第25話 ファーマ君、黒邪竜を食べる
全員が集まったところで森の外へと移動し、新右衛門さんと数人の日那国の人を残し、他に黒邪竜が残っていないか探索に出ている。
黒邪竜は日那国の人達がこの浮遊島で生活をするようになってから初めて見る新種の生物らしい。あれほど好戦的な生き物が浮遊島にいたのなら絶対に今までに遭遇している筈、つまり、黒邪竜は本来この浮遊島には生息していない筈の生き物という訳だ。
僕達が戦闘をした場所の他にも似た様な惨殺跡があったらしく、このまま放置していると、他の竜が全滅してしまう可能性があるので、1匹残らず始末しておきたいらしい。
と、いう事なんだけど、黒邪竜は飛ぶタイプの生物ではないので外から入って来た生き物というなら、どうやって浮遊島に来たんだろう? まあ、その辺りは追々日那国の人達が調べると言っていたので深く考えなくても良いか。
それよりも……
「不甲斐無い。ファーマ様が戦っている間ずっと震えてなんのお役にも立てませんでした。こんな役立たずな奴隷は要りませんよね? 死んでお詫びします」
エミルとレオナの現状を何とかしなければ。
「いやいや、死んじゃダメだよ。あんなの目の前にしたら普通は動けないから。エミルは役立たずなんかじゃないよ。僕はいつもエミルに助けられてるから、ね」
エミルは状態異常が解け我に返って凄まじく落ち込み、それからずっとこんな状態だ。
「レオナ弱い、百獣の王ないです」
「レオナはまだ子供だからドラゴン相手に戦えないのは仕方のない事だよ。これから強くなれば良いんだよ。元気出して」
レオナもまた落ち込んでシクシク泣きながら塞ぎ込んでいる。
2人とも黒邪竜を見た途端に、震えて動けなくなった事が悔しくてたまらないらしい。まあ、動けたとしても僕が命令して結界の中に閉じ込めていただろうけど。そうは説明しても結果は同じでも過程が違うので慰めにもならなかった。
2人の名誉のために言っておくが、僕が異常なだけであって普通の人、ましてや子供があの黒邪竜を目の当たりにして状態異常まで掛けられて動ける訳がない。竜人族の人達でもてこずる相手だし。
因みに新右衛門さん達の方には、こちらの倍の黒邪竜がいたらしい。あの激しい爆音は黒邪竜の吐いた炎や雷の息と日那国の人達の仙術(神術)の打ち合いの音だ。
ブレスとはいっても、体内で炎や雷を作れる訳ではないのでブレスは野生動物が使う神術だと考えられる。たぶん僕達でもやろうと思えば出来るんだろうけど、どこぞの大怪獣みたいで人がやっても格好の良いものではないので口から神術を放つなんて事はやりたくない。
向こうの戦闘跡地は半径1kmほどが全焼して森にぽっかり何もない焼けた空間が出来たそうな。戦闘後にそれ以上燃え広がらない様に水属性仙術(神術)で火を消してきたらしいので時間と共に森は復活するだろうと言っていた。
さて、話を戻そう。
「お腹が空いているから暗い気持ちになるんだよ。さっきの魔物は食べられるみたいだし、お腹一杯食べて元気出そうよ。エミルの好きなチイズもたっぷり掛けてさ」
エミルとレオナの元気を取り戻すためにご飯を作る事にした。落ち込んでいる時はお腹いっぱいにするに限る。
「何もしていない役立たずに食べる資格はありません。ファーマ様達だけでお召し上がり下さい」
「レオナもです」
2人ともお肉とチイズという大好物にも釣られず体育座りの様に膝を抱えて遠くを見つめている。
「ダメ! 解体するから2人とも手伝って、それとも僕の手伝いはしたくない?」
「いえ、そんな事はありません。お役に立ちたいです。お手伝いさせてください」
「レオナも手伝うます」
2人とも少し焦ったように立ち上がって僕の所に駆け寄って来た。
「うん、じゃあ手伝って。こいつ固いし大きいし解体し難いんだよ」
僕が倒した黒邪竜を収納魔法道具から取り出し、解体用のナイフを2本用意する。レオナはナイフがもてないので爪で1枚1枚鱗を剥がしていく。
鱗自体はアダマンタイトのサバイバルナイフでも殆ど傷つかないほど硬いのだけど、死んでいるので鱗と鱗の隙間に刃を入れて根元を切ると鱗は綺麗に剥がれてくれる。レオナの爪でも簡単に切り取れるようだ。内臓を綺麗に外し、ある程度の鱗を剥がし、水神術で洗浄したら皮を剥ぐ。
鱗は硬かったけど、皮はカワハギの皮を剥ぐように綺麗に剥げた。面白いな。皮に残った鱗は後で処理するとして、今は肉の解体を優先しよう。
黒邪竜の神結晶は無属性の透明な物で大きさは人間の大人の拳3つ分くらいだ。2属性持ちは無属性の神結晶が採れるのか? 黒邪竜以外で2属性持ちの獣を狩った事がないから統計の取りようがないな。
これとは別に、黒邪竜の胃の中からは、地殻竜や水氷竜の物と思われる大きな神結晶が出て来た。かなり酷く食べ散らかしていた割に、神結晶はどれも丸のみにしたかのように綺麗な物ばかりだった。不思議だな。
ちょっと失敗だったのは胴を真っ二つに切ってしまった竜の胃の中にあった神結晶が幾つか切断されてしまった事。こればかりは錬成でもつなげる事が出来ないので用途が減ってしまう。まあ、沢山採れたから良いか。
この中でも、大きな地結晶(たぶん地角竜の物)が採れたのが1番嬉しい。聖界で話を聞いた時から作ろうと思っていたアレが作れそうだ。黒邪竜の鱗も繊維質だったので予定していた防具の材料も手に入ったし、結果的に黒邪竜様様だ。
『新九郎さん達が戻ってくるまでまだ時間は掛かるでしょうから、食事でもしながら待ちませんか?』
1頭の黒邪竜の解体を終えた僕達は新右衛門さん達に声を掛け、黒邪竜の肉を焼いていく。新右衛門さん達にはステーキのように焼いて、僕達が食べる分は1口大に切って串焼きにした。
『かたじけないでござる』
『有難く頂くでござる』
お肉は1頭分で300㎏ほど採れたので全員で食べても余裕で余るほどだ。見た目に依らず肉は柔らかく、とても美味しい。淡白であっさり食べられる部位と霜降りでジューシーな部位があって牛肉のように色々なタイプのお肉が楽しめる。内臓系も毒性はないので食べられない事もないみたいだけど独特の癖の強い臭いを何とかしないと食用には向かなそうだ。森付近に置いておいて、この辺りの獣に処理してもらおう。
『これはかなり上質な肉でござるな』
『この歯応え、この肉汁、今まで食べた肉の中で最上かも知れんでござる』
新右衛門さん達竜人族は腕や腿といった筋が多く硬い部位の歯応えがたまらないと大絶賛している。それと、あばらの部分をスペアリブのようにして焼いて渡したら骨ごとボリボリと齧っていた。中でも弥太郎さんがやけ食い気味に骨付き肉を貪っている。だいぶへこまされていたけど元気は回復したようだ。
因みに黒邪竜の骨はたぶん鉄より硬い。この人達の歯はいったいどれほど強いんだろう?
『これほど旨い肉が採れるのなら、黒邪竜とやらを全滅させない方が良いかも知れぬでござる』
いやいや、何言ってるの? 他の竜がいなくなっちゃうよ? 下手に外来種を残したら危険だと思います。
因みに新右衛門さん達に黒邪竜という名前を教えたのは僕だ。神眼で見えたとは言えないので図鑑で見たことがあるということにしている。
「ドラゴンお肉、すごく美味しです」
「見た目は美味しくなさそうなのにとても良いお肉ですね。ドラゴンは初めて食べましたがこれほど美味しいとは思いませんでした」
エミルとレオナも食事で元気が出たようで一生懸命串焼きにしたお肉を頬張っている。エミルはヒレ肉辺りの赤身の部位が気に入ったようで、レオナはどの部位も同じくらい美味しいと言っていた。因みに僕は霜降りの部位がお気に入り。
沢山あるから半分は干し肉にして残りは冷凍しておこうか……ああ、こんな時にエアリス様の言っていた、中の物が劣化しないバッグがあれば、このお肉を美味しいまま保存できるのに……
よし、帰ったら最優先で術式を作ろう。
『良い匂いがしているでござるな』
『新九郎さん、お帰りなさい。丁度良い具合に焼けたお肉があるので一緒に食べましょう』
『様子はどうでござったか?』
5時間ほどの探索を終えた新九郎さん達が戻って来て調理中のお肉の匂いに夢中の様だ。手早く焼けたお肉を配って回る。みんなお腹が空いていたようでお肉に夢中だ。
新九郎さんはお肉を口に入れた状態で話しかけられたので、そのまま話を始める。
『ほごぼぼがしいどごごはびあばらがったでぐぉざるを』
『口の中の物を飲み込んでから話すでござるよ……』
なんとか〝ござる〟だけは聞き取れたけど何を言っているのか全く分からない。
『ングッ、今の所おかしなところは見当たらなかったでござる。地竜はどこかへ隠れていたようで、見回りをしている間に少しずつ森に戻ってきているようでござるし、もう、森には黒竜はいないと考えても良さそうでござるよ』
『天竜の縄張りも見てきたでござるがそちらには被害はなさそうでござる』
『水竜は未だに姿を見せぬところを見ると、まだ湖の底の巣に隠れているのかも知れぬでござるな』
天竜の縄張りは無事なのか。まあ、黒邪竜は飛べないみたいだし、天竜とは相性が悪いのだろう。
こうして、波乱の成人の儀は終了し、黒邪竜調査のついでに天竜の縄張りから抜け落ちた天竜の鱗を持って帰った新九郎さんは無事成人として認められ、【城之内】という姓が付いた。
後日、日那国の衛兵100人によって数度、島全体の探索を行ったけど、結局、あれ以来黒邪竜を見かけることは無かったらしい。
本当にどこから現れたんだろうな。




