末に教えてもらったのだけど、今回の2人の婚姻は以前から決まっていた事ではない。僕達が日那国に来て魔法道具の文化を広めた事が日那国にとっての大きな転機になったという事で、それに合わせて巫女も代替わりすべきと妃美華さんが引退を決意し、以前から好き合っていた2人の婚姻に発展したという訳だ。


 参列してくれという話は初耳なんだけど……?


『でも、僕は式服とか持ってませんよ?』


 聞いていたら作っておいたんだけど。さすがに普段着に使っている服で参列する訳にも行かない。


『それは問題ないでござる。ささ、急ぐでござるよ』


 僕は新九郎さんに抱えられて披露宴会場を出た。エミルとレオナには一言「お手伝い宜しくね」と、声は掛けておいたので心配はされないだろう。



『ふむ、中々似合っているでござるよ』


『いつの間に用意してたんですか? この服』


 別室に連れて行かれた僕は待機していた女中さんに服を脱がされ、なすがままに式服に着替えさせられた。サイズは計ったようにぴったりだったので急遽用意したものではないだろう。


『さあ、急ぐでござる』


『はい』


 時間が無かったので細かい説明は無く、何故か新九郎さんと一緒に小型(若い)の地殻竜に跨り親族列に並んだ。一応、新右衛門さん達の身近な親族とは顔見知りなので居心地は悪くないけど、何故ここ?


 っていうか。誰も僕がここに並んでいる事に疑問を持っていないようだ。最初からここに並ぶことは決まっていたんだろうな。事前に説明が無かったのは僕の性格を読んで遠慮されると思ったからかも知れない。


 僕達が列に入った15分ほど後に、本日の主役、新右衛門さんと妃美華さんが御輿に乗って運ばれてきて列の中央に並ぶ。僕からは後ろになるので残念な事に2人の姿を見る事は出来なかった。広域視で見るという手もあるんだけど、何となくそれは失礼な気がするから止めておいた。


 今でなくても神社での式の時に見れるだろう。


 列が動きだし、神社に向かう道中。よく一緒にドッジボールをして遊んでくれている子達と目は合い、手を振られたんだけど流石に僕は参列者の1人であって主役ではないので軽く笑う程度でやめておいた。


 だって他の人はまじめな顔して静かにしてるんだもん。この空気の中で手なんか振り返せるほど僕の神経は図太くない。


 城から神社まで普通に歩いて30分くらいなんだけど、この日は約2時間かけてゆっくり移動した。


 神社に着くと僕達は地殻竜から下りて本堂に設置された長椅子に座り、神前式が始まる。


 本堂の最奥、中央にはラグナムート様を模して造られた木像がある(本物より年寄りに見えるけど雰囲気は似ている)。大きさは奈良の大仏様くらい? 修学旅行は病欠という事にされて行ってないので本物は見た事が無いんだよね。本で見た情報からするとほぼ同じ大きさ。勿論ポーズは奈良の大仏様とは違う。金剛力士みたいなポーズの像だ。(どちらかといえば吽形?)


 その前には伊代里さんが静かに立って新郎新婦を待ち、部屋の入り口の角辺りに和楽器に似た楽器を持った人達が並んでいる。


 本堂内にいるのは伊代里さんと楽隊、僕を除けば親族のみ。なんだか僕だけ場違いだ。


 等と考えていると前の世界の初詣なんかで流れているアレに似た曲を楽隊が奏で初め、本堂中央をゆっくりと新郎新婦が歩んできた。


 婚姻の儀は殆ど前の世界の日本式の結婚式。まあ、本物の結婚式は見た事ないんだけど……


 新右衛門さんはとても凛々しく、妃美華さんはとても綺麗だった。なんだろう? 幸せが溢れ出ているような感じだ。見ているこっちまで幸せな気分になるんだな、婚姻の儀って。


 式は凡そ1時間で終わり、これから来た道とは別の道を通って城に戻るらしい。一応、式と移動の間にトイレ休憩はあったのだけど、何時間も姿勢正しく地殻竜に跨っているのは精神的に辛い。


 でも祝いの席なので、そんな事は微塵も表に出してはいけないのだ。


 城に戻ると披露宴が始まった。祝辞を伝えたりお酒を注ぎに行ったりと、最初の内はみんな和気藹々という感じに大人しくしていたのだけど、お酒が進むにつれて段々披露宴会場は普段の宴会状態になり、僕が今住んでいる家の完成祝いの時同様に収拾が付かなくなってしまった。


 折角着飾っていた新右衛門さんや妃美華さんの衣服も乱れ、殆どの男性は上半身裸、流石に女性は脱いではいないけど着物が肩まではだけている。


 折角の祝いの席がこれで良いのだろうか? まあ、みんな楽しそうだから良いか。


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