第14話 ファーマ君、神と遊ぶ
娯楽と言われて最初に僕が思いついたのは囲碁だ。町で買ったトランプやボールは、この世界の物だからラグナムート様達は僕より遊び方を知っているだろうし、新しい娯楽というモノなら前の世界の物の方が喜ばれるだろう。
そう考えて僕はいつか誰かとやろうと思って作って保管しておいた囲碁セットと、ルールを覚えてもらう為に真理と錬成を使って記憶を基に再現した【囲碁入門】【定石全集】【詰碁集】【猪山七冠名局百選】を収納魔法道具から取り出す。本はデザリア語で書いているけど話せるんだから読む方も大丈夫だよね?
「これはなんだ?」
「これは僕が好きな囲碁という遊戯に使う道具とルールブックです」
「囲碁?」
「はい、簡単に言えば陣取り遊戯ですね。2人で交互にこの盤に石を置き合って多く陣地を確保した方が勝ちという遊びです」
「ふむ、聞いただけではそれほど面白そうには思えぬが、折角だからやってみるか」
「そだね。じゃあ、ボク達がルールブック読んでいる間にこのセットもう1つ作っておいてよ」
「分かりました」
ラグナムート様とエアリス様は僕が取り出した4冊の本をパラパラ捲って目を通し始めた。呼んでいるというよりはただページを捲って見ているだけって感じだけど、ちゃんと読んでいるんだろうか?
僕は初心者用の9路盤を2つ作って床に置く。石は作らなくても9路盤なら今ある分で充分足りるから良いか。
「ファーマ様、この〝イゴ〟と言うのは私達にも覚えられるものなのですか?」
「エミルも興味あるの? ルールはそれほど難しくないから大丈夫だと思うよ。今、ラグナムート様が読んでいる本(囲碁入門)を後で借りて読んでみると良いよ」
他の本もあるけど入門から呼んだ方が良い。詰碁や棋譜なんかは、ある程度囲碁を理解しないと難しいから。
「はい、ファーマ様のお好きな事なら覚えて共に楽しみたいです」
「レオナも、一緒に遊ぶです」
僕の好きな事だから覚えたいと言ってくれるのは素直に嬉しいのだけど、これを切っ掛けに僕の為じゃなくて、2人が囲碁を好きになって楽しんでくれると良いな。
追加でもう2面9路盤を作成した。9路盤で遊ぶにしても4面だと少し石が足りないか? 石も作らなきゃ。
「ラグナムート様、白い石材と黒い石材が欲しいんですけど、ここで採れますか?」
木材は幾つか収納魔法道具に入れていたのだけど、碁石を作る為の石材なんかは流石に入れていない。
「ん? そこにあるようなもので良いのか?」
ラグナムート様が器に入った碁石に目をやり尋ねて来たので、僕が「はい」と返事をすると、ラグナムート様が手を開いてこちらに向け、ラグナムート様の掌からパラパラと白と黒の碁石が零れ落ち始め、こんもりと積みあがった。
「これで足りるか?」
「はい、充分過ぎる程に……」
この碁石、異空間から出したのではなく、掌から溢れ出た。何もない所から突然現れた。デーア母さんが聖天布やアダマンタイトを出してくれた時と同じだ。これはたぶん創造の能力。ラグナムート様達も使えるんだな。
「ラグナムート様も創造のチカラが使えるんですね」
「ああ、管理神は皆使えるぞ。色々と役に立つからな」
「ラグナムート様の創造はデーア母さんやクレイエ様のモノと同じように、なんでも作れるんですか?」
創造の能力は大きく分けて3段階に分かれる。僕の持っている物を生み出す創造、デーア母さんが持っている星や生命を生み出す創星、クレイエ神が持っている世界の全てを生み出す創世。創星や創世の能力になると星や世界の理等も作れる万能のチカラになるらしい。だから才能や能力も付与出来たりするとクレイエ様が言っていた。上のチカラになる程制御も難しいし、大きなモノを作るのには膨大な神力を必要とする。
「なんでも、というのは無理だな。俺達が作れるのは精々迷宮やこの浮遊島、後は生活に役立つ道具程度だな」
この浮遊島ってラグナムート様が創造したものだったんだ……凄いな。ひょっとして、その気になれば僕も作れるんだろうか?
「お前の創造はどの程度のチカラなんだ?」
「僕の創造では物なら作れるって聞いています。命や星や世界の創造は出来ないってクレイエ様が言っていました」
「ふむ、ならば俺達と同程度だな」
「よーし、覚えたよ。早速やろうか」
ラグナムート様と話していると、ずっと静かに本を読んでいたエアリス様が本を閉じて僕の所に飛んできた。読み始めてまだ30分ぐらいしか経っていないのにもう全部覚えたのか? 凄いな。
「待て、待て。俺もあと数分で読み終えるのだ。抜け駆けは許さぬぞ」
「話ばかりしてたのが悪いんじゃないかぁ。ボク達だけで先に始めようよ」
なるほど、僕と話をしていて読むのが遅れたのか。なら、ラグナムート様に悪いから少し待とう。
「少しぐらい待ちましょう。僕の所為で遅れた訳ですし。待っている間は僕と話をして下さい。エアリス様の話も聞きたいです」
「ボクの話を聞きたい? しょうがないなぁ、ちょっとだけだよ?」
話を聞きたいと言ったのが良かったらしく、エアリス様が嬉しそうに腕組して鼻高々している。
「何から聞きたい?」
「じゃあ、さっきラグナムート様が話していた迷宮について教えてください」
前にエミルやポクリさんから少しだけ話は聞いた事があるんだけど、詳しい話は聞いていない。【神の雫】っていう魔法薬が発見されたという迷宮。何か解ればこの先色々と役に立つ可能性は高いよね。
「迷宮っていうのはね。簡単に言えば冒険が出来て生活を楽にするアイテムが手に入れられる娯楽施設なんだよ」
「娯楽施設……ですか?」
「そっ、娯楽施設。前に遊びのつもりで作ったら、思いの外、人種に人気があってね。結構、あっちこっちに作ってるよ」
エアリス様の話では、迷宮はエアリス様達管理神が作った迷宮核というモノを自然に出来た洞窟や古代の遺跡等に埋め込み迷宮核によって迷路化した施設で、中には迷宮核の命令で動く生物が徘徊し、あちらこちらに罠と特定の部屋に生活に役立つ道具や武具等が入った宝箱が設置されているスリルとご褒美満載の娯楽施設という事だ。迷宮の最深部に潜んでいる迷宮主を倒すと途中の宝箱からは入手する事が出来ない貴重なモノを手に入れられるように出来ているらしい。
なんか前世の同級生が話していたゲームの話に似ているな。
「1つ気になったんですけど、命の創造って出来ないんですよね? ダンジョンの生物って生き物じゃないんですか?」
生物って言ってるくらいだから生き物のはず……この矛盾はどういう事だ?
「ああ、それね。命の創造はボク達には出来ない。それは間違ってないよ。でもね、命というのは魂という意味なんだよ。迷宮の生き物には魂が宿っていないんだ。そうだねぇ、ゴーレムと同じって言うと解り易いかな?」
ゴーレム? 前世で読んだ本に書いてあった自動で動く人形の事だよね?
「ある程度の命令や行動パターンを核に刻んで生き物に近い存在にしているって事。迷宮核や迷宮生物には多少の学習能力があるから迷宮は多くの人が訪れる程攻略が難しくなって、アイテムを見付けられる場所や種類はランダムにしてあるから飽きが来ないんだよ。凄いでしょ?」
なるほどAI搭載のロボットって考えると解り易いか。
迷宮生物は魔物と同じで一定以上のダメージを与えれば死ぬし血も出るらしい。迷宮生物が死ぬと数秒で迷宮に吸収されるように消失し、一定時間が経つと復活するらしい。迷宮生物が消失すると同時に何かしらのアイテムが現れるらしく、それもエアリス様の言うご褒美になるんだとか。迷宮生物は決められた範囲外に出る事は出来ないらしく、迷宮からは絶対に出る事はないそうだ。
「核からの命令ってどんなものなんですか?」
「それは簡単。お宝を守れ、侵入者を排除しろ、それだけだよ」
「排除?」
「そう、排除。追い出すとか攻撃するとか方法は色々あるけど、迷宮からいなくなるようにするんだよ」
それは殺してOKという事なのか? 娯楽施設にしては過激すぎるよね?
「迷宮生物に殺される事もあるんですか?」
「実力が足りなければ当然そうなるよねぇ。そこは自己責任だよ。迷宮の入り口には目立つように石碑を作って〝命惜しき者、入るべからず〟って書いているからねぇ」
……ご褒美で釣って入るように仕向けているのに、その程度の注意書きで入らないなんて事は無いだろう。でも、その辺りで狩りするのも、実力が足らなければ魔物の餌になってしまうんだし、ご褒美がある分、迷宮は良心的なのかも知れないな。まあ、娯楽施設かと言われれば絶対に違うと断言できるけど。
迷宮の説明を受けた所でラグナムート様も4冊の囲碁本を読み終え、全て頭に入ったとエミルとレオナに本を渡し、折角9路盤を用意していたのに「これは子供の練習用ではないか、19路盤で打たせろ」とクレームが入り、いきなり19路盤で始めた。
対戦を開始してから5局。今の所全勝しているのだけど1局ごとにラグナムート様とエアリス様が強くなって差を詰められている。僕には真理の能力があるお陰で、能力を発動していなくても理解の才能程度の効果は発揮されている。だからこの実戦で僕自身もかなり腕を上げている筈なんだけど、毎局、差が詰まってきている。さすがは神様、伊達に何億年も生きてないよね。
「ふむ、これは中々奥深くて面白いな。そろそろ傾向も掴めてきたから次の1局は俺が勝つ」
「いえいえ、僕がこれを覚えて何年経っていると思っているんですか? まだまだ負ける気はありませんよ?」
実際の対局は初めてだけど、脳内対局は前世で何百、何千と繰り返しているんだ。簡単に負かされたら流石にへこむ。
「先に勝利するのはボクだからねぇ。ラグナは連敗重ねていれば良いよ」
「ほう、俺より先にファーマに勝つだと? エアリスの癖に生意気な」
「そっちこそラグナの癖に生意気だぞぉ」
うーむ、会話の内容が神様とは思えないほど子供じみている。ここだけ見ていると本当にこの方達が神様か怪しく思えるよね?
「まあまあ、仲良くしましょうよ。折角だから会話もしながら対局しませんか?」
「ふむ、それは良い案だな。別の世界の話には興味がある。ファーマが前に住んでいた世界の事を話せ」
「うんうん、ボクも聞きたいな。科学の世界ってどんな風なのか興味あるんだよねぇ。神力も無しに神術的な事が出来るんだよね? 転生者と話す機会なんて中々無いからさ、色々教えてよ」
僕の一言でお二方の言い争いは終了し、子供みたいにキラキラした眼差しで僕の方を向く。エミルとレオナも興味があるようで、囲碁の本を閉じてこちらに視線を向けた。
うーむ、不味いな。前世で15年少々しか生きてない上に、学校と家の往復が主だった僕が話せる事なんて図書室で読んだ本の知識くらいなんだけど、満足してもらえるのか? 期待されるとプレッシャーが……




