第1話 ファーマ君、町に向かって歩き出す
やっと、1章の下書きが終わったので今日から投稿開始します。
天界を出て、僕が降ろされたのは天界に繋がる山の梺に広がる大きな樹海の淵。樹海を背にして見渡すと、平原がずっと続いている大自然のど真ん中という感じだ。ここは僕が生まれた国とは、樹海を隔てて真反対にある国、デザリア。
ソフィア母さんが殺された国に戻るのは嫌だろうとデーア母さんが気を使って別の国に連れてきてくれたのだ。
ソフィア母さんが殺される原因になった僕の髪の色は、アルビノという先天性の病気? らしい。元いた世界にもあったものらしいけど、僕は初めて知った。本来、この病気をもって生まれた人は紫外線などの影響で、あまり長くは生きられないらしいのだけど、デーア母さんの乳を飲んで育った僕はあらゆる健康被害の影響を受けなくなっているので問題はないそうだ。デーア母さんに感謝だな。
目の色は神眼によるもので、【神眼】保持者はみんな金色の目をしているのだそうだ。デーア母さんや神様も神眼を持っているので金色の瞳だ。僕の持っている神眼より高位の神眼らしいけど。
僕の能力【神眼、真理、創造】は、普通、人が持っている事のない能力だ。
最初に与えてくれようとしたのは才能としての【鑑定、理解、錬成】
どう違うのかというと━━
【鑑定】見る才能。人を見る目、物の良し悪しを見る目、病気などの診断をする力等、人よりその見る目が良くなる才能らしい。元の世界でも、持っている人は結構いるらしく、名医や商売人、それに古物鑑定をする人等、様々な分野で役に立つ才能だ。
【理解】理解力を高める才能。記憶を持ったまま生まれ変わると、その知識が邪魔をして言葉や文字、その他の知識などを覚え難くなるらしく、それを補助する為に与えてくれようとしたらしい。元の世界で天才とか言われていた人、飛行機作った人とか、電気作った人とか、引力発見した人とか、そういった人達は必ず持っていたらしい。
【錬成】物を作る才能。僕の希望していたものだ。この世界では物作りは手作業か神術でやるらしく、元の世界とは全くやり方が違う。錬成術で物質の分解、融合、形状変化が出来る。建物みたいな大きな物造りや細かな仕上げ作業は神術だけでは難しく、手作業も必要なのだとか。この才能があると、モノ作りが人より上手になるらしく、元の世界では、人間国宝になっちゃうくらい凄い職人さんが持っていたらしい。
どれも凄い能力だ。次に、今、僕が持っている力。
【神眼】遠視、透視、考視、鑑定、等、全てを見る力。数十km先の風景が目の前と同じように見えたり、壁の向こう等、普通は見えないところまで見えたり、物、人物、動物等が見ただけでどんな物であるか、どんな者でどのくらいの力があるか、何を考え何を思っているのか等、全てが見える。この神眼と真理の能力のお陰? で僕には、この世界に生まれてから見た事、聞いた事、体感した事の記憶は全部僕の中にある。この力は状況によって使い分け可能で任意でON、OFFが出来るので、普段はOFFにしてある。見たくない事もあるからね。
【真理】物事の論理、原理、法則を解き理解する力。言葉なら動物の言っている事まで理解できるし、問題ごとが起こっても状況を読み最適な判断を導き出すことが可能らしい。ただし、脳への負担が大きいため常時使っていると脳細胞に大きな影響(被害)がでるらしい……これもON、OFFの切り替えが可能なので必要時以外はOFFにしておく。OFFの状態でも理解の才能ぐらいの力は発揮しているらしいのでONにすることは殆どないだろう。
【創造】モノを作る力。無から有、有から有、自分が想像したモノを創造する事が可能らしいけど、世界の理に反するモノや生命(魂)の創造は出来ない。神様の力ならそういったモノも作れるらしいけど、僕の創造ではそこまでは出来ないらしい……まあ、出来てもやらないけどね。この力を使いこなすには、かなり訓練を積む必要があるので、今すぐ危険はないから、色々なモノを作って楽しめと言われた。
前にこの力を貰って世界を滅ぼしかけた人は僕とは別の世界の、戦争国家で殺戮兵器の開発を死ぬまで無理やりやらされていた人らしく、その知識を使って商売しようとして、悪い人に利用されて愛する人を失い、自暴自棄になって世界を滅ぼそうとしたらしい。前世が、ただの中学生だった僕にはそんな兵器を作るような知識はないけど、使い方次第で、とんでもないモノを作れてしまうので、よく考えて使うようにしよう……
前世の記憶や人格が覚醒してからやっていた事は、人界で生活する為の言葉や文字の勉強、道具作り、身を守る為の訓練、それと、一番重要な僕の力を抑える為のモノ作り。
デーア母さんの乳を飲んだ事で、取り込んだ神の力の影響を受け、僕の体は変質し、僕は人間であって人間ではないそんな存在になっている。あのまま人界に来ていたら、くしゃみしただけで台風が起きるくらいとんでもない力を持っていたらしい。
現在は、神様の創造の力を使って作った、目に見えない制御術式を使ってチカラを抑え込んでいる。
このリミッターは1つにつき、力を10分の1にまで抑える事が出来、今、10個付けてやっと一般的な成人男性数人分程度の基礎能力まで下げる事が出来た。リミッターは自分の意思で1つずつ解除、再封することが出来るようになっている。
でも、神様のチカラでも永久に不変のモノは作れないらしく、リミッターも、いつかは効果が切れてしまう。だから、それまでにはリミッター無しでも自身のチカラを完全に制御できるようにならなくてはいけない。頑張らないとね。
ちなみに、一般的な成人男性のステータスを数値で表すと━━
生命力80~100
筋力50~70
神力60~70
瞬発力40~50
耐久力10~30
だいたいこんな感じになるらしい。あくまでも町や村に居る一般的な人間の数値で、鍛えている兵士や傭兵みたいな職業の人や、神童、天才、と呼ばれるような人は、今の(リミッター×10)状態の僕と同じぐらいのステータスの人も、ざらにいるし、もっと強い人もいるらしいので、それほど目立たないだろうという事だ。
リミッターで下がった、今の僕のステータスは━━
生命力526
筋力336
神力853
瞬発力283
耐久力224
━━になっている。
生命力はリミッターでこの数値に見えるけど、実際は元の数値なので、そうそう死ぬ事はないそうだ。神様が作ったリミッターなので、人界のモノの鑑定などでは、この値に見えるらしい。
神力はリミッターの付いた状態でも常人の約10倍、現状でも高すぎる数値だ。他のステータスと大きく違うのは、神力はリミッターの維持に常時、総数の半分は使われているという事。だから実際の数値は、この10の10乗×2倍あるって事らしい。
神力とは、魔力や気やマナ等、呼ばれ方は国や地域によって様々だけど神術を使うために必要な力。神術は他に、魔法、精霊術、神聖術等これも地域や国によって呼ばれ方は違うけど全て神力を使った術で、原理は同じらしい。
詳しい事は、天界で教わると楽しみが減るから人界の生活の中で学べという事だ。
この2年で【創造】の訓練を兼ねて作ったのは、服と大きめのリュック、それと調理器具と、身を守る為の武器だ。
服は元の世界でも作っていたけど、この世界の服作りは元の世界より簡単だった。材料をそろえて錬成術で組み合わせるだけ、針やミシンを使わなくても神力を流してイメージしただけで服が出来る。
今、使える神術は錬成術(正確には創造)だけで、成形する時の神力の細かな操作、調整は結構難しかったけど、手作業に比べると簡単だった。神術、便利すぎだよ。
作った服は、Tシャツ色違いで5着、トランクス5着、襟付きポケット沢山のジャケット色違いで2着、ポケット沢山付き長ズボン色違いで2着、中学時代に着ていたのと同じようなブレザー上下セットで2着、カッターシャツ2着、薄手のフード付きロングコート1着、足首まで被えるブーツ2足、スニーカー2足。どれも元の世界で着ていた物や、同級生が着ていた物を真似て作った。作るのが楽しくて、つい沢山作ってしまった。これだけ作るのにこの数十倍の失敗を重ねたけど、良い感じに技術が身に着いたので人界での生活にはかなり役に立ちそうだ。
服の生地は、デーア母さんがくれた特別な布を使って作っている。破れにくく、ジャージのように伸縮性が高く、綿のように柔らかく、絹のように肌触りが良い。成長した時の為に予備の生地も沢山貰った。
今、着ているのは、黒色のTシャツ、深緑色のポケット沢山付き長ズボン、ズボンと同じ色のジャケット、焦げ茶色のブーツ。調理器具や小物はリュックに入れてある。(服装はミリタリー系を想像してください)
前に本で、こんな感じの服を着ている人を見て、格好良かったから着てみたかったんだよね。夢が1つ叶ったよ。
武器は、図鑑で見たサバイバルナイフを真似て作ったモノを1本腰に差している。ナイフの材料に使った鉱物はアダマンタイトという鉱物。前世で読んだ本に書いてあった架空の鉱物が、この世界に実在するのは驚きだ。
ナイフとは別に、デーア母さんに刃渡り45cm程の剣を貰った。鑑定してみたら【女神の小剣】、材質は不明、何か特殊な能力が付与されているらしいけど、僕の鑑定では解らなかった。僕が成長すればちゃんと鑑定出来るようになるらしいけど、神様が「過保護だね」と言っていたので凄いモノなんだろうな。
この世界にはアフリカのサバンナみたいに、あちらこちらに猛獣がいる。しかも、神力の影響で地球の生物よりはるかに強いという事だ。それと、盗賊、山賊、海賊といったならず者も結構いるらしく治安はよろしくない。なんか怖い世界に来ちゃったな……
人界に来る前に神様に1つ助言をもらった。こっちの世界では元の世界のファンタジー小説とかの知識が役に立つらしい。
通常、生物が生まれ変わる時には、魂は洗われ、それまでの経験や記憶等は消えて新しい世界の新しい肉体に宿るのだけど、完全には消せず記憶の残りカスが、ふとした時に思い出される事がある。そういった残りカスの知識によって、SFやファンタジーの物語が作られる事が多いのだとか。
神話や魔法使いが出てくる物語は図書室でよく読んだ。空を飛んだり、魔法を使って人助けをしたり、そんな物語が好きだったから。
小、中学校の同級生の中で唯一、僕に話しかけてくれていた図書委員長が貸してくれたライトノベルという小説の、魔法の世界に召喚されて英雄になる話とかも面白かったな……よく考えたら今の僕の状況も、その物語に似た状況だよね。……委員長、元気にしてるかなぁ?
さて、昔を懐かしんでここにジッとしていても仕方ない、そろそろ動こうか……
まずは、人のいるところを見つける為、僕は神眼の【遠視】を発動する。
この【遠視】は目の前と遠くが一緒に見えるから気持ち悪い。同時に見えるけど両方ちゃんと把握出来ているのが凄いところなんだけど、この感覚に慣れるまでは酔いそうだ。
見える距離を少しずつ変えながら暫く探していると、50kmほど向こうに町を発見。ちょっと遠いけど、まずはあの町に行って情報収集と、旅の資金稼ぎをしよう。
天界には、樹海の中心にある山から繋がってはいるけど、人界とは別次元なのでデーア母さん達神族と一緒じゃないと、天界への壁を抜ける事は出来ない。会いに行けないのは寂しいけど、数十年に1度、母さんが人界の様子を調べに来る時には会えるって言っていたから、次に会った時に悲しませないように幸せになっていなきゃね。
さあ、新しい人生を楽しむぞー!