第22話 ファーマ君、エミルと研究を開始する
新居に住み7日、朝は3人一緒に起きて庭で神力操作と適度な運動という名の戦闘訓練。エミル、レオナ対僕。2人が勝ったらなんでも1つ言う事を聞くという条件で2人には本気で攻撃を仕掛けてもらっている。
エミルの武器は木剣と練習用の弓矢(鏃無し)とレオナは爪を出さずに体術。僕も体術。リミッター解除や特殊能力、神術の使用は無し。実戦武器でも聖天布の服は貫けないので実戦武器を使っても良かったのだけど、どうもそれだと奴隷契約の禁止事項に引っ掛かるようなので練習用武器を使った。
僕が許可してもダメなものはダメなんだな。
それでもステータスの差は大きく、なんとか僕が勝っている。神眼が無いのは結構キツいけど、アレは反則みたいなものなので訓練では使用しない。無しでも視野を広く使えないと本当の意味で強くなれないし、もし何かの拍子に使えなくなった時に仲間を守れないなんて状況だけは避けたい。どんなにステータスが高くても、人が持っていない能力を持っていても万が一というのは起こる。
そうならない為にも準備というのはどれだけやっても足りないのだ。
と、いう訳で、日那国での生活も落ち着いてきたので、今日からは治療系神術の欠点と対策についてエミルと一緒に考える。レオナは残念だけどこういった話が苦手なので庭で体力トレーニングしている。あとでしっかり遊んであげなきゃ。
治療系神術の欠点とは何か。治療系神術は使用者の神力を消費するだけでなく治療される側の生命力を消費して怪我を治すという欠点があるという事をエアリス様に教わった(ラグナムート様に貰った本にも書いてある)。これはエミルも知らなかったそうだ。
治療を受ける側の生命力を消費するという事は、衰弱している相手に大きな効果の治療系神術を使うと、傷や病気等は治るけど衰弱死する危険性が高いという事だ。これはポーション(魔法薬)も同じ。だけどポーションの方は多少生命力を回復する効果もあるらしいので衰弱が激しい人はポーションを使った方が助かる可能性が高くなるという事だ。
衰弱が激しいのなら体力が戻るまで待つというのも考えたんだけど、小さな怪我ならそれでも良いとしても大きな怪我を放っておくと失血死してしまうので、この選択肢は直ぐに消えた。
これまでは神術やポーションを使っても死んでしまう人は運命だからと諦めていたらしいけど、そういった人を助けられる可能性があるのなら、この欠点を何とかしたい。(何とかする方法はあるから研究すると良いよ、とエアリス様に教わった)
レオナを始めて治療した時にはこの知識がなかった。あの時のレオナの衰弱がもっと激しかったら、怪我がもっと酷かったら、どうなっていたんだろう? そう考えるとゾッとする。
「……衰弱を改善させるポーションってないの?」
研究してみろとエアリス様が言っているくらいだから今の所人界には存在しないんだろうけど。
「はい、私は見た事がありません。衰弱した人を回復させるのは栄養のあるものを摂取して、ゆっくり体を休めるのが一般的です」
うーん、そうだよね。一瞬で衰弱が治るなんて難しいよね。でもアプリルの樹で魔法実験した時は回復神術で元気になったんだよねぇ。まあ、あれは傷が小さかったからかも知れないけど……
「ポーションに生命力を回復させる成分が含まれているのであれば、それを調べて生命力を回復させる成分だけを抽出した新ポーションを開発してはどうでしょう?」
僕が考え込んでいるとエミルが案を出してくれた。
「なるほど、それと神術や治療ポーションを一緒に使うんだね?」
「はい、もしくはポーションに生命力を大きく回復させる成分を含ませれば1本で賄えます」
「うん、それが1番良いね。でも、その成分を探す為には、先に成分分析の魔法道具を作らないとダメだよね」
「そうですね。では先に術式の開発をしましょうか」
案外早くに良い案が出て来たな。ヒントがあるのが大きかったようだ。と、いう事で、ポーション作りをする前に成分分析をする為の術式の開発をする事になった。
術式を組み上げるのはかなり大変だ。10万字を超える術式文字を、作りたい術式に合わせて選び、正しい順序で組み上げなければいけない。
術式文字は構成が漢字と似ていて難しい。例えば【銅と胴】みたいに隣り合う文字が変わったり、【数人と人数】みたいに順序が変わったりすると文字の持つ意味が大きく変わる。それを1文字ずつ合わせて神力を通し反応を探りながら文字を理解していかなければいけないのだ。(勿論、漢字とは形状がまるで違うので日本語の知識は役に立たない)
文字の解析さえ終わらせてしまえば、あとは術式を組むだけなのだけど、組み合わせは無限に近いので気の遠くなるような地道な作業が必要だ。(しかも、貰った本が術式文字の全てではないときている)
僕達にはラグナムート様とエアリス様に教わった知識と、ある程度術式文字の説明を書いてくれている本があるので、まだ苦労は少ないけど、そんな予備知識もないのに魔法文字を作り出し、術式を組み上げた人がこの世界にいる訳だし、これだけ恵まれた環境にある僕が作れないとは言えない。頑張らなくては。
エミルと一緒に術式文字の研究をする事3時間。流石に1日2日で術式が組めるわけでもないし、焦ってもろくな事にはならないので、今日の研究はここまでにして外のレオナの様子を見てみる事にした。
庭に出るとレオナは近所の子供達とボール遊びをしている。キャッチボール? いや、ドッジボールに似た遊びか。使っているのはレオナのボールではなく鞠のような玉だ。
子供が10人くらいは入れそうな円を地面に書いて外4人、中6人で分れて中の子に当てるゲームのようだ。暫く見ていると攻撃は外の子だけ、中の子は避ける役。中の子が玉をキャッチすると投げた子と交代で外に出て攻撃出来る。避ける事も受ける事も出来ず当てられた子は円の外に出てゲームが終わるのを待つ。最後に外に残った子が勝ちになるらしい。
うーむ、このルールだと最初から外にいる子が有利だよね。それにしてもレオナは凄いな。まだ日那国語は食べ物の名前しか分からないのに、どうやって日那国の子供と仲良くなったんだろう? 身振り手振りだけで通じ合えるんだろうか?
「ファーマ様、終わったですか?」
1戦終わり、遊んでいたレオナが僕に気が付きこちらに走って来た。
『お前もお殿様のお客さんか? 一緒に遊ぼうぜ』
『口で言うだけじゃダメだよ与太郎。言葉は解らないんだから』
レオナの後に男の子2人が付いて来て僕を遊びに誘ってきた。この子達はござるって言わないようだ。これから言うようになるのかな?
『大丈夫だよ、僕は話せるから』
『おおっ! お前は言葉が解かるんだな。じゃあ、一緒に中当てやろうぜ』
会話が出来ると分って与太郎君が嬉しそうにしている。
『中当てって、さっきやっていた遊び? それなら似たような遊びでドッジボールっていうのがあるんだけど、そっちにしない?』
『どじぼおる?』
『うん、ドッジボール』
僕は子供達を集めてルールを説明する。
『中からも攻撃して良いの?』
『そうだよ。中同士なら攻撃できるんだ。でも外の子には仲間同士での受け渡しは良いけど攻撃はしちゃダメだよ。当てても意味無いから』
『面白そうだな』
『中当てと似てるけど、こっちの方が良いな』
説明を聞いた日那国の子達の反応は上々。体育の授業以来久しぶりのドッジボール、楽しくなりそうだ。
「エミルもおいでよ。一緒にやろう」
「私も宜しいのですか?」
「うん、人数も丁度合うし楽しいと思うよ」
15才のエミルから見れば子供っぽい遊びかも知れないけど楽しいと思う。ただ、竜人族の子供達はステータスが人間の大人よりかなり高いから、あの球を受けるのは結構大変だろう。楽しめて避ける訓練にもなるから、一石二鳥だ。
木の棒で地面にドッジボールのコートを書いて僕達3人に佐乃丸(男)、千代(女)、風音(女)の3人を加えたチームお客人、与太郎(男)、喜作、百合祢(女)、鉄心(男)、蘭丸(男)、藤乃(女)のチーム日那国での対戦が始まった。
結果は当然僕達の圧勝。同じチームの子は嬉しそうに勝ち誇っている。
竜人族の子供達のステータスにそれほど差は無かったんだけど、レオナは素早いので受けようとしなければ滅多に当たらない。僕は、この中では飛び抜けてステータスが高いし、神眼のお陰で能力をオフにしていても視力と動体視力が異常に高い。エミルは残念ながらあっという間にアウトになった。
大人気ないとは思ったけど、手加減はしなかった。今は子供だし。
『ちくしょー、ファーマはなんでそんなに強いんだ? 玉の勢いが大人ぐらい強かったぞ?』
流石にリミッターを外していない状態で竜人族の大人程の威力で玉は投げられない。大人の手加減した玉ぐらい強いって事か? それなら納得。
『レオナも素早すぎて当たらないな』
『本当に素早すぎるよね』
レオナには同時通訳で与太郎たちの言っている事を教えてあげると、腰に手を置き胸を張って鼻高々していた。エミルは……まあ、子供にいい様にやられて少し? へこんでいる。
『今日はありがとう。またレオナと遊んでくれると嬉しいんだけど』
良い訓練にもなるし、レオナに友達が出来るのは良い事だ。
『おう、いつでも遊んでやるぞ』
『もう、友達だからね』
『今度はおれ達が勝つからな』
『レオナも話が出来たらもっと楽しいのにね』
返事はみんな前向き。良い友達が出来そうだ。
「レオナ、言葉覚えるです」
「うん、頑張って会話できるようになろうね」
『じゃあ、またね』
と、手を振り日那国の子供達はそれぞれの家に帰って行った。
レオナも片言の日那国語で『マタネ』と言って手を振ってみんなを見送り、まだ少し落ち込んでいるエミルを連れて家に入った。
エミルは子供にいいようにやられたと思っているけど、あの子達は見た目こそ僕やレオナと同じくらいの年齢に見えるけど、実はエミルの10倍ほどの年齢だ。成長が遅いとは聞いていたけど、160才を超えてもまだ肉体年齢も精神年齢も子供なのは驚きだよね。




