第20話 ファーマ君、家族サービス(狩り)をする
『だあー! ちきしょうめ! またやっちまった』
僕が五平太さんの所に技術交流しに来るようになって10日。1日交替で鍛冶を教わり錬成を教えている。
五平太さんの錬成の訓練は難航している。神鉱の錬成は通常の金属に比べてかなり難しいので先ずは普通の鉄を錬成して簡単な形の物を作ろうとしているのだけど、これが上手くいかない。
神力操作で鉄に神力を馴染ませる時に神力を一気に送り込み過ぎて材料が耐えきれず塵になってしまうのだ。
錬成で大事なのはその材料に適した量の神力を浸み込ませるように馴染ませ、練るように形状を変化させる事。込める神力が多すぎたり一気に送り過ぎたりすると材料の耐久値を超えて塵になってしまうし少なすぎると変化しない。形状変化も無理に変化させると割れたり千切れたりするので繊細な神力操作が必要とされる。
因みに錬金は工程がほぼ同じだけど、金属内に神力を留めるように浸み込ませるという所が錬成との違いだ。
神鉱の錬成はもっと難しい。神鉱は神術に対する高い耐性があるので武具や魔法道具にするには向いているのだけど錬成で加工するとなると必要神力や精密な神力操作が必要なのだ。
通常の金属すら加工出来ない様では神鉱の加工は絶対に無理といって良いだろう。
『おーい! 鉄持って来い!』
『またでござるか? 材料無駄にしすぎでござるよ?』
これまでに無駄にした鉄の量、凡そ300㎏。五平太さんの弟子で息子の六三郎さんは呆れ顔で溜息を吐く。
『ぅるっせぇっ! 黙って持ってくりゃ良いんだよ!』
『へいへい』
五平太さんは加減して神力を送るというのが苦手で手加減しようとしてもどうしても大量の神力を鉄に送り込んでしまうので一瞬で鉄が塵になってしまうのだ。
『中々上手くいきませんね。無理やりねじ込むんじゃなくて、もっと肩の力を抜いて軽く包み込むようにすると良いですよ。こんな感じです』
感覚派の竜人族に理屈で技術を教えるのは殆ど意味がない。実際に目の前でやってみせて覚えてもらう必要がある。教わる時も同じだ。感覚を説明するのが苦手なのか「こうやる」とか「火がこの色になったら」とか抽象的な説明はあるけど、あとは見て覚えろという。
『おう、そんな感じだな。解かった』
首を回し手をぶらぶらさせてまた鉄と向き合い、手を翳すとまた大量の神力が送り込まれ鉄に亀裂が入る。
『そこで止めてください』
『うおっとぃ。ふぃーまたやっちまうところだったぜ』
耐久値を超える寸前で止められたと思ったんだけど少し遅かったようで鉄は静かに崩れ去った。うーむ、僕もこれを覚えるまでに半年以上かかったのだけど此処まで100%の確率で失敗するという事は無かった。いや、リミッターが付くまでは同じ結果だったな。
神力量が多いと細かい調整って難しいんだよね。例えるなら人間族が水差しだとすると竜人族は放水車って感じ、容量も出力も桁違いなので出力の調整が難しい。今の僕なら竜人族と同じ程度の容量、出力状態(リミッター1つ外し)でも、いつもと変わらない精密な操作が出来るのだけど、これを10日やそこらでマスターしろと言うのは無理なのだ。
『だいぶ丹力も減って来たみたいですから一旦休憩にしましょうか』
『いや、まだ大丈夫だ』
五平太さんは基本的に、神力切れで動けなくなるまで練習を止めない。枯渇状態って結構苦しいはずなんだけど、この人は1度も弱音を吐いたことは無い。凄い人だ。
結局、枯渇するまでやり続けて倒れてしまった。時間的にももうお昼で、午後からは五平太さんも仕事をしなくてはいけないので、今日の練習はここで終了。神力水を渡して僕は部屋に戻る事になった。
『じゃあ、明日は僕の勉強の番なので宜しくお願いします』
『おーぅ……』
さすがに返事に元気がない。苦笑する六三郎さんに鍛冶場の出口まで見送られ僕は仮住まいの部屋に戻った。
それにしても神力操作が苦手な種族というのは本当だったな。この調子だと魔法道具を作る時、供給式ではなく自動吸入式にしないと完成した魔法道具が全部塵になってしまうかも知れない。
余談ではあるけど、竜人族が繊細な神力操作が苦手な種族で、神力の出力が抑えられない為、普通の金属の加工に向いていないと気が付き、ミスリル以上の耐久性を持つ神鉱を使えば錬成神術で加工出来ると気が付いたのはこの半年後である。
閑話休題。
「お帰りなさいファーマ様」
「べんきょ終わったですか?」
「ただいま、五平太さんが神力枯渇で倒れちゃったから今日は少し早めに終わったよ。日那国語の勉強進んでる?」
部屋ではエミルとレオナが、僕が錬成で作った日那国語教材を使って日那国語の勉強をしている。エミルは研究者だけあって頭が良いので、この短期間で結構な量の単語を覚えた。レオナはデザリア語もまだ勉強中なので苦労しているみたいだけど、何故か食べ物の名前の読み書きだけはエミルより覚えが早い。因みに僕は【真理】を使って日那国の文字は1日でマスターした。
本当は使わずに勉強した方が面白いんだけど、日那国語版の術式書や2人の日那国語教材を作るのに必要だったので今回は手間を省いた。
「ずっと家の中だとストレスも溜まるだろうから、今日は久しぶりに狩りに行かない?」
ここに来てから、ずっと忙しくて日中にエミルとレオナと過ごせなかったから、たまには家族サービスしないとね。日那国語版の術式書は完成して新右衛門さんに渡してあるので、今日ぐらいは自由にしても良いだろう。
「行くです!」
狩りと聞いてレオナが素早く立ち上がる。とても嬉しそうだ。
「そうですね。たまには体も動かさないといけませんね」
エミルは落ち着いた雰囲気でゆっくり立ち上がったけど、結構ストレスが溜まっていたのか、やる気オーラが見えるようだ。毎朝晩には一緒に軽い運動はしていたのだけどやはり運動不足はストレスが溜まるんだろうな。
素早く準備を済ませ、部屋お付きの女中さんに出かける事を伝えて城を出た。城の正門から大通りを進み町の南側にある正門(城の正面方向)から外に出た。
正門を出ると正面にはラグナ山が見える。ラグナ山に向かって手を合わせ、お祈りしてから僕達は町の西方向に歩き始めた。どうして西に進んだのか、それは聖域に近づくほど生き物が強くなるから。
グラダの町は聖域(魔性の森)から約50kmの位置で、生息する魔物はマッドドッグやスタンブウやハグドベアクラス。ハグドベアはそこそこ強かったけど、今のエミルとレオナなら1人でも楽に狩れる程度。日那国の町はラグナ山から20km強離れた場所にあるのでグラダ周辺より強力な生物が生息している筈。
ある程度狩り応えがないとストレス解消にならないのだけど、かといってギガントフロッグクラスの生物を相手するには2人は基礎能力不足で、1撃かすっただけでも致命傷になりかねない。
という訳で町の周辺で様子見。エミルとレオナが狩りをするのに丁度良い相手を選ぼうという訳だ。
「ファーマ様、あっち3匹いるです」
少し歩いたところで小さな林に向かって指を指すレオナ。余程狩りがしたかったのか、今日のレオナの索敵はいつも以上の精度を発揮しているようだ。僕の広域視ではまだ発見できていない。
レオナの示した場所に移動し、相手から200m程の場所に来ると、その先にはクマとゴリラが合わさったような生き物がいた。鑑定で見てみると
火猿
生命力621
筋力366
神力180
瞬発力228
耐久力273
属性 炎
これは強すぎる。2か月弱の旅でエミルとレオナのステータスも鍛えられたけど、これを3頭まとめて相手するには力不足だ。
「ストップ、これ以上近づいちゃダメだ。あの魔物3頭を同時に相手するのは危険すぎる」
「それほどですか?」
「あぃ、ダメですか?」
「うん、1頭ならエミルとレオナの2人でもなんとか戦えるだろうけど、3頭同時だと危ないね。とりあえず情報共有しとこうか」
僕が鑑定で見た火猿の情報を2人と共有し、1頭相手ならなんとかなりそうなので狩りたいという2人の意見を聞いて作戦を立てる。とりあえず2頭は僕が相手して1頭はエミルとレオナが相手をする事になった。
火猿の瞬発力は高いのだけど体が大きい分体重も重いので純粋な速さという面ではレオナの方が上の筈。無理をしなければ捕まえられたり攻撃を当てられたりはしないだろう。
因みに今の2人のステータスは
エミル
生命力183
筋力72
神力522
瞬発力131
耐久力19
属性 水、天、聖、邪
レオナ
生命力228
筋力143
神力61
瞬発力186
耐久力32
属性 天、地、変
強化神術を使ってステータスを底上げするという方法もあるのだけど、術の効果が切れると体のだるみと筋肉痛になるという欠点があるので、最初から使うべきではないだろう。デザリアの初級魔法書には書かれていなかったけど、エミルの話では結構有名な副作用らしい。
とりあえず2人に耐物理結界と耐神術結界(どちらも火猿の単発攻撃では破れないであろう程度のもの)を施して、レオナが引き付け役でエミルが遠距離からの攻撃役という方法で相手をする事になった。結界は体の周りに薄い膜が張る付与型にした。
対象を中心とした範囲に展開する事も出来るけど、範囲型は場に効果を発揮させる結界の為、戦闘向けではないので付与型にした。因みに効果時間はどちらも変わらず、15分ほどで消える(術者の任意で途中で解除する事も可能、強度は込める神力によって変わる)。
付与型結界にも欠点はある。耐物理結界は、効果中は結界に阻まれ飲食出来なくなるし、耐神術結界は治療系の神術も防いでしまうので怪我をした時に術が展開したままだとポーションは飲めないし神術治療の効果が下がってしまうのだ。因みに音や空気なんかは素通りだ。
神術も万能ではないという事だね。しっかりと欠点も頭に入れておかないと、いざという時に対処が遅れるので要注意だ。
「炎属性の攻撃を仕掛けてくる可能性があるし、ひょっとしたら遠距離攻撃もしてくるかも知れないから充分に気を付けて」
「はい、警戒は怠らず気を絞めて掛かります」
「あぃ、レオナ頑張って気を引くです」
まずは僕が2人から距離を取り、林の中の木の上で待機。布陣が終わったらエミルが林の入り口付近から風の纏矢で狙撃する。
エミルの放った矢は木々の隙間を縫って火猿に命中する寸前で掴み取られた。不意討の纏矢を掴むとか反射神経良すぎでしょ?
「グガアアアアアアーーーーーー!!!」
狙撃を受けた火猿は矢が放たれた方向を凝視してエミルとレオナに気が付き、木を避け右へ左へと蛇行しながら2人に向かって走り出す。残りの2頭はそれに少し遅れて後を追う。エミルとレオナは林を抜け平原へと後退した。
上手く1頭だけ先行してくれたので遅れた2頭に水属性神術で直径10㎝長さ40㎝ほどの氷柱を撃ち込んだ。
「ウギィッ!」「ウギャッ!」
突然予想もしない方向から飛んできた氷柱に驚きながらもしっかり腕で弾いた2頭の火猿。しかしどちらも腕に大きな傷を負っている。
傷を負った2頭僕に気が付き怒りをあらわにした。ここまでは作戦通りだ。
エミル達の元へ向かった1頭と距離を取る為、場所を移動すると2頭の火猿は追いかけて来た。2頭が1列に並んだところで今度は天属性神術で雷を放ち2頭同時に撃ち抜いた。
感電の影響で硬直して立ち止まる火猿にさっきと同じ大きさの氷柱を撃ち込み、上手く1頭の頭を貫き倒すと、もう1頭の火猿に近づきサバイバルナイフで鳩尾辺りを突く、火猿は膝から崩れるように屈んだので頭に氷柱を撃ち込み止めを刺した。
リミッターを開放しなくても僕の方がステータスは高いし、神術を効果的に使えたから楽に倒せたな。でも、雷は効果的だったけど毛皮がボロボロになってしまうので、勿体ないから次から使うのを控えようか。
自身の戦闘が終わり、火猿2頭を収納魔法道具に収納して、エミルとレオナの方に行ってみると2人はかなり善戦しているようだ。
レオナはエミルに相手の意識が行かない様にヒット&アウェイを繰り返して注意を惹き、エミルは相手の死角に回り込みながら風、雷、氷の纏矢を的確に関節部分にヒットさせている。
レオナの攻撃はあまり効いていないのだけど、火猿の意識がエミルに向かいそうになると目に向かって石を投げたり爪で攻撃しようとしたりして上手く自分に意識を向けさせている。
レオナは武器がもてないから火力不足だな。神術が使えるようになれば攻撃の幅も広がるんだけどな。まあ、大人になれば爪も硬く鋭くなるらしいから、今は高望みしなくても良いか。
今の所、手を貸さなくても大丈夫かな? と思って見ていると火猿が頭を抱えて蹲った。これで終わりかなと思った瞬間、火猿の神力の高まりを感じる。
「「レオナ! 離れて!」」
「グガアアアァァァーーー!!」
僕が叫ぶと同時に同じように異変に気が付いたエミルもレオナに声を掛ける。レオナが後ろに飛び退き距離を取るのと同時に立ち上がった火猿は、大きく手を広げレオナに向かって突進し自爆した。
距離を取ったお陰で捕まる事は無かったのだけど、レオナは爆炎に巻き込まれ結界は砕け吹き飛ばされ地面を転がる。
「「レオナ!!」」
想定を超える威力の自爆に驚きながら、僕は急いでレオナに駆け寄る。エミルも未だ燃えている火猿だったものを迂回しながらレオナの元へと駆けつける。
「びくりした。耳キーンするです」
僕達の心配を他所にレオナは何事も無かったかのように起き上がった。
「レオナ、大丈夫? 怪我はない?」
「……?」
声を掛ける僕を見て首を傾げるレオナ。どうやら爆発の音と衝撃で鼓膜をやられて声が聞こえていないようだ。それと顔に少し火傷を負っている。けど、それ以外に目立った外傷はない。
少し遅れて駆け付けたエミルは見た目にレオナのダメージが殆どない事に安堵して「ほっ」と溜息を吐いた。
「この服は凄いですね。あの爆炎を受けて全く焼けていません」
「そうだね。これに使っている生地は宝具級の布だからだろうね」
結界の効果もあったんだろうけど、聖天布の服じゃなかったら結構危なかったんじゃないだろうか?
僕達の服は聖天布で作られている為、斬撃や神術による攻撃に強く、耐熱、耐電、耐冷に優れている。布なので流石に強い衝撃は防げないけど、かなり優れた防具なのだ。距離を取ったのと服のお陰で、大事には至らなかったけど本当に危なかった。まさか自爆する生物が存在しようとは……
直ぐに回復神術で鼓膜と火傷を治し、ダメージを負ったレオナを休ませる為にその場で一息つくことにした。神術で怪我は治せても疲れやダメージまでは治せないのだ。
「あぃ、聞こえるです」
「もう、痛い所はない?」
「あぃ、だいじょぶです」
「心配しましたよ、レオナ。まさか魔物が爆発するとは思いませんでした」
まったくだ。火猿ではなく自爆猿と改名すべきだ。僕が相手した2頭は素早く倒したから自爆されることは無かったけど、次からは見かけても避けて通る事にしよう。
20分ほどの休憩をして、この後は少し北に移動して3人一緒に相手できる魔物を選んで狩りをする事にした。
次に見付けたのは穴混蛇という胴の直径50㎝、全長20mほどの大蛇1匹。属性は邪。総合ステータスは火猿より低く毒蛇ではなさそうだけど邪属性持ちはステータスダウンや精神撹乱の術を使う筈だから油断は出来ない。
「毒はなさそうだけど、邪属性持ちだから気を付けて」
「はい」「あぃ」
僕とレオナが穴混蛇に近づきレオナは爪で、僕はサバイバルナイフで斬りつける。鱗はそれほど固くはないけど、肉質がぶよぶよして弾力があるので刃が通り難いし、打撃もあまり効かないようだ。
エミルの風の纏矢は刺さっているのだけど、ダメージがあるようには見えない。エミルもそれを察したのか雷の纏矢に変更し放つと矢自体は刺さらないものの雷は効いているようで穴混蛇の動きが少し遅くなった。
「ファーマ様、お肉沢山です」
ん? レオナは何を言っているんだ?
妙な事を口走ったと思うと、レオナは無防備に穴混蛇の口元に向かってフラフラと歩き出した。
「レオナ戻って!」
穴混蛇が大口を開けてレオナに噛みつこうとしたところを、間一髪でレオナを抱えて回避する。
「美味しそうなお肉です」
そう言いながらジタバタするレオナ。どうやらレオナには穴混蛇が美味しそうなお肉が落ちているように見えているらしい。僕には状態異常が効かないから、変な幻覚は見えていない。エミルも大丈夫そうなので穴混蛇の邪属性神術の効果範囲はそれほど広くないのだろう。
レオナを抱えたまま近接戦闘は出来ないので天属性神術で雷を撃つ方法に変更し、倒した。
「ファーマ様、ごめんなさいです」
戦闘終了後、正気に戻ったレオナが泣きそうになりながら謝ってきた。
「初見の相手だから仕方ないよ。これを教訓にして次につなげれば良いから。落ち込んでないで次の獲物狩りに行こうか」
「あぃ……」
うーむ、慰めてみたものの邪属性神術をどうやって防げば良いかだな。相手がいつ術を発動したのか解らなかったのは厄介だ。どんなに気を付けていても見えない攻撃は避けようも無い。
因みに邪属性神術は余程チカラの差がある相手じゃない限り即効性はない。搦手を使えば即効性を出す事も出来るけど、基本的には暫くの間掛け続けて効果を発揮する神術なのだ。(貰った本に書いてあった)
邪属性持ちの魔物はたまに見かけるし、なるべく早めに対邪属性神術の魔法道具を開発しよう。今回は良い勉強になった。
この後暫く狩りを続け、活躍する事が出来たレオナは元気を取り戻した。




